カタリナの様子は誰が見ても不審だった。宮廷内の兵士には怪訝な目をされ、モニカか  
らは親身な心配をされる始末。決まって何でもない、と取り繕うものの、その表情は平時  
の彼女らしからぬ無防備なものになったと思えば、悪夢に晒されたように蒼白して凍りつ  
く事もあった。  
 ──父はモニカを護衛する為にお前にマスカレイドを託したと思っていたのだが、今そ  
の本当の意味が判った気がする  
 この星の命運を賭けた死闘から帰還した後、敬愛すべき主君から受けた言葉は、今もカ  
タリナの耳に焼き付いて一瞬も離れない。目を閉じるだけでその時の光景が鮮明に浮かび  
上がり、動悸が現実感の伴わない歓心と混ざり合って体温を上昇させてくる。  
 ──ずっと傍にいてくれ、カタリナ  
 夢心地のように、カタリナの脳がミカエルの言葉によって溶けていく。  
 入浴を済ませ、自室で寝衣に身を通すカタリナの動きもどこか堅い。薄生地の淡紫色の  
ネグリジェを羽織り、ぼんやりと正面の全身鏡に映る自分の姿を眺める。  
 薄明かりに浮かぶカタリナの肢体は、様々な武具を操る戦士にしては肉付きが女らしく、  
丸みを帯びて柔軟そうだった。  
 戦うより、舞うと呼ぶべき彼女の戦闘スタイルが与えた、しなやかで魅惑的なボディラ  
インだった。  
 心成しか人目を避けるように自室を出て、余計な物音が立たないようすり足で廊下を歩  
く。  
 
 夜半の警備に当たっている見回りの兵士とすれ違い、無意識に伏せたカタリナの顔は湯  
を浴びただけではない熱でうっすらと上気していた。  
ちょうど玉座の真上辺りになる主君の寝室の前で一度立ち止まり、トクトクと高鳴り始め  
た胸に掌を当てて音も無く深呼吸をする。  
 ノックはうまくいった。扉を打つその音には幾分か緊張と戸惑いが含まれていた。  
「入れ」  
 室内から聞き惚れする主君の許可が下りる。いつもは何の抵抗も無い扉を開けるという  
行為が、今のカタリナには夢に向かうような一種の不安が、その先に待っている光景への  
期待や、嘗て死の星へ身を投じる際にも増した恐怖が渦巻いていた。  
 行くぞ──ただそう言って彼女の背を押し、共に二人の宿命の子を救い出す為にアビス  
の淵へ同行してくれたのもあの声だった。  
「し、失礼致します」  
 静かに脈打つ胸の鼓動が発言すらマトモにさせてくれない。カタリナが押し開いた扉の  
先は、執務室に置かれたランプ一つの光源が灯っていた。  
 机のその寂しい灯りが、机上に詰まれた書類の処理に手を焼いているロアーヌの主の端  
然とした容貌に陰影を刻んでいた。  
 カタリナは拍子抜けと期待通りの背反する予測が見事的中したような心持ちで、相手に  
気付かれないよう溜め息をつき、執務室へ歩み寄っていく。  
 
「ミカエル様。国務も大事ですが、それに追われ、ミカエル様が倒れられても何にもなら  
ないのですよ」  
 視線を文字の羅列に注いだまま、ミカエルが少々疲れを滲ませた相槌を返す。  
「やる事があり過ぎるのもまた厄介だな。もう時代はロアーヌ云々の問題ではない。今後  
は西と東の国がどう理解し、協調し合っていくかが世界の課題だ」  
 嘗ての野心に燃える若き領主はいずこへ消えたのか、そう語るミカエルの表情は世界の  
融和と安寧を心から望む一国の王のものとなっていた。カタリナの繊細な指がそっと机の  
上を滑る。  
「ですから、ミカエル様御一人が全てを抱える必要など……」  
 ミカエルの方から求婚の言葉を受けたと言えど、カタリナはまだ素直にその事を匂わせ  
る言動ができないでいた。心のどこかで、まだ主君と従者という今までの立場を貫徹させ  
ようという意地が残っていた。  
 これまでの立場のまま、願わくばミカエルの性の捌け口だとしても身近な女になれれば、  
それだけでも満足だと自分に言い聞かせていた。  
 それは不安の裏返しでもあるのはカタリナ自身も深く自覚していた。もしミカエルの気  
持ちが偽りのものだったら、そもそもこの世界そのものが死に臥した自分の下らない妄想  
だったとしたら……そのような後ろ向きな考えをよぎらせるだけでカタリナの目頭が熱く  
痺れる。  
「どうした? 浮かない顔をしているな」  
 椅子に腰掛けたままのミカエルが、押し黙って俯くカタリナに気遣わしげな瞳を向けた。  
はっと顔を上げ、従者は無理矢理に微笑を象る。  
 
 そのようなものではミカエルの怪訝を拭えないと理解していても、カタリナはそうした。  
「遠慮するな。はっきり言え」  
 主君の強制の無い要求がカタリナの鼓膜を打つ。カタリナの口紅のとれた熟した唇が僅  
かに開いては閉じ、その動きが彼女の葛藤を如実に体現していた。  
「いえ、ただ……まだ信じられないだけです。私が……。ミカエル様が私を選んでくださ  
った事に……」  
「なんだ、そんな事か」  
 ミカエルの指がカタリナの腕に添えられる。握力を込めずに掴んだだけで引き寄せはせ  
ず、そこで二人の視線が静かに交錯した。  
「私がお前を伴侶に迎えたいと言った。不服か?」  
「いえ、御座いません」  
 声は微細に揺れていたが、ミカエルはカタリナの瞭然とした返答に目許に薄い微笑を浮  
かべる。椅子から立ったミカエルは、つとカタリナの頬に指先を伝わせた。  
「──きゃ!?」  
 突然自分の視界が回転し、ミカエルの腕に抱えられていると認識した瞬間、カタリナの  
頬に朱が差す。  
 ミカエルは両腕で長身のカタリナを軽々と抱き抱え、寝台の方へと移動していった。  
「先程お前は言ったな。この国もそうだが、私一人で背負う事は無いと」  
 放り投げるように、ミカエルは腕の中のカタリナを寝台の上へと寝かせた。高級寝具の  
清涼な香りが動揺するだけのカタリナの鼻腔を擽る。  
 ミカエルも寝間着の前ボタンを外しながら寝台へ身体を寄越し、カタリナの呆然とした  
表情を間近で観察する。肩から垂れた秀美な金髪がカタリナの豊潤な身体の線を這った。  
「まったくその通りだ」  
「ひ、ぁ」  
 すっかり以前と同じほどの長さまで伸びたカタリナの藤紫の髪を指に絡めて撫でながら、  
ミカエルの口は湯上りのほんのりとした熱を持つ首筋を滑る。  
 無意識に身体を硬直させ、カタリナは息を詰めて両目を閉ざす。  
「お前には、先代までのロアーヌの領主に恥じない強い子を産んでもらわないとな」  
「っっ……」  
 
 その言葉だけでも、カタリナは昇天しそうに表情を強張らせる。相手の予想以上の緊張  
ぶりに、ミカエルは一度顔を上げてカタリナの硬い身体を上から下へと流し見た。  
「そうか」  
 敢えて核心は避け、ミカエルはただ短く納得した。  
「……は、はい」  
 気まずそうに同意し、カタリナの顔は暗い落ち込んだものに転じる。  
 爵位は無いがロアーヌではそこそこに名の知れた良家に生まれ、幼い頃から厳格な情操  
教育と貞操観念を躾けられてきたカタリナにとって今まで男性経験が皆無だったのは至極  
当然の事だった。  
 旅の途中でも、止むを得ない場合や予測不能な偶然以外に、男の仲間に余分な素肌すら  
見せる事も無かったほどだ。  
 だが、いざ愛する者との逢瀬となると、逆にその身持ちの堅さが相手に面倒な気分を与  
えてしまうのではないかと、カタリナは急激に不安に駆られた。  
 幾ら物心付かない頃から後天的に方正な価値観を叩き込まれてきたとしても、女として  
の性は消えない。  
 思春期を迎え心身共に成長してくるとそういった事にも興味を持ち始める。  
 ジレンマに苦しむほど価値観と好奇の相克があったわけでもないが、見下ろす窓の向こ  
うにいる別世界の同世代に憂いの溜め息を漏らし、今しか無い青春に日々を費やす男女の  
若者を羨望の眼差しで見過ごす回数は少なくなかった。  
 モニカに付き従う毎日に没頭し、カタリナはその頑なな価値観へ貞操帯を付けるように、  
女としての凡庸な幸福への情熱を厳しく封じていた。  
 
 それも今日で終わる。今からミカエルを受け入れると思うと、恐怖と期待が綯い交ぜに  
なってカタリナの心を困惑させる。  
 知識はある程度備わっているが、あまりにも経験が伴わない。輪郭の無い想像だけがカ  
タリナの中で無差別に反響し、視線は落ち着き無く彷徨い惑っていた。  
「カタリナ、お前の全てを見せてくれ」  
 ミカエルの手がカタリナの薄紫の衣を剥がしていく。呼吸を止めてその動作に身を任せ  
る姿はどこか誘惑的で、男に暗い炎を滾らせる。  
 微かな衣擦れの音を最後に、カタリナの露な素肌がランプの薄明かりに照らされる。緋  
光を反射する雪原のような雪肌に、ミカエルは人知れず見惚れた。  
 無駄な筋肉の無い、だがメリハリの付いた胴は強く気高い美に彩られ、あまりの羞恥に  
太股を合わせて隠された秘部は髪と同色の茂みに守られていた。  
 丁寧に象られた陰毛の形を見た誰もが、今宵の為に入念な手入れがされた事を察する事  
ができた。  
 紅潮した女の頬に掌を当て、親指で緊張をほぐすように薄く開いたカタリナの唇をなぞ  
る。カタリナが両目を伏せて小さく顎を反らすと、その言外の要求にミカエルの唇が応え  
る。  
 触れ合い、重なる口唇の感触に、カタリナの鼓動は一層拍数を増していく。  
「んっ……!?」  
 唇を押し割って口内に侵入してきた粘膜に一度目を見開いたカタリナだが、小さい抵抗  
感を押し殺してミカエルの求めに応じた。弾け飛びそうなほど高鳴る心拍も麻酔のように  
感覚を酔わせ、カタリナは蹂躙される舌を伝ってくる主君の唾液を成るがままに飲み込ん  
だ。  
 ミカエルの繊細な掌が乳房に吸い付き、耽美な弾力と柔らかさが反応する。存分に味わ  
った唇から離れ、ミカエルの舌先がカタリナの肉体をなぞって下降する。素肌を這う舌の  
感触がカタリナの背筋をそぞろに震わせた。  
「あっ、そんな、トコっ」  
 仰向けになっても崩れない胸の狭間を伝い、そのまま女の花弁へ到達しようとしたミカ  
エルの舌に僅かな恐怖心が煽られたカタリナだが、そっと太股を押さえられ、閉じた秘唇  
に口付けをされた。  
 
 陰毛が鼻先に触れ、陰部の匂いを嗅がれている状況に、カタリナは言葉を発する余裕も  
無く硬直してしまった。  
 静かに情熱的に口唇愛撫される陰部の感覚が、あまりの緊張によって快感とも知れない  
奇妙な心地だった。恥ずかしさで喘ぎのような呼吸を繰り返し、目の端に薄く涙を湛えて  
身体を悶えさせる。  
 だが、ミカエルに愛されるうちに膣内から何かが染み出てくる感覚は、カタリナ自身に  
も主君を男として愛している自覚、精神の充実を与えていた。  
 ミカエルはきりよく舌を休め、上体を起こして呆然としているカタリナの顔を見下ろす。  
 指先に付着した女の蜜を軽く舐め取り、いきり立った怒張を入り口に宛がう。  
 まだ気持ちいいとは言えないくすぐったさの嵐が止み、カタリナはあからさまに初めて  
で不安です、という雰囲気を露出しながら無言で結合を待っていた。  
「初めのうちはこんなものだ。気にするな」  
 秘部の濡れは世辞にも淫靡と言えるほどの状態ではなかった。頷き返す事もできずにい  
るカタリナの髪を撫で、ミカエルは股を割って腰を前進させる。  
 怒張が容赦なく陰唇を押し開き、膣内へと肉を抉る。開発されていないそこは異物の侵  
入を堅く拒み、カタリナは両目を閉じて身体を強張らせた。  
 ミカエルは気遣いも無くカタリナの処女肉を貫いていく。  
「き、ぃっ──!」  
 ミカエルの一物が一際抵抗のある部分を突破すると、カタリナの喉がか細い悲鳴を上げ  
た。戦闘などの激しい運動が日課だったカタリナのそこは、形状を崩さずに維持されてい  
たらしい。  
 女の全身が発奮し汗を湿らせる。あまりに心の無い冷淡なミカエルの挿入だったが、カ  
タリナはこれ以上無いくらいの被征服感に満たされ、破瓜の痛みの中で女としての満足感  
を得られた。  
 
 愛されているという、苦痛混じりの実感がカタリナに強がった笑みを浮かばせる。強情  
なカタリナを見て、ミカエルも気心の知れた微笑を浮かべた。  
「動くぞ」  
「は、はい」  
 優しくするから、などという生温いフェミニズムは二人には不要だった。  
 性格的に女を立てるような気障さは好かないミカエルもそうだが、カタリナも必要以上  
に女を意識されるのは男社会でのし上がってきた経歴のプライドもあり気が引ける。  
 だからこそ、ミカエルのような自分より強い男に強引に組み敷かれる願望を秘めていた  
りもした。  
 長い付き合いと信頼関係から互いを求め合うという事を本能的に共感できる二人の間に  
は、優しさという遠慮など愚の骨頂だった。  
 ミカエルの腰が、カタリナの苦しみを無視しているかのように非情に律動する。出血の  
筋を垂らす結合部は凌辱的ですらあった。  
 カタリナの口からは苦悶の喘ぎしか漏れてこない。  
 経験も無いのだから慣れていないのは当前だ。変に気取って気持ちよくさせようとしな  
いで、自分の身体に満足してほしい──。カタリナは苦痛を胆力で押し殺しながらただミ  
カエルの動きを受け入れる。  
 
 カタリナの気丈な性格を熟知しているミカエルも、余計な配慮を捨てて自慰のように腰  
を叩きつける。  
 快楽を共有するのは、これから幾らでも可能なのだ。  
 自分を優先させる事が、結果的に相手への最大の思い遣りへと繋がってくれる。  
 今の二人を駆り立てる欲情が、いずれ今以上の絆となり愛となり何物にも勝る至福とな  
るだろう。  
「ぐっ……はぁ、ミカエル様、っ……」  
 途切れ途切れに愛する男の名を呼ぶ。ミカエルは調子のいい前後運動で応え、様々な角  
度からカタリナの処女膣を堪能した。  
 カタリナにとっては地獄であり楽園でもある結合は、膣肉を蹂躙する肉棒の脈動で終わ  
りを迎えた。痛みに痺れる膣を、ミカエルの種が浸していく。引き抜かれた肉棒に流され、  
吐き出された白濁液が破瓜の鮮血に混ざって溶けた。  
 色気など微々とも無い儀式のような性交の最後に、ミカエルはカタリナの唇を優美に奪  
った。  
 
 
「お兄様もカタリナも、本当に幸せそう……」  
 ミカエルの私室の天井に隠された小部屋。そこから二人の愛の営みを盗み見る不貞の輩  
が居た。当人に罪悪感も居心地の悪さすら微塵も無い。  
 事が終わり、互いに裸身のまま寝台の上で楽しげに語り合っている二人を見下ろし、う  
っとりと頬に両手を当てている有様だった。  
 そのつぶらな瞳には銀河の煌めきが輝いていた。  
「では、わたくしも」  
 ミカエルの妹、モニカは低い天井も意に介さず立ち上がった。一人何かを妄想して身体  
をくねらせるモニカの隣から、疲れきった溜め息が漂ってくる。  
「……何が、では、なのかさっぱり理解できませんが。モニカ様、このような時間に何処  
へ行かれるおつもりですか」  
 隠れ家の主である影は、モニカのいつもの脳内お花畑症候群に付き合わされていた。  
「決まっています。わたくしも今からユリアンと……あぁ愛しいユリアン、モニカは今す  
ぐ貴男のもとへと参りますわー」  
「……どうぞご勝手になさってください」  
 影は去っていくモニカの背中を見送り、ようやく寝れる、ともう一度溜め息を吐いた。  
 

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