「ふぇらちおって何だかわかる?」  
訊きたいことがあると、アステアがアランが居る部屋に入ってきた一声がこれだった。  
直後にアランは椅子から転げ落ち、後ろにあった寝台に頭をぶつけた。  
珍しく読んでいた本が間を置いて、計算していたかのようにどさりとアランの頭に着地した。  
「アラン…大丈夫?」  
「一応な……いきなり何を言い出すんだ…」  
そのままの姿勢で呆れたような、焦っているような微妙な表情を浮かべながら、アラン。  
とりあえず頭上の本をどけて立ち上がろうとする。  
「で、ふぇらち」  
「待て待て待て!どうしていきなりそんな話が出るんだ!!」  
あわてて制止する。  
アステアは、何かまずいことを言ってしまったのだろうかと首を傾げた。  
「いいから、何があったんだ」という彼に、アステアは説明をしていく。  
ただ、最近元気のないアランが気になり、どうしたらいいのかとよく話す女官達――まだ若く、よくアステアを気にかけてくれる――に訊ねてみたらしい。  
そのうちの一人が「これがいい」とアステアに言ったのだそうな。  
意味が解らないので訊いたが、女官は微笑して、アランが知ってると答えたのだ。だからすぐさまアランの元へやってきたのだと。  
その説明のあと、アランは思わず頭を抱え込んでしまった。  
(何でこいつはこういう事を知らないんだ!つーか兄が居たんじゃないのか!?  
何も教わってないのか!?いや、これは教わってたらヤバいだろうが…だが知らないにも限度ってもんが)  
そんなアランを見てアステアは心配になる。やはり打った所が悪かったのではないかと。  
近付き、そっと頭に手をかざし回復の呪文を唱えようとしたが  
「っと、頭が痛むわけじゃない。平気だ」  
「本当に?」  
「ああ」  
言って、椅子に座り直す。  
 
どうする…。説明してやるほうがいいのか?  
この調子で他の男にでも訊いて、ハイ実践。でそのあと…なんてなったら目も当てられねえ。  
頭の中でぐるぐると考えながらいつのまにか寝台に腰掛けた少女を見つめる。  
話題が話題なだけに、思わず唇に、胸に、腰に目線がいってしまう自分が情けなかった。と同時に、知らないのをいいことに彼女をどうにかしてやりたいという気持ちが沸き上がって来くるが、なんとか消し去る。  
「アラン、言いにくかったらいいんだ。…迷惑かけちゃったかな?でも、早く元気になってほしかったんだ」  
苦笑してうつむく。  
中性的な顔立ちがまさしく少女のそれになる。  
「ごめん……えっ?」  
いきなりでわからなかったが、気が付けばアステアはアランの腕のなかだった。  
彼は耳元で、これでいいとつぶやいた。  
はじめ困惑していたアステアも腕をまわした。  
二人はしばらくそのままだった。  
 
アステアが部屋を去った後、キスぐらいしておけばよかったと異様に落ち込んでいたアランであった。  
 
余談だが、結局アステアは女官達に例の答えを教えてもらい、恥ずかしさのあまりしばらくアランとまともに話せなくなっていたとか。  
 
END  
 

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