「勝者・・・キリュウ・カズマァー!」  
―ウァァァァァ!ー  
場内を歓声が包む。  
最新の超人気スポットの地下にこんな空間が広がっている事を、知っている人はどれだけいるだろうか?  
 
ここは、神室町ヒルズの地下街にある闘技場、毎日血と汗と札束が飛び交う裏の場所。  
ここに、登場以来負け無しの最強の男がいる。  
―その男の名は、桐生一馬。元ヤクザ。  
彼を「伝説の極道」と呼ぶ者もいれば、神室町の一部の人間は「英雄」と呼ぶ者もいる―。  
 
近江連合と東城会の争いに、更には謎の海外組織までが加わって引き起こされた神室町の混乱。  
それが終結してもうすぐ3ヶ月が経とうとしている。  
桐生は、現在闘技場で賞金を稼ぎながら遥と事件前と同じ生活を過ごしている。  
生傷の絶えない仕事だが、その分勝てば大きな収入が得られる。  
長くやる様な仕事では無いかも知れないが、喧嘩だけが取り柄の桐生にとってはうってつけの仕事には違い無かった。  
 
「いやぁ〜、凄いよ桐生さん!今日で150勝目だよ〜。もういっその事この闘技場の帝王になれば良いんじゃ無いかい?」  
闘技場の受付をしているホームレス、通称「カワモリ」が興奮ぎみに言う。  
「生憎そんな事には興味が無いんだ、俺は毎日暮らして行けるだけの金があれば俺はそれでいい。」  
桐生はあっさりとそう答える。  
「ふ〜ん、なんだか勿体無いような気がするけどね・・・はい、これ今日の賞金ね。」  
「あぁ、それじゃあまたな。」  
カワモリから賞金を受けとると桐生は帰っていく、毎回こんな感じである。  
「またのお越しを〜、・・・暮らしてけるだけってあの人あんなにもらってるのに暮らして行け無いのかねぇ。」  
カワモリはなんだか分からないため息をついた。  
 
 
地下街から地上へ戻ると、外はもう夕方だった。  
地上にある神室町ヒルズの客足は夕方になっても留まる事を知らずつくづく真島の兄さんの大成功の様を見せつけられる様だ。  
そんな神室町ヒルズを背中に、トイレの秘密の入り口からではなく綺麗に整備された入り口から桐生は出ていった。  
 
神室町を少し外れた所にあるアパート、あの事件前から桐生と遥はここに住んでいる。  
無機質な白いドアを開け、部屋に入る。  
「遥、帰ってきたぞ」  
桐生は薄暗いリビングに問いかけた、遥の返事は無い。  
ふとここで桐生は何かを思い出した。  
「そう言えば、今日から3日くらい「ひまわり」に泊まると言ってたな。」  
自分の記憶力の曖昧さに、桐生は少し苦笑いする。  
ここで待っていても仕方がない、と桐生は戻ってきたばかりのアパートから出て食事をしに出掛ける。  
 
簡単に食事を済ませ、アパートに桐生が戻って来るのに時間はかからなかった。  
部屋の明りをつけ、リビングに腰を落ち着ける。  
なるほど、寂しいものだと一人思う。  
こんなアパートに一人でいるのは何年振りだろうか、刑務所に入るまではこんな暮らしをしていたと思うが、こんな寂しいと思った事は無かったはすだ。  
一人きりの情況に脳はいつもとは比べ物にならない程、色々な事を考えていた。  
桐生はその場に横になって目を閉じる、こういう時にはさっさと寝てしまおう、多分昔の自分もそうすると思うから。  
 
だが、そんな決心は以外な物で絶たれる事となってしまう。  
「♪〜♪〜♪〜♪」  
突然、携帯電話の着メロがなり響いた。  
なかなかの大音量でなり始めた音に、桐生は思わず面食らってしまう。  
視線をテーブルの上へ移すと、音の発信源である灰色の携帯電話がその機体を光らせて震えていた。  
 
それは、桐生の携帯電話だった。  
 
珍しい、そう桐生は思った。  
3ヶ月前の事件で連絡手段として活躍して以来、桐生の携帯は殆ど鳴る事が無かった。  
番号を交換するような友達もいない桐生ならそれも仕方無い事かも知れないが。  
だから基本的に遥からの連絡の時以外は鳴る事の無い携帯が鳴っている。  
遥からか?そう思った桐生だったが、ディスプレイに表示された番号は遥の物とは違う番号だった。  
それじゃああれか、流行りの振り込め詐欺かなんかだろうか、だったら出る事は無いと桐生は無視を決めこもうとした。  
しかし、相手はどうやらしつこい様だ。  
着信音がなってから1分以上経つと言うのにまだ切れるそぶりを見せようとしない。  
桐生はだんだんとイラついて来ていた。  
桐生は、おもむろに携帯を取る。  
そこまでやるなら出てやろうじゃないか、これでもし詐欺だったら発信元を花屋に探してもらってそいつらを潰しに行けば良い。  
そんな野蛮な考えを胸に秘め、桐生は電話に出た。  
 
「もしもし」  
「・・・」  
「もしもし」  
「・・・」  
「誰なんだ?」  
「・・・」  
 
無言電話か、全く人騒がせな奴だ。  
そう思い、桐生は電話を切ろうとした。  
その時だった。  
「・・・たし・・・」  
電話口の向こうで消えてしまいそうな程小さな声がする。  
「・・ぁたし・・」  
今度ははっきりとあたしと聞こえた。  
この声は・・・、桐生の脳は以外と早くその声の主の名前を思い出させた。  
 
「まさか、薫か?」  
「うん・・・、久しぶりやね。一馬。」  
 
狭山薫、桐生が彼女の声を聞くのは本当に久しぶりの事だった。  
 
桐生と薫が最後に会ったのは寺田の墓参りの時だったろうか。  
あれから何日、いや何ヶ月経つのかと桐生はふと思った。  
 
「本当に久しぶりだな、どうしたんだ?突然電話なんて」  
「ううん・・・別になんでも無いんやけど・・・」  
「というか、何でお前俺の携帯の番号を知ってるんだ?」  
「この前の事件の時に連絡取り合ったやろ?その時に番号教えてもらったから、一応登録しておいたんや」  
「あぁ、そう言えばそうだったな」  
 
そんな取り止めの無い会話を続ける2人。  
そんな中、桐生はある事に気付いた。  
なんだか、薫の言葉に覇気が感じられ無い。  
分かりやすく言えば、なんだか元気が無いように思えた。  
 
「なぁ、薫」  
「なに?」  
「何か・・・あったのか?」  
「え・・・いや何も無いけど、なんで?」  
「いや、なんだか元気が無いみたいなんでな」  
「えっ、そうかなぁ・・・なんや最近忙しかったからそのせいかな〜アハハ」  
 
薫はそう言って笑う、ただ桐生にはそれが不自然に思えた。  
 
「なんか長電話しすぎた気がするわ、もうそろそろ切るな」  
「あ・・ああ」  
「ほな・・・な、一馬」  
 
―プー、プー、―  
そう言って薫からの電話は切れた。  
最後のセリフは、なんだか一段と寂しげに聞こえた。  
 
電話が切れた後、桐生はその場に座りこむ。  
「どうしたんだ、あいつ」  
あれやこれやと考え無いようにしようと思ったのに、桐生は薫の事が無性に気になってしまっていた。  
何であんなに元気が無いのか、何で突然電話なんかしてきたのか、最後のセリフが何であんなに寂しげに思えたのか。  
考えれば考える程、さっき心に決めた寝てしまう事も憚られる状態になってしまう。  
 
桐生の頭の中は薫の事が埋めつくしてしまった様だった。  
 
 
気が付けば、外は明るくなっていた。  
あれやこれやと考える内に、桐生の寝てしまうという決意は知らず知らずの内に達成されたようである。  
 
桐生はある一つの答えを思案の内に出していた。  
おもむろに立ち上がりいつものスーツに着替え、財布など最低限の物だけ持つと、足早に桐生はアパートを出ていった。  
考えていても、この気持ちは晴れない。  
桐生は、そう考えてこんな答えを出した。  
 
―大阪に行こう―  
 
普通の友達程度の付き合いなら、電話の向こうの相手が元気が無いくらいでその相手の元へは向かったりはしないだろう。  
ただ、薫の存在は桐生にとってはそんな程度の物ではない。  
共にジングォン派や様々な敵と戦った戦友であり。  
守ると決めた女でもあるのだ。  
勝手な思い込みかもしれないが、彼女は自分を頼っているのかもしれない。  
そう思うと、桐生はじっとしていられなかった。  
 
「済まないが、蒼天堀まで頼む」  
 
その言葉を聞いた運転手はとてつもなく驚いていた。  
「そ、蒼天堀〜?」とTVの芸人みたいな声を上げていた様な気がする。  
「かなりかかりますよ」とか「物凄く料金もかかりますよ」とかそういう問答が少し続いて、ようやくタクシーは大阪・蒼天堀に向かって走り出した。  
 
何故タクシーで行こうと思ったのか、桐生自身にも分からなかった、もう少し待って飛行機や新幹線で行くという手もあったかもしれないのに。  
もしかすると自分はまだびびっているかも知れない、だから時間もかかり、いざとなれば引き返せるタクシーに乗りこんだのか。  
突然、やって来た自分を薫がどう思うかも分からない。  
迷惑かも知れない、嫌うかも知れない。  
 
そんな事を考える内に桐生は自分の本心を理解していた。  
 
「お客さん、お客さん着きましたよ」  
寝不足からか、いつの間にか寝てしまっていたらしい。  
タクシーを降り、視線の先には大阪の賑やかな街並みが広がる。  
巨額の会計を終えるとタクシーは元来た道を帰っていった。  
 
大阪の街は3ヶ月前と変わらず活気に溢れている、明るい照明が夜という事を忘れさせてしまいそうだ。  
そんな街中を逸れ、新星町へ向かう。  
 
着いたのは「スナック葵」3ヶ月前の事件で桐生はここを大阪での拠点としていた。  
少し急な階段を登り、葵と書いた茶色いドアを開ける。  
 
「いらっしゃい・・・あらぁ桐生さんやないの、久しぶりやねぇ」  
そこにはこのスナックのママであり、薫の育ての親である民世がいた。  
 
「久しぶりだな、元気でやってるか」  
「ぼちぼちやな、ところでどうしたん?もしかしてまた事件か何かあったんか?」  
「俺は刑事じゃねぇんだがなぁ」  
「アハハ、そうやね」  
 
他愛も無い話をする民世、桐生は少しほっとした。  
瓦刑事が死んだ時、民世も悲しみの底にあったはずだ。  
そんな彼女も元気が出てきたようでなんだか安心した。  
 
「ところで、薫はいないのか?」  
「おらんけど・・・あんたもしかして薫に会いに来たんか?」  
「まあ、そんな所だ」  
「そうか・・・、それならちょうどええわ」  
急に民世の口調が静かになる。  
「あの子、今色々あってへこんでるみたいやから」  
やっぱり、桐生はそう思った。  
 
「色々って、何があったんだ?」  
桐生が尋ねる、民世は少し迷った様なそぶりを見せたものの、ゆっくりと口を開いた。  
 
「実はな・・・」  
 
 

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