地平の彼方から野生モンスターの遠吠えが届く。辺りは闇に沈み、見上げた夜空は遥かな銀河  
を映して儚げに煌めいていた。何処までも広がる草原の一角に点々と野営が貼られ、焚かれた炎  
が近辺の見張りに立つ兵士達の影を伸ばす。重厚な甲冑に身を包む人間も居れば、全身を禍々し  
い筋肉で纏った戦鬼もそこに並んで外敵の襲来を未然に防ごうと目を凝らしている。月明かりを  
遮る黒風は竜の飛翔か。  
「……魔王殿はどこか?」  
 嫣然とした声で、ある女が尋ねた。その声に振り返る男は腰に数本の獲物を帯剣し、怪奇的に  
変貌した右腕を持つ屈強な身体をしていた。流麗な金髪を揺らし、背の低い雑草を踏みしめなが  
ら野営を廻っていたらしき女へ冷徹な視線を向ける。  
「さぁな。知らん。そう言えば日が沈む前から見当たらんな……また少々遠くまで偵察に向かっ  
たのではないか? 頭領たる者が殊勝なことだ」  
 魔戦士公の爵位を持つアビスの支配者の一人──アラケスは、同じ金の長髪を持つ女へ無関心  
な返答を返す。戦う事のみに己の存在を賭するアビスの超戦士は、女から煌めく夜空へと瞳を持  
ち上げる。アラケスと対面している女──魔龍公ビューネイも、アラケスの視線に釣られたよう  
に毅然とした動きで頭上を仰ぐ。焚き火に炙られた緋色の双眸は遠く、感慨めいた光を宿してい  
た。  
「ふん……奴の酔狂に付き合った挙句、とうとう世界征服まであと一歩か」  
 死に魅入られた男、されどアビスの者にとっては蛆虫以下である事に変わりも無い存在に屈辱  
的な敗北を喫せられた憎悪も含まれたアラケスの言葉は、微かな夜風にのって夜気に溶けた。  
「魔龍公。我等の計画は上手くいく」  
「……あぁ」  
 ビューネイの吐息は惑い色に揺れていた。アラケスはビューネイの胸中を漠然と察していなが  
らも、敢えて指摘する事は無かった。闇を裂く焚き火の緋光に照らし出されたビューネイの陰影  
は濃く、人間じみた感情すら感じさせた。  
 アラケスの唇が挑戦的、そして残忍に歪む。  
「何を迷う事がある? 何故、我等があのような男に頭を垂れねばならんと考えないのか? た  
がか一度の敗北で奴に服従せねばならないこの屈辱。我等は今日という今日までそれに耐え忍び  
──」  
 アラケスの雑草を踏む足音が、ビューネイの耳元で止まる。アラケスは僅かに顔を伏せた魔龍  
公に耳朶に唇を寄せた。  
「こうして、魔王に反旗を翻す絶好の機会を待っていたのだろう」  
「そうだな」  
 ビューネイの反応は淡白であり茫洋としていた。魔貴族が主君に隠れて東の国へ送った使者は、  
敵国の長へ魔王の軍勢が侵攻を開始した事を伝えてあるだろう。向こうの軍備は魔王と魔貴族の  
混合軍に対抗できるほどに整っている筈だ。  
 あとは、自軍が敵国の領地へ攻め入った際に東の国の蛆虫を滅ぼすついでに、己の手でこちら  
に背を向けた主君の首を討ち取るのみ。四人の闇の支配者はそうする事で、再び自由と独裁をそ  
の手に取り戻す事ができる。  
「少しは休めよ魔龍公。背後から奇襲をかけるといっても、相手はあの魔王なのだ……もしや、  
既に我等の反逆に気付いているかもしれん」  
 魔戦士公から背を向け、ビューネイは踵を返していく。それからもビューネイは野営地の各所  
を見て廻った。一際巨大なキャンプの付近まで彷徨ったところで、沈んだ溜め息を漏らしたビュ  
ーネイの頭上が影に覆われる。ビューネイが見上げた先に翼をはためかせる黒竜の雄姿があった。  
黒竜の翼が起こす風がビューネイの髪と服を激しく乱した。ビューネイが見上げる中で黒竜は地  
上へその巨躯を下ろし、背に乗っていた人物がビューネイの前に降り立つ。  
「何かあったのか?」  
 漆黒の鎧に身を包んだ男が魔龍公に冷徹な瞳を射す。ビューネイは自分の中で苛立ちが湧き上  
がっていくのを自覚した。  
「このような時に、一体何処へ向かわれていたのだ魔王殿」  
 憤慨すら感じさせるビューネイの追及は、しかし魔王に反省や悪気というものを起こさせるに  
は足らなかった。西の大陸をその手中に収めた宿命の男は黒竜の硬質な皮膚に掌を添えて待機さ  
せ、自身のキャンプに足を進める。出入りの両側に立つ見張りの兵士は姿勢を正して魔王の通過  
に硬直していた。ビューネイは無言のまま荒々しくその後を追う。  
 
「東の国の軍勢はやけに準備がいいな」  
 単身の偵察から帰った魔王の疑問に、ビューネイは一瞬だけ動悸が高鳴った。それを糊塗する  
かのように視線の圧力を強めて魔王の背中を凝視する。魔王は手に袋を持っており、ビューネイ  
はその荷物に無関心な一瞥を与え、すぐに魔王に視線を戻す。  
「貴殿はもう少し己の立場というものを理解するべきだ。偵察などは部下に任せればよいだろう  
!」  
 何故そこまで声を荒げてしまうのか自分自身でも判然としないまま、ビューネイは憤然と叫ん  
でいた。魔王はそれでも一切動じず重装備を脱ぎ、軽い身となって中に設備された棚から杯を取  
り出していた。袋からは透明の液体が注がれた瓶を取り出し、杯にそれ注ぎ、そこで魔王は未だ  
に眉間に皺を刻んで自分を睨むビューネイに手の中の瓶を差し出す。  
「お前も飲むか?」  
「ひ、人の話を聞けっ!」  
 ビューネイの怒声に魔王は片目を閉じた。  
「そう怒らなくてもちゃんと聞いている。それで、お前は何をそう苛々している?」  
 ビューネイは目の前の主君の奔放ぶりに思わず全速力でトルネードを詠唱しそうになったが、  
そこは寸でのところで自省した。代わりにアースライザーで八つ裂きにしようという別案が生ま  
れたが、それも何となく却下しておいた。しつこく勧められる酒の誘いに負け、ビューネイは自  
分の怒りを横に置いて魔王と向かい合って座する。広さはあるが、仮眠用の寝台と簡素な調度品  
が最低限置かれただけの宿営テントだった。  
 憮然とした表情のビューネイに、魔王は直々に酌をした。杯を受け取ったビューネイはまず透  
明の水面を鼻に近づけ、嗅覚を刺す刺激的な臭気からそれが酒だと知る。ビューネイは固く引き  
結んだ唇の合間から酒を呷った。  
 途端、焼けるような喉越し、まではよかったが、更に奇妙としか言いようの無い味に思わず吐  
いた。  
「な、な、な……?」  
 口許に付着した水滴を袖で拭いながら、ビューネイは予想外の襲撃に目を丸くする。今まで味  
わったことのない独特な酒だった。相酌の席に居る魔王が微かに笑う。  
「清酒という酒でな、米を原料としているらしい。東の国で酒と言うと殆どこれを指すようだ」  
「そうか、東の国ではこのような酒が──」  
 普通に納得しかけ、ビューネイは魔王の説明に多大な疑念を覚えて暫し沈黙する。根本的に何  
かが間違っているような気がし、疑念は当惑に変わり激怒へと進化した。  
 何故、今から攻め入るという国の産品を目の前の男が持っているのか、という疑問と解答はビ  
ューネイに呆れより先に殺気のような怒りを噴出させる。  
「て、敵国で、東の国で何をしてきた貴様ーっ!」  
 唐突に立ち上がったビューネイを、魔王は口に杯をつけながら上目遣いに見上げた。  
「案ずるな。変装に抜かりは無かった」  
 魔王は涼しい顔をして言い、ビューネイの体内温度は高温と低音を瞬間で往復していた。  
「そういう問題では……」  
 遂に魔王の無防備な行動を糾弾する気もいつものように根負けし、ビューネイは脱力してその  
まま腰を崩す。魔龍公の長く重い溜め息がテント内に漂った。  
 
「今度は厳しい戦いになるな」  
 夜が深まっていくと同時に酒の量も減っていき、二人の声も途切れ途切れになっていた。先ほ  
どまでの飄然とした雰囲気とは違い、どこか憂いを帯びた魔王の言葉にビューネイは俯きかけて  
いた顔を持ち上げる。  
「……貴殿は、何故世界を統べるなどという野望を持ったのだ?」  
 ビューネイはただ会話を欲したかのように口を開いた。自身の領界で閉鎖的な君臨を続けてき  
た彼女は、強大な魔力のもとに自身達を震撼させ、支配し、果てに従属させ、何一つも省みる事  
無く破壊を殺戮にのみ生きる男に複雑な心事を抱いていた。あまりに血塗られた魔王の腕を、気  
高い光を灯す双眸で見つめる。  
「もう三十年も前になるな──死食があった。生まれてくる筈だった全ての命が、産声すら上げ  
られずに死に絶えた。地獄の中、私だけが生き延びた。たった一人、私だけがな」  
 もう忘れかけた記憶を掘り返すように、魔王は酒精に火照った声を漏らす。杯を置き、広げた  
自分の両手を見下ろす魔王の瞳は暗く淀んでいた。その瞳が静かに瞼の奥へ閉ざされる。  
「世界を変革させる。私の野心に根付く理想としては少々陳腐に過ぎるか?」  
 ビューネイには自嘲が垣間見える返答に見えた。死に生まれ、死に魅入られ、死に染まった存  
在としてはひどく矮小な答えのように思えた。  
「憐れな……。他の生き方もあったろうに……」  
 己の世界に閉じ篭り、ただ無限の時に身を委ねる選択もあっただろうに。内心で哀憫を持て余  
し、ビューネイは正面で再び杯を口で傾ける魔王をじっと観察した。こちらの世界とアビスを繋  
ぐ門を開き、戦力を拡大させる為にアビスへ攻め込んできた時のこの男の圧倒は今でも思い出せ  
ば寒気すらする。  
 だが、やはり虫ケラは虫ケラだった。  
 アビスの魔貴族すら屈服させた男は、しかし心という枠からはみ出す事のできないこの世界の  
人間だった。それ以上でもそれ以下でもなかったのだ。  
「他の生き方か……」  
 遠い眼差しで魔王は呟いた。嘗ての自分をその瞳に投影するかのように、漠然と宙を見据える。  
人の子として平凡な日々を送った時代が無かったわけでもない。己に内包する強大な力に駆られ  
る以前の青春は、今でも魔王に痛ましいほどにほろ苦い追憶を抱かせる。  
 いつしかビューネイは前屈みに身を乗り出し、魔王の頬にひんやりとした自分の掌を添えてい  
た。更に身体を前に出し、唇が触れ合いそうなほどの至近距離で二人は見つめ合う。  
「そう暗い顔をするな。世界の全てをその手にする男が……」  
 瑞々しい光を宿すビューネイの双眸に映る魔王は、清々しく一笑した。  
「後の時代はお前達に任せよう。私を討つ者として、この荒廃した世界の後始末くらいは見ても  
らいたいものだな」  
「やはり、気付いていたか。……いいだろう」  
 最後の言葉を飲み込むように、ビューネイは互いの唇を塞いでいた。瞳を閉じて、顎を突き出  
し、魔王の唇の感触を更に欲する。今は外に居る見張りも気にならなかった。何故自分が虫ケラ  
の人間に欲情しているのか、明確な答えは見つけられなかった。ただ欲望のままに魔王を組み敷  
き、背後に置かれた簡易寝台へと交わりの舞台を移す。初めは呆然とビューネイの求めに応じて  
いた魔王だったが、寝台が軋む音がして、何かを吹っ切ったように自らもビューネイを欲するよ  
うにその細い背中へ腕を回した。  
 
「はぁ……ん、っ……」  
 魔王の髪を掻き毟るように手を這わせ、ビューネイは息継ぎも惜しむように魔王との口付けに  
没頭した。酒精に染まった二人の密着した口の微かな狭間から、妖艶な呼気と粘膜が擦れあう音  
が漏れ出て密やかにテント内の空気を揺らす。魔王の身体に覆い被さるビューネイの口内に唾液  
が溜まり、それは魔王の口腔へ突き出した舌を伝って垂れ落ちていく。ビューネイもまた魔王の  
唾液を舌で舐め取り、貪欲に喉へ押し流していく。喉を鳴らす傍らで舌先が出逢い、快楽を求め  
合って淫らに絡まる。粘着質な響きが加わり、二人の興奮を促進させた。  
「っはぁ、は──」  
 魔王とビューネイの口に架かった細い銀糸は、二人の体勢が逆転した事によって呆気無く途切  
れた。男の口先が女のうなじを這い、ビューネイはもどかしい刺激に足をよじらせて敷布を掻き  
回す。鎖骨の辺りを舌先でくすぐられ、ビューネイの吐息は僅かに高くなった。魔王の掌はロー  
ブの合間から侵入し、女の膨らみをやんわりと掴んだ。親指の腹で桃色の頭を擦られる。巧みな  
五指の動きに合わせて乳房が形を変える度、瞼を伏せて悶えるビューネイの背中が敷布から浮き  
立つ。ローブを肩から脱がし、ビューネイの上半身が魔王の下で晒された。露になった程よい規  
模を持つ双丘は、ビューネイの呼吸に合わせて蠱惑に上下していた。  
 その鼓動に含まれた色香に誘われるように、魔王は胸の下腹を舐め上げた。湿った粘膜の感触  
にビューネイの背中が一段を跳ねる。だが女の一番弄んでほしい先端には手をつけず、魔王の舌  
は膨らみの部分へ執拗に唾液の後を刻んでいく。首を左右によじり、手足の指先を敷布に食い込  
ませ、ビューネイは涙を目の端に浮かべて魔王の半端な愛撫に満足できず憮然とした声を漏らす。  
「じ、焦ら、す、なぁ……」  
 媚びるように呼吸を乱すビューネイは、今も荒くなっていく息遣いの合間に欲しがる言葉を差  
し挟んだ。それでも魔王は乳輪に舌を掠める以外は乳房を揉みしだき、その柔らかさを堪能する  
だけでビューネイの願望に応えようとはしない。胸の膨らみに埋もれながら、加速する欲求だけ  
で一人昂ぶっていくビューネイの火照った表情を見るだけで魔王も身体全体の神経が発火してい  
くような心持ちに襲われた。  
「先端を、もっとっ……んあぁ!」  
 魔王が薄桃色の先端を甘く歯で挟むと、ビューネイは思わず黄色い声を叫んでいた。即座に手  
首を口に押し当てて頬を爆発させる。その反応を見て、魔王が呆れたように嘆息する。  
「今更何を恥ずかしがっているんだ?」  
「ひぁっ、あ、んん……っ」  
 魔王の口と手が自分の胸部を蹂躙しているだけで、ビューネイは身体が熱で溶けそうなほどの  
快感に震える。酒精の熱が肉欲の熱に浸蝕されていた。魔王の片手が脇を通って太股に達し、舐  
め回すように美麗な脚を撫で上げ、ついでにローブを完全に取り去っていった。裸身を薄明るい  
灯火の下に照らすビューネイは、半開きの口から熱っぽい吐息を繰り返して主君の侵攻を甘んじ  
て受ける。魔王の愛撫だけでない理由で、ビューネイの脚は何かを待つように艶かしく踊ってい  
る。魔王の舌が下降して臍に潜り、蛇のようにのたくった。内臓すら性感帯と化したようなもど  
かしい刺激がビューネイを更に恍惚とさせる。唾液に濡れた舌が腹部の穴を攻める度、官能的な  
水音が立ってビューネイの羞恥と快感を増幅させていく。  
「そんな所、やっ、はぁっ、あぅっ」  
 ビューネイの腰が悶え捩る。逃がさないように足の付け根に掌を当てて、魔王は更に下へ向か  
い、成熟した肢体とは裏腹に薄い陰りの恥毛に鼻先を滑らせた。その先にある秘肉の断層へ舌を  
伸ばし、表面を軽く舐めて唾液で濡らす。  
 
「うぁっ……何、気持ち、いい」  
 恥部を愛撫し始めて戸惑うような反応を見せるビューネイの素振りに、魔王は舌の動きを休め  
ずに何か不思議な感覚を持った。だがそれが何なのかはっきりとせず、その感覚を放置してビュ  
ーネイに官能を送る作業に集中する。太股を掌で押し開き、柔らかく閉じた秘肉へ顔を埋めて舌  
を這わせる。ビューネイの断続的な喘ぎ声に呼応するかのように、雌の香りを振り撒きながら蠢  
動する秘肉がねっとりとした液を排出してくる。魔王の赤い粘膜に分泌液が絡まると一層魅惑的  
な愛撫音が陰唇を喜ばせ、一度目覚めた官能は惜しげもなく愛液を吐き出していく。  
「ひっ──!!」  
 自らの体液で淫靡に照らす恥裂の上に生えた突起を指で触れると、ビューネイの身体が電流を  
浴びたように激しく痙攣した。予想以上のあまりの敏感さに少々驚き、魔王は手の動きを止めて  
裸身の先にあるビューネイの顔を見遣った。汗で肌を湿らせるビューネイは、胸を荒く上下させ  
ながら自分の股間に顔を埋めている魔王へ戸惑いの目を向ける。その光景だけでも心臓が破裂し  
そうだったが、先程の快感とも痛みとも知れない未知の刺激に神経が熱を発していて、思考が鈍  
磨している為に羞恥心も薄らいでいた。口から垂れる唾液もそのままに身体を弛緩させているビ  
ューネイからその陰部へ視線を戻し、魔王は再び陰核に狙いを定めて、今度は唇でその勃起した  
女の蕾を可愛がった。  
「あっ、あぁ! こんな、初めて……気持ちいいっ! そこ、もっと……っ!」  
 舌先で包皮を剥かれ、弄ばれる度にビューネイの身体は面白いように跳ね踊る。止め処無く押  
し寄せる快感に打ち震えるビューネイの声は、ひたすら性の悦楽にを貪ろうとしている者の色に  
染まっていた。身体は火照り赤味を帯びて汗に湿り、魔王の愛撫を受ける陰部は内部から溢れ出  
る愛液に濡れて官能的に蠢動していた。ひとたび魔王が手を緩めると、ビューネイは我慢できな  
いように腰をくねらせて物欲しげに媚びる。  
 腰を上げた魔王も着ている物を全て脱ぎ、猛々しい一物をビューネイの前に晒した。どんな魔  
物よりも畏怖のようなものを発する屹立した男性器に目を奪われる暇も無く、ビューネイは乱暴  
に身体を横転させられる。ビューネイには体位に気を配るほどの余裕もなく、ただ薄ぼんやりと  
した頭で背後の魔王の手で腰が持ち上げられるのを感じ、後ろから犯される事だけを荒い呼吸を  
続けながら待った。  
「くっ──は、あっ! はぁっ」  
 熱を滾らせる異物が肉襞を掻き分けながらビューネイの中に侵入する。容赦ない下腹の圧迫に  
ビューネイの口から苦しげな呼気が吐き出され、何かに耐えるように魔貴族の両腕は肘立ちにな  
って痙攣する。不自然に強張っているビューネイの肢体と予想外の締め付け、いや肉の緊張に魔  
王はいよいよ顔を顰めたが、それでも前進を止めなかった。魔王の屹立が根本までビューネイの  
中を貫き、一際強かった肉の抵抗が裂けるような呆気無い感触を最後に失われる。ビューネイは  
死後とも思えるほどに身体を緊張させ、膣が満たされ犯される異物感に荒い呼吸に囚われていた。  
「お前……」  
 魔王は結合したまま、ある一点に目を奪われていた。ビューネイが前から涙目の視線を魔王へ  
振り返らせる。  
「どう、した。動かないのか? 私の中で……存分に、イって……いいんだ」  
 男を受け入れた箇所から愛液に混ざって紅の細い筋を一垂らしながら、尚もビューネイは破瓜  
の苦痛に耐えながら魔王に身を委ねる。瞑目して動きを止めていた魔王が、まずは緩やかに前後  
運動を開始する。魔王の熱が開発されていない膣壁を摩擦する度に、ビューネイの赤い口から苦  
しい呻きとも戸惑いの喘ぎともとれない声が押し出されていく。低速の性器の絡み合いが、ネチ  
ャ──と長く尾を引く性交音を立てる。些か快感が足りない魔王だが、ビューネイの調子に合わ  
せようと注意を払う事に不平も無かった。  
 
「肩の力を抜け──余計に痛むぞ」  
 普段は雪原のように白く、今は興奮で赤く発奮しているビューネイの背筋に覆い被さり、魔王  
は膣の具合を慣らすゆっくりとした動きを続けて耳元で囁いた。結合部の圧迫を紛らわせようと  
少々乱暴に乳房を揉み荒らし、粗暴な快楽をビューネイに送り込む。汗ばんだ首筋に唇を寄せ、  
耳朶を甘く噛む。下の苦しみが魔王の丁寧な上の愛撫で少しは和らぎ、ビューネイは目の端に涙  
を溜めた目を閉じて呼吸を落ち着けようと努める。二人の息遣いが近付き、一つに溶け込んで互  
いを高揚させていった。  
「んんっ、あっ、はっ、は……」  
 魔王が引いた腰を再び沈めるとビューネイの肺にある空気が口から漏れる。そうして数分、十  
数分とかけて魔王はじっくりビューネイを味わった。ゆっくり、それこそ言葉の通り身体と心を  
融け合わせるように結合部を刺激させる。後ろから何度も突き貫かれるうちにビューネイの膣も  
異物に適応して形を成していく。少しずつ、痛みが別の刺激に入れ替わりつつあった。静かな夜  
に海が淡い波を囁くように、ビューネイの背筋に漫ろのような感覚が這い上がる。  
「あ、あぁっ……駄目、よく、なってきたっ。駄目っ……」  
「そろそろ、こっちも愉しませてもらうぞ」  
 言い終わるや、ビューネイと身体を密着させていた魔王は腰を上げて一気に律動の速度を高め  
た。突然の加速にビューネイは愕然と膣の伸縮から生まれる快感に悲鳴のような声を上げる。膣  
内から十分に分泌された液は粘り気も帯びていた。  
「んぁ、はっ、はや、い!」  
 興奮しきった互いの性器同士が愛液の中で淫らな音を奏で、乱暴に往復する魔王の腰とビュー  
ネイの尻が弾け合う。調子のいい肉を打つ音がテントの中に響き、その官能的なリズムにのって  
ビューネイの甘い嬌声が男女の交わりを艶かしく彩った。まさしく今以上の色欲を満たそうと男  
に媚びるような鼻にかかった喘ぎで喉を鳴らし、ビューネイは性交の悦楽に酔いしれていく。汗  
を振り撒き、敷布の上で男に後ろから突き弄ばれている事に何故かしら恍惚感が増幅していく。  
「イって、私の中でイってっ! あ、あぁっ、わた、私も、もう──っ!」  
 正気を保っているのか疑わしいほどのビューネイの狂おしい歌声に触発されるように、魔王は  
低く呻くと肉欲の全てをビューネイの中に放出していた。一度大きく膨張してビューネイの膣を  
白く濁し、断続的に脈動しながら尿道に残った分を吐いてビューネイを穢せるところまで穢そう  
と膣を白濁で浸していく。魔王が有りっ丈の快楽を貪った一物を抜くと、粘着質な音を引き連れ  
て白い粘液が漏れ出た。  
「熱い……」  
 恥部を愛液と破瓜の血と精液で汚しながら、ビューネイは呆然と呟いていた。暫く、テントの  
中には性交の余韻に浸る二人の呼吸が漂っていた。  
 
 
 行為が終わり、そのまま寝台に寝転がって休息をとる魔王の傍にビューネイは寄り添った。ラ  
ンプに照らされた表情は怒っているようで、その隙間に満足気なものも垣間見えていた。  
「……お前の望んだものは、こんなのではなかっただろう」  
 暫くの沈黙を、女が破った。それは苦しげで、憤然としていて、憐憫を含んでいる声色でもあ  
った。虫ケラ程度の存在にここまで心を折る自分の心理もよくわからないでいた。  
「私の、望んだもの?」  
 そこで初めて、魔王の乾いた瞳に光が戻った。それは余りに人間的過ぎる生々しい光でもあっ  
た。空虚に宙を見つめていた魔王の双眸が、焦点の合わない像を見据えるように深くなっていく。  
 現実の視界に、幻想の世界が重なる。父がいた。母も微笑んでいた。故郷の友がこちらに手を  
振る。豊かな季節の移り変わりに彩られた望郷の景色が浮かんでは消え、霞んでは甦り、幾度と  
無く男の記憶を駆け巡る。  
 ずっと疑問だった。何故、自分だけが生き延びたのか。何故、自分だけが例外だったのか。誰  
もが死に絶える中、何故に自分だけが産声を上げる権利を持ち得たのか。  
 そもそも、そんな自分に人生を送る価値があるものなのか──  
 全てを破壊する事でしか、宿命に歪められた自分の存在意義を確かめる術が無かった。湧き上  
がる衝動に身を任せていないと行き場を見失った自意識に押し潰されそうだった。  
 死食の日に産まれた自分を、それでもそれ以上無いほどの愛情で育ててくれた親も、何の区別  
も無く接してくれた故郷の友も、余りにも眩しすぎて、だから滅ぼした。  
 その男は、いつしか魔王と呼ばれ世界に君臨していた。親から授かった名すら過去へ置き去り  
にして。  
「あ……あぁ……」  
 魔王は震える腕をその儚い風景に差し伸べた。だが届かない。余りに多くの血に塗れた男の腕  
を、そっと魔貴族の細い手が押さえる。何も言う事も無く、ビューネイは優しく魔王に口付けた。  
「もういいだろう。もう、疲れたろう。だから、お休み……もうお休み……」  
 魔王の瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。  
 

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