「ねぇ、アクセル?」
サギはベッド上の功一の首に腕を回して、猫の様に甘える仕種をする。
「いつになったらアタシを彼女にしてくれるんだい?」
ここは吉祥寺のとある場所にあるサギの自宅マンション。
部屋にはむせ返る様なお香の匂いが充満し、色とりどりの家具やインテリアがオリエンタルな雰囲気を醸し出していた。
そして功一とサギは部屋の真ん中にある真っ赤なベッドの上に
布団をかけて二人で横になっている。…生まれたままの姿で。
「何言ってるんだよ。サギは立派な俺の女だよ?…こうしている間だけはね。」
功一は先程のサギの質問に答えると、あやす様に彼女の綺麗な髪の毛を撫でた。
「もうっ!いつからアンタはそんなズルい男になっちまったんだい?」
サギは納得のいかない功一の答えに機嫌を悪くし、彼から少し離れる。
でも何の反応もしない功一を見て、自らもう一度彼に近寄った。
そして小悪魔の様に口角を上げて挑発的に笑うと、功一の上に跨がる。
「ちょっと前まではさ、ウブなアンタにアタシが色々と教えてあげてたのにね。」
そう言いながら功一の耳元に唇を近付けてペロリと舐めてみせる。
「色々とね。」
でも当の功一はハァ…とため息をつくだけで何も答えない。
その姿に、サギはますます機嫌を悪くして功一から離れた。
「全く!いけ好かない男だね!
…でもまあいいや。アンタのこんな姿を知ってるのはアタシだけなんだから。」
サギがベッドから起き上がり、床に散らばる自分の服を拾い集め
着替え始めると、功一はボソッと呟いた。
「サギ…悪いな。いつもいつも。」
彼女は身支度を終え、バッグを取ると功一の方へ振り返った。
「別に気にしちゃいないよ、アンタはそういう男なんだからさ。
それよりバイト遅れない様にしなよ?アタシももうすぐ仕事だから出るよ。
あ、鍵はポストの中に入れといておくれ。」
サギはそのまま玄関の方に行きかけたが立ち止まり、功一の方を振り返る。
「ねぇ、アクセル。…アンタ過去に何かあったのかい?」
「……え…??」
サギの唐突な質問に、功一はビックリして彼女を見る。
サギはクスリと笑うと、
「女の勘さ。アンタは時々凄く寂しそうな顔をするからね。
きっと相当重いモンを抱えてるんだね。」
サギの言葉に功一は何も言い返せなかった。
「ああ、あと!」
玄関にいるサギは思い出した様にベッドにいる功一に話しかけた。
「アタシはアンタのこと諦めないからね!例えアンタの心の中に違う女がいたとしても。」
行ってきます、という言葉を残してサギは出て行った。
功一は彼女が去った玄関をしばらく見詰めるのだった。
【終わり】