ウエストエンドには、様々な人種が集まる。  
 開拓を夢を見る者。何らかの理由で国を追われた者。未開の地で新種を  
発見しようとする学者。それらの人々を頼んで店を開く商人。  
 そして、まだ見ぬ宝を求めてやって来る冒険者達。  
 時計の針が深夜を指す頃には、酒場に屯するのは彼らばかりとなる。  
絶妙に誇張された冒険譚を肴に騒ぐ冒険者達の輪からは外れた一角で、  
二人の男女が静かに杯を酌み交わしていた。  
「―…じゃあ、そのパーティから一時離脱した訳か」  
「そう言う事になるね。流石に若造三人だったら、危なっかしくてやれなかった  
かもしれないが…」  
「信頼に足る人間がいたんだな」  
 氷が静かに割れ、音を立てる。  
「あんたが信頼するなら、そいつは確かに腕が立つんだろう」  
「いやに持ち上げるね。会ったばかりなのに」  
 女が片眉を上げ、小さく笑った。  
 男の笑いも密かだ。  
「…そいつがどんな冒険者かは、杯を見ればわかる。こんな辺境の地じゃ  
氷は贅沢品だからな…懐に余裕のある奴しか頼まんだろう」  
 そうもったいぶって杯を揺らす男に、呆れたように、  
「気障だな」  
 と斬って捨てる女。が、その目は笑っていた。  
「あんたも慣れてると見える。こっちには宝捜しで?」  
「それ以外に何がある?俺らトレジャーハンターに…と言いたいところだが、」  
 ふ、と男が口をつぐんだ。  
「―…こいつを話すには、あんたの名を知る必要がある。そして、俺の仕事を  
手伝って貰う事になる。肴には少々向かない話だが」  
「…こいつは参ったな」  
 女のうめきに、今度こそ、不信が混じる。  
 それも当然だった。彼らが邂逅してからまだ一刻と足っておらず、干した杯は  
一杯にも満たない。仲間を探す冒険者にしては回りくどく、吟味にしては短い時間だ。  
「俺は存外せっかちなんだ。下調べはする。こうと決めた宝は逃したく無いからな。  
だが、時間を置いた直感がどんどん鈍って行くのも知っている。煮込みすぎたスープは  
旨くないし、氷の溶けきった酒もそうだろう?」  
 疑惑の目を正面から受けつつ、飄々とその力を流す。男の獲物は槍だが、きっと  
トリッキーな戦い方をするのだろう、と女は思った。  
 そして、いつのまにか、男に興味を持ち始めている自分に気づいて笑った。  
「――私はシフ。バルハラントのシフさ…」  
 杯を干す。満足げに笑う男の顔は、確かにトレジャーハンターのそれだった。  
 
 男の名前はグレイ。  
 この地に眠るヴァンパイアの調査に来たのだと言った。  
 
 
「―ッと……!」  
 どさりとベッドに倒れこむ。心地良い酩酊が身体中に周っていた。  
 話してみると、グレイは見た目よりもきさくな男だった。会話は機知に飛び、  
時折不意打ちのように冗談を飛ばす。シフは決して口数の多い方ではないし、  
会ったばかりの男に自分や仲間の過去を話す事などありはしなかった。今までは。  
 不思議な男だ。  
 硬く縛っていたはずの紐が何時の間にか緩められ、それに妙な安堵を覚えている。  
 寝転がるシフを追って、グレイが横たわる。すらりとした長身だ。久しぶりに  
自分よりも背の高い男にあったな、と思い当たって、笑いが零れた。  
 指を伸ばす。  
「―…明日、ちゃんと起きれるのかい?ふらふらじゃないか」  
 ゆるい巻き毛を絡める。目じりに紅を履いた様が、妙に婀娜っぽかった。男に  
使うには妙な形容詞だが、やはりそう思う。ベッドは狭く、大柄な二人が寝ると、  
冗談のように余剰が無い。  
「あんたこそ…」  
 酒に掠れた声。名残惜しいと考えたのはどちらだったのだろう。仕事の話が終わっても、  
席を立つ気配はなかった。変わった蒸留酒を口にしたのを皮切りに、結局何本の瓶を  
空けたか覚えていない。それだけでは空き足らず、こうして寝室に酒を持ち込んでまで  
語らっている。恐竜の住む島の事。高く売れる卵の話。卵を奪われ、怒り狂った恐竜に、  
追われて殺されかけた事。臨場感たっぷりに語られる冒険譚だった。語り口は千差万別、  
詩人でもやっていけるんじゃないか――掛け値為しにそう思う程。  
 巻き毛をいらわれる侭にしていたグレイが、手を持ち上げるのが見える。  
「眠そうだ…顔が赤いぞ。最後、殆ど水ばかり飲んでいたくせに」  
 頬に、節くれだった指が触れた。背筋が粟立つ。年若い盗賊や遊牧民が、戯れに  
じゃれついてくるのとは根本的に違う――それは意思を持った肌だった。  
「ここも―― ここも」  
 指先が降りる。首筋を辿って、首飾りをいとおしんでから鎖骨に達する。乾いて  
熱い掌だ。  
「…あんたと寝たいな」  
 溜息に混ぜて、そう言ったのは、シフの方だった。  
 虚を着かれたように、目を見開くグレイに、堪えられずに笑いが零れる。顔を枕にうずめて  
尚も笑いつづけていると、憮然とした舌打ちが聞こえてきた。  
「俺の台詞を取らないでくれ」  
「ッ… ははは…! やっぱり、宝を横取りされた冒険者ってのは―…」  
 言葉は、グレイの唇に吸いこまれた。  
 音を立てて唇が離れる。浅い口付けだ。小さく息をついて、シフがグレイの瞼に触れる。  
くっきりとした眉。睫が長い。美しげな顔だが、はっとするような強さがある。アウトローの  
強靭さだ。それが、グレイと言う男を更に魅力的に見せている。  
 
 
 
 その手を取られ、手首の内側に口付けられた。  
 強い力で仰のかされる。ベッドが軋みを上げる。唇が頬に降り、先ほどの指をなぞって降下していく。  
「――…、」  
 鎖骨の下を舐め上げられて、シフの息が幽かに乱れた。古傷のある場所だ。蛮族である  
彼女の身体には、大小合わせて様々な傷跡が残っている。戦いの残滓を一つ一つ丹念に吸われ、  
背中に疼きが走った。  
「ん、―…!」  
 麻の服をたくし上げられると、豊満な乳房がふるんと零れ落ちる。弾力のある乳房にグレイが噛みつき、  
既に立ち上がりかけた突起が歯で優しく扱かれた。  
「――、グレイ…」  
 背に走る疼きを堪えきれず、肌を這う男の指をシフが掴んだ。そのまま性急に、熱いぬかるみへと  
導こうと力を込める。グレイの笑い声が聞こえた。  
「そんなに急くな…」  
「、煩いよ―… 冒険者の癖に、回り道が好きなの、   ――…あぁッ!」  
 舌先が、右の突起から左の突起へ移る。胸の合間を舌で擽られ、首筋に鳥肌が立ってしまう。  
下着の中に熱く、蜜が溢れるのが判った。乳房を弄う男の頭を抱く。血の色が透け、薄く桃色に染まる  
シフの全身を、硬い掌が何度も撫で摩った。  
「――…、 ッ!」  
 グレイの、愛撫が一瞬止まる。小さくうめいて、浅く息を逃すシフの顔を覗きこんだ。  
「バルハル族はせっかちだな―…?俺のことを、どうこう言えたものではないぞ…」  
 既に硬く強張ったグレイ自身に、シフの手が添えられていた。聞こえていない振りをして、誘うように  
上下に一度摩り、下着の中に手を差し入れる。熱い。先端がすぐにぬるつく。すべすべとした  
陰茎がいやらしい音を立て始めるのに、そう時間は掛からなかった。  
「あんたのここだって―… ん、うッ…!」  
 笑い声。陰毛を掻き分けた指が、シフの陰唇に触れた。  
 待ちかねた刺激に背が跳ねる。喘ぎは唇ごと奪われて、グレイの口腔に消えて行った。  
「そうだな…あんたに、」  
 唇が解放される。吐息と共に、耳朶を低い声が震わせた。  
 陰裂を撫でていた指が、ずぶりと挿し込まれる。あぁ、と嘆息したシフを楽しげに見下ろし、  
グレイの指が抽送を開始した。  
 
 
「あッ――…、 あぁッ…!」  
 派手な水音が響き渡る。会陰を伝って後腔までを濡らす愛液が、シーツに飛び散り染みを作った。  
「どうしても入りたがってるらしい… 凄いな。あんた、濡れ過ぎだぜ」  
「、 馬鹿… それならッ、 ……は、やく…!」  
「駄目だ」  
 愛撫の手が止まり、グレイが着衣を脱ぎ捨てた。現われた肉体に、思わずシフは惚れ惚れと見とれる。  
ホークの頑健な肉体とはまた違う、しなやかな柔軟さを感じさせる筋肉だ。手馴れた様子でシフの下履きを  
剥ぎ取ると、不意に、腕を強く掴まれ、引き起こされた。それすらも快感に変わる。膝に甘い痺れが走る。  
出来あがったシフの身体を己の上に逆向きに横たえると、  
「―…ッ!もう、いい… もういいから、」  
「ほら、俺のも気持ち良くしてくれ。さっきから、あんたの中に入りたくって、うずうずしてるんだが…」  
 ぷつんと指が押し入った。ただし、膣にではなく、後腔へ。  
「――…ああぁあッ!! 嫌、 あんた、、 何をッ…、 」  
 答えは返ってこない。次いで、陰部に快楽の衝撃が走る。肉芽を舌でこじられ、素早く玩弄されたのだ。  
親指が蜜壷へ進入し、人差し指と中指の二本が後腔へ挿し込まれる。膣と肛門を隔てる薄い幕を扱かれて、  
獣のような喘ぎが漏れた。  
「こっちの経験はないのか…?」  
「あ、、ある訳ないだろう…… そんな…ところに」  
「素質は、あるみたいだがねえ」  
 余裕を感じさせる声音が、本当に憎らしかった。背から太腿にかけて暴れまわる淫楽に耐え、硬く勃起  
した肉茎に舌を這わせる。  
 雁首が太い。せり出した亀頭に丹念に舌を這わせ、双玉を柔らかく揉みこんでいく。茎を寝かせ、この  
姿勢からは舐め難い裏筋に唇を当て、横に滑らせるようにして刺激する。  
 飄々とした笑いが、段段と熱い吐息に変わっていく。緩急をつけて扱き、亀頭を舐めまわしながら  
強く吸うと、漸く――情欲に溶けた喘ぎが男の唇から漏れた。  
「…ッ、、 上手いな…あんた。 いっちまいそうだ……」  
「そりゃどうも、 …… …ッ!?」  
 後腔を弄っていた指が加速した。肉芽を擦る舌の動きも、段違いに早まって行く。こりこりとした膣の  
肉壁を擦られ、目の奥で火花が爆ぜた。  
「やめッ…! う、ぁ… ああああぁあッ――……!」  
 ちゅるんと剛直を吐き出し、男の愛撫から逃れようと身を捩る。必死な抵抗は、適わなかった。  
鞭じみたしなやかさで背を押さえる右腕が、強く腰を押さえつけ――  
 
 
「――… あ、、 イ ……くッ……!」  
 ビクビクと背が蠕動し、シフが仰け反った。絶頂を極めた姿勢は、月に吼える狼にも似て、だが、淫猥だ。  
あまりに深い快楽に、痙攣の収まらないシフの身体を、グレイはそっとマットレスに横たえる。  
汗でしっとりと濡れた髪が額や頬に張り付き、扇情的に過ぎる光景だった。硬く瞑られた目が、薄らと  
開いていく。青い――湖面を思わせる瞳を、灰色の目が覗いた。  
「悪いな…」  
「は、、 何―― を…、」  
 怪訝そうに目を細めるシフの、髪の毛を掻きあげる。額に一つ唇を落とし、  
「――ッ! ―…、  ん…ッ!」  
 ずぶりと、圧倒的な質量が、彼女の膣を埋め尽くした。  
「我慢できそうにない、と言う事さ…」  
 灰色の目が、淫靡に濡れた。  
「動くぞ」  
 ズン、と音がしそうな突き上げ。最奥をいきなり着かれて、鈍痛と、深い悦楽がシフの子宮へ叩きつけ  
られる。散々敏感になった内奥を擦られ、シフの目から生理的な涙が零れた。  
 嬌声が上がる。まるで暴風に浚われまいとするように男の背にしがみつき、足を腰へと絡める。全身で  
グレイを飲み干そうとするように、貪欲に腰が動いた。激しいピストンが理性を叩き壊すようだ。喘ぎ、  
嘆願する。揺さぶられる乳房に吸い付かれ、ついにシフは悲鳴を上げた。  
「―… 凄、 …ッ! ああ、 もう―― ………!」  
「ッ、 まだだ…!」  
 膝の裏をぐいと持ち上げ、シフの足を大きく開かせるグレイ。鍛えられた戦士の肉体だ。収縮する蜜壷は  
凶器に近く、絞め付けは強烈に過ぎて、痛みを覚えるほどだった。  
「あんた、俺を絞め殺す気か…?凄いぞ―… 動かなくたって、飲み込んでく」  
 ぐりぐりと亀頭を子宮口へと擦りつける。短く悲鳴があがり、シフが前腕で己の顔を隠した。  
「ざらざらしてるな。熱くて、ぬかるんでる…どろどろだ」  
 抽送は酷くゆっくりと行われた。ぎりぎりまで抜き、じりじりと肉を埋めこんで行く。オーガズムを迎える  
直前の痙攣で、内壁がぎゅうと収縮させた。  
「、、 この、 ―… ッ、 …… !」  
「何だ―…?」  
「いッ――… ああッ、くそッ… あんたは、、 底意地が悪すぎる……ッ…!」  
「――… 色気の無い事は言うなよ。なあ、」  
 抽送が、猛烈な速度をもって再開された。  
「こう言う時は、俺の首にしがみついてッ―…」  
 強烈な波が、シフの身体を浚って行く。導かれるままに両腕を首へと回し、身体を預けて、深く悦楽へ  
沈む。バルハルのそれや、陵辱とは決定的に違う行為だった。女を蕩かし、違う生き物へと組みたてる。  
この快楽を知ってしまっては、今までとは同じにいられない――  
「愛の、言葉でも、 ――囁くもんだぞ………」  
 悪態をつこうと開かれたシフの口を、グレイが素早く塞いだ。  
「――……      ……ッ!!」  
 長い絶頂が舌に絡め取られる。快楽が行き場を失って荒れ狂い、つま先までを破壊して造りかえる――  
 息が出来ずに、シフがぐったりとベッドに沈む。ずるりと引きぬかれた剛直から、白濁が、  
「ッ、 くッ…!」  
 豊かな胸へと降り注いだ。咽かえる精臭を嗅ぎながら、シフの意識は混濁に引き摺りこまれて行った。  
 
 
 
「―…」  
 ふと、感じた寒さに目が覚める。  
 それほど眠っていたわけでは無いようだ。ランプの灯は消えておらず、テーブルに零した水滴も乾いて  
いない。安いシーツの感触は悪くなく、ぬくもりは再び眠りを誘う。  
 欠伸をかみ殺し、シフは、ベッドの傍らでスツールに腰掛ける男を見やった。  
「……そう睨むな」  
「あんたって男は…」  
 年がいもなく照れが混じり、視線がついきつくなる。ぶっきらぼうに聞こえるように息を吐き、  
「水…」  
 差し出した右手に、恭しく杯が渡された。身を清められている事に気づき、頭が痛くなる。どこまでも  
そつのない男だ。視線の意味を汲んだのか、かるく両手を広げて降参のポーズを取るグレイに、苦笑が  
漏れる。あるいは、あそこまで乱れた自分にかもしれない。  
 この男なら、確かに、下手は踏むまい。  
 色事師と言うのではない、奇妙な冷静さが、グレイの中には息づいているように見える。決して冷えている  
のではなく、自在に姿を変える事が出来る魂の形。  
 自分の良く知る、強い輝きを放つ原石と、その形を比べている事に気づいて、シフは再び苦く笑った。  
「悪かったね」  
「――…何がだ?」  
「先に眠っちまってさ。まさか、あんたに始末をさせるとは―…」  
「別に、気にしてなんかいないさ。逆に、俺は嬉しく思ってるがね…」  
 ふ、と笑ったグレイが口を開くよりも先。  
「それ以上は、言わなくていい」  
 片目を細めて、シフが告げる。対するグレイはやや憮然とした表情になる。髭の生え始めた顎を撫で、  
酒と睡魔に赤くなった目を瞬かせた。  
「あんたの言いそうなことが、段々判ってきたからさ。大体だけどね」  
「大体、か…」  
「ああ。だから、それから先は、言わないでいい」  
 二人が目を合わせる。  
 一瞬後に部屋を満たした笑い声を、果たしてどちらが先に上げたのかは――やはり、わからなかった。  
 
(終)  
 
 

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