滝島が滝島の父親にいつものごとく拉致られて、ウンザリするほどの仕事を押し付けられた上海からよう 
やく帰国し滝島邸に帰宅してみると、玄関で有り得ないものが出迎えた。  
 
「おかえりなさいませ〜お坊ちゃま」  
 
何故かヒラヒラしたメイド服を着た光が愛想良く玄関に立っている。  
仕事のしすぎでストレスから妄想を見ているのかと、いつもは微動だにしない彗も一瞬たじろいでしまった。  
 
「光……?」  
「なんだ?ヘンな顔して」  
変な顔をしているのは光の方だ。 近づいてみると、光は頬から目許が仄かに朱に染まり、瞳はトロリと潤ん 
でいる。 光が自分に近づいてきたのだが足元がふらついている事に気づく。  
慌てて腕を差し出して彼女の上体を支えるようにすると、その柔らかい体からはほのかにアルコール臭が漂う。  
 
「光、まさか酔っているのですか?」  
「いーや。全然酔ってないぞ〜、私は。 全然平気だ〜」  
そう言って微笑む光だが、シラフの時の光なら、いつまでも体を支えて離さない彗の手を、もうとっくに引き剥 
がしているはずだ。 ましてそのまま体を支えてもらうなど、有り得ない。  
 
「かなりお酒を呑んでますね。一体誰が光にお酒を呑ませたのですか」  
光の無防備な姿を楽しんでいいのは自分だけなのに……とイライラしながら酔った光を肩に担ぎ上げ屋敷  
の奥に入っていくと滝島父が本人の部屋のベッドで酔いつぶれていた。意識はとうにない。  
 
「この人ですか。今回の仕事といい、まったくどうしてやりましょうかね」  
額に青筋を立てて怒っている彗のことにはまったく気にも留めないで、肩に担がれたままの光はケラケラと  
笑いながら  
「滝島の父ちゃんが、猪木の伝説の試合のレアDVDが手に入ったから見に来いって。観てたら喉が渇いた  
から適当にドリンクバーから好きなジュースを飲んでたら、なんか愉快な気分になってきちゃって」  
「……」  
「そしたら、滝島の父ちゃんが『どっちが沢山飲めるか勝負しよう』っていってきてさ〜。気が付いたら父ちゃ  
んはユデダコになって倒れてた」  
「……その服装はなんですか」  
「あ〜、これ? ジュース飲みながら父ちゃんにプロレスの技を掛けてたら服にジュースが掛かっちゃって、  
そうしたら『服が乾くまでコレ着てて』って渡されたんだが……変か?」  
「……いえ。憎らしいほど素晴らしく似合ってますよ」  
光を酔わせたうえ、更にプロレス技を掛けてもらってたのか、あのオヤジ!! その上コスプレまでさせて。  
彗の背中からゴゴゴゴーと怒りのオーラが放たれている。  
 
そのまま光を自分の部屋に連れていき、ベッドに優しく下ろす。  
「ここで暫く休んでいてください。 酔いが醒めたら家までお送りいたしますから」  
そして光が休んでいる間にエロオヤジに鉄拳制裁を食らわせる気満々でいた彗に、またもや光が思いがけ  
ないことを口走る。  
 
「滝島、仕事疲れただろ?」  
光が急にしおらしい様子でベッドの上にペタリと座り込んだ体勢で彗を見上げる。心配そうにはしているが眼  
がトローンと潤んで色っぽい。 ドギマギしていることをポーカーフェイスで隠しながら答える。  
「……いえ。たいしたことはありません。いつもの事です」  
光は  
「そうだよな。いつも大変なんだよな。滝島は……」  
そういうと急にシューンと俯いてしまう。  
「そうだ! どうせこんな格好してるんだし、お前、何でも私に言いつけていいぞ! 今日は私が滝島の  
専属メイドになる!!」  
 
専属メイド……。なんて良い響きだ。 今日の罰として、ぜひそうして差し上げたいところですが……。  
「光はそんな事しなくてもいいんですよ」  
「何でだ?」  
酔ってひっく、とシャックリをしながら首を傾げている姿が猛烈に可愛い。  
「光がちゃんと覚醒している時でないと嬉しくありませんからね」  
「ふーん」  
いつもならこんな事をいうと大暴れするであろう光は、今日はあっさり引き下がる。  
「そっか、じゃあ、また今度な」  
 
ニコリを笑うと彗の目の前でいきなり服を脱ぎだした。 これには流石にうろたえる。  
「ちょ、ちょっと待ってください」  
「何だよ」  
「何で急に服を脱ぎだすのですか!」  
「だって滝島がメイドしなくていいって言ったから」  
 
男の前で平気で服を脱ぎだす光に、ひょっとしてこのメイド服を着るときも父の前で脱いだのでは……と思い  
至った時点で彗は何かが切れた気がした。  
 
(いつもこれだけ光に振り回されているのだから、少しぐらいの味見は……。光は超鈍感だから「今度」が  
いつくるかも解りませんしね)  
   
キョトンとしながら乱れた姿で自分のベッドにいる光。   
まるで食べてくださいといわんばかりの状態にダメだと解っているのにも関わらず、何か適当な理由を付けて  
己を正当化しようとしていることは充分過ぎる程自分でも理解している。 しかし。  
 
「……正直、もう限界ですよ。俺は」  
 
そう呟くと、光の肩に手を伸ばす。  
「ん?」  
「やっぱり気が変わりました」  
「そうか!」  
頬を染めた光が嬉しそうに笑う。 それなら、と脱ぎかけたメイド服のボタンをまた留めようとする光の手を両手  
で包み込むようにして制した。  
「あ、そのままでいいですよ。その方がそそられますしね」  
「あ〜?うん。滝島がそういうなら」  
 
(今から何をさせられるのか少しも理解していないのでしょうね。この人は。)  
 
「光には奉仕をしてもらいましょうかね」  
「奉仕? 奉仕活動の奉仕か? 神社の掃除とかか?」  
(まあ、光の脳内ではこの程度でしょうね)  
「違います。 ご主人様の欲望を鎮める事ですよ」  
「欲望?」  
再度ひっく、とシャックリをしながら首を傾げている。 光に一体どこまでさせようか……彗も好きな相手の前では  
健全な高校男子。 最後までしたいのはヤマヤマだが、あまり無体な事をさせると光の性格からすると、二度と口  
を利いてもらえないかもしれない。それは困る。 どの道 今の光は可愛い酔っ払いだ。 最後までするのは光が  
ちゃんと俺と『したい』と意識したときでないと……等と彗もが思案していると、  
「ああ、そっか!わかったぞ」  
光がいきなり彗の右手を握って引っ張った。  
「わっ」  
その思いがけない動作におかげで光にぶつからないように避けて彗はついベッドに腰掛けてしまった。  
するとそれを待っていたかのように光の手が今度はスーツのズボンのジッパーをジジジ……と下げ始めた。  
「ひ、光?」  
「大丈夫。私だってSAの一員だ。保険体育の知識くらいあるぞ。口ですればいいんだろ」  
そういうと、白い指先がズボンと下着を掻い潜って彗の欲望を引き出した。  
二、三度それを手で上下にしごき上げたあと、口を開いてくちゅ……と先の方を咥えた。  
心臓がドクリと波打つ。目の前が真っ白になった気がした。  
 
光にそんな性行為の知識があるとは思いしなかった彗はかなり気が動転していた。ご主人様として主導権を握る  
はずが、何故かメイドの光にいい様にされてしまっている。  
いきなり何の抵抗感もなさげにアイスでも食べるような気軽さで咥えられてしまったので、ついイヤな事を考えて  
しまう。  
 
「ま、まさかとは思いますが……。光、ひょっとして誰かにこういう事をした経験が?」  
「あるわけないだろ」  
大きくて全部咥えきれないようで、下の幹の方に両手を添えてしごき上げながら、猫のようにぺろぺろと舐めたり、  
ぱくりと咥え込んで頭を上下させたりする。 その度に黒く艶のあるサラサラの長い髪が光の肩からこぼれて彗の  
太ももの辺りに流れていく。  
拙い精技ではあるが、光の口がしていると思うと背筋を悦楽が駆け抜けていく。  
 
(マジで達きそうなんですが……)  
 
「光、本当に、誰ともこんなことしてませんよね」  
光は口をソレから離さずにコクリと頷く。  
「もし……俺より先に誰かにこんな事していたら、……う……俺はソイツを絶対に殺しますからね」  
 
可愛い可愛い光。良くも悪くも俺の心も身体もかき乱すのは貴方だけですよ。  
 
(なんてひたっていられなくなってきましたね)  
 
彗はいつのまにかもう爆発寸前まで追い上げられてしまった。本当はちょっと光を虐めればそれで良かったのに、  
逆に自分がのっぴきならないところまで追い詰められている。  
「ひ、光。……離れて」  
「イヤだ、最後までちゃんとできる」  
「そんなことしなくていいですから、早……くっ……」  
今すぐにでも暴発してしまいそうな快感をなんとか意識からそらしながら、そう光に懇願するのに、光はますます  
扱く手を早めながら、  
「イケそうか?滝島」  
などと聞いてくる。 このままではもう少しも持ちそうに無い。  
 
「いいから早く離れて……このままでは貴方を汚してしまいますから」  
するとちょっと口を離して、  
「いいぞ。    滝島が気持ち良くなれるのなら」  
そういって微笑みながら再度、口にソレを頬張る光。   
 
 
(……今のは下半身を直撃しましたよ……)  
 
 
あの超鈍感な光が自分のを口で奉仕している。しかもメイド服で。それだけでも直ぐに達ってしまいそうなのに、  
こんな可愛い事を言われて、もう我慢ができなかった。  
「まったく貴方って人は……くっ……後でたっぷりお仕置きして差し上げますからね……。あ……ぅっ」  
 
ついに甘美な責め苦に堪え切れず、溜め込んでいた精を一気に光の咥内に解き放ってしまった。  
「ん……うぶっ!」  
知識としては知っていても、実際に口の中に注ぎこまれると、光はその液体の苦さと熱さに驚いてつい顔をを引い  
てしまった。 まだ注がれている最中の液体はピピッと光の口元や頬に飛び散り、口の中に溢れるソレを光は飲み  
下しきれず唇の端から零れていく。  
 
(たまらなく扇情的ですね)  
 
今達ったばかりなのに、その様子を見てまた欲しくなる自分に苦笑する。  
あまりの衝撃にまだハァハァと肩で息をしている滝島に、顔に付いてしまった液体を手で拭いながら光が、  
「お前いっぱい出たなぁ。 溜めると体に良くないぞ」  
と光はケロリとして指に付いている液を舐め取りながら言ってくる。  
 
(溜まってるのは誰のせいだと……(怒))  
 
「で……少しはスッキリしたか?」  
「……は?」  
「お前、ずっと仕事ばっかりでストレス溜めてそうだったから。少しはスッキリするといいな〜と思ったん  
だが。……良くなかったか?」  
光はニッコリと、でもまだまだ酔いの醒めない顔で微笑んだ。  
 
(光は光なりに、俺を心配してたってわけですか)  
 
返答をしないでそのまま、その細い体を腕の中に抱きこんだ。  
ギューと強く抱きしめて、絶対に離さない。誰にも渡さない。と心の中で強く思った。  
 
「貴方は全然気が付いてないでしょうけど」  
柔らかい長い髪を手ですくと、サラサラとした感触と共にフローラルのシャンプーの香りが漂ってくる。  
抱きしめた光の体から力が抜けていって、肩に頭が寄りかかってきた。  
 
光の耳元でそっと呟く。  
「こと恋愛に関しては、俺は本当はいつも貴方には負けっぱなしですよ」  
彗が生まれてから、初めての「負け宣言」なのだが……。  
 
「ぐーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。ぐーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」  
「!!……こおの酔っ払い!!(怒)」  
 
当の光は、そんな彗の告白など少しも聞いていなかった。  
 
 
 
 
翌日の朝  
 
 
「はぁ〜。まあいいですけどね」  
光はそういう人だってことを一番知っているのは自分ではないか。これくらいでめげていては凶悪な程  
鈍感な光をずっと思い続ける事などできやしない。  
 
(それに、また煽られてどうしようもなくなったら、俺の部屋に呼んで沢山お酒を呑ませてあげますしね。  
きっとまた何も覚えてないでしょうから。 ええ、今度は遠慮なんて絶対にしてやりませんから。  
メイドも可愛かったけどナースもいいかもしれませんね。今から服を用意しておかないと……)  
 
光は、何故自分が二日酔いで、かつ、滝島の部屋で、こんな格好で寝ているのか、  
そして、何故 自分の横で滝島がニヤニヤ楽しそうなのか、まったく解らないのだった。  
 
 
  糸冬  

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