あの日、大切なものがすべて無くなった。
城もお父様もお母様も何もかも…
アルベルトは生きているかしら?…生きていてほしい。
…モンスターの大群が襲ってくるなんて考えもしなかった。
ましてや、それでイスマスが滅ぶなんて…
だけど私は生きていた。もう、私には何も残って無いというのに。
本当に残っていない?何も……?一瞬、私の頭にある男の顔が浮かんだ。
「殿下…」
そう呟くと、私は乱れた髪も服も直さず一歩一歩、歩き始めた。
…クリスタルシティに向かって。
イスマスが襲撃されたなどまるで関係が無いように
クリスタルシティは平穏だった。
傷ついた体を引きずり、歩き続ける。目にはもう城しか映っていなかった。
城にさえ着けば、殿下が助けてくれる。
…そう思っていたわ。だけど現実は違った。
「何だお前は?何をしに来た!帰れ!」
私に対して門番はそう言ったのよ。信じられない。
まるで下衆でも見るかのような目。私をイスマス城主ルドルフの娘と知っていて?
喋る気力も無かったが、ここで引き下がるわけにはいかなかった。
「私は…イスマス城主ルドルフの娘ディアナです…」
「…お前がイスマス候の娘、ディアナ様だと?」
私は必死に訴える。もうそれしか方法が無い。
だが、門番達はそれを聞くと笑い始めた。
「あっはっは。なかなか面白い話だ。
だが、お前がディアナ様だと証明するものがあるのか?
汚れた服、髪…どこからどう見ても物乞いではないか」
「な、何ですって…」
怒りに手が震える。けど、私はそれ以上反論できなかった。
子供の頃から教え込まれた剣技、礼儀作法…どれも「私」を証明できるものではない。
あまりの不甲斐なさ…自分一人の無力さにただうちひしがれた。
「さっさと帰れ。これ以上居座るなら投獄しかねんぞ」
「ま、待ってください!アルベルトは…アルベルトは来ていないの!?」
兵士の腕をつかんで必死に食い下がる。もう、誇りなんてどうでもいい。
「知らん!っつ、この…離せ!」
鈍い音がした。
「ああっ!」
普段なら、受身の一つでも取れたかもしれない。
けど、疲れ切っていた私はそのまま後ろに吹っ飛ばされ倒れこんだ。
衝槍で殴られたと分ったのは吐き出した自分の血を見てからだった。
「うっ…ごほっ、ごほっ!」
「汚い服が余計に汚れてしまったな?すまなかった」
ヘラヘラ笑いながら門番が言う。殺意を抱くほどの憎い笑い声で。
「っく…」
…私はゆっくりと立ち上がり、その場を後にした。
もうその場にいることすら、苦痛でしかなかったから。
「うっ…く…」
クリスタルシティを半分ほど歩いた所で私は座り込んだ。
「喉…お腹もすいたわね…」
昨日から何も食べていない。食べる事なんて忘れていたもの…
目の前に露店売りのパン屋が見えた。そっと自分のポケットに手を入れてみる。
187金…あまりにも少ない額だったけど、
この時の私から見ればそれは宝のように見えたわ。
一番安いパン一個を頼む。あまりに薄汚れた私を見て、
店の主人は不快そうな顔をしていたが、そんな事どうでも良かった。
飢えと渇きでもう我慢の限界だったから。
パンを一口ずつ丁寧に噛み締めながら、噴水の水を飲んだ。
美味しかった。今まで食べた何よりも美味しい気がしたわ。
それと同時に…自然と涙がこみ上げてきた。どうしてこうなったの…?
貴族として、ルドルフ候の娘として絶えずがんばっていたわ。
それが今では…まるで下賎のように生き延びようとしている。
そうよ、あのモンスター達さえ来なければイスマスも安泰だったわ…
そう。確かにあの襲撃がすべてを変えたのよ。
でも、完全に一人になった私には…モンスターへの怒りや憎しみのほかに
もう一つ何かを感じ始めていた。
……………本当に、モンスターが来なければ私は幸せだったの?
私が生まれた時、お父様とお母様はいつも私を見てくれたわ。
だからどんな習い事も嫌がらずにこなした。
必死になって覚えて、ほめてもらえる事…それが何より嬉しかった。
私だけのお父様とお母様でいてほしかった。
でもアルベルトが生まれた途端、その愛はアルベルトばかりに向けられた。
表向きには私の事も見ているつもりみたいだけど、そうじゃなかった。
アルベルトは待望の男。お父様もお母様も世継ぎの事しか考えてなかったわ。
じゃあ私は一体何?弟の世話だけしていれば良いというの?
殿下の妻だってそう。あの方がローザリアの皇太子だから喜んだのでしょう?
妻になることで私はローザリアとイスマスの繋がりを強める架け橋になる。
ただそれだけ。どんなに綺麗に着飾っても、どんなに剣を振るっても…
私個人への評価なんかこれっぽっちも無い……………
そして、今の私はそんな過去も関係なくなった薄汚れた…ただの一人の女。
…プチリ。と何かが切れた音が私の中でした。
「…ふふっ、うふふふふ」
いいわ、これから私は私らしく生きてあげる。
誰の指図も命令も受けず、誰にも縛られずに…
私は不必要な物を売り、旅へ出た。
クリスタルシティから北へ、北へと進んでいく。
別に目的があるわけでもなく、どうしてその方角へいったのか分らない。
あの場所からとにかく離れたい。無意識に私はそう思っていたのかもしれない。
ゴドンゴに向かう船内で、とあるカップルに出会った。
緑色に統一された服装に身をまとった女性と、白髪で長髪の男剣士。
出会ったと言うより、船酔いしていた女性の方を介抱してあげた際に知り合った
というほうが正しいのかもしれないけれど。
事情を聞いてみると、モンスターを退治しながら世界をまわっているらしい。
いわゆる冒険者というものかしら?
行く当てもなく、モンスターに憎悪を抱いていた私は
彼女達に頼み、パーティーに加えてもらった。
「私はディアナ。よろしくお願いします」
軽く微笑みながら手を出した。
「私はクローディア」
「俺の名はグレイ…」
二人は軽く握手すると、一言だけそう呟いた。
無表情で無愛想。その時はさすがにそれ以上喋る気はしなかったわ。
まぁ、私はモンスターに復讐さえ出来ればいいのだから、別にいいのだけど。
それから旅は順調だったわ。
モンスターを倒しては報酬を得る毎日。
中には命乞いをしてくるものもいて、可笑しかった。
「あの時」は私達が無抵抗でも容赦なく襲い、食い散らかしたくせに。
当然許すわけもなく、笑いながら斬り捨ててあげたわ。
死ぬ間際に見せる悲しそうな目が、私の乾いた心を震わせた…
クローディアとも初めのうちは距離をおいていたけど、次第に打ち解け
互いに笑顔で話ができる間柄になっていた。
そうしていくうちに、悲しみや絶望に溢れていた私の心も次第に落ち着いていったわ。
でも、旅を続けていくうちに私の中に疑問が浮かんできた。
何故グレイはクローディアと旅をしているのかしら?
荒削りだけどこれ程の腕前があるのなら、もっといい仕事もある筈なのに。
あの子の事が…好きだから?
それに、クローディアの指に光る指輪…冒険者がしているに物にしてはあまりに不釣合い。
時折、暗殺者のような者達がクローディアを狙っているように襲い掛かってくるのも気になっていた。
…その時は何も分らなかったわ。そう何も。
真実が語られる「あの日」が来るまでは。
すべてを理解したあの瞬間から、あの女を見る目が憎悪と嫉妬へと変わったのよ…
「あの日」も普段通り日常が終わり、宿に泊まった。
男部屋と女部屋に分かれて泊まるのも普段と一緒。
まぁ、男はグレイしかいないのだけど。
でも「あの日」は少しだけ日常と違ったわ。
ベットに入り、目を塞ぐと「クローディア」と呼ぶ声が聞こえた。
何度目をふさいでも聞こえてくる。周りに誰かいて、ささやいてくるように。
「オウル!」
そう叫ぶと、クローディアが起き上がった。
「クローディア、貴方も聞こえたの?」
うなずくクローディア。私だけじゃなかったのね、と安心する。
「ごめんなさい、私は迷いの森に帰らなければならないわ。
森の魔女…オウルが呼んでいるの」
森の魔女?確か本で読んだことがある。
バファル帝国領内にある森の神シリルが見守る迷いの森。
そこに森の番人として魔女が住んでいると。
…この子がその魔女と知り合いだったなんて。
一人でも行く。と言い張るクローディア。とにかく行ってみるしかない。
グレイをつれて、夜も覚めやらぬうちに宿を飛び出した。
迷いの森最深部。クローディアがいなければきっと迷っていたわ。
そこに、痩せこけ酷く老いた老婆が立っていた。
クローディアが老婆に声をかける。
「オウル!」
「…やっと帰ってきおったか、ワシはもうすぐ死ぬ。
お前の役に立つか分らんが、昔話をしてやろう……」
すると、老婆は大変な事を語りだした。
クローディアがバファル帝国の皇女である事。
跡継ぎとして狙われたために、この森に預けられ育てられた事。
彼女のしている指輪は帝国の皇女の証である事。
…私の中で、全ての疑問の歯車が噛み合った。
グレイは彼女の護衛をしている。だから離れなかった。
時折、襲ってきた暗殺者達は跡継ぎである彼女の抹殺が目的だった。
普通の人なら…こんな話を聞いても驚きだけで終わりだったでしょう。
…。
だけど私の心の中には…クリスタルシティで感じたモノが再びわいてきた。
何よ、この差は。
私だってイスマス城主ルドルフの娘だったのよ。
お母様はいつも言っていたわ。
「貴方ははイスマスを継ぐ大切な子なのよ」と。
だから私は遊びもせず毎日のように勉強や剣技、作法を覚えた。
この女(クローディア)が森でのうのうと遊んでいた時もずっと。
…その責任を背負って生きていくつもりだったから。
2倍ほど身長の違う大人がひしめく舞踏会で踊る事もあった。
私はその中でいつも屈託の無い「偽りの」笑顔でいた。
大人の顔色をいつも窺い、機嫌をとる事ばかり考えていたから。
年齢が10歳も違う女にわざとドレスの裾を踏まれて転んだ事もあったわ。
「さすが、難攻不落のイスマスを継ぐお姫様。転んでも傷一つないわね」
嫌味だった。それにも…私は笑顔で返したのよ。
でも、アルベルトが生まれ状況が変わった。
同じように舞踏会へ行けば「アルベルトは元気?」ばかり。私は何なの?
あの嫌味を言った女はにっこり笑うとこう言った。
「その若さでご隠居できて結構な事ね。羨ましいわ」
憎かった。まるで私の人生が終わったかのような物言い。
どうして私が跡継ぎでは駄目なの?私が駄目でこの女なら何故いいの?
勉学だってこの女の何十倍もしてる。私のほうが上じゃない。
男ではないから?女だから?だったら目の前にいる女はなぜ帝国の皇女になれるの?
同じ女であるのにこの差は何なの?ふざけないで………!!
…怒りに震えている間に魔女は死んでいたわ。
クローディアは微かに泣いていた。でもそんな事、私にはどうでもいいことだった。
その日は冒険もせず宿へ泊まった。
グレイが言うには「あいつ(クローディア)が随分落ち込んでいるから、少し休ませたほうがいい」らしいわ。
脆いわね。私なんか全てを失っても一人で歩いたというのに。
すでに無きイスマスとバファル帝国。比べたってしょうがないし、
私の気持ちがただの嫉妬だって分っている。けど………イライラした。
部屋でそんな事を考えていると、扉が開いた。入ってきたのはクローディアだった。
「………」
無言だった。風呂に入ってきたのか、髪が濡れていたわ。
「先に入りました」くらい言えばいいのに。
前なら気にしなかったけど、そんなどうでもいい事でも今はイライラする。
…ふと思い、私はぶしつけにクローディアに質問した。
「クローディア、貴方…自分が皇女だって聞いてどう思った?」
「…関係ない。私は皇女になんかなりたくないもの」
思いがけない返答に絶句した。何を言っているの、この女は?
なりたくない?なりたくないですって?
私の様になりたくてもなれぬ者もいるというのに!!
「……………どうして?」
私はこみ上げる怒りを抑えて、理由を聞く。
「嫌。嫌なの!!私はただのクローディアでいたい。
どうして私なの!?こんな…運命なんて知りたくなかった!」
怒気を含んだ声を上げるクローディア。だけど私には何が嫌なのか分らなかった。
嫌?嫌嫌嫌嫌嫌???有望な将来を恵まれた人生を約束されているというのに嫌?
なにが、なにがよ?ええ?言ってみなさいよ!!
怒りの爆発した私は、彼女が座るベットまで近づいて思いっきり顔を平手打ちをした。
「きゃあっ!?」
叩いた方向に向かって倒れこむクローディア。見ると、片方の頬が赤くはれていたわ。
私はクローディアの髪の毛を無造作に右手で掴むとぐいと持ち上げた。
「いっ…た…」
髪の毛をつかまれ苦悶の表情をしている彼女を見て微笑み、紅くはれた頬をペロっと舐めてあげる。
「………そう。嫌なのね?じゃあ、私が貴方が皇女になれないようにしてあげるわ………」
「な…何を…」
反論しようと開けた口を唇で塞ぐ。
「んっ!?ん…んぐっ、んんん…」
舌を入れて口内を犯す。私とクローディアの舌が絡む…とても柔らかかった。
それと同時にクローディアの服を脱がし始める。
風呂上りで寝巻一枚だったから、脱がすのはとても簡単だった。
そっと…クローディアの胸に手を伸ばす。
「んーっ!?んんっ、ぷはっ!や、やめて!」
私の接吻から必死で離れ、抵抗するクローディア。
私は微笑むと耳元でこう囁いた。
「そんなに騒いでいいの…?隣の部屋まで聞こえるかもしれないわよ?」
「!!」
隣の部屋はグレイ。宿の壁はあまり厚くなく、大声さえあげれば聞こえそうだった。
「どうしたの?助けに来てくれるかもしれないわよ?
でも…今の姿を見られたら……彼はどう思うかしらね?」
声を上げられない事を分っていながら、わざと煽る。
するとクローディアは黙り込んでしまった。私は再び彼女の胸を触り始める。
「……っ…う…」
ああ、やっぱり。思ったとおり。この女、あの男に惚れてるわ。
あまりの健気さに笑みが止まらない。と同時にその恋心に腹が立つ。
…わざと形が変形するほど力強く胸を揉んでやる。
「あくっ…いっ…た……ああっ!」
苦痛とは違う声を一瞬あげるクローディア。
「ふふっ…いい声出せるじゃない。ゾクゾクしてくるわ」
右手は胸をもみくだしながら左手は下腹部へと手を延ばした。
秘所に触れるとクローディアの体が過敏に反応する。
若干濡れていた。私は愛液を自分の指につけるとクローディアの口内へ突っ込んだ。
「んっ…!?」
「舐めなさい」
クローディアは指を突っ込まれながら拒絶する。
「い…や…」
呆れた。まだ反抗するなんて。その態度に苛立ちを覚える。
私は右手を胸から離すとクローディアの首へ伸ばし鷲づかみにした。
「嫌じゃないの。わかるでしょう?」
右手に若干の力を込める。このまま力を込めれば窒息死くらいできなくない。
「勘違いしないでほしいわね。私は貴方を喜ばせるためにやってるわけじゃないの」
殺意すら感じさせる目で睨む。するとクローディアは脅えた様子で指を舐めた。
そう…こうして主と従者という関係をわからせないと後々困るものね。
「どう、貴方の愛液のお味は?結構私は好きよ?この味…」
私は口から指を抜き取りその指を舐める。そして再び秘所を刺激した。
「んっ…んああっ…」
クローディアはもう抵抗をやめたのか素直に感じ始めた。
ゆっくり、花弁の隙間に指を入れていく。すると途中で壁のような何かに当たった。
「ふふっ」
自然と私は笑みがこぼれた。やっぱり処女だったのね。でも…今日は壊しはしないわ。
指を少し抜き、豆のように膨らんだ場所を執拗に弄る。
「今日はこれで終わりにしてあげる」
「ふっ、ぁあ…ん…やぁぁぁ…そこ…は…」
クリトリスが好きなのか、さっきより声をあげ始めた。
「あっ、やっ、な、何これ…な、何かくる…も、もう変になる…あっ!」
絶頂というものを知らず怖いのか、私に抱きついてくる。
そっと右手を回して抱き返してあげるとギュッと掴んできた。なんて可愛いのかしら。
「いい子ね。いいわ、いきなさい。そのまま…」
「…っあ、あぁあああっ!」
絶頂を迎えたのか体を振るわせるクローディア。
そしてそのまま糸の切れた人形のようにベットに倒れこんだ。
「…今日はこのまま眠りなさい。私が抱いていてあげるわ」
「すー…すー…」
私の横でクローディアが寝息をたてている。
その横顔が妙に愛しく見え、頬にキスをした。
…堕としてあげる。私無しでは生きられなくしてあげる。
もう、お前は皇女なんかじゃないわ。私のモノよ…