二人でぴったり身体をくっつけ合っていれば、寒さなんて気にならない。  
 
なーんていうのは、さすがに無理な話。  
大陸で一番高い山の、しかも標高が高いところだから、幾ら焚き火の傍でも、肌に触れる空気はひたすら凍えている。  
でも……。  
 
「……くっ」  
わたしを抱き寄せて、荒い息をついているバルアンさまを至近距離で見るのは、悪い気分じゃなかった。  
やっぱりわたし、おかしいのかな。  
そりゃまあ、満月だからちょっとアレ、というのもあるかもしれないけど。  
でもここって洞窟だし。仮にも聖地だし。服だって着たままだし。やっぱり色々まずいんじゃないかしら。  
だけど、なんていうのかな。  
今、恥ずかしいことをしてる。  
そう思うと頭がくらくらする。  
 
「自分で入れてみろ」  
ぼうっとしていたから、不意に囁かれた言葉にわたしは思わず固まった。  
「え゛。」  
自分で、って。え……。何を?  
視線を落としてまじまじと――ええと、まあ、その、わたしが握っているアレを見る。うわあ。  
なんかー、熱くて固くてびくびくゆってるー。  
って、これを、入れる?どこへ?…って答えは一つしかない、よね。  
わたしの頭は真っ白になった。  
「なっ、なんで?!できないですよ!そんな、そんな……」  
「地面に直接転がったら、お前が痛いだろうが。あと、体も冷えるからな」  
「毛布敷いたらいいじゃないですか」  
「寺院からの借り物を汚してもいいというのか、お前は」  
じゃあそもそも、こんなところでその気にならないでください。  
そう言おうとしたけど、恥ずかしいのと、あと空気が薄いせいでどきどきして、言葉がうまく出てこない。  
無言で硬直していると、バルアンさまはちょっと困ったというような表情をした。  
「そんなに嫌なのか?」  
……ひょっとして、わざとやっているのかしら、この男。  
 
    ※    ※    ※  
 
 
裾をまくりあげて中腰になる。つまりバルアンさまを跨ったような格好というわけ。  
……何度も言うようだけどすっごく恥ずかしい。  
女の裸なんてあっちはもう見慣れているかもしれないけど、この姿勢は自分から見せているみたいで、本当、イヤ。  
えーっと、ゆっくり腰を落として…。  
 
ぬるっ。  
 
「〜〜〜〜〜〜っ!!」  
背筋がぞくぞくと震えて、体の力が抜けそうになった。コケたらあまりにもかっこ悪いし、必死で踏ん張る。  
やだ、ちょっと、本当におかしい。わたしのそこを、一瞬滑らせただけなのに、なんでこんなに。  
でもこれが欲しい。入れたら次はどうなるのか、味わってみたいの。  
「んっ…」  
ずちゅ、という音を立てて先端が入った。でも、そこから進まない。  
自分でも濡れているのは分かっていたから、あてがいさえすればすぐに入ると思っていたけど、いざ実際に入れようとすると、わたしの中は固くて縮こまっていた。  
「はぁ、はぁ、は、はっ、はっ。はぁ・・・。入んな、いっ」  
「焦るな。ゆっくりでいい」  
「は、はい」  
恥ずかしくて目を閉じていたから、バルアンさまがどんな顔をしていたのかはわからない。  
だからかもしれないけど、気のせいだろうけど、優しい声音に聞こえた。  
今は、わたしの気のせいでも別に構わない。  
肩に手を置いて、もっと身体を沈めさせていく。自然と力をこめて肩を掴んだ。  
「んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ」  
入れられるのと違って、入れるのは、いつもより……ぐちゅぐちゅいってて、なんか、なんか。  
じゅぷ。  
「ん!!」  
奥を突き上げられて、つんのめるようになって抱きついた。  
「う、あ・・・・・・」  
体ががくがく震える。  
突かれるのは何度もあったことだけど、一番奥を自分から押し付けているこの感じは、初めてだった。  
「待って、ちょっと待って…。このまま…」  
 
わたしの声は押し付けた胸元でくぐもっていた。でも手のひらが、わかった、というように頭を撫でていった。  
 
しばらく抱き合ったままじっとしている内に、荒かった息遣いも段々静かになる。  
「そろそろ落ち着いたか?」  
「ええ、まあ。あ、ちょっと動きますね」  
もたれかかっていた身体を離して、わたしは自分のそこを見下ろした。  
「……何を見てるんだ?」  
「いや、こういうときにどんな風になってるのか、前から気になってたんで」  
「そういうことなら、もっと早く言え」  
「は?――ああんっ!ちょっと、何を…!」  
「どうなるのか、知りたいんだろう?」  
バルアンさまが腰をゆすると、また粘った音が、しかももっと大きく響き始める。奥、ぐりぐりって…!  
「や、いやっ。あん!待って、待ってくださいってば!あっ!ああん!」  
「お前は待て、待て、とそればかりだ、な」  
「あなたがっ、ご自分の勝手で何でもかんでも進まれるからでしょう!」  
「ふん。なら、お前が動いてみるか?乗りこなしてみせろ、俺を」  
の、乗るって……。  
何を言われたのかはすぐ分かった。  
夫がこういう人だから、わたしは妙な単語を色々覚えさせられたのだ。  
いつもならきっと首を横に振っていたと思う。だけどおかしくなっていたわたしは、おそるおそる自分で腰をうねらせはじめた。  
バルアンさまの目が濡れていたから。  
 
時々、どうすればいいのか教えられながら夢中で腰を動かす。その間じゅう、わたしは何も考えられなかった。  
「…っあ!う、ああっ!あーーーーっ!」  
気が付くと、背を弓なりに反らせて、今まで出したことのないような声をあげていた。  
「はあっ、はあっ、はあっ」  
「まだまだ、だ。」  
焦れた様な声音が、わたしを縛る。お尻をむんずと掴まれて、わたしはまた悲鳴をあげる羽目になった。  
「ーーー!!!!」  
乱暴、に揉みくちゃに、されて、わたし、わたしはっ。  
いやらしい音、音がいっぱいして。  
…………。  
あ。  
 
 
    ※    ※    ※  
 
 
わたしを抱きすくめていた腕のちからが緩み、視界が徐々に光を取り戻す。  
肩口に顔を埋めたバルアンさまが、早駆けをした後の馬みたいな息をしているのを聞いて、その一瞬が通り過ぎたのを知った。  
「…」  
何とはなしに見詰め合ったけれど、わたしの目は涙で潤んで、前がよく見えない。  
わたしを見ているあなたは、どんな顔をしているの?  
熱い何かが、身体の中心を迸る。  
「好き。好きっ……」  
溢れた想いが言葉になるのと同時に、涙がこぼれて視界が開けた。間近にある瞳の色に、わたしはまた切なくなって――  
「カイ、お前騎乗位が好きだったのか?」  
……。  
「それならそうと早く――んむっ?!」  
この、馬鹿ーっ!!馬鹿!馬鹿!馬鹿!大馬鹿!最低!  
無理矢理口を塞ぐ。それだけでは足らなくて、舌をねじ込んだ。  
ひ、人がどういう思いで言ったかと……!!  
一瞬の間を置き、バルアンさまの舌が応える。  
しばらく怒りのままに暴れていたわたしの舌は、次第にその気持ちよさに負け、絡み合う方を素直に選んだ。  
「ん、むう、ふぅん…」  
あ、また…。  
脚が何かを求めるように中空をかく。だけど。  
「ぷはっ?!」  
「今日はここまでだ」  
「もうおしまいなんですか……?」  
言ってしまってから、しまったと思う。案の定、バルアンさまはニヤニヤとイヤな笑みを浮かべた。  
「ほう?嬉しいぞ、お前の口からそんな台詞が聞けるとは」  
「し、知りません!」  
口調だけは取り繕っていたけど、繋がったところがきゅうきゅう締め付けているから、本音なんて隠せない。  
「俺もそうしたいのはやまやまだが、明日に差し支えるからな」  
う。忘れかかっていたけど、明日は頂上まで登らなくちゃいけないんだった。  
「だったら、最初からこんなところでその気にならないでくださいよ」  
「お前も結構燃えてただろうが」  
……馬鹿。  
 

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