コンコンと、控えめなノックをすると、予想に反して短く「誰だい?」という返事が返ってきた。  
てっきり寝ているだろうと思い込んでいたホークは少しだけ思案し、躊躇いがちに部屋のドアを開ける。  
そして中にいるシフの有様に、頭痛を堪えるように額を押さえた。  
 
「ったく、何つー格好してんだ?」  
 
ガキか、てめぇは。  
腰掛けたベッドのシーツを頭からすっぽりと被ったシフの表情は、ここからでは窺い知れない。  
伏せた目線は、シーツからはみ出た素足の先辺りを見つめたまま動かない。  
そんなシフにため息を一つ漏らすと、ホークは部屋に備え付けられた椅子を引き寄せてドッカリと腰掛ける。  
 
「…どうだ、ちったぁ落ち着いたか?」  
 
顎で返答を促すホークに、シフは僅かに頷く。  
 
「他の奴等は大方無事だ。ま、当分はここに足止めだろうが、命にゃ問題ないとよ」  
 
この村の人間に任せて正解だったと、そう思う。  
きっちり手当てされて、お気楽そうな顔して寝てやがったぜ。  
そう言って笑ったホークに、シフはまた僅かに頷く。  
そして二人の間に降りた沈黙に、ホークの笑みが引き攣った。  
 
(つーか、やりにくいったりゃありゃしねぇっ!)  
 
何というか、歯痒いようなむず痒いような、妙な感じだ。  
ああ言えばこう返ってくるのはお互い様なのだが、今はそれが無い。  
何時に無く殊勝なシフに、調子を崩される。  
シュンシュンとストーブの上に置かれた湯沸しポットが蒸気を吹き上げ、  
夜半から吹雪き始めた風が窓をガタガタ揺らす以外は、全くの沈黙だった。  
それこそ互いの息遣いから心臓の音まで、一挙一動手に取れる程の静寂。  
いい加減息苦しくなってきた所で、不意にシフが口を開いた。  
 
「悪かったね、迷惑かけたようで」  
 
床に落とした視線を僅かに上げ、消え入りそうな声でそう告げられる。  
迷惑というのは、雪原を走らされた事だろうか、それともいきなり噛み付かれた事だろうか。  
おそらく後者なのだろうと、ホークはまた一つ微かなため息を漏らす。  
確かにシフに剣を向けられた事はショックだったし、噛み付かれた傷が痛まなかったと言ったら嘘になる。  
ただあの時の彼女は明らかに正気ではなかったし、そうなった理由は少なからず自分にもあるのだ。  
おびただしい血を見た事による昂ぶり、ギリギリにまで引き絞られた緊張、後が無いところまで追い詰められた極限状態。  
戦いの申し子のような彼女にとって、それはきっかけの一つにすぎなかったのだろうが、箍を外すには充分過ぎた。  
それがたとえ彼女が望もうが望むまいが、としてもだ。  
まさに狂戦士と呼ぶに相応しかったその姿を思い出しながら、ホークは言葉を選ぶように頭を巡らせる。  
 
「…まぁ、何だ。あん時のあんたの判断は正しかったと思うし、こうやって全員が生きてられるのもあんたのお陰だと思ってる。  
だからあんたが気に病む事でもねぇし、何つーか、その、何だ。あ、ありが……」  
 
ありがとよ、その一言が言えなくてごにょごにょ言い澱んでいるホークを、シフはほけっとした表情で見つめる。  
そしてぷっと小さく吹き出すと、声を上げ腹を抱えて笑い出す。  
そのまま唖然としているホークをよそに一頻り笑い終えると、しゃくり上げるように声を出した。  
 
「あはは、す、すまない。まさかあんたに慰められるなんてさ、思ってもみなくって」  
 
そう言ってまた体をくの字に折り曲げて笑い始めたシフに、ホークは憮然とした表情を浮かべる。  
ったく、ああ言えばこう言う、全くもってかわいくねぇ。  
変に気を使った自分が馬鹿らしく思える反面、いつもの調子が少しだけ戻ってきたようで自然とにやける顔を抑え切れない。  
 
「へーへー、らしくないですよ、くそったれ。ほれ馬鹿笑いしてねぇで、さっさと寝やがれ、こん畜生が」  
 
腕を伸ばしシーツの上からワシワシとシフの頭を撫でて、椅子から立ち上がったその体がつんのめった。  
 
「ってぇ!何しやがるっ!」  
 
密かにお気に入りの三つ編みに結わえた髭を引っ張られ、中途半端な中腰のままホークは噛み付くように怒鳴る。  
ベッドに腰掛けているシフは、その三つ編みを握り締めたまま彼を上目遣いに見上げた。  
 
「迷惑かけられついでだ、ちょっと頼まれてくれないかい?」  
「あぁん?」  
「今日の事は、皆には黙ってて欲しいんだよ」  
 
そう懇願されれば嫌とも言えず、ホークは分かったと首を縦に振る。  
もっとも、口外する気など更々無かったのだが。  
それに安心したのか、シフはほぅ、と息をつくとありがとうと言って微笑んだ。  
そしておもむろに立ち上がると、被っていたシーツを足元へと落とした。  
 
「んなぁっ!?」  
 
体のいたる所に巻かれた包帯と、貼られた絆創膏が痛々しい。  
しかしホークがひっくり返った声を上げたのはそこではなく、むしろその包帯やらが見える理由。  
すなわち、シフが全裸で目の前に立っている、その事実に驚愕したのだ。  
あまりの展開に固まっているホークの前に、シフは膝を着いて屈み込む。  
そのままホークの合わせを解き下穿きの中から取り出した彼へと唇を押し当てると、舌の上に乗せて口内へと迎え入れる。  
 
「ーっと、待ーったぁっ!!」  
 
それを寸でのところで我に返ったホークが、シフの肩を押し返す事で何とか回避する。  
そしていそいそとソレをしまい込むと、動揺を隠せないままにシフを見る。  
 
「ちょ、お前な…。何だってんだ、いきなりこんな……なぁ?」  
 
何をどう言えばいいのかまとまらない。  
あまりにも唐突で、あまりにも突拍子もない展開。  
しかし頭はぐちゃぐちゃに混乱しているのに、しっかり反応してしまっている自身が恨めしくて。  
そんな彼をよそに床に広がったシーツの上にペタンと座り込んだシフは、僅かに唇を戦慄かせて頭を横に振る。  
 
「体が疼いて、堪らない。何かが足らないんだよ、渇いて渇いて、干乾びそうなんだ」  
 
両腕で自分をぎゅう、と抱きしめて、シフは苦しそうに声を絞り出す。  
その声色からは余裕の無さが窺え、可哀相なくらいに震えていて。  
握り締めた二の腕に食い込んだ指先は、その力の強さ故に痛々しい程白かった。  
 
「あたしの中を、埋めて欲しい。溢れる程に満たして欲しい。…こんな事、今はあんたにしか頼めないんだ」  
 
そう言って見上げてきた碧眼は、じっとりと情欲の熱を孕んでいた。  
昼間の戦闘で極限まで昂ぶった体と頭は、そう簡単に元には戻らない。  
むしろそれまで戦う事で熱を発散させていたのが、戦いが終わった事によってその手段を失う。  
そして発散し切れなかった昂ぶりは行き場を失って体中を駆け巡り、情欲という形になって表面に現れた。  
それは一見飛躍し過ぎた考えのようだけれど、実は案外馴染み深い事象なのかもしれない。  
例えばクタクタに疲れて帰ったその夜、寝なければならないのに頭も体も昂ぶって眠れない時がある。  
状況は違うのだけれど、それと似たようなものなのだろうと、そう思う。  
いつの間にかまた下穿きの中から引き摺り出した一物を舐め上げるシフの髪を撫で、ホークは更に考えを巡らす。  
 
(今は、ねぇ…?)  
 
もし今ここにいるのが自分ではなく、グレイやアルだったとして、だ。  
シフは同じような科白を言ったのだろうか。  
それとも、自分だったからこそ出てきた言葉だったのだろうか。  
 
「…なんて、な」  
 
緩く上を向く先端が、覆い被さったシフの唇から時折見え隠れする。  
その卑猥さにクラリと眩暈を起こしかけ、とりとめの無い思考を打ち切る。  
様々な思いが頭を駆け巡ったが、最終的に役得だと割り切ると、  
ホークは吹っ切れたようにシフの頭を掴んで喉の奥めがけて腰を突き入れた。  
 
「んぅっ、ぐ、むっ」  
 
喉の奥に先端が当たって辛いのか、じわりと瞳の際に涙が浮かんだ。  
が、すぐに激しく抜き差しされる肉茎に舌を絡ませると、唾液をまぶしながら首を振り始める。  
 
「間違っても、噛み付いてくれるなよ」  
 
弾む息の合間にそう言って、ホークはシフの髪に指を絡ませる。  
その感触はサラサラと心地好く、シフもまたうっとりと目を細めてくぐもった声を上げる。  
蠢く舌は柔らかく、時折きつく絞り上げるように絡み付き、包み込む口内は蕩けるように熱い。  
僅かに眉を寄せ一心不乱にしゃぶり付く様は淫猥で、グンと一層角度と質量を増した自身に苦笑を漏らす。  
そしてホークはシフの腕を引いて起こすと、後ろから抱きすくめるようにしてベッドへと腰を降ろした。  
 
「辛かったら言えよ?」  
 
仄かな薄紅色に上気した肌に浮かび上がる、無数の傷痕。  
それらを労わるように庇うように、細心の注意を払って肌に触れる。  
顎から鎖骨にかけて滑り降りた指先が胸の間を通り過ぎ、まろやかな曲線を辿るように手のひらが包み込む。  
思い描いていたよりも更に心地好い張りと弾力を返す乳房を揉みしだくと、鼻にかかった声を漏らしてシフがゆるゆると頭を振った。  
 
「よさそうだな」  
 
うんうん、と首を振りながら、シフの手がホークの手の動きを真似るように重ねられる。  
火照った体とは対照的にひんやりと冷たいそれは心地好く、手を取ってちゅ、と甲に口付けると驚いたような顔と目が合った。  
 
「…何だよ?」  
「……何の真似だい?」  
「はぁ?」  
 
一応疑問符は浮かべてみたものの、いまいち要領を得ないシフの言葉を、ホークはどうでもいいと聞き流す。  
それより今は、こっちの方が重要なのだ。  
タプタプと乳房を揺らしながら指を伸ばし充血して硬く尖った乳首を捕らえると、きゅう、と摘まみ上げて捏ね回す。  
 
「っあ、ぁあ!」  
 
鋭い声を上げて、ぐん、とシフの体が弓形にしなる。  
強過ぎる刺激に耐えられず、体が反射的に反応した結果だった。  
しかしこの突然の反応に、刺激を与えている筈のホークがぐぅと低く短い唸り声を上げる破目となる。  
 
「ああ、くそっ!やべぇな、こりゃぁ…」  
 
先程から自分の腹とシフの尻の間で挟まれ捏ねられていた男根は、既に熟れ切って先端からトロトロと透明な先走りを溢れさせていた。  
初めて見るシフの痴態が余りにも扇情的過ぎるのはさておき、このまま何もせずに果ててしまうのは男として如何な物か。  
やりたい盛りの10代ならまだしも、それだけはどうしても避けたいホークは、一旦シフの体から手を離す。  
そしてベッドから降りると、シフの脚を持ち上げるように左右に開かせる。  
すると、ぐちゅり、と濡れた音がして、しとどに濡れ光る秘所が露になった。  
 
「うお、ドロドロじゃねぇか」  
 
特別濡らす必要も無い指をそろそろと伺うように差し入れると、くぷりくぷりと難なく二本の指が飲み込まれていった。  
そして突き入れた指を伝ってきた粘液が、手のひらを濡らし始める。  
僅かに指を動かすだけでぐじゅぐじゅといやらしい音を立てるそこへ顔を近づけると、むせ返る程濃厚な女の匂い。  
クラクラと頭の芯を痺れさせるようなその香りに、ホークは吸い込まれるように顔を寄せて膨らみ切った肉芽に唇を押し当てた。  
 
「んぅ!ぁあ、やぁ!?」  
 
バタバタと暴れる脚を押さえ付け、執拗に舐め、吸い、掻き回し、甘噛みを繰り返すうちに、抵抗らしい抵抗が消えていく。  
その代わりビクビクと小刻みに痙攣を繰り返し、ガクガクと揺れる視線は既に定まってはいないようで。  
 
「ひぃ、はぁっ!もっ、う…あっ、ぁあーっ!」  
 
ハクハクと空気を求める魚のように口を開いて、過呼吸の苦しさから逃れようと何度もシーツに髪の毛を打ち付ける。  
脚の間にあるホークの頭に指を掛け、もどかしさに自然と揺らめいてしまう腰を押し付ければ、  
ヂュゥ、と愛液ごと吸い上げられて目の奥に光が散る。  
そして宙に浮いた脚をピンと突っ張らせると、二、三度大きく痙攣して、やがてクタリと脱力した。  
 
「…っは、ははっ。くくっ、あはははっ」  
「何笑ってやがるよ?」  
 
ベッドに片膝をついてシフを見下ろすように乗り上がったホークが、口元を腕で拭いながら怪訝そうに眉間に皺を寄せた。  
一方シフはと言えば、何がおかしいのかクツクツと咽るように笑い続けている。  
それをフン、と面白くなさそうに鼻で笑うと、ホークは着ていた服を全て脱ぎ捨てた。  
ランプの柔らかな光に照らし出された彼の体躯は見事で、シフは思わずうっとりと目を眇める。  
 
「物欲しそうな顔してんな」  
「…ああ、欲しい。欲しくて欲しくて気が狂いそうだよ」  
 
ぎゅっと縋り付くように抱き締めれば、早鐘のような心音が混ざり合い熔け合わさった錯覚に陥る。  
数度身を捩って秘所を密着させると、次の刺激への期待に喉がコクリと鳴った。  
 
「まだ、まだ足りない。こんなじゃ、全然」  
 
ねっとりと乳首を舌で舐め転がされ、僅かに歯を立てられただけで、濡れそぼった秘穴から更に新しい蜜が溢れ出す。  
乳首だけではない、今では耳朶や項、脇腹や内腿といった箇所を触られただけでも、そんな有様なのだ。  
シフの欲しがっているモノなどとうに分かり切っているのに、ニヤニヤと核心を逸らし続けるホークを熱に潤んだ目で睨み付ける。  
 
「じゃ、好きなようにしな」  
 
そう言って体を開けたホークの喉元に、シフは嬉々としてカプリと喰い付く。  
そのまま僅かに力を込めて甘噛みしながら、徐々に唇と舌とで筋肉の隆起を辿ってゆく。  
そして所々に歯形を残しながらホークに跨ると、天を向く屹立に手を添えて自分の秘裂へと導きあてがった。  
 
「ぅんっ、く…っ」  
 
絶頂を迎えたばかりの膣内はまだきつく、押し広げられてゆく感覚に唇を歪ませながらシフはそれでもゆっくりと腰を落としてゆく。  
久々に感じるその感覚はじれったいような痺れと、燻るような疼きをシフの体に刻みつけ。  
やがて完全に腰を落としホークを胎内に深く銜え込むと、見下ろす顔に不敵な笑みを浮かべてみせた。  
 
「ああ…、いい。でも、もっと、もっとだよ」  
 
恍惚とした声で呟いてホークの厚い胸板に手を突くと、腰を上げて自分を貫く灼熱をズルリと引き抜く。  
そしてまた、体の奥深くまで銜え込むを繰り返す。  
 
「なんっ、て体、してやがる…っ」  
 
名器なんてもんじゃない、凶器だこれは。  
ドロドロに熟れたシフの中は、さっきの口の中とは比べ物にならない程熱く、柔らかく、心地好い。  
しかし体ごと持っていかれそうな強烈な締め付けに、本当に喰い千切られるんじゃないかという恐怖が過ぎる。  
腹上死は男のロマンとはよく言ったものだけれど、生憎そんなロマンは持ち合わせていない。  
神経が焼き切れそうな拷問にも似た快楽を奥歯を噛み締める事で堪えたホークは、  
自分の腹の上で跳ねるシフの尻を掴んで強引に突き上げる。  
 
「ひゃ、うっ!あっ、奥にっ、届いて…ぇ!」  
 
がむしゃらに突き上げを繰り返すと、重そうに揺れる乳房を両手で掬い上げるように支えながら腰を艶かしくくねらせる。  
時折最奥を突くのか、その度に短く悲鳴を上げて締め上げる力を強めた。  
 
「ちっ、そうがっつくなっての」  
 
ともすれば奪い返した筈の主導権をまた奪われそうで、ホークは毒づきながら腹筋を使ってグン、と上半身を起き上がらせる。  
そして不安定になったシフの背中を支えながら反転すると、ベッドの上に彼女を横たえた。  
 
「今のままがいいなら、このまま続ける。だがこれ以上がいいなら、俺もいい加減手加減出来ねぇ。…どうしたい?」  
 
繋がったまま見下ろす顔は、逆光で表情がよく分からない。  
不意に胸を過ぎった不安な気持ちを振り切るように腕を伸ばしてホークの首に絡み付かせると、シフは耳元へと唇を寄せる。  
必然的に中で角度を変えたものが新たな箇所を刺激し、呼気は甘い吐息へとすり替えられる。  
 
「………よ」  
「うん?」  
「手加減はいらないよって、そう言ってんだ。こんな事、何度も言わすんじゃないよ」  
 
余程恥ずかしかったのだろうか、頬を染め目を逸らしたシフが意外で、ホークはやられたとばかりに顔をしかめる。  
普段が普段なだけに、意表を突くこういう仕草に自分がめっぽう弱いことに気が付いたのは、かなり前の事だったりする。  
ごつんと額を合わせてシフの目を覗き込み、オドオドと逃げる視線を捉える。  
 
「何でぇ、急にしおらしくなったじゃねぇか」  
「それは…っ。あんたが妙な事言うからっ」  
 
訳が分からないと目元を染めるシフに、ホークは眉を下げる。  
相手を気遣う言葉が、妙な事、ねぇ。  
一体今までどんな相手と、どんな関係を結んできたんだか。  
それはたぶん自分が理想としているものとは、根本的に何かが違うのだろうと思った。  
それがとても切なくて。  
割り切っていた筈なのに、どこか期待していた自分が虚しくて。  
空回る気持ちを振り払うように唇を重ねようとしたその瞬間、カプッと鼻を噛まれて我に返る。  
そして苦い気持ちで笑うと、シフの腰を掴んで自身を秘所に押し当てた。  
 
「今夜は気の済むまで付き合うさ」  
 
そう言うと、ズルンと一気に最奥まで突き入れる。  
突然の刺激に一瞬シフは息を詰め、鋭い声を上げる。  
隣の部屋や下手をすれば宿中に聞こえるか、そう過ぎったが頭を振る事でそれを打ち消す。  
撒き散らす濡れた声も、モヤモヤしたこの気持ちも。  
きっとこの吹雪が全てを掻き消すだろう。  
掴んだ片足を肩に担ぎ上げ、根元まで押し込んだ剛直を更に奥まで捻じ入れる。  
そのまま中を掻き回し、もう片方の脚も担ぎ上げると、シフの体を折り曲げて腰を激しく打ち付ける。  
その強過ぎる刺激に、なす術も無くシフは喘ぎ続ける。  
 
「んっ、あぁっくぅっ!んんーっ!」  
 
ビクビクッと跳ねる体を押さえつけ、更に突き上げれば続けざまに嬌声が上がった。  
苦しい程の絶頂感に変化するシフの表情を全て見届け、ホークもまた自分の限界が近い事を悟る。  
 
「…いくぜっ」  
 
ぎゅっと眉根を寄せ、汗ばむ体を抱きすくめる。  
そして己の劣情を吐き出すために、気遣いも何もかも忘れて快楽だけを追い求める。  
 
「く、ぅっ!」  
 
数度最奥に叩き付け一気に引き抜くと、激しく上下するシフの腹めがけて白濁を開放する。  
勢いよく迸った精は彼女の胸まで届き、重力に従ってトロリと曲線を伝い落ちた。  
 
痛渋い目をしょぼつかせ、ホークは盛大な欠伸を漏らす。  
そのまま口をモゴモゴさせてシャツの裾から突っ込んだ手で腹を掻きながら、談話室に続く階段を降りる。  
そして目に入ってきた姿に、笑みと共に呆れにも似たため息を漏らす。  
 
「よお、随分と早いじゃねぇか」  
「おはよう、と言ってももう昼だけどね。よく眠れたかい?」  
「おかげ様で。そっちもだいぶ良さそうじゃねえか」  
 
包帯や絆創膏は昨夜のままだし、剥き出しの肌には所々痣やミミズ腫れが浮き上がっている。  
だが顔色は良く、何よりこうして動き回っている事が元気な証拠だ。  
と言うか、動き回っている事自体がホークには信じられないのだが。  
 
「…タフっつーか、すげぇよな、ホント」  
 
あの後、ホークは自分の言葉通り『気の済むまで』シフに付き合ったのだ。  
そして最終的に彼女が気を失うように眠った後、ポットの湯で互いの劣情を拭い去り、ベッドのシーツを換え。  
自分でも驚く程の甲斐甲斐しさで後処理を済ませて、ようやく眠りに就いたのは既に朝に近い時間だった。  
 
「何か言ったかい?」  
 
湯気の上がるマグを手渡しながら、シフは首を傾げる。  
その様子には、夕べの情事の残り香の欠片も無い。  
しかしその方がいっそ清々しくていいと、ホークは受け取ったマグに口を付けながら思った。  
いつまでもグチグチと引き摺るのは趣味ではない。  
が、そう思う反面、面白くねぇと口を尖らせる自分もいて。  
 
「アル!夕べはよく眠れたかい?傷の具合は?」  
 
どこと無く覚束ない足取りで階段を降りてきたアルベルトは、そう声を掛けられてビクッと肩を跳ねさせる。  
それはまるで、しまったと言わんばかりの反応だったのだが、シフはお構いなしに彼の元へと駆け寄った。  
 
 
「少し顔色が良くないね。目も真っ赤だし」  
「あ、あの…。私は大丈夫、ですからっ。だから、そのっ」  
 
完全に目を泳がせてシフの顔を見ようとしないアルベルトを、ホークはひょこりと覗き込む。  
 
「風の音が煩くて眠れなかったかよ、アル坊」  
「茶化すんじゃないよ、ホーク。………うん、熱は無いようだね」  
 
ゴツと無理やり額を合わせて熱を計ると、シフは少し安心したように微笑む。  
しかし可哀想にアルベルトは顔を真っ赤に染めて、魂が抜け切ったように放心している。  
そしてはっと我に返ると「すみませんっ」と詫びて、洗面所へと走り去ってゆく。  
 
「…何だってんだい?」  
「さあなぁ」  
 
そう呆気に取られていたシフだったが、タオルを持ってアルベルトの後を追う。  
談話室に残されたホークは背中に気配を感じて振り返った。  
 
「おはよう」  
「おう、具合はどうだい、嬢ちゃん」  
「ええ、大丈夫よ。ありがとう」  
 
にこりと綻ぶように笑ったクローディアだったが、やはり少し顔色が悪い。  
眠れてないのだろうかと問いただそうとしたその時、あら、とクローディアが声を上げた。  
そしてじぃっと全てを見透かすような目で見つめられ、ホークは居心地悪そうに仰け反る。  
そんな彼にクローディアはため息をつくと、ツンと背伸びをして広がったシャツの襟を正してやった。  
 
「余程噛み癖の悪い獣がいたみたいね。ここ、隠しておいた方がいいんじゃない?」  
 
そう言って、じゃあ、とクローディアもまた洗面所へと続くドアを潜る。  
ぽり、と頬を掻くと、ホークはありゃぁ、と小さく声を上げる。  
風音で掻き消されるとたかを括っていたが、どうやらそれは甘かったらしい。  
 
「ありゃ、確実にバレてんなぁ…」  
 
嬢ちゃんはともかく、アル坊には刺激が強すぎたか。  
そう呟いた背後から突如襲ってきた殺気に、ホークはビクリと肩を震わせる。  
そして振り向きざまに振り下ろされた刀を、咄嗟にパシンと素手で受け止めた。  
 
「いきなり斬りかかるなんて、ご挨拶じゃねぇか、ぁあ?」  
「……問答無用っ!!」  
「ぐあっ、ちょい待ち!死ぬ、マジ死ぬぞ、くそったれ!」  
 
白刃取りなんて、長く続く芸当ではない。  
本気で刀に力を込めるグレイに、ホークはぎゃあぎゃあと喚き声を上げる。  
 
「ちょっと、何だってんだい、一体!」  
 
その騒ぎを聞きつけたシフが、慌てたように二人の元へと走り寄る。  
 
「二人ともやめな!特にグレイ、あんたは病み上がりなんだ。馬鹿な事してんじゃないよ」  
 
ちっ、と舌打ちをして刀を納めたグレイが気まずそうにシフを見、固まった。  
 
「…グレイ?」  
 
ひらひらと顔の前で手を振って見せても、反応は無い。  
いい加減心配になってきたところで、アルベルト達が戻ってきた。  
騒ぎの原因を尋ねようとクローディアがシフへと向き合い、先程と同じようなため息をつく。  
そしてツカツカとシフの前に立つと、シフのはだけたシャツの前を閉じ合わせる。  
 
「獣の次は、たちの悪い虫かしら?」  
 
そう言って意味ありげにホークを見ると、アルベルトを連れて部屋へと戻っていった。  
ぽかんとその様子を見ていた二人だったが、先に我に返ったホークが突然笑い出す。  
 
「何笑ってんだい!」  
「あんたが獣で、俺が虫かよ。こりゃあいいや」  
 
クローディアが指したのは、シフの胸に付いた虫刺されのような赤いキスマーク。  
ホークの肩に歯形をつけた獣は、勿論シフだ。  
ようやくそれに気が付いたシフが、僅かに頬を染める。  
その小さな反応だけでさっきから感じていたモヤモヤとした溜飲が下りたような気がして、ホークは上機嫌で笑い続ける。  
 
「ひよっこ共にゃ、いささか刺激が強いとよ」  
 
なぁ、ひよっこちゃんよ。  
ぽん、とグレイの肩を叩き、小意地が悪そうに笑うホークは本当に楽しそうだ。  
完全にからかわれている事に気付いたグレイは、顔を伏せて突然低く笑い出す。  
 
「余程死にたいらしいな!」  
「おお、殺せるもんなら殺してみやがれ、ひよっこが!」  
「………いい加減にしなっ!!」  
 
シフの怒声と共に、ガツンと痛そうな音が階下から響く。  
ホークとグレイ、二人の頭がぶつかった音なのだが、勿論そんな事をクローディア達が知る由も無い。  
しかしクローディアは呆れたように笑うと、アルベルトに声をかける。  
 
「出発、まだまだ遅れそうよ。後で手当てに行ってあげなきゃね」  
 
そう言って笑うクローディアは本当に綺麗なのだが、けっして止めに行かない辺りが彼女らしいと言うか。  
背中に薄ら寒い物を感じながら、アルベルトは引き攣った笑みを返すのだった。  
 

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