それは闇のオーブをレイアムランドの神殿に安置し終えたアステアがアレフガルドに戻ってきた時だった。
ルーラの魔法の反応も和らいで、周りの景色がはっきりし始めたアステアに声をかける者がいた。
「これはお早いお帰りで」
上から下まで黒一色の着衣に、これまた暗黒色のマントを纏った自分と同年代の少年の姿。
「……ジャガン」
地上界で出会ったもう一人の遠い兄弟。
あの時はアルスとの戦いを止めるのに夢中で気にならなかったが、こうしてサシで対面すると、
その全身から溢れ出す邪悪な雰囲気に背筋を強ばらせずにはいられない。
「何故……君がここに……?」
アステアは自分の声が掠れているのにも気づかない。
「折角、この俺様が直々に会いに来てやったのに随分なご挨拶だな?
俺は一度、この城に来た事があるからな。
いつでも自由に来る事が出来る」
緊張を隠せないアステアとは対称的に余裕の笑みまで浮かべている魔人王。
「それで、僕に何の用だ?」
それでも相手の気に押される訳にはいかない。
気丈にもアステアはその用件を問いただす。
「何、ほんのお礼をしようと思って。アルスとの戦いで俺の命を救ってくれた礼と……
奴のトドメをさす邪魔をしてくれた礼をなァッ!」
その禍々しい笑みをさらに歪める。
――来るっ!
悔しいが腕力での勝負ではアステアには歩が悪すぎる。
ジャガンとの間合いを取りながら、アステアは自分に守備魔法をかける。
何とか魔法勝負に持ち込めれば、あるいは……。
と、その時、再び周りの景気が揺らぎ出した。
魔人王の結界魔法。以前はロトの紋章のおかげで打ち破る事が出来たが、それはもうこの手にはない。
だが、それは自分が望んでそうした事。
過ぎた事を後悔するくらいならば、この場の打開策を練る方がよほど建設的だ。
結界を破るにはアステアかジャガンのどちらかが倒れる時、
もしくはジャガンが結界を維持出来なくなるまで魔力を消耗した時。
体力では劣るアステアにすれば、持久戦に持ち込みたいところだが、ここはラダトーム城。
魔物どもに侵略されて久しい。もし、見張りの者にでも見つかれば状況は絶望的になる。
ならば集中的に強力な魔法を叩き込んで短時間で決着をつけるのみ!!
「ライディーン!ライディーン!!ライディーン!!」
激しい雷撃は辺りの床の埃を舞い上げて視界を遮っている。
……やったか?
アステアは姿も気配も見えない相手を塵煙の中を目をこらして探す。
とその時。空気が動いた。
直感的に後ろに避けたアステアの残像を王者の剣の軌跡が切り裂く。
一瞬間後、パサリと音を立てて、アステアのマントの前部が落ちた。
勇者の形見の剣を扱う魔人王はまったくの無傷。
「魔法は封じられていない筈なのに……何故……?」
思いがけない形勢に、いつもの冷静さを欠いたアステアが呟きにジャガンが応える。
「マホステだ。……もう一人の勇者様に学ばせてもらったのさ」
アステアは驚愕とした。腕力では力及ばない上に魔法も効かないなんて…!
その一瞬の動揺をジャガンが見逃す筈がない。
次の瞬間には完全に間合いに入り、無数の斬撃をアステアに見舞う。
……嬲るつもりか!?
どれも致命傷には至らない小さな攻撃。だが、胸元の一撃によって衣服が裂かれた。
思わずそれを隠す様に胸部の布を掻き合わせるアステアに
ジャガンはさぞ面白いものを見つけたかのように笑みを漏らす。
「……やはりな。男にしては随分軟弱な装備だと思っていたが、やはり女だったか」
何とも馬鹿にしたジャガンの発言に怒りと屈辱とで、
その髪と同じ位、顔を赤くしたアステアが吠える。
「それがどうした!僕の性別など君には関係ない!!」
「いや、関係大アリだ。……言っただろう?礼をしてやると。
貴様如きに命を助けられた屈辱と、今一歩の所でアルスを殺せるチャンスを奪われた口惜しさを、
お前にも存分に味あわせてやらねば俺の気が収まらないからな」
この場で2人が対面してから、初めてジャガンはその表情に憎々し気な表情を浮かべる。
そして先程の動きよりも数倍の早さでアステアの背後に回り込み、
その細い首筋に手刀をくれる。
アステアは何が起こったのかも分からないまま、崩れ落ちた。
意識の落ちたアステアを抱え、魔人王は結界ごとラダトーム城から姿を消した。
長期に渡るレジスタンス活動の野営続きで
スプリングの利いたベッドで眠るなんてどれ位ぶりだろう?
その寝心地の良さを堪能する様にアステアは寝返りを打つ。
俯せになった時に吸い込んだ空気に自分の寝具とは異なる匂いを感じた。
(兄様……?いや、違う……)
覚醒しきらぬ意識と身体を無理矢理起こす。後頭部が鈍く痛む。
「ようやく姫君のお目覚めか」
ふいに掛けられた声にびっくりしてそちらを振り向く。
その声の主の姿を捕らえた瞬間、アステアが意識を失うまでの出来事を思い出させた。
キングサイズのベッドの上で身構える。
あてにはしてなかったが、当然の様に武器武具の類いは奪われていた。
だが、休息を取ったお陰で魔力は戻って来ている。
ジャガンが何か仕掛けてくる前にルーラでどこかに逃げられれば……。
「無駄な抵抗は止すんだな。この部屋は俺の自室でな、どんな魔法も無効化される」
口元で小さく呪文の詠唱を始めたアステアの姿を一瞥し、小馬鹿にした様に薄く笑う。
整った顔に浮かぶ酷薄で残忍さを隠さない笑みに本能的な恐怖を覚えて、
アステアは無意識の内に後じさる。
コツン。
音がして、漸くアステアは自分がヘッドレストにぶつかった事を知る。
いよいよ逃げ場を失った獲物を認めるとジャガンはアステアに襲いかかる様に覆い被さった。
押さえつけようとする逞しい腕に、敵わないと知りつつも抗う細い腕。
何回合か交わされた後、アステアの爪がジャガンの頬を引っ掻き、一筋の紅い軌跡を付ける。
その痛みがジャガンの冷酷さに拍車をかけた。
にやリと笑い、自らの鋭い爪でアステアに付けられた傷跡を抉る。
つぅーと流れる血を拭いもせずに笑みを崩さぬ相手に、再度アステアは戦慄する。
「そういえばお前は、まだ見ていなかったな?」
ジャガンが呟くと、頬から流れ落ちた筈の血が意思を持った鎖の様に、
アステアの手首に巻き付き、寝台に縫い留めた。
上半身の自由を奪われたアステアに抗う術は、最早ない。
ビーーーッ。
アステアに股がったジャガンは派手な音を立てながら、その衣服を焦らすようにわざと時間をかけて引き裂いていく。
アステアの身に残ったのは清楚で簡素な木綿の下着だけ。
こんなに無防備で屈辱的な姿、今まで誰にも晒した事が無かった。
悔しさと恥ずかしさで瞳に熱い涙が込み上げるのを止める事が出来ない。
「……こんなに怯えた勇者様が、単独で竜王に果たし状叩き付けたヤツとは思えないな」
震える肩を魔人王はじっくり撫で回しながら揶揄る。
「もっとも非力なお姫様には相応しい姿か?」
ジャガンはアステアに覆い被さり、首筋から耳朶の間に唇を這わせる。
「……ヒャッ!」
その様な箇所に口付けられる嫌悪感と背筋から昇って来た底知れない感覚に
アステアは小さく悲鳴を上げた。
「随分と可愛い声で啼いてくれる」
ジャガンは咽の奥でクッと笑うと、その唇の位置を南下させる。
「……ふッ!……んぁ…う、止め……ろォ……ア…ぅん」
既に悲鳴ではなく、只の快がり声にしか聞こえない声音でアステアは抵抗の意思を示す。
タンクトップの右側の肩紐を引き千切られ、露になった淡い膨らみの頂点を口に含み、
もう片方の乳房は布越しに揉みしだかれている。
まだ未発達な胸のしこりに触れる程強く握り潰させる度、
アステアは狂った様に啼き声を上げる。
下着から覗くアステアの素肌は、もう既にその髪と同じに薄紅色に染まっている。
ジャガンが口内で転がしていた乳首に軽く歯を立てて、
コリっと甘く噛むと面白い程の反応を返してくる。
「……!?……イヤァアアァッ!!
焦点も朧げに瞳を潤ませながらこちらを見上げ、口の端からは一筋の涎の跡。
肌に散らばる自ら残した蹂躙の証。布に隠れた方の胸もその頂点が
薄布を持ち上げてるのが簡単に見て取れる。
(これは思ったよりも愉しめそうだな……)
アステアの予想以上の感度の良さに、ジャガンは思わず唾を飲んでほくそ笑むが
それを気取られない様に飽くまで冷静さを装う。
思わず欲情に駆られて、一息に最後まで突き進みそうになるのを押さえる為にも
声に出してアステアに告げる。
「まだ、貴様には聞きたい事があるからな。
こんなんでクタばんじゃねーぞ」
「貴様がラダトームから持ち出した闇のオーブをどこにやった?」
息も絶え絶えなアステアの頤を持ち上げ、高圧的な態度で尋ねる。
「……君には……教えられない…」
未だ濡れた瞳の癖に、それでも己の使命を全うせんとする姿が健気を通り越して、
余計に男をそそっているという事にアステア自身は気づいていないのだろう。
まるで睦言を交わし合う男女の距離で、勇者と魔王が対している。
「言う気が無いなら仕方がない。
そっちから言いたくなる様に仕向けるまでだ」
真正面から自分を見据えるアステアの視線を逸らし、先程付けた陵辱の徴に今度は強く噛み付く。
「……くっ!こんな事で……屈したりは……。……ふアぁぁンンッ!!」
アステアの身体を抱き込んでいるのとは違う方の手が、下着越しにアステアの秘部に触れた。
全てが初めての体験だけに胸の愛撫だけですっかり濡れそぼっていたそこは、
布越しに指を出し入れしてもジュブジュブと淫らな音を立てて
ジャガンの指に吸い付いてくる。
「…あ……くぅ…ん……お願……もぅ…やめ……」
アステアの愛液が奏でる音が部屋いっぱいに響き渡る様に、
秘部の中をかき回す度に、その水音と共鳴した喘ぎ声が上がる。
ジャガンがその馴らされ始めた入り口から指を引き抜くと、
下着の上からの愛撫だったにも関わらず、透明で粘り気のある糸が
玉を作って絡み付いてきた。
まるで、俺が出て行くのを追い縋るみたいだ。
喘ぐ声からも少しだけ不満げな色が滲む。
「見た目に似合わず快楽に弱い姫君だな」
突きつけられた指に顔を背けるアステアの白い頬に、
ジャガンは愛液をたっぷりと塗り付ける。
涙とは違う粘質な感触が肌に障る。
「貴様には似合いの化粧だ」
散々、涙を流した筈のアステアの瞳から新たな水玉がこぼれ落ちる。
「……まぁ、いい。遊びはこれまでだ」
そんなアステアに一瞥をくれるとジャガンは何も無い筈の空間から愛用の王者の剣を取り出した。
「……殺したいなら、そうすればいい」
もう、ジャガンと目を合わせる事すらせずにアステアは吐き捨てた。
「それは闇のオーブの在処を話してもらってから、じっくりとさせて貰う」
残忍ながらも本心を隠さずに魔人王は告げる。
「……ならば、言った筈だ。君には、教えない」
これ程の陵辱を受けて誇り高さを失わないのには敬服するが、今のジャガンの瞳には
そんなものは愚かで滑稽なものにしか映らなかった。
「俺も言った。言いたくなる様に仕向けるまで、と。……コイツで貫いてやる」
その言葉に、さすがのアステアも固く目を閉じてその時が来るのを待ったが、
思わぬところにその攻めは来た。
閉じていた両足首を強い力で開かされ、すっかり濡れて役に立たなくなった下着が
跡形も無く引き千切られる。
まだうっすらとしか生えていない下腹部の茂みに、ジャガンが顔を突っ込んで
未だに溢れ続けるアステアの愛液を音を立てて吸い上げる。
……ジュルリ。
「……なっ!そんなトコ……!!……ふアァああああァアああんんンッッ!!!」
全く検討違いの場所への攻撃にアステアは、今までで一番大きな嬌声を上げてしまった。
すっかり充血した陰核を甘噛みされたのだ。
「お前、初めてなんだろう?
……さぞかし痛かろうな、ココにこんなモノをおっ立てられる日には……」
台詞とは裏腹に、ジャガンは瀕死の小動物をいたぶる獣の目で王者の剣と
アステアの薔薇色に色付いた秘所を眺める。
ここに来て、アステアはこれから自分の身に何が為されようとしているのか思い知った。
戦いに身を置く者として、いつでも命を落とす覚悟は出来ていた。
だが、こんな風に辱めを受け、さらには拷問の様な責めを負うなんて思ってもみなかった。
それにいくら鞘に納まっているからと言って、あんな大きな剣が胎内に入って
無事でいられるのだろうか?
こんな、女として、人間として最低な殺され方だけは……。
秘部に冷たい感覚が押し当たる。剣の切っ先が宛てがわれたのだ。
「……どうだ?貴様らの誇りのロトの血に戒められて、
勇者愛用の剣で処女を奪われる気分は?」
どこまでも愉しそうな魔人王の声。
メリメリ。
音なんて聞こえる筈が無いのに、内壁をかき分けるように剣が胎内を進んでいくのが分かる。
「……今ならまだ間に合う。闇のオーブの在処を教えろ」
自分を散々辱めた、それでもこの世で3人きりの遠い兄弟の声。
アステアの脳裏は真っ白になった。
「……レイアムランド……の聖域……」
ポツリと呟く様なアステアの答えに、やはりな、と独り言ちるとジャガンはアステアの秘部の入り口から王者の剣を引き抜く。
秘部からの圧迫感が消え、力の抜けたアステアが大きく息を付いた、その瞬間。
「……っいやぁあああああぁっっっーーーーーつっーーーーー!!!」
剣の代わりにすっかり準備の整っていたジャガン自身に一気に貫かれた。
「……痛いっ!……ふあぁんっっ!……嘘吐きィ……」
体の内部に直接的下された痛みで、涙が次から次へと溢れては零れていく。
「ふんっ、人聞きの悪い。闇のオーブの在処を教えて貰った礼だ」
ジャガンはニヤリと笑いこそしたが、内心、アステアの胎内の狭さに翻弄されそうになって焦っていた。
「……どう、だ?女になった気分は?」
アステアに股がったまま、ゆっくりと抜き差しを繰り返しつつ、
または円を描く様に腰を回しながら、その胎内の深みを目指す。
ジュルッジュプ。ジュポジュプッ。ピチャッ。
先走りを始めたジャガンの欲望と、止む事を知らないアステアの愛液が混じり合って
淫媚な音を響かせている。
「……ふぁ……ぅん……熱い…熱いの、ジャ…ガン……もう、だめェ…」
そして、耳に飛び込むアステアの涙混じりの快がり声にジャガンの腰を降る速度が早くなる。
その声はもう、悲鳴ではなくて、ただの女の甘い啼き声。
「……ジャガン!ジャガン!…ジャガンンんっっ!!」
いつの間に血の戒めが解けたのだろうか、
アステアは両腕でジャガンの身体にしがみ付いて来る。
「……くぅううっっ!!」
ドピュウルルルルッ!!
次の瞬間、アステアの胎内にジャガンの欲望が放たれ、
同時にアステアは再び意識を手放した。
安らかな寝息を立てながら自分の隣に横たわるアステアの姿を、
ジャガンは何とはなしに見ていた。
呪われた自分の名前を呼びながら縋り付くアステアの姿を思い出す度に
不思議な感覚に襲われる。
オーブの在処を聞いて、犯した後は殺す。
……最初はそのつもりだった。
言葉通りには最後まで犯し尽くした筈なのに。
まだ、足りない。全然、足りない。
もっと、この男装の姫君のあえかな姿を見たい。
もっと、快楽に溺れる快がりを聴きたい。
もっと、その細い腕に縋らせたい。
血族の血を求めるのは、コイツの性分だと思っていたのだが。
……そういえば自分もその血脈だったか。
ジャガンは自虐的に口を歪めると、傍らのアステアを引き寄せる。
「飽きるまでは、せいぜい可愛がってやる」
そう呟くと、その唇に触れるだけの口づけを落とした。
――事後にして、漸く口付けを交わすなんて血に縛られた滑稽な自分達にはぴったりだ、
とジャガンは歪んだ笑みの形をもう一度、浮かべた。