最後に自分から抱きついた。  
戸神さんの感触が…忘れられない  
どのくらいお酒飲んだら、吹っ切れるんだろう…  
 
間仕切りのカーテンを閉め切って  
今夜も1人で、静奈は缶チューハイやら缶ビールを飲み捲くる  
あまり食べてないから…なんかすこし胃が痛いかも。  
そこで、玄関から音がする。泰輔が帰ってきたみたいだ。  
足音がカーテンの向こう側で止まると  
「しー?」と声をかけてくる。  
 
「おかえり…」  
「…ただいま。」  
 
そっから何も声がしない。沈黙が鬱陶しい。  
飲んでも酔えない、でも「痛み」が残ってて…ツライ。  
泰輔は戸神と最後にあった日から、静奈特に何も言っていない。  
 
「―――何?」  
 
痺れを切らして静奈が言う  
 
「…お前さ、大丈夫か」  
 
短い本音なんだろう。遠慮がちな声で尋ねられると静奈は立ち上がり  
カーテンを少し開ける。ぼさぼさの髪、泣きはらして腫れた目…  
 
「大丈夫だったら酒飲んで泣かないでしょ」  
「そうだよな……」  
 
泰輔の顔を見て静奈はまた涙が出てきてしまう…泣きスイッチが完全に壊れてる。  
 
「泰にいまで、かわいそうな顔しないでよ。  
 かわいそうなのは静奈でしょ?おにいみたいに、かわいそうな顔しないで」  
「俺さ…」  
 
言葉に詰まる泰輔を睨むようにしながら、泣いてる静奈。  
「なによ」と少し追い込むと頭をイラつくように掻きながら泰輔が続ける  
 
「正直…見てらんねーよ。しーが…そうやって、辛くて泣いてる所。  
 別に仕事でイヤな事があったとか兄貴がくだらない事言ったとかで  
 泣いてるんだったらいいんだけどよ…あいつの事で泣くっていうのは…  
 やっぱり、俺も辛いよ…兄貴としてじゃない感情で」  
 
「またその話っ?聞きたくないって言ってるじゃん」  
 
カーテンを投げるように閉めるとベッドに座って残ってる缶チューハイを煽る。  
すると泰輔がカーテンを開けて入ってくる。缶を煽る静奈を見ながら  
 
「お前、スルーしてるけど…俺ちょっと本気だから言ったんだぞ?」  
「知らない。聞きたくない。もう出てってよ」  
 
少し強めに手首を掴んで、そのまま押さえ込むように静奈を押し倒す。  
叩かれると勘違いして身を硬くしてたら全然違う展開になり、驚いて固まっている静奈…  
 
「しー…やっぱり、しーの事、さ…」  
「やだ!聞きたくないっ。なんでこんな時にそういう事――」  
「こんな時だからこそ言いたいんだよ!俺がいるだろ、しー…」  
 
戸神の替わりにはなれない事は一番わかってる  
でも、勢いでそう言うと泰輔は勢いついでにキスをしようと顔を近づける  
また新しい涙を零しながら、静奈が呟いた  
 
「…しーは…戸神さんの事が…やっぱり好きだもん…」  
 
そこで、近づくのがピタリと止まり、表情を変えずに泰輔が冷たい口調で呟き返す  
 
「俺は、静奈が好きだから…。しーが誰を好きだろうが関係ない」  
 
自分勝手理論を呟くとそのまま塞ぐようにキスをする。  
多少抵抗しようと静奈の手足が暴れたが、それも力なく…  
もう、どうなってもいい…そんな悲観的な脱力だった。  
抵抗されない事すら…悲しい。静奈の「痛み」が伝染してきたように  
泰輔も…悲しいような気持ちになる。しかし、行動は止めない。  
悲しい気持ちと同じくらい…静奈の事を大事にして包んでやりたくて…自分のものにしたい。  
着てるスエットをたくし上げると少し驚いたように静奈が呟いた  
 
「泰にい…本気…?」  
「……あいつだと思えよ」  
 
泰輔の返事に、またボロボロと泣き出す。  
 
「なんでそういう事言うのよ。なんで?ねえ、酷いよ…泰にい…」  
 
あいつだって、静奈の事が好きだった。プロポーズ考えるくらい。  
だったら俺にも今だけ身代わりが出来る。同じくらい…想ってるから。  
そんな理論を頭の中で展開し終わると、理性が無くなるのがわかった  
 
「佐緒里…」  
「やめて!その名前で呼ばないで…」  
 
嫌がる事をわざとする、そんなやりとりが続き  
結局は…抵抗できずに泰輔の提案を、静奈は意識のどこかで飲み込んでいた。  
「これが…戸神さんだったら…」そう思い目を閉じて、優しいキスを受けて…  
丁寧に扱われて、遠慮がちに指や唇で全身を愛される。この感覚…  
 
「しー…好き、だから…」  
 
戸神の身代わりを完全に演じきるはずが、感情が泰輔の口から零れる。  
ゆっくり目を開ける静奈は、うっとりした表情が…また悲しみに曇る  
すっかり潤ったそこへ宛がい少しだけ、先を挿入すると  
 
「んっ…」  
 
身体を震わせて、答える静奈。その姿や表情がたまらなく愛おしくなり…  
泰輔はそのまま一気に奥へと進める。  
 
「静奈…。いいよ、俺、戸神で…」  
 
身代わりを演じる辛さを、静奈はその言葉で…遅いながらも理解してしまう。  
それでも快楽は感情を超えることがあって…既に挿入されている状態では  
拒むことは、身体が許さない。少し痛みを感じながらも…少し気持ちいい…  
 
そこで、携帯が鳴る。  
静奈の…高峰佐緒里の、携帯。  
 
二人は動きが止まり、携帯を見つめる。  
あからさまに空気が重くなり…身体が繋がったままで、携帯を見つめている。  
手を伸ばし携帯をとり画面を開いて着信者の名前を見ると泰輔はその画面を静奈に見せて  
 
「出ろよ。今。このまま」  
 
少し掠れた声で言う。静奈が画面を見ると「戸神行成」の文字。  
…また、涙がぽろぽろと流れてしまう  
 
「出ろって」  
 
泣き出す静奈に泰輔が冷静に「命令」する。  
震える指で、通話ボタンを押すと…「もしもし、戸神です。…高峰さん?」  
好きで…聞きたくて…忘れられない声。  
 
「もしもし…」  
「もう寝てらっしゃいましたか?すいません」  
「いえ…」  
 
そう答えたところで、泰輔はゆっくりと出し入れの動きを再開する。  
静奈は驚き泰輔と視線を合わせると…今までに見た事がないような  
冷静な表情で…泰輔が声を出さず唇だけで「話せ」と言う  
 
「少し…寝て、ました…」  
 
会話と関係なくもたらされる緩い快楽で、言葉と呼吸が途切れ途切れになる  
 
「そうですか…申し訳ありません。明日にでもまた掛けなおします」  
「はい…わかり、…ました」  
 
通話が終わると泰輔が満足そうに携帯を取り上げて、床に投げる  
 
「俺と身体、繋がってるのに…違う男と話すって…すげえな」  
「泰にいが話せって…」  
 
静奈が反論しようとすると、突き上げるような動きにいきなり変わり  
スピードも速めて、攻め立てる。  
 
「戸神の替わりでいいから…静奈…好きだ…」  
 
一方的な感情をぶつけるように、両手で腰を掴み打ち付けるように動かし  
泣きそうな声で静奈が不本意な絶頂に向かってしまう。  
 
「やだ…っ。泰にいっ…」  
「行成でいいよ?しー…」  
 
最後までいじわるを言い続けて、結局は自分の事もいじわるで追い込んでいる――  
 

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