クリスタルシティ。宮殿の回廊にたたずむ彼女は目の前の重圧な扉を見つめている。  
雪原で出会った青年は、一途にローザリア皇太子に会うことを望んでいたのだ。  
その時、悲痛に泣き崩れる声がその扉を通して聞こえた。  
「ア…」  
アルベルトと言いかけたが喉につまった声は発することができなかった。  
回廊には他にイスマスの城主が戻ったと聞きつけ、貴人などが集まり始める。  
立派な鎧を身にまとう兵は無感な表情で佇み、  
華やかに着飾る僧たちはひそひそと耳打ちしている。  
異質な光景だと思うシフは、ひどく疎外された存在のように感じた。  
 
***  
 
父上、母上、もう行きます…。  
アルベルトは足元の台座に目を落とす。  
両親の眠る神前で静かに立ち上がった。  
このあと自分の指揮でイスマスの状況を確認しなければいけない。  
事実との直面からは逃げられないのだ。  
せめて姉さんが傍にいればずいぶん心境は違ったかもしれない。  
そうやって人を頼ることで逃げていたのか…私は…。  
 
のろのろと台座を降り、待たせていたシフに声を掛けた。  
「すみません、シフ」  
「もういいのかい?」  
「はい…」  
彼女はいつになく感傷的な表情だった。  
自分は思っている以上に痛々しい顔をしているのかもしれない。  
「殿下からはしばらく暇をいただきます。貴方をバルハラントまでお送りしないと」  
送ってもらっておいて、送ってあげるとは可笑しな話だ。  
言ってから後悔する彼にシフはそれに構わず続けた。  
 
「送るって、もうあたしを追い返すのかい?」  
彼女の口調は少々荒っぽい。  
「いえ、シフにこれ以上迷惑をかけられません」  
「手を貸すとも言ってないけどね」  
「す、すみません…、そんなつもりは…」  
 
この先の事など一人で処理しなければいけない問題だ。  
意思を持ってクリスタルシティへ来たつもりだが、解決案など何も考えていない。  
それは、ここに来ればどうにかなるという甘えだったかもしれないのだ。  
「あんまり無理するんじゃないよ」  
シフは立ち尽くすアルベルトを置いて、先に神殿を後にした。  
 
***  
 
今晩はローザリア宮殿に寝泊りすることも出来ただろう。しかし、  
宮殿とやらに酒場はあるのかい?と言うシフに反論の余地はなかった。  
 
安い食事を前にしながら、アルベルトは向かい側に座るシフをうかがった。  
アルベルトの視線に気づいた彼女は手を止める。  
「しばらくローザリアに滞在するよ」  
「それは構いませんが…」  
「この格好をしていれば、こっちの人間に見えるだろ」  
 
街に入る前、シフには民族衣装から着替えてもらっていた。  
特徴的だった、獣の兜を外し、全身の化粧も落とした。  
その時、アルベルトがつい『そのほうが良いです』と言ってしまったのは、  
差別からではなく、素直に綺麗だと思ったからだった。  
 
整った顔立ちにブロンドの髪、生命の躍動を感じさせる身体。  
失ったものの代償が彼女だったとするならば、このまま別れるのが口惜しい。  
 
「ガトにはなんて手紙を書こうかね」  
そう言いながら、ニヒルに笑む彼女は自嘲しているようだ。  
そういう彼女を引き止めるように、テーブルに置かれた彼女の手に自分の手を重ねた。  
「…アル?」  
「もう部屋へ戻りませんか」  
 
***  
 
上品な雰囲気の漂うアルベルトは、自分を師のように慕っている。  
貴族とかかわりを持ったことはないが、宮殿の異質な者たちとは違う人種だと思いたい。  
 
腕を押さえつけ、シフに覆いかぶさったアルベルトは顔を近づけた。  
「抵抗しないのですか?」  
互いの唇が触れるか触れないないかの距離でアルベルトは呟く。  
「同情してるだけさ、なぐさめて欲しいんだろ」  
「私は…、力ずくでも貴方が欲しいと思っているだけです」  
大きく開いた胸元から手を滑り込ませ、豊満な胸をつかむ。  
圧迫される痛みで唇を結んだシフに、自分のを重ねるとその間から舌を入れた。  
乳房の頂を指でつまみ刺激しながら、じっとりと唾液を含んだ舌で口内を犯してゆく。  
「んっ…」  
シフの押し殺していた声が発せられる。  
乳房の快感に身を捩じらせるが、アルベルトは焦る様子もなく行為を続けた。  
シフは自然、無意識に舌をさらに奥へと侵入させる。  
未だがっちり押さえられている腕は、青年を抱きしめたい衝動で強張っていった。  
そんなシフの反応にアルベルトは口を離す。  
「…あ、アルっ」  
「何と言おうと体は正直ですね」  
 
押さえつけていた腕を放し、上半身の衣服を脱ぐと彼女の胸元にある結び目を解いてゆく。  
露になった白く豊かな両の乳房。体のラインに手を這わせ、その艶かしい姿にしばし目を奪われた。  
「シフ、本当は私とこうして交わりたかったのでしょう?」  
「…ずいぶん生意気な口きくじゃないか」  
その先のシフの言葉をさえぎるように、片方の乳房の先端を口に含み、吸い上げる。  
「あ、ああっ…!」  
シフは上体を反らせ、アルベルトの頭を抱え込んだ。  
続けられる乳房の快感はしだいに下半身のもどかしさに変わってゆく。  
彼女の内股へ手を滑らせ、下着の隙間から指を入れるとそこはビクリと反応した。  
「…あ、はぁ…」  
「いい声です、シフ…もっと聞かせてください」  
愛液を潤滑油にぬらぬらとクリトリスを中心に弄る。  
「う、あっ!…や、やめっ…、はぁっ」  
焼けるように熱い快感が押し寄せた。  
アルベルトは一度そこから手が離すと彼女の下着を剥ぎ取る。  
指で陰唇を広げ、腫れたクリトリスを覆うように口付けた。  
 
「ちょ、ちょっとアル、駄目!いっ、あぁぁっ!」  
ざらついた舌がうごめき、さらに熱く貫くような快感に足をバタつかせる。  
激しく抵抗するが太股を固定され愛撫は執拗に繰り返された。  
「あああぁぁぁ…!」  
ビクンと大きく体が跳ね上がり、ビクビクと全身震わせる。  
その後ぐったりと力なく横たわるも、濡れた陰唇は小刻みに痙攣していた。  
アルベルトは口のまわりを拭うと、自分の残り衣服を脱ぐ。  
イッたばかりで余韻の残る重い身体のシフに、アルベルトは彼女の腕をつかんだ。  
「私のもお願いしたいのですが…」  
控えめなアルベルトの言葉とはうらはらに彼のモノは大きく肥大していた。  
 
「はぁ、……あとで覚えておきな」  
シフは悪態をつき、体勢と変えると彼の股間へ顔を埋めた。  
 
つけ根の辺りを手でさすりながら、亀頭に舌をはわせる。脈打つそれは硬さを増していった。  
アルベルトは快楽に耐えながら陰茎を弄るシフをしどと見つめる。  
「淫らな光景です…ね」  
先端がすべて覆われ、口内で刺激でされると徐々に精射感が押し寄せた。  
「くっ…、もう」  
「アル…、あたしも我慢できないよ…」  
 
アルベルトをベッドに押し倒すと、彼の下半身にまたがった。  
濡れた秘口にあてがい、腰を沈めると亀頭は陰唇を押し広げて中へ入っていく。  
自然とシフの腰が上下し始め、その結合部分からはグチュグチュと音が鳴った。  
「あ、はぁ、あ、…あああっ、いいよ…!」  
規則的に腰を動かすシフ。アルベルトはただ彼女のなかを感じながら快楽に耐えていた。  
「…う」  
「あ、あ、アルぅ!も、もっと…!」  
貪欲に快楽を貪ろうとするシフに応え、下から突上げた。  
挿入が繰り返される度に膣を中心に下半身が熱くなるのを感じる。  
「…あ、あん、ひっぁ!」  
ベッドがきしみ、卑猥な水音と互いの喘ぎ声が部屋を満たす。  
アルベルトは彼女の腕を取ると自分の方へ引き寄せた。  
「シ、シフ」  
「……ん」  
「故郷には…!バルハラントに戻らないで…、私のそばに居てください」  
「は?…な、なに言ってんだい?」  
「…このまま、貴方まで失いたくない」  
「アル、…あんた、ズルイよ、…こんな時に…!」  
 
彼女の動きに合わせて、激しく腰を打ち付けた。  
ドクンと大きく脈打ち、彼女の深部に熱い精液が叩きつけられる。  
「……ぁあああっ!」  
それは更なる絶頂感に変り、彼女に凄まじい快感を与えた。  
 
***  
 
翌朝、バルハル戦士の衣装に身を包んだシフをアルベルトは怪訝な顔で見つめていた。  
「やはりバルハラントに帰るのですか?」  
「帰るよ、…でも」  
「でも?」  
「少し先の話さ」  
そういう彼女は、鏡を見ながら青い化粧粉で顔にラインをひいていく。  
「あんた、しばらく暇を取るって言ってたろ?」  
「ええ」  
「それなら、あたしの仕事を手伝っておくれよ」  
シフは獣の皮袋から、一つの石を取り出した。  
「ただの石に見えるけど竜の眼っていう宝珠さ。昔は神々しく光ってたらしいよ」  
「竜の眼…」  
濃緑色の石はわずかに透明度はあるものの酷くにごっている。  
アルベルトと村を発つ前、ガトに渡されたものだった。  
「こんな面倒な用受けるつもりはなかったんだけど、しばらく村を離れる理由になるね」  
それは、光輝なくした石に再び光を宿してこいと。  
 
 
-end-  
 
 

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