グレイは答えを見つける事ができないまま、沈黙を紡ぎ続けた。  
別に酒に酔った訳でもなく、女に不自由している訳でもない。  
けれど気が付いた時には震える彼女の膝を割り、ベッドの上へと組み敷く。  
森の中で育ち――――当然、男を(この場合は人間と言った方が正しいか)知らないクローディアにとって  
この旅を始めて直ぐから生活を共にしていたグレイの存在は彼女の知った人間の中では一番近いもので。  
その彼から何故この様な仕打ちを受けているのか…理解し難い。  
 
生憎、外はスコールが降り、夜も深い。  
 
長旅でようやくこの町に辿りついた仲間達はおそらくぐっすりと眠りに更けている頃だろう。  
幾らクローディアが声を荒げようとも周りに聞こえる筈も無い。  
元々、気立ての出来た彼女が大きな声を立てることもないのだが。  
ただ出来る精一杯の抵抗は震える唇を噛み締め、自分を組み敷いているこの男を見つめるだけ。  
 
「…貴方、は」  
「何だ」  
「貴方は、何が望みなの…グレイ」  
 
出来る限り平静を装ってクローディアは呟いた。  
 
 
(…欲しい)  
 
 
ふとそんな考えが過ぎるもそれは口にせず、敢えてにやりと微笑してみせる。  
いつか彼女を手に入れたいと。どんな財宝よりも高価な宝。  
あの貴族の坊ちゃんも焦がれて止まない聖女の様なこの女を自分のものにできるなら。  
言い様の無い独占欲と情欲が確実にグレイを蝕んでゆく  
 
「密室に男と女。そしてこんな格好だ。することは一つだろう?」  
「…下衆ね」  
「こんなに長く一緒にいるんだ。あんたを欲しいと一度も思った事が無いと思うか?」  
「そんな事…私にはわからないわ。」  
 
冷たい口調のままクローディアはぽつりと呟く。  
誰よりも信頼していた相手に裏切られた様な気がしてクローディアの中で怒りにも似たものが沸きはじめる。  
いくら彼を見つめた所で状況が変わるわけでもない。  
半ば諦めた様に大きく溜息を吐くとクローディアは切なそうに瞳を伏せ、グレイから顔を背けた。  
 
「けど、構わない…。それがグレイの望みなら。でも」  
「…でも?」  
「心は誰のものにもならない。」  
「……………………」  
「私は、私だけのものよ」  
 
それ以上の言葉を聞きたくなかったのか、グレイは強引にクローディアの唇に唇を重ねて言葉を奪った。  
角度を変えて口付けを繰り返してゆくと接吻の仕方一つも知らない彼女の無防備に開いたままの口腔の奥へ舌を差し入れた。  
初めて襲うのだろうぬるりとした感触に心地悪さを感じたのかクローディアは眉根を寄せて息を呑む。  
だが決してグレイも彼女の唇に自由は与える事はなく、差し入れた舌で上顎を執拗に舐めた。  
 
「ふっ、ん…」  
 
嫌悪からか何からなのか解らないが自然にクローディアの唇から吐息が漏れてゆく。  
その声に言い様の無い情欲を駆け巡らせるとグレイは余裕無く柔らかい左の乳房を服越しに強く鷲掴みにした。  
経験豊富な彼にとって生娘の扱い方などどうすれば良いのか解っているはずなのに  
いつものとは違う何かがグレイを支配して、まるで狂った様にクローディアの胸の柔らかさを堪能する。  
 
「痛、い…ッ」  
 
クローディアの知らないグレイが此処にいる。  
彼の見せる獣の様な瞳から逃れる事は出来ずになすがままになるしか他なかった。  
そうこうしているうちに気が付けばクローディアの肌を護るための衣服は半分程脱がされていて。  
乱れた服からは顔に似合わぬ程の二つの大きな膨らみがその存在を主張している。  
クローディアの唇をようやく解放すると、今度は刺激を知らない桃色の尖りへ唇を寄せて吸う。  
徐々に硬くなってゆくソレを舌先で転がし、繰り返し吸うと完全に勃ちあがる。  
 
「…っ、あ…」  
 
それを喘ぎとは知らずに自然と漏れる声を抑える事はなく。  
執拗に舐められる胸に擽ったさに似た何か別の感覚を感じてゆく。  
 
「いや、恐い…。こんなの知らない…っ」  
「恐がらなくていい」  
 
初めて訪れる快感というにはまだ稚拙な感覚にただ怯えるしかなかった。  
だがそれでもグレイは愛撫を辞めようとはせずに今度は白く伸びた太腿へと手を延ばした。  
またピクリ、とクローディアの体が震える。  
そんな彼女を気遣う様に再び口付けを与えた。  
先程までは何も出来なかった筈が。  
グレイの唇の感触、差し入れられる舌に応えておずおずと自らも舌をグレイへと差し出した。  
 
「………!」  
 
これには予想外で。  
頭の奥で理性が焼ききれる音を聞くと太腿に添わせていた指先が突如、彼女の中心へと触れた。  
 
初めてのはずだというのに、もう十分に湿っている其処は下着の上からでも窺い取れる。  
花芽を探る為に親指の腹で割れ目の上側を擦りながら、中指で下着の上から蜜壷の入り口を刺激すれば  
またピクリとクローディアの体が跳ねた。  
だがもうグレイには余裕が残されていない。  
すぐにでも彼女を貫きたい、彼女を汚したい一心を抑えてまずは指を一本、下着の隙間から差し入れ中へと埋めてゆく。  
じっとりと濡れているのにきつい其処は他者を受け入れたくないという反抗なのか。  
一本入るのですらやっとな狭い膣内に、グレイはゾクリと背筋を奮わせた。  
 
「あ…っ、あ、あ…」  
 
小さくとも、確かな喘ぎに嫌悪感が薄れているのを感じると一旦指を引き抜き下着を取り去る。  
そして再び中指を挿入するとゆっくりとピストンさせる様に出し入れさせ始めた。  
 
「やだ…ッ、やあ…!ん、く…」  
「苦しいのか?」  
 
グレイの問いかけにコクコクとクローディアは頷く。  
だがお構いなし、と言わんばかりにその指のスピードは留まる事はない。  
ぴちゃぴちゃと愛液が指に絡まる音が雨音に混じって部屋に響き渡ると頬を赤く染めてヘイゼルの瞳を強く伏せた。  
執拗に膣壁を堪能するとようやく指を引き抜き、間髪入れずに今度は既に準備の整った自分自身を取り出して  
壷の入り口に押し当てる。  
ぐっ、と押し込むがキツすぎる膣壁が懸命にグレイを外へ押し戻そうとする。  
だがそれを制して、半ば強制的に子宮の入り口のある奥深くへと茎を進めた。  
あまりの苦痛にクローディアは顔を顰めて唇を血が滲みそうなくらいにまで噛み締めている。  
 
「…っ、うぅ…ッ」  
「クローディア…力を抜け…っ」  
 
これ以上、綺麗な唇を傷つけない様に、とグレイは自らの指をクローディアの口腔へと入れる。  
 
「噛むなら…俺の指でも噛んでいろ」  
 
差し入れた人差し指でねっとりとした舌を弄びつつ、どうにか奥にまで進めた昂りを出し入れさせ始めると  
ちくり、と指先に痛みを感じた。クローディアが指に歯を立てたのだ。  
だが彼女の痛みも苦しみもこんなものではない。  
グレイはその痛みに堪えながらゆっくりと腰を打ち据え始めた。  
腰を引くとクローディアの愛液がぬるりと絡み付いてくる。  
ただでさえきつ過ぎる締め付けに直ぐにでも気を赦してしまいそうなのを堪えながら  
グレイは何度も彼女を突き上げる。  
 
「…は、あ…っ、あっ、ああッ」  
 
クローディアは痛みと、そして同時に訪れてくる痛みとは確かに違う感覚に翻弄されていた。  
今彼女に出来るのはただ喘ぐ事だけ。  
そして自然にグレイの腰の動きに合わせる様に、稚拙ながらも腰を振りはじめる。  
正常位で突き上げ続けた動きを一旦止めると、互いに着衣が乱れたままで今度はグレイの上に跨がせる様に座らせ  
正面を向き合う体勢へと変わる。  
その体勢がまた更にクローディアの奥深くをグレイが支配する。  
今度は彼女の腰を掴み前後にへと激しく動かさせて中を茎で掻き混ぜてゆく。  
 
「ひぁ…ッあ…、グレ…イ…っ」  
「クローディア…っ」  
 
互いに名を呼び、互いに唇を求める。  
まるで恋人同士の様に交わりながら二人は絶頂へと近づいていく。  
先に限界を訴えたのはクローディア。  
必死でグレイにしがみ付きながら初めて訪れる絶頂を受け入れようとして、淫らに腰を振る。  
 
「おかし、く、な…る…っ、グレイ、助け…っあ、あああっ!」  
「いいぜ…ッ、おかしく…なれよ…」  
 
(…もしかして、俺は…クローディアを…?)  
 
クローディアの懇願に、口付けに、胸が熱くなるのを感じてふと頭をそんな考えを過ぎる。  
だが、すぐに達した彼女の強すぎる締め付けに、グレイも射精感を露にさせた。  
体中の血が熱く逆流するのを感じると吐精する直前にクローディアの胎内から自ら離れ、  
根元を押さえて射精を耐えると、ぐったりと横たわるクローディアの上半身に跨って  
勢い良く熱い白濁を彼女の白い頬へとぶちまけた。  
 
 
*****  
 
 
――――どのくらいその体勢でいただろうか。  
虚ろな瞳で天井を見上げるクローディアと、そんな彼女に覆いかぶさる様に肩口に顔を埋めるグレイ。  
気が付けばクローディアはグレイの背を抱き、グレイもまたクローディアの髪に指を絡ませる。  
乱れた着衣を直そうともせずに、呼吸を整えるために幾度も深呼吸を繰り返した。  
 
(…私…本当は嫌じゃなかった…)  
 
グレイを抱きしめながらふとクローディアの頭に言葉が浮かぶ。  
決して自ら望んだ訳ではないのに、結果的に自ら彼を求める様に腰を振っていた淫らな様。  
遠い意識の中で確かに覚えている。  
 
「クローディア」  
「…なに…?」  
「…すまなかったな」  
「謝るくらいなら、こんなことしないで」  
 
そう呟き、静かに伏せる瞳には僅かながらに涙が滲む。  
嫌悪の涙なのかそうではないのか、まだクローディア自身にもわからない。  
ただ、今彼女が望むのはこの暖かさに包まれたまま深い眠りへ堕ちたい、それだけだった。  
 
「少し、眠るわ」  
「そうだな」  
「…グレイ」  
「…ん?」  
「今夜はもう遅いし、あなたも眠ると良いわ…此処で」  
 
グレイの返答は待たずにクローディアの腕に力が篭る。  
グレイもまた、彼女をしっかりと抱く様に腕に包む。  
それが、答えだった。  
 
(朝になれば…また元通りになれるから…今だけは…このままで)  
 
それ以上は互いに何も言の葉を紡がない。  
――――二人を包むのは雨音と、静かな寝息だけ。  
 
 

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