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 低く鳴動する風の音に紛れ、私の曇った呼吸が空気を熱に染める。  
尚も昂ぶっていく情欲は、口内の唾液を異常に分泌させて、私は唇  
を弛緩させたまま音を立てて溜まった唾液を喉へ流した。  
「んっ──はぁ、あ、ん……っ」  
 指の腹で恥丘を優しく撫でる。それだけで甘美な刺激が生まれ、  
私の口から色気の声が漏れ出てゆく。本能の赴くまま、乱れた衣服  
の合間にもう一方の掌を差し込み、赤く上気した乳房を捉える。慣  
れた手付きで片方の果実を可愛がり、下腹部では続けて陰部から快  
楽を貪る。  
 我慢など必要ない。陰部へ伸ばしていた指先で膣口の上部に実る  
核に触れると、全身に痛烈で淫悦な紫電が迸った。  
「──あぁっ! ん、ふぅ、あぅ……ひぁ、あぁ、ん……」  
 絶え間無い官能の疼きが、視界の輪郭を溶かしてゆく。濃密な魔  
力によって歪に変色した暗桜色の岩壁も、その精神の高揚によって  
更に歪み、陽炎の如く見えていた。激しい心臓の鼓動によって上下  
する胸部の膨らみを愉しみながら、包皮を剥いて露にした小突起を  
弄ぶ。吐き出されていく悲鳴のような矯正を無意識に抑えようとす  
る理性と、相反する惜しげもなく喘ぎたい欲求が意識の中で衝突し  
て悦の螺旋を描いて昇天する。  
「はぅ……ん、ふぁ……あっ」  
 乳房に置いた指を、中心にある小さな紅色の領域に導く。硬く興  
奮した乳頭を弾き、様々な手法で快感を得ようと試みる。だらしな  
く身体を地面に転がし、私は両手で性欲の充実を続けてゆく。  
 陰部の付近は既に愛液に濡れ、妖艶な照りを広げていた。股間へ  
と忍ばせていた片手を一度もう一つの乳房へと移動させ、揃った両  
手で激しく膨らみを揉みしだく。性器からとはまた違った甘く切な  
い悦びが、私の脳髄を濃厚な熱で冒してくる。  
「──えっ!? こ、こら、お前達……あ、あぁっ!」  
 何者かによって強引に脚部が展開されたかと思うと、生温い湿っ  
た感触が愛液を吸った陰唇を撫でた。目の端に涙を浮かべた私の瞳  
は、実体の曖昧な三匹の獣を映していた。うち二匹は私の両脚を咥  
えて外へと引き剥がし、残る一匹が股間に頭部を埋めて性器への愛  
撫を始めている。  
 
2  
 口では咎める私だが、何時もの如くその抵抗も徐々に更なる刺激を求める  
嬌声へと変わっていく。両腕を胸部への愛撫に没頭させながら、私は恥じら  
いもなく誘うように腰を揺すっていた。  
「そ、そう……そこぉ、あん、いい、いいよぉ……う、ん、もっと、舐め、  
て──ひぁうっ」  
 私の途切れ途切れのたどたどしい指示に、愛撫を担当する守護霊獣は無反  
応めいた従いを見せる。両脚を大きく広げられた姿勢で、自分の意思の届か  
ない一方的な責めに、私は自慰では得られない深い官能に浸っていた。何時  
しか手は乳房から離れ、人差し指の腹を唇で甘く噛んでいた。腰が断続的に  
浮き沈みを繰り返し、守護聖獣は黙々と私への奉仕を続けてくれる。反り返  
った喉は女の悦びを奏で、肢体は虚脱を強めていった。  
「いやぁ、駄目っ──舌が、中にぃ……」  
 ざらついた粘膜が狭い膣内に侵入し、敏感な神経が待ち侘びたように戦慄  
く。上体を横向けに転がせた私は守護聖獣に全てを委ね、膣を舐め回される  
度に身体を小刻みに震わせる。時折外へと引き抜かれる舌は荒々しく陰唇と  
突起に及び、多彩な刺激の彩りを私に与えてくる。無様に脚を開放し、ただ  
快楽を求める自らの痴態を想像しただけで膣が僅かな収縮を見せ、より多く  
の蜜を分泌させてゆく。  
「はぁ……ぁ、あぅ、んんっ」  
 私の両脚を固めていた二匹の守護聖獣も、愛撫に参加した。地面へとへた  
り込んだ脚に力を入れる余裕など無い。逆に、私は自分から限界近くまで開  
脚させていた。仰向けになり、役割に迷う二匹を胸部へと誘導する。何も言  
う事無く、二匹の獣は私の胸へ食らい付き、容赦の無い口撃を開始してきた。  
「んっ、はぁ──っ、はぁ、ん、ああっ、あっ、気持ち、いいっ……もっと、  
してぇ」  
 陰部と両胸を同時に責められ、洪水のように溢れ出る恥辱と快感が根源ま  
で混ざり合っていく。四肢が痙攣し、身体の奥から閃光のような光明が固く  
閉じた目に浮かんでくる。腰の反応も荒く乱れ、膣から染み出た蜜は大腿に  
まで垂れ、淫靡な照り筋を形成していた。  
「やぁっ、イく、私──あ、あぁぁっ、あぁ──!」  
 腰が激しく脈動し、天空へと生気が吸い取られていくような快楽の爆発が  
起こったと同時に私は力の限り雌の鳴き声を上げていた。私が絶頂を迎えた  
と察した三匹の守護聖獣は、意思も感情も宿っていない無機質な瞳で、弛緩  
した口から唾液を垂らしながら倒れ込んでいる私の姿を見遣っていた。私の  
満足感に満ちた激しい呼吸音が、自慰の終了を告げていた。  
 汗ばんだ身体に殆ど脱ぎかけていたローブを纏わせ、陰部から足の筋へと  
浸食している蜜も放置し、私は火照った身体に残る官能の余韻に微睡んでい  
た。  
 
3  
「何たる事だ、魔龍公よ。人肌が恋しいのならば、儂が何時でも何処でも如  
何なる時も何度でもそう何度でも相手になってやるというのに」  
「人の性欲処理を覗いておいて第一声がそれかエロジジィ──失敬、もとい  
魔炎長」  
 自慰から暫く経った頃、澄まして現れた浮かぶ炎の変態に、私は厳しい返  
答を放っていた。  
「のぅ魔龍公よ」  
「何だ」  
「セックスをしようではないか」  
「……」  
 ……。ふむ、少しばかり私の前言語野は言語認識に障害が起きているよう  
だ。と言う事にしておくべきだな。  
「聴こえぬ振りをしても無駄じゃよ、魔龍公」  
 下半身が炎と言うアビス屈指の変態が、ゆらゆらと浮遊したままでこちら  
へ接近してくる。私が視線の圧力を高めて「それ以上の接近=即死」を通告  
すると、魔炎長はクイックタイムをかけられたかのように一瞬で制止した。  
爺、弱っ。  
「のぅ魔龍公」  
「……何だ」  
「セックスを、しようではないか」  
「……断る」  
「それは聞けん。儂と主が交わるのは、運命だからじゃ。運命と書いてサダ  
メと読む。そう、運命には何人も逆らえんよ」  
 ニタニタと欲情丸出しの不快な笑みを浮かべながら、この浮かぶ性欲は下  
らない寝言を言ってくる。この頭痛は、魔炎長からの新手の魔力干渉か?  
「預言を都合よく解釈するな。とっとと消えろ魔炎長、貴様が居る空間は無  
駄に酸素の消費が激しい、加えて単に目障りだ」  
「なんと、儂はこんなにも主を愛しておるというのに」  
「至って普通に迷惑だ。そして性欲と愛を混同するな」  
「ふむ。なに、儂の機能は心配するな。先程な、魔戦士公からベルセルクを  
教授してもろうた。最低でも五ラウンドは逝けるであろう」  
 魔炎長は会話に脈略の無い展開を繰り出し、荘厳に頷いていた。いや、頷  
くな。  
「アラケス殿も何をやっているのだ……」  
 私は軽く項垂れ、隣の異空間で飽きもせず武術の鍛錬を行っている筋肉馬  
鹿──もとい魔戦士公に届かぬ愚痴を吐いた。恐らく、しつこく縋ってくる  
老い耄れにうんざりし、渋々話に乗ったのだろう。  
「更にリヴァイヴァで性欲を蘇生させる事が出来る。不服はあるまい?」  
「胡散臭い通販業者か貴様は。不服はあるまい、だと? 不服の無さを発見  
する事が極めて困難だ」  
「なんと。魔龍公よ、通信販売などという俗世間の文化を口にするではない。  
我等は誇り高きアビスを統べる魔貴族なのだぞ」  
 貴様こそ、通販の正式名称を淀みなく言えるだろうが。  
 
 
4(おまけ続き)  
「誇り高い魔貴族の自覚があるなら、四六時中発動している性欲を消せ。つ  
いでにその炎も消して枯れ果ててくれ」  
 これ以上の痴呆の相手も馬鹿らしくなり、私はぞんざいに手を振って退去  
を命じる。  
「魔龍公」  
「…………何だ」  
「セックス、を、しようではないか」  
「そうか、それが遺言か魔エロ長」  
 私が風の地相と化しているこの空間から、膨大な量の魔力素を収集させて  
いく。  
「今から全力のアースライザーでも放ってみようと思うが、貴様に当たって  
貴様が血肉と化しても愉快な奇跡だな」  
「まぁ待て魔龍公、落ち着け。儂はただ主とセックスがしたいと言っておる  
だけだぞ?」  
「……」  
 私の怒り、その最大の原因ではないか……。  
「本音を言うが……アビスの者の私とて女だ、そういった行為は心を許した  
者としたいのだ、解ってくれ。というわけで、自殺でもして楽しく余生を過  
ごしてくれ魔炎長」  
「なんと。魔龍公は未体験と申すか? 儂はてっきり、主はかつての魔王殿  
の肉奴隷とばかり思うておったが」  
「それが、ランス地方へ温泉旅行に行った際、魔王殿と共謀して私の貞操を  
奪おうとした貴様に言えた事か? くっ……あの時、貴様達から逃げる為に  
ドーラに借りを作った屈辱、今ここで晴らしてやろうか」  
「はいはいはいはい、ビューネイもそろそろ本気で機嫌悪くなってきてます  
よアウナス老。行きましょう」  
 私と正面のただの痴呆を隔てるように、無邪気な笑みを浮かべた魔海候が  
何も無い空間から現出してくる。そのまま馬鹿の襟首を掴み、性欲以外が老  
い耄れたギリギリ魔貴族を出口へと引っ張っていく。  
「ぬぅぅ、離せ若造。儂はまだ魔龍公と話が、肝心の本番がまだなのじゃ。  
ええい強引に引き摺るな、もっと年寄りを労われ小僧っ」  
「あ、急にメイルシュトロームをやりたくなってきた。何故か今暑いから、  
涼みになると思うし」  
「うむ、行こうか魔海候よ。それに、無駄な魔力消費はいかんと教えたろう  
が。絶対に今ここでメイルシュトロームなど放つでないぞ? ある善良な魔  
炎長が守護炎を失って生命の危機に瀕するのでな」  
 簡単な脅しで途端に掌を返した魔炎長と、顔だけをこちらへ振り返らせて  
空いた手を振りながら戻っていく魔海候に、私は呆れた嘆息しか返せなかっ  
た。  
「……」  
 まぁ、よくある事だ。  
 

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