〜エフィもそういうお年頃〜  
 
日の暮れかけた旧王都ザノス=トルアに向かう街道の脇で、一つの騎影が足を止めた。  
その背から降りたのは、アンディ・クルツとエフェメラ・クルツ。父の仇を追って帝国を旅する、若き双子だ。  
「今日はこの辺りで野宿した方がいいな」  
「うん、そうだね。ちょっと前の憩の小屋が使えれば良かったんだけど」  
「燃え落ちていたんだから仕方がない。今夜は雨もなさそうだし、何とかなるだろう」  
アンディは手馴れてきた動作で馬の背中から荷を外すと、水を飲ませる為に湖の畔へと引いていった。  
馬自体は好きなものの、世話の仕方を知らないエフェメラは、それを眺めているしかない。  
夕陽の色に染まったバウル湖を見回していた彼女は、やがて少し離れた処に小さな岩場を見つけた。  
「ねえ、兄さん。あたし、向こうの方で水浴びして来てもいい?」  
振り向いた双子の兄に岩場を指差し、エフェメラはねだるような口調でそう問い掛けた。  
「それはいいが、足はもう大丈夫なのか?」  
「平気へいき。そんなに強い毒じゃなかったみたいだし」  
包帯を巻いた右の太腿を軽く撫で、エフェメラは何でもないという風に首を振って見せた。  
昼に小休止をした時、踏みつけてしまった毒蛇に噛まれ、アンディが応急処置を施した跡だ。  
しばらくは気分が悪そうにしていたものの、今では顔色も回復し、無理をしている様には見えない。  
「ならいいが。何かあったら、すぐに大声を出して呼ぶんだぞ?」  
「はいはい。もっとも、そうそう何かあるとは思わないけどね」  
心配性な双子の兄の言葉を軽く受け流し、エフェメラは自分の荷物の中から着替えとタオルを探り出す。  
それらを一まとめに抱えると、野営の準備を始めるアンディを置いて、少し離れた岩場へと歩いて行った。  
 
              ◇  ◇  ◇  
 
「あーあ。やっぱりまだ、跡残ってるなぁ」  
岩陰に隠れて包帯を解いたエフェメラは、タイツの切れ目から覗く自分の内股を見て、小さく溜息をついた。  
滑らかな白い肌の上には、毒蛇の牙の跡に重なって、紅い花びらのような跡がくっきりと浮き出ている。  
彼女が毒蛇に噛まれたと知った途端、アンディは手早くタイツを切り裂き、口で毒を吸い出したのだった。  
「まったく兄さんったら、加減ってもんを知らないんだから」  
ぶつぶつと文句を言いながら、エフェメラは手早く服を脱ぎ捨てていった。  
破れたタイツを目の前で広げ、これは後でアンディに繕ってもらおうと、当然のように心に決める。  
周囲に人の気配が無い事も手伝い、開放的な気分になったエフェメラは、惜しげもなく素肌を晒していく。  
最後の下着をポンと放り捨てると、澄んだ湖面に足を踏み入れ、細かい砂の敷き詰められた水底へ腰を下ろした。  
「だけど、あの格好はちょっと恥ずかしかったな……」  
岩の一つに背中を預けながら、アンディに手当てをされた時の事を思い返し、エフェメラは薄く頬を赤らめた。  
何しろ、両足を大きく広げられ、股間に顔を埋めるようにして、内股を強く吸われたのだ。  
アンディにそんなつもりは全くなくとも、年頃の女性としては当然、そういった意識が働いてしまう。  
「やだ、思い出したら、また……」  
あの時感じた強い羞恥心と、同時に覚えた軽い疼きが蘇り、エフェメラの身体の芯に小さな炎が灯る。  
ただ違うのは、ここにはアンディはおろか、自分の行為を見咎める者は誰もいないこと。  
「大体、兄さんが悪いのよ。いくら双子だからって、あんな……。あんなこと、するから……」  
適切な処置だったと分かってはいるが、それだけでは今の自分の気持ちを抑え切れない。  
この場にいない兄に責任を押し付け、自分の理性への言い訳にする。  
エフェメラは込み上げる欲求に導かれ、唇の跡を撫でていた指先を、少しずつ足の付け根へと寄せていった。  
 
「んっ……!」  
エフェメラが秘所に指を添えると、そこは仄かに熱を孕み、甘い刺激を待ち望んでいたようだった。  
ターデンの街にいた頃に、仲良くなった年上のアルリアナの乙女から、その手の知識は色々と教わっている。  
閉じた花弁に沿って指をゆるやかに撫で上げると、じんっと痺れるような快感が生まれる。  
一度始めてしまうと、エフェメラのしなやかな指先は、疼きを鎮める為に自然と快楽を追い求めていった。  
「ん、っふ……。や、ん、あっ……」  
小さく喘ぎを洩らしつつ、エフェメラは股間に宛がった手を上下に揺らした。  
僅かにはみ出した襞は次第に充血し、亀裂からは湖の水とは違う、温かなぬめりが滲み出してくる。  
すぐに湖水に溶け出してしまっても、熱い潤いは次から次へと溢れ、指の動きを助けてゆく。  
エフェメラは空いていた腕を持ち上げると、豊満とは言い難い胸の膨らみを、そっと掌で包み込んだ。  
「あふっ……ん! んぅ、くっ、ぁ、はぁ……」  
軽く摘むようにして乳首を弄ると、そこはたちまち硬くしこってゆき、淡い丘の頂点でぴんと突き立った。  
柔肉の中へ押し込み、ぐりぐりとすり潰す感じで刺激して、更に官能を引き出す。  
指を離すと、強い弾力を示してぷるんと弾み、先程よりも更に強く隆起して、快感の度合いを明確にする。  
エフェメラはもう一方の乳房に手を伸ばしながら、秘裂を撫でていた指先をそっと折り曲げた。  
「あ……ぅんっ!」  
ぬるりと内部に忍び込んだ己の指の感触に、エフェメラの眉がきゅっと中央に寄せられた。  
男を知らない入り口はまだ狭く、指を自由に動かせるほどの余裕は無い。  
「んっ、んん、っ、く、んぅっ!」  
浅い位置に割り込ませた指先を、痒い処を掻くようにして、小さく蠢かせる。  
その動きに導かれ、奥から湧き出す雫は量を増し、やがて立てていた膝がしどけなく左右に開いていった。  
 
「あ、兄さん……」  
期せずして内股を吸われた時の体勢を取ったエフェメラの脳裏に、アンディの幻影が忽然と浮かんだ。  
彼女の逞しい想像力は、幻影の呪文を使わなくとも、その気配や息遣いまでをも忠実に再現する。  
生まれた時からずっと一緒の、血を分けた双子の兄。  
けれど同時に、エフェメラにとっては、もっとも身近にいる異性でもある。  
想像上のアンディは内股から唇を離すと、濡れ切った秘所を射抜くような視線で覗き込んでくる。  
幻の眼差しに背徳的な悦楽を呼び覚まされ、エフェメラの肌にざわっと鳥肌が立った。  
「お兄ちゃんが、見てる……。んっ、はっ、ああっ!」  
無意識の内に幼い頃の呼び方で呟くと、エフェメラは両手の動きを一気に早めていった。  
左右の乳房を交互に揉みしだき、滾った媚肉に埋めた指先を淫靡にくねらせる。  
現実には起こり得ない、する事が出来る筈もない妄想だからこそ、それは却って劣情を昂ぶらせてゆく。  
エフェメラは湖面をぱしゃぱしゃと波打たせ、襲い来る官能に意識を委ねきった。  
「んっ、お、兄ちゃんに、見られ、てるっ……! あたしの、はっ、恥ずかしいとこ、ぜんぶっ……!」  
興奮で朱に染め変えられた細い裸身が、水の中で網に掛かった魚のように跳ねた。  
喚起した羞恥心はすぐさま快感へとすり替えられ、溢れ出る愛液には白く濁ったものが混じり出す。  
包皮から突出した陰核を擦り立てると、針で突き刺すような鋭い快感が背筋を駆け上る。  
「見られて、るのにっ……! あたしっ、お兄ちゃ……の、目の前でっ、いっちゃ……!」  
切ない声で自分だけの為の淫らな物語を紡ぎ、エフェメラは絶頂への予感に全身をわななかせた。  
論理的な思考は連続する快楽に掻き乱され、想像と現実の境すらあやふやになっていく。  
吐息が掛かるほどの距離で観察するアンディの顔を夢想して、仕上げとばかりにきゅっと陰核を抓る。  
「いっ……、くうぅぅん!」  
エフェメラは伸び上がるように背を仰け反らせ、弾ける快楽の極みに甲高い悲鳴を上げた。  
 
              ◇  ◇  ◇  
 
「はぁっ、はぁっ、はっ、ぁ……」  
ぐったりと背後の岩に凭れたエフェメラは、激しく息を継ぎながら、しばらく気だるい余韻に浸っていた。  
ほつれた長い黒髪が一筋、なまめかしく口元に貼り付いているのを、払い除ける気力すら湧かない。  
しかし、火照った肌が湖水に熱を奪われ、呼吸がゆっくりと落ち着くにつれ、まともな思考が蘇ってくる。  
「何で、お兄ちゃんの事を考えて、しなくちゃいけないのよ……」  
先程までの自分を咎めるように、エフェメラは大きく唇を尖らせて呟いた。  
想像の上でなら、舞台で主役を張る二枚目だろうと、神と見紛うばかりの美形だろうと、思いのままなのに。  
よりにもよって朴念仁の双子の兄を思い浮かべて達してしまったことが、何となく口惜しい。  
「もぉ、全部、お兄ちゃんのせいなんだから……」  
第一、自分はアンディの妹で、自分もアンディの事は只の肉親としか思っていない、はずだ。  
そう、変に気分が高まってしまったのも、最近は自分で慰める機会も無くて、欲求不満だっただけなのだ。  
そこにあんな事をされて、ちょっと異性を感じてしまったというか。  
いやいや、そうではなく。  
ではどういう事なのかと言われると、これまたちょっと微妙な乙女心というか。  
誰に尋ねられた訳でもないのに、エフェメラの頭は取り留めの無い言い訳を延々と綴ってゆく。  
「あーやめやめっ! とにかくもう、お兄ちゃんが全部悪いって、決めたったら決めたんだいっ!」  
癇癪を起こしたように喚き散らすと、彼女はこんがらがった思考を放り出し、冷たい水に頭を潜らせる。  
エフェメラ・クルツ17歳。これでなかなか難しいお年頃であった。  
 
〜END〜  
 
 

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