長引く射精がようやく終わり、溜まった精液を搾りだしたシーナが震える声で  
感動を露わにした。  
「スゲー、マジスゲーよ、ヤバイくらい気持ちいいぜ、本当」  
 あまりの快感に腰が抜けたのか、シーナはどっかりソファに沈み込んだ。  
「何つーか、自分でするだけじゃ味わえない感動があるよな。エロイなんてもんじゃねー  
俺は一瞬、天国を垣間見たね」  
 シーナはすっかり饒舌になっていたが、健一は完全に放心状態だった。  
自分が何をされたのかも実感が湧かない。口腔に溢れた生臭い粘液は、噛むと不気味な  
弾力が跳ね返ってきた。  
健一は足を広げてソファに腰掛けているシーナを見上げる。目の前にはすももの実に  
酷似した赤く熟れた果実。健一は霞がかった思考回路のまま、その赤い実にかぶりつく。  
 
「ちょ、健一。まさか第二ラウンドなのか!? ぅをっ!!」  
 果実をしゃぶり、舌を這わせてくすぐると、シーナのそれはすぐに屹立し固さを  
取り戻した。健一はシーナに寄りかかりながら、ゆっくり膝の上に跨っていく。  
精液の絡みついた手のひらで擦ってやると、熱く滾る肉棒はくちゃくちゃ音を  
漏らしながらねっとり精液に塗れて激しく脈打ち、シーナは苦しそうに乱れた息を吐き出し  
始めた。シーナの首を左腕で抱きながら、右手の指で下部の唇を広げる。  
小さな挿入口に充血した亀頭をあてがうと、熱湯からもわっと立ち昇る湯気に  
包まれたように熱い触感が下腹部を侵食していく。  
 
「ぁ……ぁぁああぁあァァァ……ぁぁうぅ……」  
 胸の奥から声にならない嬌声があがる。今にも射精しそうな鈴口が、処女膜と  
強烈な接吻を交わしながら膣内に潜り込もうとしている。痛みはあるが、嫌にならない。  
本能的に快楽を求めて腰が自然と落ちていく。日奈の身体はソファに腰掛けるシーナに  
寄りかかったまま、上体をスライドさせるように腰を沈めていく。  
その直下にそそり立つ半身が赤い秘裂に頭をめり込ませている。  
 
えらの大きく張り出した雁首が丸呑みにされ、膣口の中に埋まっていく。  
日奈の下腹部に手を添えると、潜り込んだ肉棒の感触が確かにある。  
「はあぁぁァ……ひぐぃ……挿入ってるぅぅ」  
 日奈の声帯から発せられる紛れもない喘ぎ声。揺蕩うリズムで腰がゆっくり上下される。  
零れ落ちる破瓜の血が鮮やかに発色する。  
 処女を喪失する痛みは涙を生む。しかし、喘ぎ声と重なって漏れる声ははぁはぁと乱れる  
吐息にわずかな苦悶が混じる程度。健一は今までに体感したことのない処女喪失の刺激に  
紛れもなく興奮しきっていた。M的快楽と言い換えて良いかも知れない。  
 
 健一はこれまで痛みに気持ちよさを感じたことなど一度もない。この性癖は日奈の身体が  
もたらした恩恵だろうか。  
「うお、マジでやべぇって。さっき射精ったばっかなのに、  
すげぇ締め付けてきやがる……! ぐっちゃぐちゃの膣肉にマジ扱かれてるよ。  
うはぁーたまんねえよ、本当」  
 シーナがあまりの快楽に飛んでうわ言を呟く。声を抑えて喘ぐ健一よりも、  
シーナの快感に溺れる悲鳴のほうが大きく室内に響く。  
 火照った身体が熱い。性行為によるものだけではないような気がした。  
二人が交わしあう毎に室温が上がっているのでないかと、そう錯覚してしまう。  
二種類の喘ぎ声が反響して部屋で乱交パーティーが開催されているような姦しさ。  
黒革張りのソファは沈み込んだ部分に淫液が溜り、濃密な匂いを醸しだしている。  
 
 綺麗に磨かれた木目調の机、その上に置かれたガラス製の大きな灰皿が二人の行為を  
映し出している中で、健一はシーナに濃厚な接吻を与える。  
経験のないシーナは戸惑いつつも、搾り取られるような求めに応じ、  
健一の唇を啜り返した。お互いの美蕾を擦り合わせると甘く感じられ、唾液を貪るように  
嚥下していく。シーナが日奈の細い肩に手を這わせ、乳房を揉みしだいていく。  
肉棒が挿入されたままの膣が卑猥な音で鳴いている。  
 長く震える息を吐き、健一が腰を持ち上げる。シーナの顔の高さまで乳房を持ち上げると  
、顔面を日奈の双乳で挟み込む。刻也の掛けていた眼鏡が外れ、健一は邪魔なそれを  
机の上に投げ捨てた。  
 
 温かい乳房に抱き包まれて、シーナはこのまま昇天してしまうんじゃないかと思えるほど  
至福の表情を浮かべている。  
 結合部はシーナの逸物が鼻先だけ膣に潜り込んでいる状態だが、射精寸前に激しく  
脈打っている。浅く出たり入ったりするだけの刺激がかえって亀頭を締め弄り、  
焦れったい興奮を昂ぶらせる。咥えられた亀頭から、発情した雌雄の匂いが薫る。  
フェラチオで精液塗れにされた肉棒は何度も何度もくちゃくちゃ音を立て、膣口でずぷずぷ  
抜き差しされ粘液が泡立つ。まるでクリームを絡めたかのような外見、精液の匂いだけは  
眩暈を催すほど強烈に充満している。  
「シーナ、もうイキそう?」  
 
 甘える声で囁きながら、シーナの肉棒を再び深く沈めていく。脈打つ肉茎が根元まで  
ひと呑みにされ、ぬぷぬぷとゆっくり吐き出されていく。  
「佳奈……ちゃん」  
 シーナの口からそんな呟きが零れる。  
「佳奈ちゃん、佳奈ちゃんの膣に思いっきりぶっかけていい? 私、佳奈ちゃんの子宮に  
ごくごく精液ミルク飲ませて、孕ませたい。ああ、佳奈ちゃん、イキそうだよぉ。  
イク、イクッ!」  
 シーナが興奮に耐え切れず、人格崩壊を起こしながら佳奈の名を叫んだ。  
律動が日奈の膣を激しく掻き回し、凝縮された濃厚な精液プリンを排泄する。  
「あぐぅっ! んひっ……くっ……すごっ、ぐちゃぐちゃ、んぁぁああ!」  
 大量の精液を膣肉で咀嚼しながら、日奈が嬌声を上げる。日奈と一体になった健一も  
また、人格が崩れ落ちていく。尿道を迸る精液が逆戻りして、管で暴れまわってるかの  
ような、ぐちゃぐちゃの快感が健一を襲う。  
 
 ―――ぶぴゅる、どっぴゅ、どぷっ―――  
 信じられないほど濃厚で多量の精液が膣内に埋没していく。  
日奈の蓄えてきた想いのたけが質感となって感じられるほど熱い塊り。  
 日奈の身体はシーナに跨ったまま、だらしなく失禁してイッた。  
 
 
「はぁ、はぁ、なんて恐ろしいセックスマッ―スィーンだ。連続で四発も抜かれるなんて。はぁ―――、はぁ―――、動け、動くんだ俺の足、今逃げないと枯れるまで逆レイプ地獄……」  
 シーナは必死に床を這って1305のドアまで辿り着く。気持ちよかったけど、  
死ぬほど気持ちよかったけど、片想いのまま腹上死するのは本望ではない。  
 もはや魔窟と化した1305は普通の人間ならあまりの臭気に立ち入れないほど強烈な、  
汗と精液と愛液がアンモニア臭と混じり風呂場で発酵したような臭いが充満している。  
このまま此処に居ては腹上死よりなお悲惨な窒息死が待っている、そんな悪寒さえする。  
 
 1305のドアを開ける。数時間ぶりに嗅ぐノーマルな空気。  
 そして、シーナはちらりと後ろを振り返る。佳奈そっくりの少女がすやすやと  
寝息を立てていた。また後で来よう、そう心に決める懲りないシーナであった。  
 
大海千夜子は時計を見つめていた。  
待ち合わせの時刻の一分前。いつもの健一ならもう姿をみせていてもおかしくない  
時間である。別に待ち合わせ時間よりも前なのだから、心配するほどのことでは  
ないかもしれない。けれど、時間ギリギリに来ることが珍しいのは確かである。  
 千夜子は今日のコーディネイトを改めてチェックする。短く裾がカットされた  
暗灰色のワイシャツに紅色のネクタイ、深緑色のプリーツスカート。  
最初は大人っぽくていいかなとも思ったのだけれど、色調が暗すぎたかもしれない。  
 千代子が自分のスカートの裾を見つめると、真正面から声が掛けられた。  
 
「……千夜子君?」  
 ちょっと自信なさ気に聞こえるその声に、千夜子はぱっと顔を上げる。  
「待ったかね? 時間は正確だと思ったのだが」  
 健一が自分の腕時計を見て時刻を確認している。  
「あ、大丈夫ですよ。時間ピッタリです」  
「……」  
 健一が自分を見て声を失っている。呆然、というほどでもないが何か呆気に  
とられたようなそんな表情だ。どうしたのだろう、と千夜子は首を傾げる。  
「あの、健一さん?」  
「ん、ああ、すまない。少し意外に思っただけだ」  
 
「意外、でしたか?」  
 それはどの辺りだろう、と千夜子は首を傾げる。もしかしたら、今日の服装のこと  
だろうか。やっぱり暗色系じゃなくて明るい色合いにしたほうが良かったかもしれない。  
兄の悟が千夜子の格好を子供っぽいというから思い切ってコーディネイトを  
変えてみたのだけれど。けれど健一は少し戸惑った口調で言った。  
「いや、なんでもない。……今日のような格好も、その、良く似合っていると思う」  
「そ、そうですか。嬉しいです」  
 
「では、行こうか」  
 なぜだか健一は居心地が悪そうにしてさっさと駅に向かって歩いてしまう。  
 電車に揺られること一時間。車両内は微妙に混んでいてあまり話せなかった。  
 ポケットの中にはアミューズメントパークの入場チケットが二枚入っている。  
今までそうした施設に入った経験はないが、チケットの裏に地図があるし駅から  
巨大観覧車が見えているので道を迷うことはない。目的の駅を降りて千夜子は健一と並んで  
歩き始める。今日の健一はなんだか直線的な歩き方でスタスタ先へ行ってしまう。  
 駅から五分ほど歩いた辺りで、健一は何か思い出したように突然後ろを振り返った。  
 
「どうかしました?」  
「いや、声が聞こえなかったので、君がちゃんとついて来ているか少々不安になったのだ」  
「そうだったんですか。えっと……やっぱり手、繋いで歩いたほうがいいかもですね」  
 千代子はおずおずと手を差し出す。しかし、健一はなんだかうろたえるように差し出した手を掴む。その握り方がいつもと違う感じがしたので、千夜子はつい手を強張らせてしまう。  
「あ、すみません」  
 千夜子は慌てて手の力を抜く。  
「いや……」  
 
 健一は黙って千夜子の手を引きながら、アミューズメントパークに入場する。  
 パークでは屋内外のアトラクションが両方楽しめるようになっていて、特に夕日が美しく  
見えるこの時間帯は観覧車やフリーフォールなど高いところに昇れるアトラクションに  
人気が集中している。辺りがもっと暗くなれば、ライトアップされた綺麗な夜景が  
見えるはずだ。  
「えっと、何に乗りましょうか」  
「千夜子君に任せるよ」  
 健一はあまり興味もなさそうに海浜公園の向こうに沈んでいく夕日を眺めている。  
 
「えっと、健一さんはジェットコースターとか大丈夫なほうですか?」  
「乗ったことがないので答えようがないな。君が好きというのであれば乗っても構わないが」  
「そ、そうなんですか。ひょっとして遊園地とかって嫌いでした」  
「嫌いということはないが、自分には不似合いな場所だろうという予想はしていた」  
 ここまでくると千夜子もさすがに今日の健一はいつもと様子が違うと気付く。しかし、  
それがどうしてなのかまではさすがに分からない。なんだか話しづらい雰囲気のまま、  
二人で乗り物系のアトラクションのひとつに乗り込む。  
 
 健一の横顔を窺うが、無表情で前を見つめているだけでちっとも楽しそうに見えない。  
ゆっくりした乗り物はつまらなかっただろうか。千夜子は健一の楽しんでくれそうな  
乗り物を探しながら園内を回るが、健一はどのアトラクションに乗っても大して  
反応がなかった。時々、話しかけてはくれるが、それもひどく事務的な感じがして、  
ひょっとして健一はこういうアトラクション全般が嫌いだったのだろうかという気が  
してくる。だったら先にそうと言ってくれればよかったのに。  
 
 だから千夜子は勇気を振り絞ってジェットコースターに乗り込んだ。健一は隣の席に  
座り、自分の眉間の辺りに手を当てている。今日だけでその仕草を何度か見かけているが、  
健一にそんな癖があっただろうか。まるで眼鏡を押し上げているような仕草だ。  
 かすかに疑問を感じたものの、ジェットコースターがゆっくり上昇し始めると、  
そんなことを考えている余裕は吹き飛んでしまった。  
 
 長い一周が終わった後、千代子はひどく青褪めた表情でベンチにへたり込んでいた。  
隣に立つ健一が心配そうな眼差しをしながらも厳しく叱責してくる。  
「なぜ、無理をして乗ったのかね。君に万が一のことでもあれば申し訳が立たない」  
 健一が差し出してきた飲み物を手に取り、千夜子は一息ついてそれを飲む。  
「……私のせいかね?」  
 唐突に、健一がそんなことを言い出した。  
「いや、それ以外に理由が考えられないのだから、きっとそうなのだろう。  
だとしたこの結果は私がもたらしたものに他ならない」  
 
 健一が何かを早口で喋っているが、ジェットコースターの後遺症で頭がぼうっとしている  
千夜子には健一の言っていることが理解できない。  
「私とでは、やはり楽しくないのだろうな。自分でも分かってはいるつもりなのだ」  
「あ、あの! そうじゃないんです」  
「では、どういうわけだね」  
「健一さんといられるのは、それだけですごく嬉しいことなんです。一緒にいるだけで  
ドキドキして、わくわくして、でもそれじゃダメなんです。健一さんが楽しんでくれないと  
私的には意味がないって言うか、上手く言えないんですけど、そうしないと釣り合いが  
取れないって感じなんです」  
 
「釣り合いが取れないということは、決してないと思う。君と絹川健一はきっと、  
他人の目にも似合っていると映っているはずだ。それとも私は過去に君に誤解させるような  
ことを言ったのだろうか?」  
 健一の顔には、今まで見たことがないくらいに真剣な表情が浮かんでいた。  
「しかし、今日のことは全面的に私に非がある。君が楽しめればそれで良いと思っていた。  
しかし、それではいけなかったのだな」  
 反省した様子で健一が力なく笑う。そうさせてしまったことが申し訳なくて、  
千夜子は思わず宣言していた。  
「あの、今日はなんとしても健一さんを楽しませて見せますから」  
「千夜子君?」  
「健一さんに何があったかは知らないけど、嫌なことがあったならきっと忘れさせてみせ  
ます。だから健一さんは私のことなんて気を遣わずに思いっきり楽しんじゃってください」  
 
「健一さんも結構負けず嫌いですよね」  
 一通り遊び尽くした後、千夜子たちはレストランで遅めの夕食をとっていた。  
 健一は口に運んだ魚介のパスタを飲み込んでから、千夜子の言ったことに反論する。  
「そんなことはないと思うが」  
「そうですよ。エアホッケーのときも負けるとすごく悔しそうな表情してましたし、  
ボーリングのときも真剣すぎて恐いくらいでした」  
「勝負事に熱くなる性格ではないと自負しているのだがな、指摘されてみるまで  
気付かなかったが確かに私には負けず嫌いな一面があるようだ」  
「これじゃ負けず嫌いスパイラルですね」  
「負けず嫌いスパイラルか……その言葉はとても面白いな」  
 
 健一はそう言って笑う。それを見て、千夜子はホッとした気分になる。  
「君は今、楽しめているかね?」  
 健一がそう尋ねる。自分にも笑顔が伝染ったのかもしれない。千夜子は弾んだ声で  
健一の質問に答えた。  
「はい、とっても幸せです」  
「そうか……私も、そう思っていたところだ」  
 健一の口からその言葉を聞いたとき、千夜子の胸には空も飛べそうなほど嬉しさが  
こみ上げてきた。  
 
「えっと、それで健一さん。この後の予定なんですけど」  
 千夜子はちょっとばかり大胆になっていた。ツバメからその策を伝授されたとき、  
自分には絶対できないと思っていたものだが、今の雰囲気なら行けるかもしれない。  
自分たちは付き合ってもう三ヶ月も経つのだ。お父さんもお母さんも、兄だって  
健一のことは気に入ってくれている。最近は日奈や佳奈という強力なライバルが  
でてきたし、ここらで一発決めておかないと大海千夜子の名が廃る。  
 千夜子は覚悟を決めて、口にした。  
「ホテル……予約してあるんです」  
 
おかしなことになった。八雲刻也は激しく後悔していた。  
元はといえば自分が悪い。デートの代役を買って出て、友人の彼女といい雰囲気に  
なってしまい、そろそろ彼女を家に送っていこうかと思っていた矢先、千夜子の爆弾発言が  
飛び出し、頭の中が真っ白になった。我に返った時にはもう引き返せないところまできて  
いて、今まさにホテルの浴室からシャワーを浴び終えた千夜子が出てくるところだった。  
「鈴璃君に本当のことを話したら、私は撲殺されてしまうのだろうか」  
 半透明なドアが開き、中から千夜子がバスローブ姿で現れる。しっとり濡れた裸身が  
スタンドライトの光を浴びて、その輪郭を輝かせている。案外、胸が大きいのだなと刻也は  
思う。鈴璃や綾さんに比べれば小さいのだが、冴子や狭霧よりは大きい。そこまで考えて、  
自分は意外と女性のそういった部分に関してよく見ていたのかもしれないと気付く。  
 
 刻也は気を紛らわすためにラジオのスイッチをいれた。スピーカーから  
ぴぴるぴるぴるぴぴるぴーという軽快なメロディーが流れてくる。刻也は慌てて  
チャンネルを変えた。  
 その時ふと、軽く毛布の沈み込む音がして、刻也は顔を横に向ける。ベッドに腰掛ける  
刻也の隣に千夜子が身を寄せてきていた。ほんのり湯気の昇る髪から良い香りがして、  
刻也は興奮を抑えきれなくなるのを感じていた。髪を下ろした千夜子はいつもよりずっと  
大人びて見える。彼女の巻いたバスローブが自然に解けた。  
「健一さん」  
 千夜子の唇が動く。自分は今、健一と身体が入れ替わっている。  
だから千夜子は気付いていない。微かに残った刻也の理性が千夜子の身体を押し留める。  
「健一さん?」  
 
「千夜子君……うっ!」  
 解けたバスローブの合間から白桃のような濡れた乳房が露わになる。形の良い乳房の下に  
続くなだらかな腰の曲線。スッと縦線を引いたようなヘソのさらに下、小さな蔭りから  
匂ってくるエロスに刻也は眩暈を覚えた。  
 DNAが囃し立てる。目の前の女を犯せと轟き叫ぶ。健一の肉体が意思に反して  
動き出すのを刻也は抑えることができなかった。  
 種がはじけて健一の肉体が覚醒した。  
「あっ健一さん、私まだ初めてで……んっ……ちゅぱっ、んっ」  
 千夜子の唇をこじ開け、舌で口腔を蹂躙する。熱く柔らかい粘膜が擦れ合い、  
唾液が口の端から零れ、顎を伝う。千夜子の乳房が刻也の胸板に押し潰され、  
固くなった乳首が動きに合わせて揺れる。  
 
 シャワーを浴びて石鹸の匂いのする肌から珠のような汗が流れ出て、千夜子のヘソを  
伝って陰部の繁みに降りていく。千夜子の肢に腕を押し込み両脚を次第に開かせていく。  
「健一さん、恥ずかしいです。ああぁ、そんなとこ……いやぁ、そんな奥まで開いて…」  
 刻也はなにも言葉を発せなかった。肉体が精神を支配しているのを感じ、下腹部の中枢が  
発情し猛り狂っている。  
 恥丘の膨らみを鷲掴みにし、あたかも乳房を愛撫するように荒々しくぎゅうっと千夜子の  
恥部を揉みしだく。指が膣内に潜りこみ、押し広げていく。愛液を垂らしてシーツに  
ぽたぽたと染みをつくりながら、千夜子は悶え乱れていく。のたうつように腰を浮かし、  
肢を泳がせ、乳房が弾む。  
 
 刻也は千夜子の腰に手を回し、尻肉をぎゅっと掴むと己の肉棒で濡れる秘唇をずぶずぶと  
貫いた。千夜子が悲鳴を上げ、弓なり背を反らせる。しかし腰に手を回されて千夜子は  
逃れることもできないまま、ずぶずぶと膣奥までめり込む肉茎を受け入れる。  
「んあぁぁぁ、健い…っ、ひぐっ……熱い、健一さんの、こんな奥まで……」  
 苦しげに喘ぎながらも、千夜子は激しい抵抗をしなかった。最後まで続けられるかは  
不安だが、徐々に唇からとろけるような吐息が漏れだしてきている。  
「はぁっ、健一さん……んぁ、んんっ」  
 初めて性器を膣内に挿入されたというのに、千夜子のそこは熱くぬめり、くちゃくちゃと  
水音を立てていた。千夜子が感じやすいというだけではないはずだ。健一の肉体は  
どうやれば女を絶頂に達せられるか熟知している、遠慮なく千夜子の反応する箇所を  
責めてて止むことのない快楽の波にたぷたぷ浸らせ、処女の性感を翻弄している。  
 千夜子が一際高い声を上げた。潮を吹いてイッたのが刻也にも感じられた。  
 
 
 エピローグ 
 
 
 その世界は上空から見ると緑色をしたジグソーパズルの一片のようだった。  
 しかし近づいてみると、それが健一の良く知る公園の広い敷地だということがわかり、  
さらに近づくにつれて、中心にある小さい点が次第に見覚えのあるオブジェの形を  
成していく。『時の番人』という名のオブジェ。自分はこれを飽きもせず、  
ずっと眺めていたという。最初はひとりで、途中からはハルナという少女と。  
「健一君、目は覚めましたか」  
「えっと君は?」  
 健一の目の前には天使のような姿をした一人の少女が舞い降りてきていた。  
少女は小さく唇を動かす。  
 
「私はハルナ」  
「ハルナ?」  
 健一はその名をどこかで聞いた覚えがして、すぐにそれが幼い頃に出会った少女と  
同じ名前だと気付く。良く見れば彼女の顔立ちはあの頃とほとんど変わっていないように  
見える。幼く、あどけない。しかしどこか澄ましたような透明な雰囲気をもった少女。  
「健一君は事故で一時的に身体が他の人と入れ替わってしまったんだよ。  
でも、これは事故だから、もう元に戻る時間なの」  
 言われて健一は自分がさっきまで日奈の身体のなかに入っていたことを思い出し、  
本当の自分の身体は千夜子とデートをしているはずだと思い至る。  
「というわけで、本当は話したいことがたくさんあったけど、そろそろお別れの時間。  
彼を責めないであげてね、健一君」  
「彼って?」  
「すぐに分かるよ。それと彼女と仲良くね」  
「それもすぐに分かる?」  
 健一はハルナに尋ねる。ハルナは答えとなる表情を形作った。そして彼女の指が天を  
指し示し、振り下ろされた瞬間。大地は三角形の細かい破片となり、健一は落ちていくのを  
感じた。  
 
「健一さん?」  
 随分と長い間、自分の名前を呼んでいてくれてたらしい。耳元で千夜子の囁く声がする。  
「千夜子ちゃん? わわっ、なんで裸なの?」  
「やだ、恥ずかしいから言わせないで下さい」  
 健一はいきなり目に飛び込んできた千夜子の姿に驚いて、すっとんきょうな声を  
あげてしまった。千夜子は裸になっている理由を聞かれ、頬を染めて俯いている。  
「えっと私と健一さんが初めて……その、Hしちゃいましたから」  
「えっ、そうなの?」  
「健一さんのってなんだか凄くって、初めてだと痛いって聞いてたんですけど、  
なんだか頭が真っ白になっちゃって……」  
 健一は全く見に覚えがないのだが、自分は千夜子とセックスをしてしまったらしい。  
けれど、健一はそれに納得のいかないものを感じる。  
 
「えっと、千夜子ちゃん。嫌だったら嫌といってくれて構わないんだけど」  
「なんですか?」  
 千夜子が顔を上げて健一と目を合わせる。健一は真剣に千夜子の瞳を見て言った。  
「その、もう一回いい?」  
 千夜子が恥ずかしそうにしながら頷くのを見て、健一は千夜子にくちづけた。  
自分は恋愛に向いてない、そう根拠もなく思い続けていた自分自身に別れを告げて―――  
 
FIN  
 

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