緑色という、性欲とは無縁の色で身を包んでいたクローディア。
彼女の肉体は衣服をまとっていたときは正反対で、驚くほど女性的だった。
胸も腰も豊満で、腰は細くくびれている。
だが同時に、生命を慈しみ育てる森を連想させる肢体はある意味、クローディアそのものとも言える。
月と星々が光る夜空の下、恋人たちの園といわれる川べりで互いの裸体を見合う。
予想しなかった体を目の前にさらけ出され、ジャミルはしばらく言葉を失っていた。
自分をみつめたまま、一向に口を開こうとも指を動かそうともしないジャミルに対して、
「…どうしたの? ジャミル…。 私、どこかおかしい…?」
例の、少し沈んだ声でクローディアが問いかける。
いつもと同じ声だが、ほんの少しだけ、そこに不安の感情が混じっていた。
「ち、ちがう、ちがう! いや、クローディアが違うんじゃなくて、
クローディアの言ってることが違う! クローディアはおかしくない!」
他の人間なら聞き逃しそうになるほどの違いを、少し人とは違う形の耳で聞き取ると、
ジャミルは筋を痛めそうな激しさで首を左右に振った。 振りまくった。
「そう…」
一言だけ返ってきた言葉に、クローディアの安堵が全てこめられている。
ジャミルは、鼻の奥がツンと痛くなった。
(ああ、やべぇ…。 こいつの、こんな一言もかわいく思えてきてらぁ)
身分違いもはなはだしい、南エスタミルの盗賊とバファル帝国の皇女である彼らだが、
ジャミルはそれを理由にして、自分の気持ちを隠すつもりなどなかった。
更にクローディアに近づくと、頬にいくつものキスをする。
全てを見せている状況にしては、たいそう可愛らしい行為だった。
「うん、俺はやっぱ、クローディアが好きだ。 うん」
「………」
黙って頬への愛情を受け続けていたクローディアだが、それを聞いた瞬間、
ふっとジャミルから顔を離した。
ジャミルの眉が悲しげに寄せられるのを、視界の隅で見たような気がしたクローディアだが
慰める言葉をかけずに、無言のまま、自分から口付けをしかけていった。 (終)