熱いキスを繰り返した後、桐生と狭山はその場で抱き合っていた。ふと寺田の仕掛けた爆弾に目をやると、残り時間は49秒程。  
先ほどまで上空には伊達と遥が乗るヘリコプターが飛び回り、桐生たちにひたすらに呼びかけていたが、ついさっき離れていってしまった。  
「約束、破っちゃったね」  
そんな狭山の言葉に桐生は苦笑いで「そうだな」と言う他無かった。  
残り時間はもうすぐ20秒を切ろうとしている、狭山を抱きしめる桐生の手にも思わず力が入る。  
強く、しっかりと抱きしめ合う2人はもう何も考えていなかった。残り時間は遂に10秒を切った。  
8・・7・・6・・5・・4・・3・・2・・1・・  
「おじさぁぁーん!」ヘリコプターの遥は思わず叫んでいた。  
終わった、誰もがそう思った。  
 
タイマーが0になる、桐生と狭山は目を瞑った。  
「・・・あれ?」  
狭山が気の抜けた声を上げる、何も起こらないのだ。  
炎も、爆発音も、何も上がらない。  
桐生と狭山は目を開け、視線を爆弾の方へ向けてみた。  
そこにはタイマーが0のまま静止した爆弾があった。  
何がどうなっているのか分からない、2人は呆気に取られてしまった。  
ふと我に帰り、桐生と狭山は顔を見合わせる「何か助かったみたいやね、私たち」  
「そうみたいだな」  
「ぷっ、、アハハハハハ」  
ついさっきまでのシリアスな状態から、一転こんな状態になったギャップからか、狭山は笑い始めてしまう。  
そんな狭山を見ていた桐生も、思わず笑ってしまった。  
「全く、キスまでして何かええ雰囲気やったのに何やねんこのオチは」  
一頻り笑った後、狭山は何だか愚痴っぽく言う。  
「不謹慎やけど、何か映画みたいな終わり方やなって思ったんやけどな」  
確かに不謹慎だ、寺田や龍司の遺体のそばでキスをして、もしかすると神室町ヒルズごと塵になってしまったかも知れないのだ。  
しかし、桐生はつっこむ気にはならなかった自分もあの雰囲気に少なからず酔っていたと言うこともあったからだ。  
「じゃあ、こういう終わり方はどうだ?」  
桐生は狭山を抱き寄せるとそのまま口づけた「ン・・・」  
さっき交わしたような熱いキス。  
世間一般にはディープキスと呼ばれる熱いキスを2人は10秒ほど続ける、爆弾のタイマーが刻む10秒より長い気がした。  
 
「・・ン・・ハァ」  
2人の唇が離れる、その間を名残惜しそうに透明な糸が伝う。  
「どうだ?」  
笑みを浮かべながら、桐生が狭山に尋ねる。「うん・・・、結構好きやでこんなオチも」  
熱く潤んだ瞳を向けながら、今度は狭山の方からゆっくりと桐生に口づける。  
角度を変えながら、唇を重ね合う2人。  
桐生は少しの隙間から舌を入れてみる、狭山は驚いたのか、少し肩をビクッとこわばらせたが、少しするとおずおずと舌を絡めてきた周囲に独特な音が響き始める。  
「・・・ン・・・んは・・ン」  
狭山の息継ぎの声が妙に厭らしく聞こえる、2人の頭の中はボーッと熱くなり、おかしくなってしまいそうだった。  
しかし、その雰囲気はいとも簡単に壊されてしまった。  
「おぉーい!桐生ー、無事かー!?」  
「おじさぁ〜ん!!」  
伊達たちの乗ったヘリが上空に現れた。  
先程までの熱い空気から覚め、慌てて2人は唇を離した。  
それから何分もしない内に伊達のヘリは神室町ヒルズの屋上へ降りたった。  
「おじさん・・・、エック、良かった・・・死なないで良かったよ〜・・・。」  
遥は涙を流しながら桐生へと抱きつく。  
「安堵」という言葉が似合う雰囲気がこの屋上のフロアを包も、ようやくこの長い事件が終わりを迎えたのだ。  
「よし、それじゃあ早く桐生を病院へ連れていくぞ!」  
伊達は須藤と共に立つことが出来ない桐生を抱えると、ヘリに乗せた。  
「刑事さん、あんたは付いてこなくて良いのか?」  
ヘリに乗りこまない狭山に伊達が尋ねる。  
狭山は首を横に振り、現場に立ち会わなければいけないという旨を伊達に伝える。  
 
「そうか、それじゃこっちが一段落したら俺も立ち会うよ、それじゃよろしく頼む」  
そう言うとヘリに乗り込み、桐生を乗せたヘリは神室町ヒルズから飛び去っていった。  
「・・・ハァ」  
ヘリが飛び去った後、狭山は何やら熱っぽいため息を吐いた。  
「・・・下着、濡れてしもたやないか、アホ」  
 
 
終わり  
 

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