「エレン、伏せろ!」
俺は叫んだが、それは遅すぎた。
見えたのは、一瞬の閃き。青白い煙のようなもので形作られた龍のあぎとが、彼女に勢いよく衝突する。
彼女は咄嗟に身をよじり、その龍の鋭い牙からは逃れたが、その代償として、バランスを崩した体に思い
切り龍の体当たりを食らった。結果、彼女の体は宙を浮き、後方の岩壁に背中からぶつかる。一呼吸の喘
ぎを残し、彼女はそのまま動かなくなった。髪留めが外れたんだろう、ポニーテールに結わえられていた
流れるような茶の髪が、力なく広がる。
俺は舌打ちする間もなく、前方に文字通り身を投げ出す。視界が目まぐるしく転がる中、背中から、つ
まりさっきまで俺のいた場所から、爆発するような音が響いた。態勢を整えながら振り向くと、そこには
小さなクレーターが出来ている。そしてそこから、例の煙のような龍――あるいは龍のような煙が、金属
音にも似た甲高い咆哮を上げて、俺に向けて突進してきた。
そして俺も、それに合わせて踏み込む。
あとは単純に、素早さと反応の勝負だった。龍の牙を、俺は倒れ込みそうなまでに身をかがめてかわす。
左の肩口にかすったようで、かすかに痛んだ。そして上体を上げながら、さらに踏み込み、踏み込み、踏
み込む。すれ違いざまに龍の赤く光る瞳を視界の端で捉え、俺はそこに無我夢中で剣を振るった。
勝負はつまり、俺の勝ちだった。俺の肩には血が滲み、しかしそれと同時に龍の断末魔を聞く。さっき
の咆哮よりもうひとつ高く、もうひとつ大きい最期の悲鳴。余裕があるなら耳を塞いでるところだ。
振り返れば、煙の龍が音もなく掻き消えていく。
そしてその先に見える人影に、俺は剣を握り直した。
腰まで届きそうな金髪。
尖った耳。
美しい顔立ち。
肩口と片足を露出させた赤いドレス。
それはおよそ、岩と淀んだ空気だけの洞窟のようなこの場所には、似つかわしくない人物に見える。こ
こがあの、魔王聖王伝説の中でしか名前を聞くことの無い、アビス――闇と死の世界なら、尚更だろう。
どこぞの城なり屋敷なりの、綺麗に整えられた自室で、猫でも撫でてるべきってもんだ。
だがこいつは、深窓の令嬢なんかじゃあない。人間ですらない。
「魔龍公、ビューネイ…」
うめくように俺はその名を口にした。反応は無い。
そう、ビューネイ。四魔貴族の一人、魔龍公。信じられないが、今俺の目の前に存在する、厳しくも品
の良いお嬢様、とでもしか見えないそれは、その伝説の化け物そのものだ。
その化け物のそばの空間が、ゆらりと揺れる。そこには、さっきエレンを襲った龍が、主たる魔龍公を
守護するように現れていた。
あの龍は、三匹いた。うち一匹は、戦いのさなかでなんとか消し去り、もう一匹は今しがた俺が切り刻
んだ。これであとは一匹。ビューネイ本体を含め、敵はあと二体。
しかし――俺は、辺りを見回した。
岩壁に身を預け動かないエレン。槍を握り締めたまま倒れている眼鏡の男、俺の幼馴染の一人、トム…
トーマス。地面に転がった曲刀に、這いずるようにしながらも手を伸ばし、しかしもう意識はない、浅黒
い肌の男、ハリード。
そして、うつ伏せに倒れ伏す金髪の女性は、あのロアーヌのモニカ姫。プリンセスガードである俺が護
るべき、護らねばならないひとだ。
幸いにして、誰も死には至っていないのは見て取れる。しかし放っておけば確実にそうなるだろうし、
俺も彼らとほとんど変わらないコンディションだ。
眼前には、あの四魔貴族。
絶望という言葉を表すには、これほど適した状況もなかなかないだろう。
だけど。いや、だからこそ――
俺は剣を構える。
もうそれほど長い時間、俺は立っていられはしないだろう。あの龍に、疾風剣――と、あの技をそう名づ
けたのはハリードの奴だが――を繰り出せたのですら、奇跡に近かった。
次で決める。決まることになる。
――やはりおまえは、諦めはしないか…
不意に聞こえてくる声があった。不思議な感覚だった。鼓膜だけではなく、脳髄をも震わせるような。
その言葉は、俺に向けられているようで、そうではないらしい。俺が何の反応も返さないでいるうちに、
魔龍公は言葉を続ける。
つまりそれは、独り言だった。
――私は、おまえ達に倒される。哀れな虫けらどもに。何かの皮肉にも思えるが、これは、どうしようも
ないことなのだろう。それが私に課せられた、死の定めなら…
定め。死の。
今まで何度聞いてきたか解らないその言葉に、俺はどうしようもない憤りを感じた。奴は絶望している。
俺たちより強大な力を持ち、事実ここまで追い詰めているにも関わらず。
まさか敵に、簡単に諦めるな、なんてことを言うつもりなんて無い。しかし何か妙な思いが、俺の中に渦
巻いてるのが解る。
定め。定め、定め、定め定め定め定め定め――
「そんなもんが、何だってんだ」
思わず俺は呟く。だけどそれは、魔龍公には聞こえなかっただろう。
奴が俺に向けて片腕を上げた。その仕草は、正直優雅だった。それに呼応して、龍が飛び掛かってくる。
奴との距離は10メートルほど。
俺は駆けた。
* * *
剣を杖代わりにして、俺はゆっくりと時間をかけて起き上がる。
くそ、終わった途端、体のあっちこっちが悲鳴を上げてる。闘ってる最中には大して感じなかったっての
に。どうせならもう少し、黙っていてくれ。
ポケットから薬瓶を取り出す。一番安物の傷薬、俺はそれを少しだけ飲んだ。倒れている仲間四人を担い
でいくのは不可能だ。こいつは五等分して、皆に分けて気を付かせてやらなきゃならない。
俺は歩き出した。一番近かったのは、モニカ様だ。
彼女のそばに膝をつこうとしたら、そのまま俺の体はモニカ様の体に倒れ込む。
まずい、何て狼藉だ。
仮にも俺はプリンセスガードだ、冗談じゃない。誰が見てるってわけじゃあないが、それでも俺は慌てて
身を起こす。
そして俺の手に何かが触れた。柔らかい。
なんだ? 俺は視線を自分の手に移し、確認する。
モニカ様の、尻。
俺は、頭の中の冷静などこかで、思考が熱くなっていくのを、他人事のように感じていた。
俺は、モニカ様の上に、ちょうど頭と足を逆にして倒れこんでいた。だから俺の目の前にはモニカ様の小
振りな尻があって、俺の股間は、ズボン越しにモニカ様の頬に触れた。
いや、違う。俺は自ら、腰をモニカ様の顔に押し付けていた。彼女の柔らかな頬の感触を知り、俺のペニ
スが屹立する。そしてそれは、モニカ様の頬を強く圧迫する。
「う…うう…ん…」
モニカ様が息苦しさに喘ぐ声が聞こえた。それは俺を、少し冷静にさせた。
ゆっくりと身を起こす。両膝を立てた状態で、深呼吸して、どうにかして意識を落ち着かせる。しかしペ
ニスは痛いほど立ったままだ。
駄目だ。俺は何を考えてんだ。そういえば何かで読んだことがある…生物は死が身近に迫ると、種を残し
たいっていう本能が強く働くとかなんとか。いや、だからなんだ、それがどうした。彼女を…モニカ様をどうす
る気でいる! ユリアン・ノール!
目をつぶる。胸に手を当て、何度も何度も深く呼吸する。俺の体は相当参ってる。それに合わせて、精神
もだ。だからってそれは、何の理由にもならない。何も正当化しない…
…もう、いいだろう。もう一度だけ、大きく息を吸い、吐き、俺はそれから目を開けた。
そして、視界に飛び込んできたものに、息を呑んだ。
俺はさっき、起きざまにスカートをめくってしまっていたらしい。モニカ様の上品な、純白…いや、少し
桃がかったショーツ。それが見える。
彼女のような身分の人間が身に付けるに相応しい、上質なそれであることは見ただけで解る。何やら複雑
な紋様も縫われている。そして、ショーツの端々からは、モニカ様の尻肉がほんの少し盛り上がっていた。
食い込んでるんだ。
俺はそれを鷲づかみにした。柔らかい…柔らかい、柔らかい! ショーツの滑るような手触りと相まって
もの凄い触感! もうこれ以上固くなるはずもないと思えたペニスは、さらに強く勃起する。
スカートをばっと全てめくり上げ、俺はショーツの中に手を突っ込んだ。指を好き放題に動かし、自由に
その尻を支配する。信じられないほど柔らかい。手汗でぬるりとした中でも、肌は吸い付くような感覚を俺
に与えてくる!
手の平には、ぬめり、しかしこのままくっついて離れないんじゃないかと思うほどの尻の柔らかさ。手の
甲には、今までモニカ様の股間や尻を覆っていた、やや汗で湿り気のあるショーツのなめらかさ。
もう、駄目だ――
「んく、はあ、ぁッ…」
――ッ!
モニカ様の声が響いて、俺は勢いよくショーツの中から手を抜いた。
そしてそのまま、思考も俺の動きも止まる。
ただ、それも一瞬だった。俺はすぐに俺のしたことを自覚した。同時に、手に残る感触の余韻を握り締め
る。
このままじゃ、駄目だ。
俺は間違いなく、モニカ・アウスバッハを、犯す。
頭を振って、俺は立ち上がった。まずは…まずは、他の奴を起こす。そうすれば俺も、今よりもう少し冷
静になれるはずだ。最悪、それでも行為に及ぼうとしたとしても、起こした誰かが止めてくれる。
そうして…俺の、目に止まったのは。
すらりと伸びた、脚だった。ぴっちりとした黒いロングスパッツに覆われたそれは、露出しているよりも
むしろ艶かしい。
シノンにいた時、何度この脚を材料にしてオナニーしようとしたか、覚えてない。ただ、一度もイったこ
とはなかった。その前に必ず、罪悪感だとか惨めさだとかの方が先に来るからだ。
だが今なら。どうにだって、できる。想像の中じゃなく…
俺はふらふらと、その脚へ、脚の主へと近づいていった。
名前を呼ぶ。
「エレン」
反応は無い。もう五歩も歩けば、辿り着く。
「エレン」
そうとも。モニカはロアーヌ領主の妹。俺はその護衛者。もっとも、ロアーヌを逃げて来た身ではあるん
だが、それにしたって、寝込みを襲うなんて笑い話にもならない。
だが、ただの村娘なら? 別に…別にいいんじゃあないか?
「エレン」
これで何度目だっけか。彼女は応えるどころか身じろぎもしない。ただ胸が、静かに上下している。
胸…胸。
「エレン」
胸。大きい。覆っているのは、薄手のシャツ一枚だけ。
あと一歩。
「エレンッ!」
俺は飛び掛った。すかさず両手で、彼女の両の太股をつかむ。揉みしだきながら、手を上にやっていく。
その先にはエレンの股間がある。
エレンの肌はモニカのそれよりもう少し固く、しかし柔軟さは損なわれていなかった。強く揉めば揉むだ
け、その分押し返してくる弾力。それでいて俺の指を柔らかく受け止める。
だけど指なんかで満足しちゃいられない。俺は自分のズボンを引き摺り下ろそうとしたが、しかし焦って
上手くいかない。思い直し、俺は股間のチャックを開くと、そこからペニスを取り出した。
俺はエレンの体を無理やり抱き起こすと、エレンの体と岩壁の間に、身を滑り込ませた。岩壁に背中を預
けて座り込む俺の上に、エレンの体が倒れこむような格好になる。
途端にペニスが、信じられない感触に包まれる!
エレンの、尻だ。モニカのものと比べて大きいそれの、盛り上がった二つの肉の間に、俺の肉棒はちょう
ど挟まるようになったのだ。そしてそこに加わるエレンの体重が、俺のペニスにどうしようもない感覚を、文
字通り押し付けてくる。
瞬時にしてこみ上げるとんでもない快楽に、しかし俺は身を委ねなかった。こんなところで出すのは勿体
なさすぎだ。もっと、もっと味わい尽くす。出すのはそれからだ。
エレンの肩口から俺は顔を出し、エレンの顔をこちらに向かせる。力なく閉じた目。少しだけ開いている
唇からは、若干よだれが垂れている。俺はそれを舐め取り、そのまま彼女の口を貪りに行く。
唇と唇と合わせ、舌を侵入させる。態勢が態勢だけにやり辛いが、そんなことはどうだっていい。
まず触れたのは歯で、俺はそれをこじ開けた。そのまま舌を進ませると、今度はエレンの舌と触れる。そ
れを舐め、俺の舌と何度も何度も絡ませる。ぬるっとした柔らかさ。肌のそれとは違う楽しみがある。
ぬちゃ、ぬちゃ、ぬちゅ、ちゅっ、ちゅ…
やがて俺はエレンの舌を解放し、唇を離した。俺とエレンの唇の間で、ひどく濃厚なよだれが糸を引き、
それはエレンの肩に落ちる。
俺は両手をエレンの尻にあてがい、少し持ち上げた。さっき俺はギリギリで射精を中断させたが、先走り
汁だけはどうしようもなかった。エレンの尻は、それでぬらつき、汚れている。汚されている。
俺が、汚した。
尻だけを持ち上げているため、エレンの体はくの字の逆のような状態だ。彼女の頭は、俺の肩辺りにだら
んともたれかかってくる。エレンの艶やかな髪が俺の鼻先を撫で、そこで俺はあることに気が付いたが、今
はそれよりもやることがある。
動きづらいが、俺は何とかペニスの位置を調整し、ゆっくりと彼女の体を下ろした。すると、俺のペニス
は彼女の股間から顔を出すようになる。
エレンの脚で、太股で、股間で、素股をする。それが、わざわざこんな態勢を取った俺の、狙いだった。
しかし腰を動かす前に、俺は地面をあちこち手探る。やがて目当てのものに触れた。エレンの髪留めだ。
さっきの戦いの時に外れ、エレンの髪はただのロングストレートになっていた。それでは駄目だ。俺はエレ
ンの髪を束ね、髪留めをつけた。これでやや不恰好ながら、いつものポニーテールになる。
いつものエレンを犯せるのだ。いつものエレンを犯す。
そして俺はエレンの尻を横からつかみ、押さえつけ、おもむろに腰を上下させた。狙い通り、俺のペニス
は、彼女のヴァギナや太股に、スパッツごしに擦られる。
シュ、シュッ、シュ、シュ、シュッ、シュッ!
やはりエレンの肉は少し固い。しかしそれでも柔らかい。相反した二つの感触は、俺のペニスを、上と左
右から刺激する。
俺はそれから、右手だけを腰から離した。片手だけじゃエレンの腰を固定させづらく、エレンの体はやた
らと浮いてしまう。だけど素股の感触はそう失われなかったし、何より俺にはそうしてでもやりたいことが
あった。
右手は、胸へ。シャツの上から、強く、夢中で押し潰すように揉んだ後、シャツの首口を掴み、力任せに
下へ引く。当然、ビリィッと音を立ててシャツは破れ、そこからエレンの胸は露わになった…はずだ。この
態勢じゃ見えないが。
でもそれはどうでも良かった。俺はともかく、エレンの胸を直につかんだ。柔らかいとかの話じゃない。
ぐにゅっと潰れ、しかし感じる弾力。むにむにとした肉の感触。吸い付く肌の手触り。
むにゅっ、むにむに、ぐに、むにっ、くにゅっ
限界はすぐに来た。もとより本当ならさっきとっくに出てるはずだったんだ。どれほども我慢できない。
俺はエレンを、俺の精液まみれにするんだ!
「エレン! エレン、エレン、エレンッ!」
ビュルル、ビュル、ビュルッ、ビュルルッ…ドクン、ドクドクン、ドクンッ…
彼女の名を小さく叫び、俺は射精した。射精しながら、俺はエレンの体を持ち上げた。
彼女の下から抜け出し、その上半身を岩壁にもたれ込むようにさせる。まだ射精は終わってない。俺は急
いで、シャツが破れ、露出したエレンの胸にペニスを擦り付けた。充分に胸を汚しきってから、今度はペニ
スを彼女の口の中に押し込む。いくらかエレンの口の中に射精して、それからさらに、彼女のポニーテール
の先をひっつかむと、そこにペニスを突っ込んだ。
その態勢のまま、五秒ほど俺は硬直し、やがて立ち上がった。心地いい脱力感が俺の体を支配していた。
見下ろすと、エレンのすべては、白い精液でめちゃくちゃに汚れきっていた。黒スパッツは白濁に滲み、
胸もあちこち汚れ、口からはだらしなく垂れ落ち、髪もあちこち白く濡れてそぼっている。
我ながらよくもこれだけの量が出たもんだ。
だが俺は、信じられないことに満足していなかった。
しかしそれもそのはずではあるんだ。こんなのはただのいたずら。それじゃ駄目だ。
本番をしないと、どうしようもない。ヴァギナにペニスを突っ込んで、子宮口まで何度も突いて、それか
ら中に射精しなければ。膣も子宮も、俺の精液で満たさなければ。
だが、一回射精したことによって、俺は少し冷静になっていた。
本当に犯すわけにはいかない。今ならまだなんとか誤魔化しも効くだろう。しかし最後まで行けば、もう
戻れるはずも無い。当然エレンは、俺を軽蔑どころではない思いで見るはずだろう。そうして俺は大切な仲
間を、最低でも一人失うことになる。
解ってる。解っているんだ、そんなことは。しかしどんな言葉を並べても、俺の怒張は収まらず、俺の意
識もセックスから離れることが無い。我慢など出来ない。
俺はエレンを見下ろしたまま立ち尽くし、しかしいずれはやがて彼女に再度襲い掛かるだろう事を自覚し
ていた。全身精液まみれのエレンを前にして、こんな冷静な思考が、そう長く続くはずがない…
――う…かふっ、あ…
声が聞こえた。
俺は、ようやくエレンから視線を離した。首だけを背後を振り向かせる。
俺が倒した、四魔貴族の一人。魔龍公ビューネイ。奴は仰向けにただただ無防備に倒れ伏している。とど
めを刺せていなかったのか。今のは奴の声に違いない。
その事実を認識した俺は、同時に、ある考えを頭によぎらせていた。
そうとも。奴なら何の問題も無い。
衰弱死するまで、犯して犯して犯しつくせばいい。
俺はきびすを返した。