逃げてしまった。
全てを見透かした様な目で「あなたは何者なんですか?」と問う戸神さんの前から。
もう終わりだと思った。
犯人を捕まえる事も、嘘でも戸神さんの恋人で居られることも。
ごめんね、お兄、泰兄。それからお父さん、お母さん。
「しぃ、お前−−」
走って家に帰って、続けて部屋に入ってきた泰兄が何か言おうとしたけど、私はそれを遮った。
「ごめん、わかってる。私がいけなかったの。失敗したの私のせいだから。」
「おい、まだ失敗したって決まった訳じゃねーだろ」
泰兄がいるこの部屋にもいられなくて、私は彼の話を全部聞かない内に部屋を出た。
行く宛てのない私が一人で向かったのは、いつか三人で流星を見た場所。
誰もいない場所に一人で寝転び、空を見上げると星がキラキラ輝いていた。
「きれい…」
そういえば此処は、戸神さんとの思い出の場所でもあった。
ここで彼と初めてキスしたんだ…。
あの時は本当の戸神さんの彼女になれた様な、心が近付けた気がした。
「私にはそんな資格ないのに…」
頬を涙が零れ落ちる。何だか一人ぼっちになってしまった気分。
もしかしたら私は昔から一人ぼっちだったのかもしれない。
お母さんがいなくなってから、血が繋がっているのは私を捨てた父だけ。
泰兄にはお兄がいるけど、私には−−…
「静奈さん…!」
不意に声がして振り返ると、そこには戸神さんがいた。
「何で…?」
「あなたが、あの時話していた静奈ちゃんなんでしょう?」
戸神さんは怒っている様子もなく、いつも通りの笑顔で近付いて来る。
「何でそんな顔するの?私、あなたのこと騙してたんですよ?」
私は罪悪感を感じて戸神さんから逃れようとしたけれど、強く抱きしめられてしまった。
続く