いつも、いつも、あいつの踊りには目を奪われてしまう。
細身な体から繰り出される巧みな技は長年培われてきた事を伺わせると同時に、
鍛練の余念の無さも見える。
今まで酒場の踊り手はいろいろ見てきたが、あいつ程上手い奴はいなかった。
しなやかな四肢が動く度に周りはあいつの舞に惹かれていく。その時の眼差しにも惹き付けられていく。
いつだったか、あいつの口からこんな話を聞いた事があった。
『舞姫って褒められたことがあったけど、あたしにそんな言葉は似合わないよ』
あいつはあっさりとそう言って笑っていた。俺自身もあいつに舞姫なんていう名は似合わないと思った。
それは舞姫というよりも、むしろ、もっともっと力のある……
「――魔物だな」
一仕事を終えて宿へ戻る途中、ホークがそんな言葉を漏らした。。
「魔物?」
隣にいるバーバラが自分の事とは思っていない口調で返してきた。
「そうだ。ひとたび踊ると周囲を魅了しちまう魔物だ」
立ち止まり、彼女の顔を覗き込んで続ける。
「みんな時を忘れて、おまえさんの踊りに魅入られていくんだ。端から見てると雰囲気が変わっていくのが判るぞ」
「初めて魔物だなんて言われたよ」
ふふっと微笑むと、踊るときの様にしなやかに腕をこちらの背に回して、抱きつく。
「じゃあ魔物なら魔物らしく、狙った獲物を食べちゃうなんてことしないとマズイかしら?」
先ほどの微笑から一変して、その顔に女の妖艶さを漂わせた。
「お前な……」
その表情にぐらりと理性のタガが緩んだ。こういう面でも、彼女は魔物である。
「いやらしい目でずーっと見てたくせに。気付いてたよ」
「う……」
彼女の言葉を否定することはできなかった。事実、動く度に揺れる胸元や妖しい腰つき、上気した顔を見て自身を硬くしていたのだ。
(踊ってるときのお前さんも、いやらしいんだよ)
もちろん、一番いやらしいのはベッドの中というのは何度も肌を重ねて判っているが。
「……ほら、あたしが抱きついてからも大きくなった」
わざとらしく、自身に当たるように腰を押し当てられた。それだけで先走りが零れるのを感じた。
「バーバラっ……!!」
今すぐにでも口付けて押し倒してしまいたい!!――そんな強い衝動を覚え、口付けようとした。が、しかし、
「ダメ。これ以上はここではダメよ」
またしなやかに身を離すと、艶然とした表情を見せて、
「続きは宿でしましょう。ベッドの中で踊ってあげる」
それだけ言うと、彼女は再び歩き出した。
(やっぱり魔物だな……あいつは)
後姿を見ながら、彼は確認するようにひとりごちた。
一番抗えない力に惹かれているのは、酒場の客よりも自分自身だということをホークは改めて自覚した。