「んっ、くぅ…ああっ!」  
 俺の上でまたクローディアが果てた。  
 もう何回目だったか、それも覚えてねえ。  
「っ…ふぅ……はぁ…はぁ…」  
 息を切らしながらも、抱きつき再び求めてくる。  
 このまま離れたくないって言いたげに。  
 …俺だって離れたくねえ。離したくねえよ。  
 お前は俺が惚れた最愛の女性なんだ…  
「疲れただろ?代わってやるよ」  
「う、うん…お願い……」  
 俺は体を起こして騎乗位の体勢を崩し、クローディアをベットへ寝かせる。  
 とろけた表情をしている彼女を見ていると、愛しくてしょうがない。  
 俺は性交中である事も忘れ、背中に手を回して抱きしめた。  
 ずっとこのまま抱きしめ続けられていたら…そんな想いが俺を支配する。  
「ホーク…?」  
 不安そうにクローディアが問いかけてきた。  
「…っと、すまねえ。お前さんがあんまり可愛く見えたんでな」  
「もう……」  
 苦笑いする俺に微笑むクローディア。  
 …こうやって抱いてやれるのも、笑顔を見れるのもこれが最後なんだよな。  
 
 俺がクローディアと出会ったのはゴールドマインのPUBだった。  
 酔っ払いが絡んでたのを助けたんだっけか。  
 もっとも、絡まれてた本人は何が起ってるのかさっぱり分ってなかったみたいだが。  
 聞けば今まで森で暮らしてたらしく、世間を知らないらしい。  
 俺は彼女を冒険に誘った。世界を見てみないか?ってな。  
 …正直に言えばちょっと一目惚れしてたんだが。  
 いろいろな場所へ行き、色々な出来事を解決するうち  
 次第に俺たちは打ち解け、互いに惹かれるようになっていた。  
 このまま一生こいつと一緒に添い遂げられたらいいって…そう思ってたぜ。  
 迷いの森でクローディアの出生の秘密を聞くまでは……  
 ショックだった。あいつが皇女だったなんて、嘘であってほしかった。  
 海賊と皇女の恋なんか…許されるわけねえ。  
 それでも…俺達は離れようとはしなかった。  
 この冒険が終わるまで…互いが「冒険者」でいる間は  
 こうして傍で一緒にいよう。そう二人で誓い合った。  
 
 …だが、それも終わりだ。明日はサルーインとの決戦の日。  
 サルーインに敗れるなんて事は考えもしねえし、怖くもなかったが  
 それより…その後に訪れる別れのほうが怖かった。  
 これが終われば、クローディアは皇女としてバファルへ戻る。  
 俺もそうだ。海賊として…また海へ戻っていく。  
 こうなるって事は決めた事だ。………だがよ、解せねえ。  
 今、俺の横で寝ている最愛の女となんで別れなきゃならねえんだよ。  
 理屈は分る。だが、理屈で片付く話じゃねえんだ。  
 
 …寝れねえ。俺はクローディアを起こさないように起きると  
 宿の屋上にあるベランダへ向かった。  
 夜空は雲ひとつなく星が輝いていた。普段なら綺麗だとか思うだろうが  
 そんな感慨に浸る余裕は俺にはなかった。  
「…眠れませんか?」  
 後ろから声がしてハッとする。振り向くと…ゲラ=ハがいた。  
「あーそりゃ……明日は最終決戦だしな」  
 内心はクローディアで一杯なのだが、言える筈が無い。  
「嘘をついてますね、キャプテン。  
  どうせ、クローディア殿のことでしょう」  
「うっ…」  
 図星をさされ、俺は頭をかく。  
「…お前には嘘つけねえな」  
「キャプテンとは長いですから。大体分ります」  
 俺はため息ついて、半ば自棄気味に全部話す。  
 他人に言えば少しは楽になるだろ。という気持ちからだった。  
 
「俺は海賊であいつは皇女だ。だから、この最終決戦が終わったら俺達は別れる。  
 …それがどうしても納得できねえ。それだけだ」  
「…」  
 ゲラ=ハは少し黙ると、口を開いた。  
「どうしてそれで別れなければならないんですか?」  
「身分が全然違うじゃねえか」  
「…身分が違うから一緒にいてはいけないんですか?」  
「そりゃそうだろ。第一、俺と一緒にいても  
   皇女みたいな裕福な生活させてやれねえし…幸せじゃないだろ」  
「幸せ…裕福だったら幸せなんですか?  
  では、今までの冒険は幸せじゃなかったんですね。  
  キャプテンとクローディア殿が二人でいる時も…幸せじゃなかったんですね?」    
 最後の言葉を聞いてイラッとした俺は思わず怒鳴った。  
「そんなわけねえだろ!」  
「…その怒鳴り声を聞いて安心しました」  
 ゲラ=ハはそう言うと部屋に戻っていこうとする。  
「おい、ゲラ=ハ…」  
「キャプテン。彼女の幸せが何か考えてあげてください。  
  そして、私達は海賊なのです。欲しい物は奪う。…そうではないですか?」  
 ハッとした。俺は何を悩んでいたんだろうと。  
 …………どうやら、俺は陸に上がりすぎて海賊の誇りを忘れていたらしい。  
「…ありがとよ」  
「いえ、元のキャプテンに戻ってなによりです。  
  …ああ、それともう一つ」  
「ん、何だ?」  
「…お二人で楽しまれるのは結構ですが、もう少し声を落されたほうがいいですよ」  
「なっ…!?てめえ、聞いてやがったのか…」  
「ゲッコ族は基本的に耳がいいですから」  
 そう言うとゲラ=ハは屋上のベランダから出て行った。  
 俺は舌打ちすると、床を蹴って恥ずかしさに頭を抱えた…  
 
 
 
 俺は陽の光を感じ目を覚ました。  
「…うし」  
 俺は決めていた。欲しい物は奪う…上等じゃねえか。  
 皇女になんかさせねえ。……俺のクローディアなんだ。  
 起き上がり、最終決戦に向け服を着替える。  
「ホーク…?」  
 物音を感じたのか、目を覚ますクローディア。  
「っと…起こしちまったか」  
「…いよいよ今日なのね」  
「ああ、いよいよ今日で終わりだ」  
 それを聞いてクローディア少し俯く。  
「これが終わったら…私達…」  
 全てを言い切る前に、俺は抱きしめた。  
「…大丈夫だ。何もお前が心配する事はねえ。ねえんだ」  
「ホーク………うん…」  
 泣くのを堪え、震える彼女を抱きしめながら俺は確信した。  
「(やっぱりこいつを…手放したくねえ……)」  
 俺は意を決し、クローディアに想いをぶちまけようとする。  
「クローディア、あのよ………」  
「…?」  
 ……どう言えばいいんだ?  
 困った事に頭の中にこれだ!と思う言葉がまったく浮かんでこない。  
 考えてなかった。いや、考えてたはずなんだが。  
  『俺から一生離れるな!!』  
  『一生ついてこい!!』  
 …なんか違うな。  
「あー……いや…あのな…」   
 しどろもどろしていると、ノックも無しでいきなりバタンと部屋の扉が開いた。  
 
「おっはよー、起きてるー?って…まーだやってたの?  
 まったく。夜から元気な事だよね」  
 入ってきたのはPTのミリアム。俺はとっさにクローディアから離れる。  
 こいつは空気が読めないのか。それともただの冷やかしか?  
 …というか、ちょっと待て。  
「おい…夜からってどういう意味だ?」  
「うーん、どういう意味?ねえ、アルベルト?」  
「わ、私に聞かないでください!」  
 よく見ると、後ろにゲラ=ハとアルベルトもいやがる。  
 揃いもそろって何なんだこいつらは。  
「ゲラ=ハ。お前…昨晩の事言いやがったのか!」  
 表情一つ変えず首を振るゲラ=ハ。  
「まさか。お二人とも遅すぎるので起しに来たんです。  
 …言っておきますが、もう既に出発時間を過ぎてるんですよ」  
 俺はカーテンを開けて窓の外を見た。…日がかなり上がっている。  
 どうやら、散々夜更かししたせいで寝坊してたらしい。  
「そうそう。気を遣って待ってたあたい達に感謝してよ!  
 それにしても…昨晩の事……ね〜」  
 ニヤニヤしながらジーっと俺を見つめるミリアム。  
「だ、だからだ…そう。俺はただ相談にだな…」  
 身振り手振りで言い訳をする。何やってるんだ俺は。  
「…言い訳は見苦しいですよキャプテン。  
 ちなみに何を言ってもバレてますから。  
 言ったでしょう。もう少し声を落したほうがいいと」  
 止めを刺されガクッと肩を落とす。  
 クローディアの方は…そんな俺を見てクスクスと笑っていた。  
 どうやらうろたえていたのは自分一人だけだったらしい。  
 そう思うと急に恥ずかしくなる。  
「はいはい!そこまで。二人ともさっさと準備する!」  
 
 ミリアムに言われるがままに急いで出立の準備を始める。  
 まさか最終決戦でミリアムに仕切られるとは思わなかった。  
 渋々、武器を出そうと道具袋の方を向く。  
 すると、ミリアムにいきなり首根っこをつかまれ引き寄せられた。   
「…で、これだけ待ってたんだから ちゃんと伝えたよね?」  
 クローディアの方を気にしながら小声でささやいて来るが、意味が分らない。  
「何がだよ」  
「だーかーら。ちゃんと気持ち伝えたのよね?って言ってるの。  
 …戻す気無いんでしょ?皇女として」  
 俺の心を見透かしているかのように微笑むミリアム。…心が読める魔法でもあるのか。  
「…言ってねえよ」  
「は?」  
「だから、言えなかったんだよ」  
 どっかの誰かさんが乱入したせいで。と言おうかと思ったがやめる。  
「…あのね。この旅終わったらクローディア行っちゃうんだよ?いいの?」  
「よくねえ。ただ…どう言えばいいか分んねえんだよ」  
「行くなー!とか、一緒にいろー!って言えばいいだけじゃん」  
「…そんなんでいいのか?」  
「じゅ〜ぶん、十分」  
「きりっとした、かっこいい事でも言わなきゃいけないって思ってたぜ…」  
「…素直な気持ちにかっこいいもかっこ悪いもあるわけ?」  
「いや、ねえけどよ…」  
「あ〜もしかしてさ…ホークってクローディアに  
  『好きだ』とか『愛してる』とか一回も言ったこと無いでしょ」  
 俺はギクッとした。…そういえば一回も言ってねえ。  
 付き合い始めたときも、別れを誓い合った時も言ってなかった。  
「…気持ちが通じてれば言葉はいらないんじゃないのか?」  
「そーいうのって、男は本当に分ってないよね〜女は言ってほしいんだよ?  
 気持ちの繋がりなんて、言葉にしなきゃ曖昧すぎて分んないじゃん!  
 今回の事も一緒!本当は『行くな』って引き止めてほしがってるのよ。わかった?」  
 そう言うとミリアムはクローディアのところへ歩いていく。  
 俺は安堵の息をつきながら、心の中で激励してくれたミリアムに「ありがとよ」と礼を言った。  
 
 
「神に勝てるつもりか?」  
 自信満々に語っていた通り、サルイーンの野郎は強かった。  
 だが、俺達も負ける訳にはいかない。  
 戦い初めて何時間たったか…  
 俺達もかなりへばってたが、確実にサルーインの奴も傷ついていた。  
 アルベルト・ゲラ=ハ・ミリアムの連携が決まりサルーインがのけぞる。  
 止めを刺すなら、今だ。  
「1000年眠ってたんだ。もうちょっと眠ったっていいだろ!」  
 俺は愛用の片手斧を振り上げると、奴の頭めがけて突っ込む。  
「おのれ、人間の分際で…!!なめるな!」  
 サルーインの右手が光る。―――間に合わねえ。  
 その時俺の横を一筋の光が飛んでいった。……クローディアの矢だ。  
「ぐああっ!」  
 矢は右手に直撃し、奴の動きが止まる。  
「目の前ばかりに気を取られ過ぎだぜ。悪いが、俺には仲間がいるんだ!」  
 サルーインの頭に渾身の力を込めて斧を振り下ろす。  
「ぐああああああああっ、おのぉおおれぇぇぇっ!!」  
 奴の体が光に包まれ視界が真っ白になる。  
 その後のことは良く覚えていねえ。  
 …気がついた時には、崩壊したイスマスの前にいた。  
 
「終わったのね…」  
 感慨深そうに言うクローディア。  
「…そうですね」  
「我らの父は…再び封じられました」  
 アルベルトもゲラ=ハも安堵の表情。  
「あたい達もやれば出来るってことだね」  
 腰に両手をあてて胸を張るミリアム。  
「…」  
 だが俺は…何もいえなかった。  
 後ろを向いてこちらを向こうとしないクローディアに  
 声をかけるきっかけを見つけられなかったからだ。  
 先に喋ったのは…彼女の方だった。  
「じゃあ、私は行くわ。…今までありがとう………さようなら」  
 そう言うと俺の方も向かず去ろうとする。  
 だめだ、行かせねえ。  
「待てよ!」  
 俺は離れたくない一心で声を荒げる。  
「…どうして引き止めるのよ。私達、誓い合ったじゃない。  
  決めたじゃない………受け入れる覚悟を……  
  私は皇女。貴方は海賊…もう、住む世界が違…」  
 
「そうじゃねえ!!  
  俺は最初、お前が皇女に戻って生きる事…その方が幸せになるだろうって思ってた。  
  だから冒険が終わるまでなんて期限決めて、その間だけでも一緒に過ごせば  
  思い出ができて…それで良かったんだって思ってた。  
  だけど、だけどよ。それはお前を……皇女だって無理矢理思おうとしてるだけだった。  
  俺の気持ちを押し殺そうとしてるだけだった。  
  皇女だろうが、なんだろうが関係ない。  
  俺は…その…なんだ。お前が……お前自身が好きなんだ!愛してるんだ!!」  
「!!」  
「だから…俺の傍にいてくれ。離れないでくれ。お前がいない人生なんか…耐えられねえ」  
 クローディアを見つめる。相変わらず背中を向けていたが  
 肩が少し、震えていた。  
「……どうして…そんな事今頃言うの……  
  私だって…貴方の事が…ホークが大好きよ。でも…好きでも……離れなきゃって…私…私…」  
 俺は今にも泣きそうなクローディアを抱きしめた。  
「辛い思いさせてすまねえ。泣くなら、俺の胸で泣いてくれ。  
  ………これからはいつでも貸すからよ」  
 

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