最初が肝心だ。  
そういったのは、海賊のオヤジだったかもしれないし、クールを気取った剣士だったかもしれないが、  
勿論そんなことは言われるまでもなくジャミルだって分かっていた。  
だがしかし。  
分かっているからと言ったって、イレギュラーな自体というものはある訳で、勢いとはいえ、仕出かし  
てしまった事はなかったことにはならない。  
あれは仕方ない。  
どうしようもない事なのだから頭を切り替えて次に必ず名誉挽回を、と己に誓ったこの矢先―  
(これってまたとないチャンスだろ!)  
奮発して取った高い個室に、腕の中には大事な幼馴染。  
期待していなかったといえば嘘になるが、少女が自然と身体を寄せる状況にはエロールよ有難うと感  
謝の祈りを捧げたいくらいだ。いや、この場合は愛の神アムトだろうか。  
「ファラ…」  
しかし抱きしめた腕に少しだけ力を入れて囁くと、それまでリラックスしていた少女の身体が目に見え  
て強張った。  
(ああああ、やっぱちょっとダメか!?)  
自業自得という言葉がジャミルの脳裏にチラつくが、必死に平静を装ってファラの背中を撫でてみる。  
「ファラ…その、こないだは酷かったけど」  
酷いどころか、あれはほとんど暴力だ。自分の中の色んな感情を持て余して、彼女にぶつけたような  
ものだった。  
ファラはただ受け止めてくれたが、どれだけ怖い思いをしたのかはこの反応だけでも十分に伝わってくる。  
 
「本当に悪かったと思ってるよ。だから…」  
「ジャミルっ」  
宥める言葉を遮った呼びかけが妙に上ずって、それに彼女自身が驚いたように顔をあげる。  
「こ、この前の事はいいんだよ、だって……ダウドはジャミルが一番信頼してたんだから」  
言葉の後半は早口で囁くように吐き出された。  
未だ重く心に圧し掛かるその名前は、彼にとっても彼女にとっても大切だった存在で。  
「…本当は、ちゃんと受け止めたかったんだ」  
泣き悲しむだろう彼女を、ちゃんと抱きしめて慰めてやりたかった。なのに、嘆いたのも慰められたのも  
自分の方だった。  
ジャミルは泣くよりは、まず怒る人間だった。自分で行動しなければ事態は変らないし、そうやって生き  
てこなければならなかったから。  
だから、誰より信頼していたもう一人の幼馴染を永遠に失ったときも、怒りによって動いた。悲しみに暮  
れて、嘆く事など思いも寄らなかった。  
ファラを抱きしめて、抱きしめられるまで、ジャミルは自分が泣けなかったことに気付かなかったのだ。  
「あたいだって、ジャミルを抱きしめたかったから、だからいいんだよ。…そりゃあ、ちょっとは…てゆうか  
結構怖かったりも、したけどさ」  
昔から、ずっと近くに居た幼馴染。  
今まで生きてきた人生は辛いことも多かったけれど、決して不幸ではなかった。  
親友や仲間、そしてファラがいたから。  
ファラの明るさ優しさ、そして強さ。それは多分ジャミルにとって、最も大切な拠り所なのだ。  
「ファラ…サンキュ」  
「何か、改めて言うと恥ずかしいね」  
いたずらっぽく笑ってファラが伸びをする猫のように、ごく自然に唇を寄せた。  
 
触れるだけのキスから軽く啄ばむように交わして、閉じられた唇に舌でノックするように奥を求める。  
息をつく僅かな隙間を逃さずに差し入れて絡めると、誘われるままに、ぎこちなく彼女の舌が応え  
はじめた。  
なぞり、絡め、吸う。ジャミル自身、耳で聞いただけの知識にすぎない。だが、お互いに求めて高ま  
る何かを感じ始めていた。  
長いキスの間にしっかりと抱き合った身体をほんの少し離して、潤んだ目が覗き込む。  
「今度は、ちゃんと…やさしくやってよ」  
強がりのような優しい許しを得て、ジャミルは少女の身体をゆっくりとベッドへと押し倒した。  
唇に、頬、額と悪戯にキスを降らせながら、衣服の隙間から手を忍ばせる。  
緊張するファラの身体を宥めるように、柔らかく撫で回す。洋服越しに乳房を揉むと、息遣いに甘い  
ものが混ざり始めた。  
「怖くないか…?」  
視線を合わせて尋ねた言葉に少女が小さく頷くと、ジャミルは悪戯が上手くいったときのような笑み  
を見せる。呑気なものではないのに、それが彼をより魅力的に見せる表情なものだから、タチが悪  
いとファラは思う。分かっているのに、見蕩れてしまう。  
「じゃあ、上脱いでくれよ」  
「…え。」  
「な?」  
悪戯っぽく笑いながら、彼は自分自身の上着に手をかける。  
何となく、このままジャミルが全部やってくれると思っていたファラは、自分から、ということに羞恥で  
頬を染めたが、考えてみればジャミルがそんなに手際よく女の服を脱がせられるはずも無い。  
(ていうか、手際良かったら嫌だし)  
いつの間にか、自分の上着の止め具を全て外して、楽しそうに見つめてくるジャミルから視線を逸ら  
して、ファラは先に髪を解いた。  
 
クセのついた髪が首筋にかかる。見られる恥ずかしさを吹っ切るように、僅かに身を起こすと一気にシャツを脱ぎ捨てる。  
「あっ」  
持ち上げた腕をそのまま取られて、ベッドに沈む。直接感じる体温が一気に上がったかのような錯覚。  
「ジャ、ミル…」  
首筋から胸へ。ゆっくりと舌でなぞる感触に組み敷かれた少女の肌があわ立つ。  
胸の頂を捉えるとファラは背を仰け反らせた。胸を押し付けるような動きは、もっと、と行為をねだ  
っている様な気さえする。  
ジャミルに縋りつくように回された腕に気分を良くして、円を描くようになぞり、吸いながら、反対側  
は手のひらで弾力を楽しんだ。  
「やぁ…ジャミルぅ」  
しばらく交互に舌と指で愛撫を繰り返していると、少女の脚がもどかしげに蠢き始めた。恐らく無意  
識なのだろう。ふと思い当たってスカートの中へ手を滑り込ませると、そこは下着越しでもはっきり  
と分かる程に濡れ始めていた。  
「感じてるのか?」  
「そ、んなの…」  
「言ってくれよ、ファラに辛い思いはして欲しくないからさ」  
隙間から指を差し入れると、あつく柔らかいものに飲み込まれる。  
「すっげえ、ドロドロ……これ、イイって事なんだよな?」  
吐息までかかる耳元で囁かれる度に、下半身へと疼きが走って、ファラは訳も分からずに頷いた。  
ジャミルの指が、今までロクに触れた事の無い場所を暴こうとしている。  
けれど、怖くはない。  
(期待…してるのかも)  
形を確かめるようにゆっくりと指がなぞる。溢れているその場所に引っけるように動かすとクチュと  
粘液が音を立てる。  
「やあ…」  
恥ずかしい。  
身体が、何よりも正直に彼を待ちわびている。  
 
微かに震える膝を割って、ジャミルがすっと身を引いた。  
触れていた体温が離れる事で少しの肌寒さを感じ、ファラが何かと見てみれば彼はじっと、秘められ  
た泉を注視している。  
「やっ…!」  
羞恥に震えて思わず身体が強張った。とっさに脚を閉じようとしても間に身体を滑りこまされていては  
意味がない。逆にその場所に閉じ込めてしまうだけだ。  
「――――っ!!」  
ぺろり、と舐められた。  
舌先だけで掠めるように、形をなぞるように何度も。とんでもなく熱い吐息にさえも震わせられて、もど  
かしさに逃げようとする腰は、ジャミルの腕に捕われた。  
「だっ、ダメッ!」  
反射的に身を起こして、すぐさま後悔した。  
行為に没頭するジャミルの、見慣れない切羽詰った表情も、自分を追い詰めてる舌の動きも、全て見  
下ろせてしまっている。  
「あ……あ…っ」  
目が離せなかった。  
ファラの様子に気付いたジャミルが、視線を上げる。にやりと笑った唇が濡れていて、いやらしい。  
「すっげえ色っぽいカオしてるぜ。分ってるか?」  
「なっ、やぁああ―――――っ!」  
否定しようとした言葉は悲鳴に飲み込まれた。  
ジャミルが今まで触れていなかった、女の一番繊細な華芯に吸い付いたのだ。  
初めて迎えた絶頂に、頭が真っ白になる。  
身体が痛いほど硬く強張って、ゆっくりと力が抜けていった。  
「ああ…、は、ぁ……」  
「ファラ」  
まだ覚束ない身体に覆い被さって、掠れた声がファラを呼んだ。  
唇よりも堅く、熱いものが入り口を確かめるように掠める。  
(…ジャミル、の……)  
意識するのとほぼ同時に、ジャミルの両手が腰を掴んで、一気に押し入った。  
 
「や、待っ―――!」  
「…悪い、っけど」  
ねじ込んでくるような痛みに、どうしても身体を強張らせる。  
けれど、今まで散々に解されたからだろうか、ゆっくりと出入れされるその場所から鈍い痺れのよう  
なものが広がって、何度もあやすように撫でられる内に身体から力が抜けていく。  
「……はぁあ…」  
「気持ちいいか…?」  
気遣って言ってくれているのはファラにも十分分かっているが、こう何度も聞かれると羞恥の方が先  
にたつ。  
「わ、かんない…。何か…、まだ、痛いのは…あるけど」  
ジャミルが動く度に感じる内側の鈍い痛みのような痺れはまだあるが、段々とその不思議な痺れこそ  
をもっと感じたいのだと気付く。  
もっと、もっと激しく。  
「…ぁ、これ、気持ちいい…の?…いい、これ…っああ…!」  
強く擦り上げられて、声が跳ねる。ぼやけた視界を凝らして見上げると、顔を顰めたジャミルと目が合った。  
「ジャミル…」  
「ダメだ、ファラ」  
掠れた声が吐き出すように呟くや、深く突き上げられた。  
「あぁん!やっ、…は、ジャミっ…ん!…や、ぁン!」  
深く、荒く、ジャミルに身体ごとゆすられて、追い詰められていく。  
なのに、初めて抱かれた時のような恐怖は無かった。  
何も考えていられない。ただ本能的な欲求だけが考えるより先に、身体を動かす。  
「もっ…と、」  
伝えきれない衝動が、繋がった場所から、触れ合う肌から伝わればいい。  
縋りつくのが精一杯で、切れ切れになる思考の間にそんなことを思う。  
不安や、寂しさも今だけはただ邪魔だった。  
「もっと…、お、ねがい」  
「…っ、ヤバいって…」  
打ち付ける肌の音の感覚が短くなって、悲鳴じみた高い声が切れ切れに零れる。  
「やっ、はぁん…も、考えっ…て、…らン、なっ」  
「ファラっ」  
「あ、駄目っ、だめもう、やっ―――     !」  
 
「――っは、ぁ……ファラ…」  
詰めていた息を吐き出して、ジャミルは少女を腕に抱えたまま、ベッドへと身をゆだねた。  
汗ばんだ肌をぴったりとくっつけあったまま、しばらくその体温と感触を楽しむ。身体はまだ余韻に  
浸っていて、ファラは大きく呼吸を繰り返している。  
(…可愛いな)  
指の背で目元をなぞると、少女の視線がジャミルを捕らえる。  
まだ上気した頬は本来の肌の色より温かくて、濡れた目は今まで見たこともないような女の表情だった。  
幼馴染というものは距離をとりにくい。ジャミルにとってはファラは昔から世界で一番大切な女の子  
ではあったけれど、こうやって触れるには既に完成された関係では難しかった。  
(初めは失敗だったけど、そう考えりゃ結果良しって事か?)  
その裏にあるきっかけは暗い影だが、絶望感はない。そう、今は。  
「なあ、知ってるか?冥府にいるデスって神様は、死んだ人間を生き返らせる事が出来るんだってよ」  
ぼんやりと見つめていたファラの顔が、くしゃりと歪んだ。  
笑おうとしているような、泣き出しそうな、そんな表情。  
「…また行っちゃうんだね」  
何を、しに行くのか。  
何のために行くのか。  
告げてはいないけれど、ファラはきっと知っている。  
「心配すんなって」  
だから、抱きしめたままジャミルは笑った。何て事のないように、軽いキスを降らせながら。  
「俺が嘘ついたことなんてないだろう?ちょちょいっと行ってくるだけだって」  
 
世界ごとお前を守って、ダウドも連れて、土産をたくさんもって、  
生まれ育ったこの街に帰ってくるよ。  
 
 
<了>  
 

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