服の上からでも感じられる。年相応でない、常に武器を携えてきた骨ばったアルベルトの手。  
それが自分の胸元にひた、と這わせられる感触がくすぐったくあり、心地よくもある。  
その手は自分の服の腰紐をすっとからめ取り、装束を肩から優しく脱がせていく。  
シルバーもまたアルベルトを気遣い、体を浮かせてするりと抵抗なく脱いでゆく。  
胸を覆う布はすべて取り払わる、ついに白い聖域があらわになる。  
『はぁ・・・』  
『・・・なにみとれてんのよ』  
『す、すみません』  
言われてあわてて視線を逸らすアルベルトだが、無駄な肉のない引き締まったシルバーの肢体。  
その体に合わせたような、大きさこそさほどではないものの形の良い白い乳房に思わず息を呑んでしまった。  
まだ誰にも触れさせていないことを物語る、彼女の薄桃色の先端を見れば否応なしに触れたくなる衝動にかられる。  
何も言わず彼女の胸に顔をうずめていた。  
―――あっ・・・!  
服の上から触れられる以上の快感にシルバーの体はびくん、と跳ねる。  
アルベルトはさらにもう片方の乳房を空いた手で優しく揉みしだいていく。  
シルバーという一人の女性に触れているという興奮と感動と、初めてが自分というわずかの罪悪感が綯い交ぜになった複雑な心境。  
その中でもアルベルトの気持ちは確実に高まっていった。  
彼女はとても優しく、甘い味がした。  
アルベルトの口と手はなおもシルバーの桃色の先端を刺激し続ける。  
どんなに極上な肉よりも柔らかい口に含み舌で弾くとわずかに震えるそれの様は禁断の果実と呼ぶに相応しい。  
吸い立てられるたびに感じる、羞恥を含んだ何ともいえぬ快感にシルバーも声をあげてしまう。  
 
人間になっても一番に欲しかったのは圧倒的な力だと彼女は思っていた。  
それがどうだろう、いざエロールに人間の姿にしてみてもらえば体中どこに触れても男ほどの筋力はない。  
しかも胸板などさっぱり堅くなく、何やら柔らかい脂肪のふくらみにとって代わっている。  
「こんな邪魔なモンなければ良いのに!」というのが彼女の今まで思っていたことであった。  
それがここへきて、アルベルトに触れられることでその在る意味を理解した。  
哺乳動物の乳飲み子とはこんな感じなのだろうかと考えると、目の前で自分の胸に懸命に吸い付くアルベルトが愛らしくて仕方ない。  
アルベルトに人間の性の営みを教えられる立場ではあったが、今この時だけは一母親になったような錯覚を覚え、  
彼の柔らかいブロンドの髪を撫でながらぐっと胸に引き寄せていた。  
 
―――いま自分だけに聞かせてくれている、彼女の淫靡な声をずっとずっと聞いていたい。  
アルベルトの、男としての本能からの思いが湧き立ってくる。しかしこれだけではもうすでに物足りなくなってきてもいた。  
彼の牡は着衣の下でとうにいきり立っており、彼女のことを求め続けている。  
密着した身体越しに、それは男が完全に高まっている反応だとシルバーも察する。  
アルベルトが懸命になって与えてくれている快感はいつまでも続いてほしいが  
あえて胸に抱え込んでいた頭を、名残惜しそうに引き離した。  
『・・・え?』  
引き離された理由が分からずはっとしているアルベルトの胸倉をグッと掴む。  
そうして顔を引き寄せて一言、  
『ねえ、ガマンは身体に良くないんじゃないの?』  
いってイタズラな笑みを浮かべたシルバーは引き離したアルベルトの、まず上着を手荒に脱がせてゆく。  
そうしてあらわになった彼の胸板、がっしりした腕から肩にかけてを見て改めて驚く。  
―――やっぱそれなりに鍛えこんでるんだね・・・。  
会ったばかりの頃に比べ一回りも二回りも大きく見えた理由はここにあった。  
それだけじゃなかった。身体に刻まれた大小の傷跡が彼の最初からの旅の激しさを物語っていた。  
またちょっとだけ惚れ直したかもよ・・・心の中で呟く。  
感心もほどほどに先ほど彼にされたのと同じように今度はシルバーがアルベルトの胸板に手を這わせ始める。  
やられたらやり返す。これが海賊たる者の心得。  
彼に上から覆い被さられていた姿勢から、向かい合う形に持っていき、そうした上でアルベルトの厚い胸板にキスを落としていく。  
―――自分がしたことをそっくりそのまま返されてくるなんて・・・  
シルバーの反転攻勢にアルベルトも戸惑いを隠せなかった。  
しかしそれでもなお彼女に負けじと応戦し続けた。  
彼女から与えられる快感を堪え、再び覆い被さるようにして彼女を抱き寄せる。  
後ろ髪をアップにしているため、悩ましいほど美しいうなじがあらわになっているシルバー。  
無防備なそこへ強く弱く、緩急を付けたキスをムラなく落としていく。  
そうしてサーチしていった結果、海賊シルバーの「財宝のありか」がついに見つかった。  
―――!!!!  
『ちょ、ちょっと! あっ ああっ あああ・・・! だめだってアル、あっ いやっ・・・!』  
自分が有利な立場に持っていけていると確信したシルバーだが、隙を見せた瞬間、強烈なカウンターを受けたまらず声をあげた。  
―――シルバーさんの弱点、ここなんだ。  
彼女の様子を見てすぐに理解したアルベルト。  
さらに耳朶を甘噛みし、首筋に舌を這わせると、あ、あ、という力ない声と共にさっきまでの反転攻勢がぱたと止まってしまった。  
うう、と声を漏らしアルベルトの腕の中でくったりする彼女。  
倒した。ついに倒した。アルベルト一人でシルバーを「陥落」させた瞬間だった。  
 
失礼しますと心の中で断りを入れ、シルバーの身体の力が抜け切ったことを確認すると、すっと太腿に手を伸ばす。  
アルベルトも今までの前戯によって、とうに昂ぶった己の牡を抑えることができなくなっていた。  
今まで上半身ばかりに刺激が集中していた彼女の身体は、  
まだ刺激を受けていない下半身へそれが移ることを理解しビクリとふるえる。  
アルベルトの手がシルバーの秘所に、アンダーウェア越しに触れた。  
『・・・!! やあっ・・・!』  
今までにないくらい可愛らしい声が彼女から漏れる。  
『シルバーさん、可愛いですね・・・』  
『はぁっ・・・ちが、今のはなんでも・・・ないんだって・・・!』  
いつもの彼女からは決して見ることのできないうろたえた反応にクスリと笑ってしまうアルベルト。  
大丈夫ですと一言だけいって、彼女を改めてベッドの上に優しく寝かせた。  
そうして力が込めらている彼女の脚をゆっくりと開かせていった。  
緊張で硬くなる彼女を、再び弱点をついて身体をほぐしてやる。  
 
着衣の上からでも分かる。うっすらと、しかし熱く濡れた彼女のそこの感触。  
今まで以上の興奮に、アルベルトの牡はどうしようもないくらいに昂ぶっている。  
それでもまだ堪えつつ、彼女に脚を開かせ下着を取り払うと、茂みの奥に息づくシルバーの秘裂が露わになった。  
まだきつく閉じられてこそいるが、彼女のそこは前戯で充分にそして熱く潤い、  
アルベルトを迎え入れるための準備はすでに出来上がっていた。  
『・・・・・・。』  
脚を半分開いた状態のあられもないシルバーの肢体を無言で見つめるアルベルト。  
一糸纏わぬその姿を改めて見て、その肌の白さ、しなやかな手足、女性の魅力を秘めたシルバーの体に息を呑んでいた。  
優しく傷つけないように。そうして彼女の秘裂の中に内包された赤く膨れ上がった淫核を指でさすれば、  
ぴちゃりという粘り気のある水音が立つ。  
わずかの痛さと快感の入り交じった感覚にあっ、あっ、という甘い声が続けざまに出てきてしまう。  
少しの間アルベルトの指の動きを味わっていたそこは、それだけでは物足りなくなってきた。  
『ね、アルベルト、もう大丈夫みたいだから。早く・・・!』  
初めて自身の恥部を触れられ、見られる恥ずかしさに声を押し殺していたシルバーが、我慢できずにねだりはじめた。  
彼女もまた今までの前戯で自身の興奮を抑えきれないでいるらしかった。  
先ほどからも確認していたが、アルベルトのその牡をシルバーもまた受け入れたがっていたのだった。  
 
そうしてアルベルトがついに堪えてきた己の欲望を解放した。  
『・・・!』  
竜であった時も異性のそれなど見た事はない。  
―――コレがあたしの中に入ってくるんだ・・・。  
アルベルトの細めの体躯からすれば不釣合いではと思うくらい大きく屹立した男のそれを見てしばし呆然とする。  
それをそっと自分の秘裂にあてがわれる。  
先端の雁首を這わせられた時、それが交合することの合図だと分かった。  
『それでは・・・力を抜いてください』  
息を合わせシルバーもコクリと頷いた。  
そしてアルベルトは少しづつ腰を進め、挿入を進めていった。  
 
『・・・っ!』  
シルバーが初めてだということは紛れもない事実であった。  
処女の貞操を護っているそこへの侵入は容易でなく、そのきつさにアルベルトもまたくぅっと声をあげてしまう。  
シルバーも初めての行ないがそれなりに痛みを伴うことはそれとなく分かっていた。  
アルベルトの腰が徐々に進んでいくたび、じわりじわりと痛みがこみ上げてくる。  
それでもどうにか声を出さないようシーツをギュッと掴む。  
アルベルトの男根の先端が膣口を割り広げる感覚が伝わってくる。それと同時にさらに増してくる痛み。  
それでも声を出すまいと堪えるシルバーだが、  
『い、つぅ・・・!あ、あああああーーーーーー・・・!!』  
意を決したアルベルトがシルバーの中に全てを込めた瞬間、ついに抑えていた声が上がり破瓜が遂げられたことを告げたのだった。  
 
―――――いたっ、いたい・・・!  
あまりの激痛に心の中でそれらが反駁される。  
秘所からこぼれ出る鮮血が一滴、二滴と滴り落ちる。  
処女を捧げた者だけが持ち得る麗しい緋色が真っ白なシーツを染め上げていった。  
 
2人の荒い息遣いだけがしばらくのあいだ聞こえていた。  
やっとつながった。心を確かめ合い、身体もまた認め合うことができた。  
愛しい人と一つになれた充足の気持ちでアルベルトの心は満たされていく。  
『ありがとうございます、シルバーさん』  
『なにいってんのさ。まだ終わりじゃないだろ?』  
契りを交わせたことに礼を述べるアルベルトをみてシルバーが呆れ顔にいう。  
本当はこのまま終わらせて欲しいという気持ちがないでもなかった。破瓜の痛みはなおもシルバーを苦しめているからだ。  
それでも気丈に振舞って見せることで、アルベルトに心配をかけさせまいとしていた。  
『だってさ、まだ終わってないんでしょ?済んでないんでしょ?やりきるとこまでさ』  
『シルバーさん・・・。』  
躊躇するアルベルトをよそにおもむろに腰を上げ彼の一物を刺激してやる。  
『・・・! あ、ああっ・・・!』  
狭い秘所に締め付けられている今、彼女の中にある襞はアルベルトの欲望を吐き出させんとして執拗に刺激を与える。  
その強烈な快感に思わず声が上がるアルベルト。  
シルバーだけではない、結合した状態ではアルベルトもまた少しの刺激でも達してしまいそうなほど敏感になっていた。  
『ほら、いいってば、あたしにエンリョなんかするなって』  
物言いはぶっきらぼうでも、そこにはアルベルトに対する情愛の念が込められている。  
アルベルトとて一人前の男だ。女性と交わって目的をなさぬままに終わるような事は望んでいない。  
彼女の体に負担をかけまいと気遣う一方で、男としての本能がそれに強く反発していたのも事実だった。  
『わかり、ました・・・!』  
言ってシルバーの細くくびれた腰をそっと抑えこみ、言葉どおりに促されるままゆっくりと腰を動かし始める。  
抜き挿しのたびに純潔が破られた証である鮮血と彼女の溢れる蜜とが再びシーツを濡らしてゆく。  
律動と共に2人の喘ぎが部屋の中に響く。  
瞳にうっすら涙をためながらも微笑んで、自分のために一生懸命になってくれているシルバーを見て、  
ますます彼女が愛しくなり、欲しくなっていった。できることならばずっとこの快感をとさえ思う。  
律動によって交わった部分から淫靡な水音もまた、甘い声と共に部屋に響く。  
腰を打ち付ければシルバーの、小さいがふっくらとした白い乳房が縦に揺れ、同時に悦びの声が上がる。  
痛い、確かに痛い。けれどもアルベルトに力強く突き上げられるたびに彼の脈動と温もりがもっとほしくなった。  
アルベルトが自分を通じて快感を得てくれている事が嬉しかった。その気持ちが彼女の感じる痛みを快感へと少しづつ変えていった。  
 
『あ、アルベルトっあっ・・・あんっ・・・あっ・・・』  
もう痛みは無い。純粋に快感に侵食された声だけが喉の奥から出てくる。  
シルバーの秘所は処女であったがゆえにきつく、アルベルトの牡を締め付ける。  
2人共にすでに限界がおとずれていた。  
『・・・! シルバー、さんっ・・・も、もう!』  
アルベルトもまたその締め付けに耐えきれず、律動をさらに早め射精感を高めていく。  
己の情欲をシルバーの中に放出する罪悪感がふと脳裡をよぎる。  
しかしその思いも今の快楽の前には歯止めをかける術にはならなかった。  
幾ほど2人の交わる水音がしたころだろうか、ついに絶頂を迎えるときが来た。  
『アルベルト・・・!』  
『シルバーさんっ・・・!』  
 
――――――!!  
 
互いの名を呼び合い求め合った直後の一瞬のフラッシュバック。  
次にはアルベルトの牡は爆ぜ、シルバーの胎内におびただしい量の白濁を迸らせていく。  
自分で行なう時とは比較できないほどの快感が襲い来る。  
その快感に比例するように、自身の放つ精の量のいつもと明らかに違うことを感じる。  
どくり、どくりと激しく脈を打ち続ける自身の牡は際限なく彼女に精を迸らせるのではないかとさえ思った。  
シルバーもまた痛みと快感の二つと共にアルベルトの熱い精もしっかりと受け止める。  
そればかりか彼の全てを吸い尽くさんばかりに彼女の締め付けは止まらなかった。  
彼女の竜としての本能的一面が、雄から少しでも強い遺伝子を搾り取ろうとするとするあらわれでもあった。  
 
 
『どうだった、あたしとした感想は?』  
自分こそ初めてだというのに。  
それもあれだけ熱っぽく事を進めてきたにもかかわらず、あっけらかんとしているところがシルバーらしい。  
『・・・はい。良かったです。』  
事を無事に終え“指南役”であったアルベルトはすっかり元通りだ。  
『ふ〜ん。良かったのね』  
『はい』  
そんなふうに一言二言交わし事後の余韻にひたる2人。  
シルバーは頭を後ろ手に組んで天井を見る。  
『はぁ・・・』  
そうして大きくため息を一つ。  
『・・・。』  
アルベルトはそんな彼女の仕種の可愛らしさにしばらく見とれていた。  
 
しばらくの沈黙をおいてシルバーがまた口を開いた。  
『ねえ!人間の男ってさ』  
『人間の男がどうかしたんですか?』  
『うん。女の身体、漁るだけ漁りつくしたら興味なくなってぽいっと捨てちゃうって聞いたんコトあるんだけど・・・本当なの?』  
天井を仰ぎ見るシルバーがなんとなしに聞いた。  
人間の性に不安と猜疑心を拭いきれないでいる彼女の、心の根底にある問いだった。  
『いえ・・・そんなこと、ありません!』  
シルバーの言葉に、同じく天井を仰ぎ見ていたアルベルトが勢いよく上体を起こして否定する。  
自身の赤い瞳を射抜くアルベルトの、青い瞳が全てを物語っていた。  
その偽りのない真摯な眼差しに息を呑んだ。  
『そ、そうだよね。アルベルトに限ってそんなことあるわけないよね。ジョーダン、ジョーダンよ!』  
『私は、シルバーさんだけを愛しています、ずっと、ずっと!』  
『うん・・・。』  
―――あ〜あ、なんでこんなバカなコト聞いちゃったんだろ、あたし。・・・アルベルトはこんなに真剣なのに。  
アルベルトの心を疑るような質問だったよね・・・。  
思って、コツンと自分で自分の頭を叩く。  
『へへ、ありがとね・・・アルベルト。私もあんたのこと、好きよ・・・!』  
そうして自分を思い慕ってくれている者へ最上の笑顔を返した。  
『・・・ずっと、ずっと一緒にいてくださいシルバーさん。』  
アルベルトもまた思いを通じ合えた愛しい人に自分のありのままの気持ちを伝えたのだった。  
 
『ねえ、あんたが私のこと好きになった決定的な理由って何なのか聞いてなかった。』  
余韻に浸ってベッドで横になっていたシルバーが口を開く。  
ちょっとの間のあと、アルベルトはかけていた毛布を取り払い肩の辺りを見せた。  
『この傷に・・・覚えがありますか?』  
いってシルバーの方に向き直ったアルベルトは肩口から脇腹にかけてついた傷を見せる。  
点々とついた歯型。  
『これってもしかして・・・あたしが噛み付いた時の・・・?』  
『そうです』  
先ほどの行為のときから気にはなっていたこの傷。  
回復の術法を施してなお残る、これほど深い傷を刻めるものは竜族をおいて他にない。  
もしかしたらとは思っていたシルバーだが、やはり自分のせいであった。  
『でもさ、この傷がどういう・・・?』  
『はい。あの時・・・あなたは私を噛み千切ることだってできたはずでした。』  
確かに、アルベルトの言うような場面はあった。その岩も砕く強靭なあごを使った噛み砕き。ドラゴンだけがなしえる強烈な攻撃手段。  
俯き加減に言ったアルベルトがわずかに身震いしているのが分かった。  
『ああその、ごめん、やっぱ・・・痛いなんてもんじゃなかったよね、あれは』  
『いえ、シルバーさんを責めるつもりでいうんじゃないんです』  
かぶりを振ってアルベルトが言葉を続ける。  
『噛み付かれて振り上げられた瞬間にシルバーさんと眼があいました。今のあなたと変わらない深い赤色の瞳が見えました。  
その時分かったんです。あなたは本当に強い者だけが持つ眼をしていると。  
その時このドラゴンになら戦って殺されても本望だって思ったんです。』  
『・・・どうして?』  
『あなたのその強さに憧れを抱いてしまったから・・・その憧れを抱いた存在になら殺されてもと、そんな風に思ったんですね』  
 
『しかし私は救われました。それからです、私が誰にも負けない力がほしいと思うようになったのは・・・。』  
『ふーん、私を一人で倒すだけの力がほしかったってことなんだ』  
『いえシルバーさんをということではありません。自分のあまりの非力さを痛感させられて  
・・・それを教えてくれたのはシルバーさんなんです。だから私もあなたのようになりたくて努力を重ねてきました。  
いつかまた再会できた時、あなたに見合う男になっていようと思って。』  
そのアルベルトの言葉一つ一つからあの時のオパールをかけた戦いが思い出され、彼の並々ならぬ決意を感じて取れた。  
―――――もう充分強いよ、あんたは・・・。あたしが認めてるんだから。絶対、強い。  
アルベルトの告白を前にして、言いたくなったその言葉たちをあえて言わずシルバーは沈黙を通す。  
いってしまえばそこで彼の強さは止まってしまうのではと一抹の不安を感じたからだった。  
 
アルベルトは言葉を続ける。  
『それだけじゃありません。あなたを連れ出したいとも思っているんです』  
『・・・? どこから? もしかしてパイレーツコーストから?』  
『はい』  
『それはつまりあたしに略奪行為をするなって言うのとおんなじことよね?』  
『そうです。それらはすべて悪です。』  
ついさっきまでとはうって変わり全てにおいてきっぱりと言い放つアルベルト。  
心からの彼の思いが言葉になっていくそれによどみなどはない。  
『あたし、これでもマルディアス中じゃ伝説の大海賊だって言われてんだけどね。そのあたしに海賊やめろって  
・・・あんたもけっこう言ってくれるじゃないの』  
シルバーも自分がこれまでしてきた行いに、ほんの少しでも後ろめたさを感じていないわけではなかった。  
海という海を荒らしまわりこそしたが、必要以上の殺しは絶対にしなかった。それでも剣の露にしてきた命の数は計り知れなかった。  
それでも後悔をしたことはない。それが自分の憧れる海賊として生き方だったからだ。  
だからこそシルバーもまたアルベルトに対する反論の語調は自然と強くなっていた。  
『やはり・・・聞き入ってはくださらないのですか?』  
シルバーの強い語調を聞いてアルベルトの表情が曇る。  
 
『そりゃ、あたしだってさ・・・!』  
彼の悲しそうな顔を見て、いいかけたものが喉のところで止まった。  
そうして思った。  
今まで何十回、何百回海賊行為を繰り返してきたなかで自分のしてきたことを真っ向から問い質す存在なんてあったろうかと。  
その存在が今まさに自分の眼前にいるのだ。身も心も分かち合った存在が自分を案じての言葉をくれる。  
偽りのない心からの言葉で問い質してくれる。  
海賊という職に未練がないといえば嘘になる。けれどもアルベルトの言葉の前にはそのわずかの未練も霧散していった。  
こほんと一つ、咳払いをして・・・  
『ううんなんでもない。それだったら代わりに条件一つ!!』  
アルベルトのその真摯な眼差しに負けないよう・・・  
『あたしを海賊稼業とおんなじくらいにワクワクさせてくれるような場所に連れてってくれること!』  
自からも彼を真っ向から見据えて言い放っていた。  
『はい、了解です!』  
彼女の決断をしっかと受け止めるよう、アルベルトも語気を強くして約束を交わした。  
『あたしだって強いやつと戦うこととか、楽しくて仕方ないのよ。だからあんたの目標につきあったげる!』  
『あ、ありがとうございます!』  
互いの気持ちと真意を共有できた今、さっきまでとはまったく違う真に強い信頼が築かれていた。  
 
『っていうかさ、あたしも人間になったっても、強い子供残すってトコにはまだこだわりがあるわけなのよ。』  
『は、はぁ・・・。あの、それは・・・。』  
シルバーの言わんとすることが・・・なんとなくわかった。  
快楽に負け彼女の中に己の情欲を注ぎこんでしまったこと。それが何を意味しているか―――。  
自身の秘所に手をあてがい深い情事の跡を確かめるシルバー。  
下半身に軽く力を込めると、鈍い痛みと一緒にアルベルトの放出した精液がこぽりと溢れ出てくる。  
それのねばねばとした感触と、独特のにおいは決して好きになれなさそうだが、  
自分を慕う者が自分を愛してくれた証だから嫌悪する事はなにもなかった。  
おもむろに手に取り、ねっとりと指にからみつく濃厚なそれを放出した本人に見せびらかす。  
『ほらこれ。あんたのタネ』  
『たっ・・・!?』  
シルバーのあまりの言葉に絶句するアルベルト。  
言葉のとおりではあるが、妙な例え方をされ何ともむず痒い気分にさせられる。  
『なんだろ、生臭い、ヘンなにおいだよね』  
『は、はぁ・・・。』  
『それにしても。こんなにたくさん出るもんなんだ。』  
『ま、まぁ・・・。』  
『それってやっぱ気持ち良かったからなの?』  
『そ、そうですね・・・。』  
大胆過ぎる彼女の、開けっぴろげな問いかけにコクコクと頷くことしか出来ないアルベルト。  
『ちょ、シルバーさんあまりそういうことは・・・!』  
それでも自分の出したものをさっきから手のひらでイタズラしている彼女を止めようとする。  
『・・・? なんでよ、恥ずかしがる事なんてなんもないじゃん?』  
『え?』  
『だって“これ”さ、あたしとあんたが交わった大切な証。でしょ?』  
『は、はい』  
『エロールがどこまで完璧な人間にしてくれたかは分かんないよ。けどさ、もしあたしを本当の人間にしてくれたんだとしたら、さ』  
『あの、それはつまり』  
『うん。あんたの子だったら悪くないかなって、思ってるんだ・・・』  
『あ・・・。』  
しっとりとした雰囲気の、一人の人間の女性としてのシルバーがそこにいた。  
いつもの彼女とはまったく違う、その穏やかで優しげな表情は  
今まで見てきたどんなものよりも美しかった。  
『あの、シルバーさん・・・』  
『ん? なによぉ、あたしじゃ何か不満でもあるわけ?』  
『ち、違います!そんな・・・・・・すごく、嬉しいです』  
『そう! それなら問題なしね!』  
一瞬見せた、しっとりした雰囲気は影を潜め、またいつものシルバーに戻っている。  
 
 
『そうねー、あたしとしては子供10人はほしいかな〜』  
『あの、ちょっとそれは気が早いんじゃ・・・』  
『いいじゃないのよべつにー』  
『ですがサルーインの阻止が先決で・・・』  
『まぁそれもそうね。それじゃアルベルト、一人でサルーインぶっ飛ばせるくらい強くなんなさいよ!』  
『うっ・・・』  
『何よ、もっと強くなりたいんじゃないの?』  
『もちろん!なってみせます!』  
 
 
考え方も行動もまったく正反対な2人が一緒に歩んでいこうとする道。  
その中途には純粋な人としての生をまっとうしていく2人と、その子らの姿がおぼろげに見えていた。  
 
 
〜Fin〜  
 

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