僕は三協銀行日本橋支店の銀行マン、小宮康志。
フィナンシャル・プランナーとしては駆け出しで、業績は決して高くない。
ノルマ達成のために学生時代の後輩に連絡を取るほどの困りようだ。
しかし、それは仮の姿。 本当の顔は元詐欺師、有明泰輔。
詐欺から足を洗った俺には、もう小宮を演じる必要は無いはずだったのだが…
「ほら、こっち来てよ、"先輩"」
まあ、コスプレはいいとしても、役のチョイスはどうなんだ。
栞か佐緒里か奈緒だと思って色んな妄想してたのに、まさかの志穂。
しかも厄介なのは、俺もそれほど嫌じゃない。
いや、むしろ積極的に流れに身を任せようとしている。
M丸出し銀行員キャラもアリな方向に盛り上げようとしている。
すっぴんの静奈が地味な下着着て地味にゴロゴロ、が好きだったはずが…
キャバクラ通いが裏目に出たか? いや、今までがおかしかったのか?
ダメだ。 深過ぎる。 深過ぎて俺には理解出来…
「先輩、は・や・く」
そう言いながら、"志穂ちゃん"が脚を組み換える。
スリットから覗く白い太腿を見た瞬間、ごくりと喉が鳴った。
促されるままベッドに腰掛けようとすると、細い腕に止められた。
「…え、」
「ここじゃなくて、そっち」
「そっちって… 床?」
「そう。 そこに、座って」
さすが(自称)ドSの高山をドMに変えただけある。
有無を言わせぬその雰囲気に呑まれて、言われるがままに腰を下ろした。
正座に近い姿勢の俺と、それを見下ろす"志穂ちゃん"。
いつもと正反対の位置付けに焦り半分、興奮半分だった。
「じゃ、膝に手を置いて」
「こ… こう?」
「そう。 で、そこから絶対に動かさないで」
こくりと頷くと、満足気な笑みを返された。
いい子ね、と言われて、頭を撫でられて… それが嬉しいなんて。
こんなプレイを受けられるなんて羨まし過ぎるぞ小宮。 いや俺だけど。
「ねえ、先輩」
「うん?」
「いいって言う前に動いたら、お仕置きだよ」
受けてみたい! …が、我慢する事にしよう。
白いシャツから透けて見える黒いブラも、目の前で組み直される生足も、
俺の本能に「動け」と命じている。
だけど、俺はそれに応じるわけにはいかない。
血流が一点に集中し始めたのを感じながらも、俺は我慢し続けた。
スーツの生地が皺になるのも構わず、手を強く握って…
からかうような動きを繰り返されても、俺は動かなかった。
「すごい、先輩。 ほんとに動かなかったね」
「…ああ」
「じゃあ ご褒美あげなきゃね」
「ご褒美?」
にこ、と笑うと志穂ちゃんは俺の目の前に足を伸ばしてきた。
爪先がこつんとネクタイピンに当たり、そのまま下へと移動してくる。
反応し始めた俺の先端をくい、と軽く踏みつけて笑いを漏らす。
そのままくりくりと爪先を回すように動かされて、股間が膨れ上がる。
それでも俺は、じっと姿勢を崩さずにいた。
「脚、舐めてもいいよ」
「…え、」
「2つ目のご褒美」
その言葉を聞いた瞬間、俺は目の前の脚にかぶり付いた。
相変わらず膝に手を置いたまま、夢中になって脚を舐め続ける。
すらりと伸びた白い脚が、俺の唾液で汚れていく。
「犬みたいね、先輩」
からかうようなセリフを受けて、背筋にゾクゾクと快感が走り抜ける。
腰を浮かせて膝をついたままずるずると移動して、太腿へと場所を移す。
内腿の柔らかさに酔いながら、舌を這わせ続けた。
動かすなと言われた手は膝の上から決して離さずにいたけど…
ここからどうすればいい?
折角太腿まで上ってきたのに、スカートが俺の邪魔をする。
そこに見えているのに届かない、なんて。
「脱いで欲しいの?」
「…うん」
「じゃあ、そこに戻って待ってて」
名残惜しさを感じながら膝を立てて後ろへ下がる。
俺が腰を下ろしたのを確認すると志穂ちゃんは腰のホックに手をかけた。
ジッパーを下ろして、唾液まみれの足からスカートを引き抜く。
そして、体育座り状態から足を開いて俺に濡れた下着を見せ付けた。
黒い下着が身体にはりついて、その部分をくっきりと浮かび上がらせる。
じわじわと染み出す液体に目を奪われた。
「志穂ちゃ、」
「待ってて …って言ったでしょ?」
脱ぎ難いのか、わざとなのか、やけにゆっくりと下着を脱いでいく。
既にテントを張っている状態の俺には耐え難い仕打ちだった。
丸まった下着を放り投げると、志穂ちゃんは首を傾げて微笑んだ。
やっと入れられると喜んで腰を浮かすと「まだよ?」と釘を刺された。
へなへなと座り込む俺。 その前で、志穂ちゃんは自らを慰め始めた。
「…そこから、動いちゃ ダメ、だからね?」
細い指が濡れた蕾にいとも簡単に飲み込まれる。
指が動く度、ぐちゅぐちゅと卑猥な音が俺の鼓膜を揺らす。
息を荒げながらも俺を見張り続ける冷たい瞳が俺の被虐願望を満たしていく。
自由の利かない苦しみが、俺の中で快感に変わり始めていた。
限界が近付いてきているらしい。
指の動きがどんどん早くなり、足ががくがくと震え出した。
その目の前で俺はおあずけをくらった犬のように先走りを迸らせていた。
一際甲高い声を上げて、志穂ちゃんが絶頂へと昇り詰めた。
そして、息を整える事もせずに俺に命じた。
「…せんぱ、きて…」
その言葉を聞いた瞬間、俺の頭の中で何かが弾けた。
ついでに"泰輔"という人格も吹っ飛んだような気がした。
立ち上がってベルトを引き抜くと、ベッドに駆け寄る。
だらりと力なく座り込む志穂ちゃんの腰を引き上げて、俺の足を割り込ませる。
トロトロと愛液を垂れ流す部分に自分の昂りを当てた。
「入れるよ、」
返事を待つ事無く、一気に貫いた。
自分の突き上げる勢いと相手の体重が合わさって、大きな衝撃が走る。
深く食い込んだ僕を、志穂ちゃんはきゅうきゅうと締め付けてきた。
と、突然、志穂ちゃんが僕を強く引き寄せた。
僕の顔は胸に押し付けられ、柔らかな膨らみが眼前に迫る。
お互い体温が高いせいか、眼鏡が真っ白に曇って視界が遮られた。
「せんぱ… 動いて… はやくっ」
急かすような、それでいて甘えるようなセリフ。
僕が突き上げると、それに合わせて腰を振ってくる。
僕は僕で、目の前の肌から香ってくる汗の匂いを楽しんでいた。
汗ばんで濡れた肌に唇を這わすと、吐息が喘ぎ声に変わる。
さっきまでの余裕はどこへ行ったのか…
そういう僕も、激しい動きに限界を迎えようとしていた。
「先輩…っ」
「な、に?」
「中に 出したら、ダメ、だよ…?」
え?と聞き返すよりも早く、腰を下ろされた。
限界ギリギリだった俺は当たり前のように欲望を吐き出す。
「あーあ… 悪い子。 お仕置きしなくちゃ、ね?」
ドクンドクンと脈打ち続ける俺に構わず、冷たい言葉が放たれる。
未だ僕と繋がったままにも関わらず余裕を取り戻す志穂ちゃん。
僕が吐き出し尽くした事を確認すると、枕の下から何かを取り出した。
ちゃり、という軽い音と鈍い金属の光。
志穂ちゃんは僕の腕を後ろに回して、かちゃりと鍵をかけた。
「志穂ちゃ、」
「こうしておけば、使えないでしょ?」
「なん、」
「あ、そうだ。 手を使ったお仕置きもしなきゃね」
そう言うと、志穂ちゃんは僕のネクタイを引き抜いた。
眼鏡を抜き取られ、ぐるりとネクタイを巻きつけられる。
「ふふ。 これで先輩は私の玩具ね」
嬉しそうに笑う志穂ちゃんの笑い声が僕の頭を満たしていく。
玩具… それも、いいかもしれない。
再び自身に熱が集まり始めるのを感じながら、僕は笑っていた。
頬に触れる冷たい指先が、まだ熱さの篭る息が、僕の頭をとろけさせる。
…最高だよ、志穂ちゃん…
「じゃあ… 今から、声出しちゃダメだからね?」
微かな衣擦れの音、近付いてくる吐息、狂ったように騒ぐ心臓…
黒一色の世界の中で僕の感覚は鋭さを増していった。
力を失っていたはずの僕自身も、いつの間にか立ち上がっている。
今の僕にとっては、楽しそうな含み笑いすらも刺激のひとつだった。
志穂ちゃんが服のボタンを次々と外していく。
張り付いたシャツを剥がされ、鎖骨を指でなぞられる。
「次のお仕置きはこんなに甘くないからね…?」
低い声が耳をかすめた後、首元にちりっと軽い痛みが走った。
おそらく痕がついたのだろう。
嬉しそうに笑いを零した志穂ちゃんが、微かに痛む場所を撫でた。
あまりに優しく触られて、ぞくりと背筋が震えた。
滑らかに這う指先を必死に追いかけた。
触って欲しい場所には中々降りていかず、焦らすように逸れていくそれ。
違う、そっちじゃない。 早く、もっと下へ。
「先輩、どこを触って欲しい?」
無邪気に跳ねた声。 僕を試すような口ぶりだ。
ここで口を開けばご褒美は遠のき、お仕置きをされるのだろう。
喉を鳴らして言葉を飲み込むと、指の動きが止まった。
そして、唐突に胸の突起をぎりりと摘まれた。
痛みを訴えようとする声を唇を噛んで押し込める。
すると今度は柔らかな唇に包み込まれた。
ちろ、と嘗められて今度は快感が身体を震わせる。
痛みと快感が交互に押し寄せて、僕を責めた。
違う。 そこじゃない。
そう伝えるために首を横に振ると、優しい声で問いかけられた。
「ココがいいの?」
何の躊躇いもなく、僕は頭を上下に振った。
自分を果てさせたくて封じられた腕ががしゃがしゃと音を立てる。
身体中が燃えるように熱い。 早くイかせて欲しい。
言葉に出来ない欲望が暗闇の中をぐるぐると回っていた。
「先輩、可愛い」
その言葉が耳に入るのと望んだ場所に手が伸びるのは、ほぼ同時だった。
細い指が昂りに絡まりついて動き出す。
追い立てては逃げ、急かしては焦らし…
その動きに翻弄されながらも、僕は徐々に絶頂へと近付いていた。
と、突然根元を強く掴まれて欲望を止められた。
「………ぅ、」
極限まで上がった熱。 解き放てずに混乱した頭。
そんな状態で、声を出すななんて命令を覚えていられるはずもなく。
自分のうめき声が耳に入ってきた瞬間、一気に頭が冷えた。
「お仕置き、だね?」
何かがぐるりと根元に巻き付けられ、きつく縛られた。
甘くないお仕置き。 イかせてあげない、という意味だったのか。
でも、なぜか… まだ終わらないんだ、と安心している自分がいた。
責め続けられる事に対する期待が心の底を這いずり回る。
「安心して。 先輩の分もイってあげるから」
志穂ちゃんの微笑みが見えるようだった。
嬉しそうで、それでいて冷たい声を聞いて、鼓動が高鳴っていく。
身体を押されて、ベッドに倒れ込む。
仰向けにさせられ手錠を外されて、息苦しさが少なくなった。
それなのに、何で僕は物足りなさを感じているんだろう。