愛らしいおさげ髪の少女が、肩を落としながら控え室の入り口をくぐった。  
「はぁ〜あ……」  
「ランブルローズ」出場者の一人、モンゴル出身の少女・アイグルは、深いため息をついてロッカーに力なくもたれかかった。  
「アイグルちゃん!」  
それまで浮かない顔をしていたアイグルは、不意に後ろから掛けられた聞き覚えのある少女の声にハッとして顔をあげた。  
そしてそれまでの表情を隠すように、慌てていつもの表情を作り直すとその声のした方を見やる。  
「マコト……」  
控え室の入り口でアイグルに声を掛けたのは、アイグルと同じく「ランブルローズ」にエントリーしている藍原誠だった。  
「マコト、何しに来た?みじめなアイグルを笑いに来たか?」  
アイグルは精一杯の気勢を張って誠に向き直った。  
「そんな……そんなことしないよ、アイグルちゃん。  
 その……今日の試合はどうしちゃったの……いつものアイグルちゃんらしくなかったよ?」  
誠は先ほどのアイグルの試合を思い出しながら言った。  
試合開始から劣勢を強いられていたアイグルは、対戦相手がリング内に持ち込んでいた凶器を手に取り、それを相手に向かって使用してしまった。  
その攻め方があまりにも酷かったため、アイグルは反則負けの判定を下されてしまったのだった。  
「なんで……なんであそこで凶器なんか使っちゃったの?  
 今までのアイグルちゃんなら、その投げ技でどんな状況からでも逆転を狙ってきたじゃない!?」  
モンゴル相撲の横綱である父と兄をもつアイグル、彼らの血を引く彼女が繰り出すモンゴル相撲仕込みの技は、  
「ランブルローズ」の中でも異彩を放ち、幼い頃にアイグルに負けを喫した誠もその実力には一目置いていた。  
「アイグル……どうしても勝ちたかった……でも私の力、もう限界だった……だから……だから……」  
いつものように気勢を張っていた負けず嫌いの少女のだったが、瞳の縁にはうっすらと涙が溜まり始めていた。  
「アイグル、もうダメ……立派な戦士、なれない……」  
「アイグルちゃん……」  
 
微かに涙声が混じり始めたアイグルの弱気の発言に、かける言葉もなく突っ立っていた誠だったが、  
ゆっくりとアイグルに歩み寄るとその身体を優しく抱きとめた。  
「マコト……!」  
突然のその行動に、こぼれる寸前の涙を浮かべていたアイグルの目が見開かれる。  
「アイグルちゃん……そんな言葉、アイグルちゃんらしくないよ……  
 私のライバルだったアイグルちゃんは、いつだって負けず嫌いで、勝つためにいっぱいいっぱいガンバってきたじゃない!  
 そんなアイグルちゃんは、十分立派な戦士だよ……」  
「マコト……」  
アイグルの身体を優しく包み込みながら、誠は彼女に囁きかけた。  
「アイグルちゃん、何か悩みでもあるんじゃない?ここんところ、調子がよくなかったみたいだし……  
 私じゃあんまり力になれないかもしれないけど……そうだ!」  
そこで一旦体を離した誠は、アイグルの両手を取って何か妙案を思いついたように言った。  
「何、マコト?」  
「看護婦のアナスタシアさんがいるでしょ?あの人、カウンセリングもやってるんですって。  
 私も悩みがあったけど、あの人に話したらすっかり楽になったよ」  
アナスタシア―――大会CEOであるレディーXの秘書、そして看護婦を務める2人と同じ「ランブルローズ」の選手の一人である。  
「でも……あの人の目、なんだか怪しい……」  
「だったら私もついて行ってあげるから……一緒に行こう?ね?」  
アナスタシアの名に迷いの色を浮かべていたアイグルだったが、力強く両手を握り締める誠の説得にほだされてしまっていた。  
「マコト……ありがとう」  
アイグルはよきライバルの友情に再び溢れてくる涙をこらえることなく、誠に身を預けた。  
「そんな……私たち親友じゃない」  
誠はアイグルの身体を受け止めると、むせび泣きに震えるその背中をゆっくりと撫でてやるのだった。  
 
しかしこの時のアイグルは、悪魔の仕掛けた恐るべき姦計に気づくはずもなかった。  
そして、今彼女の身体を優しく包み込んでいる親友が、その悪魔の使者と成り果ててしまっていることも―――  
 
「いらっしゃ〜い、迷える子猫ちゃん」  
誠の案内でやってきた「ランブルローズ」本部建物内のとある一室。  
そこにはアナスタシアが、彼女が入場シーンでいつも使っている回転式肘掛け椅子に足を組んで座って待っていた。  
彼女の前の丸椅子には、アイグルが緊張に身体を強張らせて座り、その傍らには付き添いの誠が後ろで手を組んで立っている。  
「うふふふ……そんなに固くしないで……もっとリラックスしてちょうだい」  
アナスタシアはすっかり縮こまってしまっているアイグルに優しく囁きかけた。  
「それで……あなたの悩みは何なのかしら?」  
「えと……えと……」  
アイグルは伏目がちな視線を、隣に立っている誠の方へ時折さ迷わせながら言葉を詰まらせた。  
「あら……お友達の目が気になるの?そういう類の悩みなのかしら?」  
それでもアイグルが答えづらそうにしていると、誠が彼女に声をかけた。  
「アイグルちゃん……私たち親友よね。私にもアイグルちゃんの悩みを聞かせて?少しでも力になりたいの……」  
「マコト……」  
すがるような目つきで誠を見上げたアイグルは、再び黙って微笑むアナスタシアへと視線を戻した。  
「……ダメ、やっぱり、アナタ怪しい。アイグル帰る!」  
耐え切れなくなったように椅子から立ち上がると、アイグルは部屋の入り口へ向かって歩き出した。  
だが、それよりも早く誠が入り口の前に立ちはだかる。  
「マコト、どける!アイグル、帰る!」  
「ダメよ、アイグルちゃん……まだ、アナスタシアさまに悩みを聞いてもらってないじゃない……」  
「マコト……なんか変……」  
親友の言葉と目つきに不審なものを感じ取り首をかしげるアイグルを、誠が突然突き飛ばした。  
 
「あぅっ!」  
突き飛ばされた勢いで後方によろめいたアイグルの体を、椅子から立ち上がっていたアナスタシアが優しく抱きとめる。  
「そうよ……診察はまだこれからなんだから……」  
「嫌ぁっ!放せーっ!」  
アナスタシアの拘束を払いのけようとアイグルは全力でもがいたが、その両腕はがっちりと絡み付いて微動だにしなかった。  
「あらあら、病室で暴れちゃダメよ……」  
唯一自由になっている両足をばたつかせながらなおも抵抗を続けるアイグルに、入り口のところに立っていた誠がすっと近づいてきた。  
「マコト、助けっ……っっ!」  
一縷の望みを賭け誠に助けを求めたアイグルの唇は、すべてを言い終わらぬうちに誠のそれによってふさがれてしまう。  
「んんっ……んー」  
息苦しそうな声だけが漏れるアイグルの口の中へ、、誠の口から何か小さな粒のようなものが移し込まれる。  
アイグルはそれを飲み込んでしまわないように必死で抵抗したが、誠の舌が彼女の舌を巧に押さえ込みそれを阻止する。  
そのうち2人の口内には唾液があふれ出し、その流れによって小さな粒はアイグルの喉の奥に吸い込まれていく。  
「んく……んぁっ」  
その喉元が小さく波打ちアイグルがそれを飲み込んだことを示すと同時に、2人の少女の唇が離れる。  
誠のチャームポイントである厚めの唇が離れると、アイグルは熱に浮かされたような視線を虚空にさ迷わせていた。  
「うふふふふ……」  
それまで抵抗を続けていたアイグルの体の力が抜けていくのを感じ取ると、アナスタシアはその拘束を解く。  
そしてそのまま後ろに倒れこもうとする彼女の身体を、今度はその豊満な胸元で優しく受け止めてやる。  
「お眠りなさい、アイグルちゃん……目覚めた時には悩みなんてすっかりなくなってるわ……」  
「おやすみ、アイグルちゃん……」  
看護婦と友人の囁く声をどこか遠くに感じながら、アイグルは自らの意識が暗闇へ落ちていくのを感じていた。  
 
 
「う……んっ……」  
何者かが自分の身体をまさぐる気味の悪い感覚に、アイグルは目を覚ました。  
聴覚が回復してくると、今度は間近に荒い息遣いが聞こえてくる。  
「はぁ……ん……はぁ……んんっ……」  
「マコト!」  
次第に開けてきたアイグルの視界に飛び込んできたのは、自らの体の上に馬乗りになって淫らに身体を揺らしている親友の姿だった。  
「……っ!」  
アイグルは自分の顔が瞬くうちに真っ赤になっていくのをはっきりと感じ取った。  
その理由は、惜しげもなく裸体を晒け出しあられもない声をあげている誠の痴態であり、  
また身につけていたものをすべて脱ぎ捨てた、自らの恥ずべき姿であった。  
「マコト……やめっ……やめてぇ!」  
アイグルは湧き上がってくる疼きにも似た感覚に身を苛まされながらも、必死の思いで誠に呼びかけた。  
だが、アイグルの右脚を自らの肩に乗せ、もう片方の脚を全体重で押さえつけながら、  
お互いの本来なら隠すべき部分をすり合わせることに夢中になっている誠の耳には、その声が届いてない風だった。  
「あ〜ら、目が覚めたみたいね、子猫ちゃん」  
アイグルの頭の上の方から、悩ましげな響きを含ませた声が聞こえてきた。  
「お前……アナスタシア!」  
「うふふふ……」  
アナスタシアは微笑みながら誠に近づいていき、その顎に手を掛けて自分の方を向かせると互いの唇を重ねた。  
「あむっ……んんっ……」  
塞がれた誠の唇の端から切なげな吐息が漏れてくる。  
「いいわよ、誠……その調子で、お友達をもっともっと気持ちよくさせてあげなさい……」  
「はい、アナスタシアさまぁ」  
くちづけが終わってなお、求め続けるかのような視線でアナスタシアを見つめる誠の瞳に、  
尋常ではないものを感じ取ったアイグルは、リング上の敵対者のごとくアナスタシアを睨みつけた。  
「マコト……目の色、変……お前、マコトに何した!?」  
「あらぁん……ちょっと悩み事の相談に乗ってあげただけよぉん?」  
アイグルの鋭い視線に対し、アナスタシアは悩ましげな娼婦のような瞳を投げかけながら答えた。  
 
「悩み事と言えば、アイグルちゃん……あなたの悩み事も聞かせてもらったわよぉ。あなた、立派な戦士になることが目標なんですって?」  
アイグルは親友の誠にならともかく、怪しい雰囲気を漂わせるアナスタシアに自分の悩みを打ち明けたという  
自らの記憶にない行動を指摘され戸惑いを覚えた。  
「あら、驚くことはないわよ。ちょっと特殊なお薬を使わせてもらっただけのこと……」  
アナスタシアは、その豊満な胸の谷間に挟み込んでいた薬品の小瓶を取り出し、アイグルの目の前に翳した。  
揺れる小瓶の中でカラカラと音を立てる白い錠剤に、アイグルの脳内に意識を失う直前の誠の唇の感覚がよみがえる。  
「お父さんやお兄さんに、立派な戦士として認めてもらうためにこの「ランブルローズ」に出場……  
 あなたが人一倍負けず嫌いだったのはそのためだったのね……」  
的確に言い当てられた自らの出場理由に、アイグルは言葉を噤むしかなかった。  
「ある時、ちょっとした体の不調のせいで思わぬ負けを喫してしまったあなたは自らの目標に焦りを感じ始めた……  
 だけど、焦れば焦るほど勝ちは遠のいてしまい、同時にあなたの目標である立派な戦士からもかけ離れて……  
 それで、この間の試合ではとうとう凶器を……」  
「やめて!聞きたくない!」  
アイグルはアナスタシアの言葉に耳を塞ごうと両手を動かそうとしたが、上手く動かせずただいやいやをするように頭を振るだけだった。  
「ごめんなさい……さっきのお薬の影響で、ちょっとだけ体の自由が利かないかもしれないわね」  
アナスタシアはさらに囁き続ける。  
「……今のあなたの姿を、お父さんやお兄さんが見たら何て言うかしらね?  
 少なくともあなたを「立派な戦士」とは認めてくれないでしょうね」  
「イヤっ!やめっ……て」  
アイグルの抵抗の言葉が嗚咽を含んだものに変わり始めたが、アナスタシアの言葉攻めは始ったばかりだ。  
 
「あなたのお友達にも聞いてみましょうか……誠、今のアイグルをどう思う?」  
アナスタシアはアイグルの上に乗りかかったまま一心不乱に腰を振り続ける誠に囁きかけた。  
「ハイ……アイグルちゃんったら……とってもみじめで……かわいそ……ぅはふぅん」  
乱れる呼吸を交えながら途切れ途切れの言葉を漏らす誠。それは、自分の下になっている親友を心情的にも見下す発言だった。  
誠のその言葉に、アイグルはとうとう堰を切ったように泣きはじめた。  
「やめてっ……マコ……ト、そんなこと言わないっ……でうぁは」  
涙声の中に、誠から与えられ続ける快感による嬌声が混じる。  
「でもね……アイグルちゃん、戦士になれないなら別のものになればいいじゃない?」  
「別の……もの?」  
突然、アナスタシアが奇妙な提案をしてきた。  
 
「でも……んっ……アイグル、戦士になるしか……ない……んはっ」  
「そんなことはないわ、人は自由だもの。何にだってなれる……ほら、誠を見て。  
 彼女も金メダリストとしての自分と、その肩書きに背負わされた期待に悩んでいたけど、今はとっても嬉しそうでしょ?」  
「マコト……嬉し……そう?」  
「そうよ。誠はね、立派な金メダリストから……私のペットになったの。アッハハハハ」  
アナスタシアの高笑いを聞きながら、なおも淫らな行為に夢中の誠を、アイグルは涙の乾ききらぬ瞳で見上げた。  
「金メダリストの肩書きを捨てて自分に素直になりなさい、って言ってあげたらホントに素直になっちゃって……  
 今では私の言うことなら何でも聞いちゃう……従順なペットよ」  
「そう……ですっ……んんっ……、誠は……っはぁ……アナスタシアさまのぉっ……ペットですぅ……」  
切なげな艶のある吐息を混ぜながら紡ぎ出される誠の言葉に、アイグルは激しくショックを受ける。  
「そんな……ぅうっ……マコト、目を……覚ます。マコトォ……っはぁん」  
「オッホホホホ、麗しい友情ね。……生憎と私、そういうの大っ嫌いなの。反吐が出そう。  
 だけど……今回は友達思いのアイグルちゃんに免じて許してあげるわ……あなたも私のペットにしてあげることでね。  
 お友達といっしょになれるのよ。どう……嬉しいでしょ?」  
「い、嫌ぁっ!」  
アナスタシアの漏らした悪魔の計画に、思わず拒絶の声をあげるアイグル。  
「あらぁん、アイグルちゃんはああ言ってるけど、誠……あなたはどうかしら?」  
「アイグルちゃんも……っはぁ……一緒に……っはぁ……、アナスタシアさまの……ペット……なろ?」  
「いっ……嫌ぁ……んはっ」  
そう言いながら、次第に腰の動きを激しくしていく誠。  
それにつれてアイグルの声にも誠と同じものが混ざり始める。  
「そうよ、誠……その調子。もっともっと気持ちよくさせてあげなさい。そしたらアイグルちゃんもきっとわかってくれるわよ」  
「はい、アナスタシアさまぁ〜んんっ」  
 
(今回は私自身が、気持ちよくなれなかったのが残念だけど……ともあれこれでペットは2人目。  
 次はあの、私のシナリオを引っ掻き回してくれてるあの娘にしようかしら?それとも失敗作の再調整?  
 ううん、なんなら姉妹一緒に、ってのも捨てがたいわぁ)  
アナスタシアが次の姦計を練っていると、背後から声がした。  
「ミス・アナスタシア。準備が整いました」  
その声の主は、藍原誠―――いや、漆黒の柔道着と濃いアイシャドウのその姿はThe BBDと呼ばれるヒールレスラーのものだ。  
「ありがとう、BBD。さぁ生まれ変わった姿を見せて、アイグルちゃん……いえ―――グレート・カーン」  
「はい……」  
BBDの後ろから現れたのは、中国風の丸みを帯びた帽子、金の刺繍が施された丈の短いチャイナドレス風のワンピース、  
そして、京劇役者のように白く塗られた上に目の縁に紅をさした独特の化粧を施した、おさげ髪の少女だった。  
「グレート・カーン……あなたの目的は?」  
アナスタシアは腰掛けていた椅子を回転させると、生まれ変わったアイグル―――グレート・カーンに問いかけた。  
「はい……グレート・カーンは偉大なる皇帝。皇帝に負けた者、みんな奴隷。皇帝の奴隷はアナスタシアさまの奴隷……」  
「そうよ……それでいいの。あなたの強さで私のペット候補を集めてきてちょうだい……」  
「はい、ミス・アナスタシア……」  
両腕を胸の前で揃え深々と礼をするグレート・カーンのチャイナドレスのスリットから、彼女の太腿があらわになる。  
そこには、BBDの右足の甲に施されたものと同じ、アナスタシアへの忠誠の証である黒い悪魔のタトゥーが施されていた。  
 
(了)  
 

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!