アナスタシアが巻き起こした混乱から数ヶ月。  
ランブルローズのリングは、新たに設立されたタッグ王座を賭けた熱戦の只中にあった。  
ミス・スベンサー&キャンディーケイン組VSノーブル・ローズ&日ノ本零子組の試合である。  
 
静かな立ち上がりから互いに数度のタッチを繰り返し、現在のリング上はノーブルローズと  
キャンディー。アナスタシアの支配から脱し、『愛と正義の戦士』を標榜するノーブルローズは  
ビッグタイトルを目前にしてもなお、涼やかな表情を崩していない。一方で、初代タッグ王座と  
いう栄誉(及び多額のギャラ)を得るべく、いつも以上に闘志を漲らせるキャンディー。まさに  
静と動の好対照であった。  
 
ジリジリと消耗し、互いに大技で勝負を決めたい時間帯。先に動いたのは……  
やはりキャンディだった。  
「いくぞ、オラーっ!」  
気合の入った声と同時に、ノーブルより一回り小さな身体が対戦相手の脚の間を潜り抜ける。  
素早く姿勢を立て直すと、大胆に露出した背中の白が視界に飛び込んできた。  
(もらった!)  
 
しかし、その姿がまるで幻のように掻き消える。  
「まだまだ、ですね」  
「なっ……?!」  
背後から声が聞こえた、と思った次の瞬間にはリバースDDTでマットに叩きつけられていた。  
そのまま素早くカバーに映るノーブル。  
 
「そうはさせないわ!」  
パートナーに返す余裕がないと見たか、ミス・スペンサーがロープを割って介入しノーブルの  
背中を勢いよく蹴りつけカウントを止める。そのまま上半身を引き起こすとスリーパーを敢行。  
「グゥッ!」  
「ミス・ウェルシュはね、孤児院の子供たちにベルトを触らせてあげるって約束してるんですよ!」  
「そ、そういうことは言わなくていーから!」  
後頭部をさすりつつ、照れ臭さに頬を染めるキャンディ。  
 
「姉さん!」   
今度は零子がリングインし姉を救出しようとする。  
「おっと、そうはさせないよ!」  
しかし回復したキャンディに足を掛けられ、勢いが良かっただけに派手に転ばされてしまう。  
キャンディは腕を引いて無理やり立たせると、背後に回り開脚バックドロップを仕掛ける。  
いつもなら大股開きにさせた姿を観衆に見せつけてから落とすのだが……   
 
「ほぅら、姉ちゃんによーく見てもらいなっ!」  
キャンディは口の端を歪め、スリーパーホールドをキメられたままのノーブルの眼前に零子の  
股間を近づけていった。  
 
「こん……なっ…………こと……っ!」  
これまでもこの技を掛けられ、観客、特に男性客の下卑た視線に晒されたことは幾度もあった。  
が、相手がパートナーであり亡き母に次いで憧れている姉になるとまた話は違ってくる。  
むず痒いような、それでいて焼けつくような羞恥に襲われ、零子の全身が強張っていく。  
 
「…………く……っ……」  
一方でノーブルもまた、開脚を強いられる妹同様の恥辱を味わっていた。いかに沈着冷静で  
あろうとも、姉としてまたそれ以前に同姓として、零子の心情は手に取るように分かる。  
にもかかわらずどうすることも出来ずにいる自分への苛立ちと、肉親の恥部を間近で見せ  
つけられるという異常な状況が彼女の心を掻き乱していく。  
アマレス仕込みの締め技に耐えながら、ただ瞳を伏せ顔を背けるしか出来ない。  
 
「ミ……ミス・ウェルシュ、こんな破廉恥な……」  
「お説教なら後で聞くから! そのまましっかりキメといててよ?」  
カミカゼ・ローズの娘たちは共に技から逃れるための集中力を失いつつある。それを見て  
取ったキャンディは師の声を聞き入れるどころかかえって少女らしい嗜虐心をたぎらせ、  
姉妹にさらなる仕打ちを加えるべく零子の大股開きを維持したまま数歩を踏み出す。  
 
「?! や……いやああぁぁぁーー!!」  
リング上とは思えぬ淫靡な光景に、どよめきで溢れかえる会場。それさえもつんざく零子の  
甲高い悲鳴。  
凛とした美貌をたたえるノーブル・ローズの顔に、女らしく盛り上がった零子の恥丘が  
押し当てられたのだ。  
 
限界を超えた羞恥心は零子の感覚を研ぎ澄まさせ、ローライズ、ブリーフタイプのショーツと  
2枚越しであるにも関わらず、刺激を直接のもののように伝えてくる。  
すなわち、純粋な快楽を。  
 
(母さんの愛したリングで……こんなことって…………ダメ、感じては駄目っ!)  
すり減った精神力を必死に掻き集め、歯を食いしばり予想だにしていなかった淫虐に耐えよう  
とする。だが偶然かキャンディの故意か、ノーブルの鼻骨が膨らみかけの陰核をかすめると  
それも徒労に終わった。  
「んんんんんぅっっ!!」  
堪えきれず、くぐもった声が溢れ出す。その声色から、零子が快楽に呑まれつつあることは  
対戦相手から最後列の観客にまで漏らさず伝わってしまった。  
 
しかし零子の変化を最も敏感に感じ取ったのは、やはりノーブルローズであっただろう。  
苦しい呼吸の中にも、汗とは違う液体の匂いをごく間近で吸い込んでしまったのだから。  
(?! 零子……そんな……)  
どんなに否定したくとも、それは明らかに淫臭だった。驚きとともに、自分の顔が実妹を  
追い詰めているという無力感、屈辱感が焦燥を募らせていく。  
「零……子っ……負けないで……!」  
声をかすれさせながらも、懸命に妹を励ます。その唇の動き、息遣いが彼女をいっそう  
追い込んでいくとも知らずに。  
 
「ね、姉さん、喋ら……くぅぅんんっ!」  
わずかな唇の動きにさえも、滑稽なほど背筋をビクつかせる零子。その表情は精悍なレスラーの  
ものから、快楽を享受するひとりの女のものへと変貌しつつあった。  
(姉さんやみんなが見てるのに……私、どうしてこんなに…………)  
自分はこんなにも快楽に弱かったのだろうか? 煩悶する零子の全身が徐々に脱力していく……  
 

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