花嫁の控え室は、梅雨の晴れ間の日差しを受けて明るい。その日差しの中で、  
白いドレスに身を包んだ遥が桐生を見上げている。  
「嫌だった?」  
「いや……」  
 主語のない遥の問いに、桐生は首を振る。  
 花嫁の手を取って花婿の元に送り届ける父親役に、遥は桐生を選んだのだ。  
 最初、桐生は嫌というより困惑した。  
 嬉しいとは思った。遥が自分をそういう風に慕ってくれている。それが嬉しかった。  
 寂寥感もあった。大事な由美の娘だ。ずっと大切に育ててきた。その遥が自分の元を  
離れていく。何ともいえない寂しさが、ちくちくと胸を刺している。  
 良かった、とも思う。正直に言えば、段々由美に似てくる遥を見ているのがつらい時も  
ある。自分が愛した女そっくりに育ち、自分を慕う少女に、いつか妙なことを考えて  
しまうのではないか。その怯えがいつも桐生の中にあった。何事もないまま巣立って  
いくなら、それが一番良い。  
 だが、何よりも桐生が気にしたのは自分の身の上だ。足を洗ったとは言え極道者である。  
そんな男が、せっかくの門出を祝っていいものか。かえって汚すことになりはしないか。  
 それでもやがて、桐生は思い至った。遥には他に誰もいないのだということに。  
 それで桐生は父親役を引き受けたのだ。  
 遥はカンのいい娘だ。桐生が口に出さなかった煩悶にも気付いていたらしい。それで  
時々、こんな風に聞いてくる。  
「ごめんね、おじさん。でも私、ずっとこうしたかったの」  
「こうしたかった?」  
「おじさんのこと、一度でいいから『お父さん』にしてみたかった」  
 ふふ、と遥が笑う。実の父親に邪魔者扱いされ、殺されかけた少女が、父親という  
言葉を口にして笑う。  
 
「私ずっとね、ママとおじさんの子供になりたいって思ってたの。ママのことが大好き  
だったおじさんの子供になりたい、って……そんなの無理だって分かってたけど、でも  
今だけ、今日だけは私、おじさんの娘になりたい」  
 その瞬間、桐生の中で何かが弾けた。  
「おじさん!?」  
 太い腕を伸ばし、ぎゅっと遥を抱きしめる。  
 由美、由美よ、見てるか――桐生は胸の奥で呼びかける。由美よ、お前の娘が嫁ぐぞ。  
こんなに大きく、立派になって、好きな男に嫁ぐんだ。お前の言ったとおり逃げずに  
生きて、ちゃんと幸せを掴んだんだ。見てるか由美!  
「おじさ……」  
 ややおいて、遥の腕もおずおずと桐生を抱き返した。  
「お父……さん」  
 教会の鐘が聞こえる。花嫁の幸せを祝って。  
 だが、遥は唐突に桐生の分厚い胸から顔を上げた。その表情は、先程とは打って  
変わって暗い。  
 どうした、と桐生が訊こうとした時だった。  
「ごめんね、おじさん」  
 止める間もなかった。遥の唇が、桐生のそれを覆う。  
 いや、そんな可愛らしいものではなかった。唇を抉じ開け、歯列を割り、舌で舌を  
愛撫する。どこで覚えたのか、それは濃厚な口付けだった。  
 正気に返った桐生が遥を押しのけた時、2人の唇の間を唾液の糸が繋いだ。  
 目を白黒させる桐生に、遥はまた笑って見せる。  
「ごめんね。でも私、やっぱり逃げたくない。ママが言ったとおり、逃げちゃ駄目なんだ  
と思うから」  
 
「遥、お前……?」  
「おじさん、やっぱり気付いてなかったんだ」  
 子供の頃から変わらない笑い顔。桐生に何かねだる時、遥は必ずこんな顔で笑う。  
それに勝てずに、桐生はずいぶんと色々な「お願い」を聞かされたものだ。  
「私、ずっとおじさんのこと好きだったんだよ。あの街で出会った頃からずっと。  
お父さんって呼びたかったのも本当だけど、私、ずっとおじさんに恋してた」  
「遥……」  
「おじさんが好きな人はママだから、って諦めようとして、おじさんにちょっと  
似てる人と付き合ってみたりしたし、そういう人と結婚して、全部忘れちゃおうと  
思ってた。でもやっぱり駄目――私、もう逃げないよ。おじさんが好きってことから  
逃げない」  
 遥が笑う。笑う目元が最近由美に似てきたが、違う。  
 由美は由美、遥は遥だ。ここに至って、やっと桐生はそれに気付いた。  
 遥はずっと、大切な存在だった。愛した由美の娘だから、というだけではない。  
由美に似ているから、なんてことは理由にもならない。  
 遥が遥としてそこにいる。それがどれだけ、自分にとって大切なことだったか。  
それを失うことに、自分がどれだけ苦しんでいたか。  
 胸を刺す痛みは、神室町に置いて来たはずの恋心だった。  
「……遥」  
 二度目の口付けは、桐生からだった。  
 
 ドレスのままだし、狭い控え室の中では横たわる場所もない。椅子に腰掛けたままの  
遥の上に身を屈め、桐生はその唇へも耳へも首筋へも、何度も口付けを落としてやる。  
愛撫とも言えないようなもどかしさだったが、その度に遥は声を押し殺したまま  
ひくひくと体を震わせた。  
 何をやっているんだ、と桐生の頭の中で自問自答の声が回る。何をこんなに焦って  
求めているんだ。きちんと全ての話を付けて、それからだっていいはずだ。  
 そんなに俺は、こうしたかったのか。こんなにも俺は、遥を求めていたのか――  
もう2度と、愛するものを手に入れる前に失いたくなかったのか。  
「おじさん、ねえ、もう……」  
 もどかしさに焦らされたのか、遥がねだる。頷いて、桐生はドレスの裾に手を掛けた。  
 白いドレスは、まるで白い布地の海のようだ。手繰っても手繰っても先が見えない。  
悪戦苦闘する桐生を見て、遥が笑う。  
「おじさんって、意外と不器用だよね」  
「こういう時におじさんはやめろ」  
「どうして?」  
「なんだか妙に悪いことをしてる気分になる」  
 憮然とする桐生を見て、遥が悪戯っぽく舌を出した。  
 ようやく現れたガーターもショーツも、ドレスと同じ白だった。その中で、ショーツの  
飾りレースだけが淡く青い。式の日、花嫁が何か青いものを身に着けていると幸せに  
なれる。いつだか由美がそんな昔話をしていたのを思い出した。  
 そのショーツの上から遥に触れてやる。そこは布地の上からでもわかるほど湿り気を  
帯びて、花弁の形をうっすらと透かしている。  
 それをなぞるように指を這わせてやると、ついに押し殺していた声が溢れた。  
「や……」  
 声と一緒に蜜も溢れる。薄い布地の上からそれを吸う。吸っても吸ってもそれは奥から  
溢れてきて、桐生の口元を汚した。  
 
 こうなるともう、ショーツは邪魔なだけだった。桐生がそれを取り去ろうとすると、  
遥は腰を浮かせてそれを手伝った。  
 遥の花弁は優しい薄桃色で、自らの雫に濡れて震えている。その奥からは、今は桐生が  
触れていないのにも関わらず、とろとろと蜜が溢れ続けていた。  
「凄いな、遥のここは」  
「やだおじさん……そんなこと言っちゃやだ……」  
「何でだ?」  
「だって恥ずかしいよ……おじさんの意地悪」  
「遥がいつまでも人のことを『おじさん』って苛めるからな。お返しだ」  
「おじさんってば、ひど……んんっ!」  
 抗議の声は、途中で嬌声に変わった。桐生が遥の花弁を、無骨な指でそっと押し開いた  
のだ。その奥の敏感な花芯に、桐生の指が直接触れる。  
「やっ……そこやだぁ……っ」  
 強烈過ぎる刺激に遥が仰け反る。  
「おじさん、だめ……そこは私、だめなのっ」  
「そうか、遥はここが弱いのか」  
 遥が不器用だと笑った指が、遥の一番敏感な場所を時に優しく、時に激しく愛撫する。  
その巧みな動きに、あっという間に遥は追い詰められた。  
「やだっ、そんなにしたら来ちゃう、来ちゃうってばあっ……あああああっ!!」  
 快楽の波に飲まれて、遥の体が一瞬強張る。  
 水の中で強張った体は浮かばない。沈んで溺れるだけだ。遥はどこまでも快楽の波に  
沈んでいく。  
 
 流石にここでこれ以上は、と身を離そうとした桐生の腕に、遥が縋った。  
「お願い……最後までして……」  
「最後までってお前……」  
「こうしたらできるよね……だから、して?」  
 遥は椅子を立って、壁に背を付けてもたれかかる。確かにそれでできないことはないが、  
長身の桐生相手では遥に負担がかかりすぎだ。無茶を言うな、と桐生は止めようとしたが、  
遥は首を振る。  
「……お願い、おじさん」  
 その言葉に、やはり桐生は勝てない。  
 遥の腰を抱え上げるようにして位置を合わせ、桐生自身を入り口にあてがう。  
 そのまま、貫いた。遥の足はほとんど爪先立ちで、自分の体重を支えきれていない。  
遥自身の重さで、いきなり一番奥まで貫かれた格好だ。  
「あっ、はあああっ ああああああっ……!」  
 遥の中が小さく震える。入れられただけで軽い絶頂を迎えて震えている。それが収まる  
のを桐生は待てなかった。久しぶりの行為だというのもあったが、それ以上に遥への  
愛しさが桐生を獰猛にさせた。  
「……動くぞ」  
「や、やだっ そんなにすぐ動いたらまた来ちゃうっ」  
 桐生の動きがそのまま快楽の波になる。一突きされる度に押し寄せる波が遥を揺さぶる。  
「ひあっ、やめっ……深くてもう……深すぎてだめなのっ……おじさ……あっ いやあっ!」  
 爪先立ちの足が震える。まともに立っていられない。だが、体を桐生に預ければ預ける  
ほど、遥の奥まで桐生が届く。  
 花嫁の控え室は、低い喘ぎと快楽の熱に満ちていた。  
 お互い、限界が近かい。遥は小刻みの痙攣を繰り返し、その震えが桐生の背筋を伝って  
駆け上がる。  
 
「遥ぁっ……」  
「いいよおじさん、このままで……」  
 くぅ、と喉から掠れた声を上げて桐生が放ったものが、遥の奥で弾ける。その熱が、  
もう一度遥の波を呼んだ。  
「――――ッ!!」  
 もう声にもならない。波が遥の何もかも全てを飲み込み、押し流して行く。痙攣する  
下腹と、桐生を抱きしめる腕以外、どこにも力が入らない。ずるりと崩れそうになる  
遥の体を、桐生は慌てて支えた。  
 花弁の奥から零れた白濁が、白いドレスを汚していく。  
 
 その後は大騒ぎだった。  
 花嫁とその父親役がなかなか控え室から出てこないと思ったら、出てくるなり結婚を  
やめにすると言い出したのだ。花婿の母親は卒倒するし、父親は茫然自失。孤児である  
遥との結婚に難色を示していた親戚一同は真っ赤になって怒り出す、という有様である。  
 ただ1人、一番の当事者であるはずの花婿が「それが遥の選んだ道なら仕方がないよね」と  
優しい口調で、しかし毅然として言い切った。  
 流石は遥が選んだ男だ、と桐生は奇妙に誇らしかった。  
 
 傷だらけの男に手を引かれ、花嫁は教会に背を向けた。  
 それでも祝福の鐘は鳴り続ける。  
 

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