「あたしはシフ、バルハル族だよ」
そう言って差し出された手を握り返しながら、ホークはまじまじと相手を見つめた。
自分とさほど変わらない身長に、見事なまでに鍛えられた体躯。
握った手は並みの男程もある大剣を振り回すからだろうか、硬く節くれ立っている。
更に古い物から新しい物まで体のあちこちに付いた傷痕は、さしずめ戦士の証といったところか。
「何だい?あたしの顔に、何か付いてるかい?」
「…あ、いや。悪い」
穴の開く程見つめてくる男に居心地が悪くなったのか、シフは少しだけ怪訝そうな顔をして握られたままの手を引く。
それにようやく我に返ったホークは、慌てて手を離し目を逸らした。
そんな彼をやはり怪訝に思いながらも、元から細かい事を気にする性質でもないのか「まあ、いいさ」と笑い飛ばす。
「それじゃ、あたしの仲間を紹介するよ。ひよっこばっかりのパーティだったからねぇ、
あんたみたいなのが入ってくれるとありがたいよ」
坊や達のお守りも案外難儀なんだよ。
くるりと踵を返して笑うシフの背中を追いかけながら、ホークは感触を思い出すように自分の手を握り返す。
おおよそ今まで自分が関係してきた「女」とはあまりにもかけ離れたその印象、その感触。
「女」特有の柔らかさ、繊細さ、細やかさ、それら全ては微塵も感じられない。
その代わりに彼女を構成するのは、強靭さ、しなやかさ、華やかさ、そして何より全てを圧倒する存在感。
初めて会った時から、目が離せなくなっていた。
一見寄り付きがたい程の美貌も勿論だったが、それを差し引いても惹かれる何かが彼女にはあった。
「紹介するよ。こっちからアルベルト、クローディア、グレイ。見ての通りのひよっこだ。
で、彼はホーク。あたし達の仲間だよ」
大雑把に紹介し終えると、シフはどっかりと酒場の椅子に腰を下ろす。
そして酒の入ったゴブレットをホークに手渡すと、いたずら好きのする笑みを浮かべて見せた。
「新たなる戦友に、乾杯」
乾杯、とそれぞれが手にしたゴブレットを掲げる。
……?
その時、ホークは微かに感じた剣呑な空気に眉を顰める。
しかし次の瞬間にはその気配も消え失せていて、残念ながら出所は掴めなかった。
が、ホークはに、と唇を引き上げて笑う。
「…面白くなりそうだな」
「ん?何か言ったかい?」
「いいや、何でもないさ」
そう言うと、ホークは一気に手の中の酒を飲み干した。