泰にいが毎晩寝酒してることはおにいから聞いていた。  
取り上げても取り上げてもきりがなくて、もううんざりだ。  
好きなんだったらどうにかしてやれ と。  
 
妹が弟に恋してるって言ってんのに、返事がそれってどうなの。  
止められなかった喜び半分、押し付けられた面倒臭さ半分、って感じ。  
アル中まっしぐらの人を任されるなんて、思ってもみなかったよ。  
 
「泰にい?」  
 
返事が無い。  
そっとソファに近付くと、泰にいが規則的な寝息を立てているのが分かった。  
真っ赤な顔。酒臭い息。だらりと垂れ下がった腕。  
テーブルの上には梅酒の瓶と飲み残しの入ったコップが置かれている。  
 
部屋の隅に転がっている10本を超える酒瓶を見つけた瞬間…  
私は思わずクッションを手に取って、振り上げていた。  
 
「 泰 に い の バ カ ! ! 」  
「いっ… へ? あれ? しー?」  
「あんなに飲んで! 体壊したらどーすんの?!」  
「いーんだよー 俺のカラダなんて誰も求めてないから」  
 
ヘラヘラ笑いながら軽口を叩く泰にい。  
口を開くたびに、酒臭さが増していくような気がした。  
 
いつもジョージさんとキャバクラで大騒ぎしていた(らしい)泰にい。  
デパートの1階よりキツい匂いをさせながら帰って来るのが日常だった。  
一人酒なんて、ガラじゃないにもほどがある。  
…そんな事を考えていた自分がバカみたいだ。  
 
「心配したんだけど」  
「だーいじょぶだって。 俺、酒には強いから」  
「そっちの心配じゃない」  
 
思いっきりへこんで立ち直れなくなってヤケ酒してんのかな、とか  
私のせいかな、とか …かなり真面目な心配をしてたんだよ。  
なのに何だ、このごく当たり前の酔っ払いは。  
 
「しー、何で怒ってんの?」  
「怒ってない!」  
「なーんだよー。 しーの意地っ張り。 可愛くないぞー」  
 
ぶちり、と頭の中で何かが切れた。  
 
仰向けに寝ている泰にいにまたがって、その顔を見下ろす。  
真ん丸になった目で私を見つめてくる泰にいは、子犬みたいだった。  
お酒のせいか、いつもより濡れている瞳が私をとらえていた。  
 
「しー… 何してん、の?」  
「おにいじゃあるまいし、分かるでしょ普通」  
「へ? あ… え? な、」  
 
疑問符を並べ続ける泰にいの薄く開いた口に、私の舌をねじこんだ。  
1人だけしか経験した事がなく、おまけにずっと受身だった私。  
おそらく泰にいが今まで通ってきた誰よりも下手くそだろう。  
 
そんな私の気持ちを読んだかのように、泰にいの舌も動き始めた。  
それに合わせて動くと、頭の芯がとろけそうになる。  
 
「泰にい…」  
 
目の前の泰にいは、いつも通りの顔。  
なのに、私は息を荒げて快楽に溺れる一歩手前。  
それが凄く悔しくて、私はソファから降りた。  
 
セーターからスカートから時計から、身に着けたものは全て脱ぎ捨てていく。  
もしこれで泰にいの気が引けなかったら、私のプライドはズタズタだ。  
でも、それくらいの覚悟がなきゃ、泰にいには勝てないと思った。  
…お酒で、私を忘れようとしている、泰にいには。  
 
「しー… おまっ!」  
「うるさい」  
「…え?」  
「黙ってて!」  
 
酔いも冷めたらしく、ソファの上で後ずさりする泰にいのベルトを掴んだ。  
それを引き抜いて放り投げると、泰にいの視線が一瞬私から外れた。  
その一瞬でジーパンのチャックを開けて、ボクサーパンツを引きずり下ろす。  
 
目の前にある泰にいのものは、戸神さんのと同じものとは思えないほど大きかった。  
すでに反応を始めているそれに唇を近づける。  
なめればいい、くらいしか分からない私は、とりあえず舌をのばした。  
泰にいの足の間に顔を埋めて、ひたすらアイスクリームを食べる時みたいになめ続ける。  
 
少しずつ、ゆっくりだけど、大きく反り返っていく泰にいのもの。  
それに反して、泰にいの身体はずるずるとソファに沈んでいく。  
甘い吐息を漏らしながら身体を震わせている泰にいが、凄く愛しかった。  
 
「も… やめ… 静奈ぁ…っ」  
 
涙声で 静奈 なんて呼ばれて、やめられるはずがない。  
それに、先走りを垂れ流しているこれをそのまま放っておけないよ。  
ぱく、と先端を咥えると、泰にいの喉から音にならない声が出た。  
 
どんなに舌で拭っても、どんどん溢れてくる。  
口から零れそうになった液を吸い上げた時、泰にいの身体が小さく跳ねた。  
それと同時に、口の中のものがビクビクと動き始めた。  
思わず口を離したものの、首からお腹にかけてべったりと白濁液を受けてしまった。  
 
「べたべたになっちゃったよ」  
「 自分でやっといて…」  
「嫌だとは言ってないでしょ」  
 
虚ろな目をした泰にいが、私の姿を見て眉根を寄せた。  
1回出したくせにまだそんな顔するなんて、強情にもほどがある。  
ソファの下にだらりと垂れている泰にいの手を掴むと、私の胸に押し当てた。  
 
泰にいの熱い手が直に触れている事で、鼓動がどんどん高鳴っていく。  
泰にいを想って自分でしている時とは違う。  
本物の泰にいの体温を感じて、おかしくなりそうだった。  
それは、私だけじゃなかったみたいで…  
 
「泰にい、またおっきくなってる」  
「………」  
「今度はこっちで気持ちよくしてあげるね」  
 
そう言って、身体の位置をずらす。  
知らない内に私自身も反応していたみたいで、太腿に液が伝い落ちる。  
前戯なんてまどろっこしい事、やってらんないな。  
 
私がそのまま腰を下ろそうとすると、泰にいが怒鳴った。  
 
「何してんだよ! 持ってねえのか?」  
「持ってるけど使いたくない」  
「んな事言って…」  
「子どもは出来ないよ。 ピル飲んでるから」  
 
戸神さんとの子どもが出来たりしたら引っ込みつかなくなる。  
そう思って使っていたのが、こんなところで役に立つなんてね。  
それでも幾分不満げな泰にいの唇を塞ぐと、ゆっくりと腰を下ろした。  
 
ずぶずぶと私の中に入ってくる泰にい。  
今まで随分と慣らされてきたはずの私も、初めての時みたいな痛みを感じた。  
 
「全部入ったよ、泰にい…」  
「…っ、」  
「動くね」  
 
腰を動かす度に、頭の中で何かが弾ける。  
兄妹でシてるとか、おにいの部屋だとか、そんな事が全部吹っ飛んでいく。  
私はただの女で、相手もただの男で、ただ好きな相手とヤってるだけ。  
心の枷も罪悪感もいつの間にか消え去っていた。  
 
頭なんてとうに止まっていて、私を動かしているのは押し殺し続けた欲望だけだった。  
ずっと、ずっと願ってたことが… こんなに簡単に叶うなんて。  
耳に響くいやらしい水音を意識の端っこで捉えながら、夢中で腰を振った。  
 
「…しー! 離れろ! 出、る…っ」  
「いいよ。 出して」  
「やめ…、」  
 
泰にいの弱々しい停止の声も聞かずに、私は腰を落とした。  
ほぼ全体重をかけて座り込んだ瞬間、身体中にびりびりと電流が走ったような気がした。  
 
どくどくと私の中に泰にいの欲望が吐き出されるのを感じながら、ぼんやりと思った。  
今、私は世界で一番幸せな女の子かもしれない。  
やっぱり、私を幸せに出来るのは泰にいだったんだ… と。  
 
後片付けを終えてから、泰にいに「おにいに話してある」と言ったらかなり驚かれた。  
俺の事は殴ったくせに、とかブツブツ呟いてる泰にいは子どもに戻ったみたい。  
 
「あ、そうだ! 泰にい」  
「何だよ、嬉しそうな顔しちゃって」  
「さすがに流れはしなかったけどね、星はいっぱい見えたよ!」  
「………」  
「何、その顔」  
「お前、やっぱ魔性の女だわ」  
 
そう言いながらまたお酒に手を伸ばす泰にい。  
私が慌ててそれを止めると、ニヤリと笑って「梅酒は媚薬になんだよ」と返された。  
 
私が思わず顔を赤くすると、泰にいは笑って私の頭を撫でた。  
今までも何度かされた事はあるけど、兄としてじゃないのはこれが初めてで…  
涙腺が緩みそうになるのを堪えて、笑顔を返した。  
 
「ほんとにカナダ行っちゃおうかな…」  
「何で」  
「カナダでなら、普通の恋人同士になれるかな って」  
「兄貴はどうすんだよ」  
「義理のお兄ちゃんにする」  
「…ちょっと、いいかも」  
 
窓辺で2人寄り添って、真っ暗な空を見上げた。  
この街からは星なんて見えない。 でも、星はいつでもそこにある。  
雲を掻き分けた先にある満点の星空を思い描きながら、泰にいの肩に頭を乗せた。  
 
午前2時。  
寝静まった世界の中で、私達はやっと、目を覚ました。  
 

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