やだ、これって痴漢?  
 
 ぎゅうぎゅうのすし詰めになった満員電車の中、押し潰されそうな身体を人と人の隙間になんとか滑り込ませて駅に着くまでの時間を我慢する。  
 鍵原ツバメにとって、それは慣れてしまえば毎日の事で今更その事に文句を付けるつもりはない。  
 目の前の壁みたいな大人の男の人の背中。そこへ胸を押しつけてしまうのは流石にためらわれるから、両腕を前に鞄と肘で密着しない様に気を使っている。  
 今日は場所が悪かったのだろうか。  
 後ろから押し潰されそうになりながら混雑への罵倒を心の中で並べ立てていた時に、後ろの誰かが動いた気配がした。  
 初めは、ただ鞄か何かがお尻に当たっただけだろう、と楽観した。  
 こんな風にお尻に当たるそれが動いているのは、きっと何かの間違いで、それにもうしばらくすれば電車は駅に着く。  
 何回か痴漢に遭った事はあっても、ただ触られるだけでこんなあからさまに動かれる事は今までに無かったから、怖くなってしまった。  
 お尻のラインをなぞっていく掌。  
 丸みを確認している様なねちっこい動き。背筋に鳥肌が立った様な悪寒がする。  
『う、が、我慢すれば、その内に駅に着くん、だし』  
 スカートと下着、シャツの端布。たった三枚の布地の上からお尻を撫で回される。  
 静まりかえった電車の中、話し声などなく、誰も彼もが不機嫌そうな顔をしながら黙ってこの苦行に耐えている。  
 ガタンゴトンと電車の走る音だけがうるさい。空調の音も大きい。  
 だけどその中で大声を上げて、後ろの痴漢を撃退しようとするのは、かなり勇気が必要だ。何より、私は痴漢をされる様な人間ですと大声を出すのは、かなり恥ずかしい。  
「ぁっ、ゃ」  
 喉から声を出そうとして、掠れた様な小さな声しか出ない。  
 
 身体が強張る。  
 お尻の割れ目に指を差し込まれる。たぷたぷと柔らかい肉を弄ばれる。  
 それでも、まだスカートの上からだから我慢できた。  
 心の中で沸き上がる憤りと裏腹に、身体に力が入らない。  
 いや、力が入りすぎて動かせない。  
『ひゃっ?!』  
 声は出なかったと思う。  
 スカートをめくりあげられて、その下の太腿に直に触られる。  
 ザラザラした、大きな手が素肌に貼り付く。  
 そのまま内股の方に潜り込んでくる。  
『え、え、え、え?』  
 そのまま、何の遠慮もなく股の間まで到達し、下着の上から触られる。  
『嘘』  
 思考が停止する。  
 膨らみ始めた怒りは一気に萎んで、代わりに恐怖が沸き上がる。  
 掌全体で左の方のお尻を撫でられる。右手、なのだろう。スカートに差し込まれた腕が静かに動き始めている。  
 小さな下着の薄い布の上から、まだ誰にも触らせた事のない場所を硬い指がなぞっていく。  
 何か別の生き物が蠢いている様な、生理的な嫌悪感。  
 見ず知らずの痴漢に、身体の一番デリケートな部分をまさぐられている。  
『や、やだ、やだよう』  
 逃げようと思っても、ぎゅうぎゅうに押し込められた車内は逃げ込めるスペースなどどこにもない。  
 周りには見知らぬ人間ばかり。  
 せめてその手から逃げようと腰を動かしてみても、ぴったりと貼り付いて離れない。  
「ふぁっ?」  
 下着の上から、閉じた唇みたいに柔らかい其処を指先で撫でられた。  
 上から下へ、下から上へ、単調でしつこい動きは変わらないのに、指が割れ目の上の方まで来た時、それまでとは全く違う感覚が弾ける。  
 
『やだ、そこ、ちが』  
 クリトリスが女性の気持ちいいトコだというのは知識として知ってはいたけれど、実際  
に試してみた事はなかった。  
 強くはなく、優しいとさえ言える手付きで同じ所を何度も弄られる。  
「……っ」  
 声が漏れない様に唇を噛みしめる。  
 気持ち良くはない。ただ怖くて気持ち悪いだけなのに、下着の底が湿ってきている。  
 汗とは違う。  
 それは下着に染み込んで、動く指でにちゃにちゃと音を立てられてしまう。  
 もう、頭が上手く働かない。  
 現実感が消え去り、自分が何をされているのかもわからなくなってくる。  
 
 段々と電車のスピードが落ちている。  
 空調の音がうるさく、電車の走る音が小さくなっていく。  
『あ、駅、だ。終わるんだ』  
 呆っとした頭で日常の感覚が戻ってくる。  
 いつもより時間の進み方が遅いような早いようなあやふやな頭で、濡れた下着の感触と  
、まだ股間で蠢いている指を意識してしまう。  
『早く、早く着いて、そうすれば』  
 
「ただいま、○○駅での人身事故により、しばし停車させて頂きます。お客様にはご迷惑  
をおかけしますが、もうしばらくお待ち下さい」  
「ぇ?」  
 
 そんなアナウンスに、周りのお客がざわざわと静かにどよめいている。  
 そして私は一気に顔から血の気が引くのを感じていた。  
 膝がガクガクと震えている。  
『あ、れ?』  
 そして意外にも股間に宛がわれていた手が抜かれていく。  
 ぬるりと内腿に残った感触が、その痴漢の指が濡れていたのを教えてくれる。  
 
 まだぴったりと肌に貼り付いている下着は残っているけれど、もう痴漢行為は終わった  
んだと、安心してしまった。  
 それがいけなかったのか、足下がふらついて後ろに倒れかけた。  
 満員電車だから、実際に倒れられる程のスペースなんて欠片もない。だから、私は真後  
ろに居る痴漢の胸の中に体重をかけてしまう体勢になってしまった。  
 いけない、と思っても足に力が入らない。  
 最悪な事に、スカートはまくり上げられたまま。そして腰の後ろに男の腰が当たり、異  
様に熱いソレが存在を主張している。  
 ズボン越しでもそれが男の性器だと、わかってしまった。  
『嫌っ』  
 今度はその長い腕が腰を伝わって前へと回ってくる。  
 とっさに鞄を持っていない方の手でその左手を押さえる。  
「ゃ、めてくださぃ」  
 自分でも信じられない様な掠れた小さな声しか出ない。  
 ゴツゴツとした痴漢の腕は恐ろしい位に太く、力も全然叶わない。  
 逆に自分の右手首を掴まれて、抱き寄せられてしまう。  
『千夜子ぉ、助けてよぅ』  
 今度は痴漢の右腕が前に回ってきて、腰骨を伝ってスカートの中に滑り込む。  
 下着の裾を指で確かめながら、ゴムの端を指で引っかける。  
 ぬちゃり、と音を立てて下着が引きずり下ろされる。  
「ゃっ……ぁ!」  
 声を出そうとすると、捕まえられた右手がみしりと強い力で握られる。  
 跡が残りそうな程に強く、そのまま骨が折れてしまうんじゃないかと怖かった。  
 スカートも下着もなくなってしまったお尻に、ズボン越しとはいえ男の性器が押し当て  
られる。  
 逃げようと身じろぎした所で前に回された掌が股間へと潜り込んでくる。  
 下着越しではなく、直接に弄られる。  
 開きかけた女性器を指の腹が撫でていく。ゴツゴツとした指は硬くて痛い。  
 それでも濡れてしまっているそこを掻き回されると、くちゃくちゃと汚い音を立てられ  
てしまう。  
 身体の奥にその水音が響いてしまう。  
 
 はぁはぁ、と頭の上から荒い息が耳にうるさい。  
 スカートの下で、視線が通らないからか、触られる感触がやけに敏感に感じられてしまう。  
 むき出しにされたお尻に押しつけられる熱くて硬い塊。  
 クリトリスと膣口の間を執拗に往復している指は、時々滑って後ろの穴にまで伸ばされる。  
 粘液が絡まり滑りの良くなったそこを念入りにほぐされていく。  
 襞の一枚一枚を捲り擦られて、下腹部に押し当てられた掌はまだ薄い痴毛をゆるゆると  
撫で回している。  
 痛みとは別の何かを掻き出されてしまいそうで、怖い。  
『早く、終わってよぅ』  
 その祈りが届いたのか。  
 
 がくんっ、と電車が動き出す。  
 
 その衝撃で、ぬる、と膣口に指先が引っかかる。  
「っ!」  
 私の指より長くて太くて、処女膜が傷つけられないか怖くて、身体が竦む。  
 男が覆い被さってくる。  
 背中がより大きく密着する。  
「う……っ!」  
 ドクドクっとお尻の辺りで熱い何かが弾けている。  
 射精しているんだと気付いて、涙が出そうになった。  
 緊張が途切れた様な痴漢のため息が耳許でうるさい。  
 お尻が濡れていそうで、早く離れて欲しいのに、何もできない。  
 
 
 
 その痴漢は、それから私の濡れた下着をそのまま穿かせると、何事もなかったかの様に  
電車から降りていった。  
 情けない事に、私は怖くて痴漢の顔を確認する事もできなかった。  
 惨めな想いを堪えながら、駅の女子トイレで股間を拭う。  
 処女膜は無事だったけれど、自分が酷く汚れてしまった気がして、少し吐いた。  
 
 
『下着、どうしよう』  
 
 この夏は本当に、最悪だと思った。  
 
 

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