敬愛するローザリア皇太子ナイトハルトの求婚から、イスマス落城。ブルエーレ  
に流れ着き、ようやくクリスタルパレスへ到るまで。  
 それまでの平穏な暮らしからは、比べ物にならない程波乱に富んだ日々であった  
が、費やした時間もまた長かった。  
 主君が待つ玉座の間の扉の前に立った時は、焦がれた方にようやく会えるという  
乙女の感情よりも、どんな叱責を受けるのだろうかという恐れの方がディアナの鼓  
動を高鳴らせた。  
 しかしいざ謁見の場に臨んでみると、特に報告を求められることはなく、弟のア  
ルベルトが生きていること、そしてしばらくはパレスに滞在し身体を癒すと良いと  
いうことを一方的に聞かされると、あっけなく御前を下がることを許されてしまっ  
たのだった。  
 すっかり拍子抜けしてしまったディアナであったが、その後、ナイトハルトの命  
令ということで侍女をあてがわた。これがまた、まるで客人をもてなすような扱い  
で、例えば傷の具合を診てもらおうと言ってはニーサ神殿へと連れて行かれ、道中  
の疲れを流しましょうと言っては湯浴みの介添をされ、久しぶりにローザリア風の  
お食事をと夕食の手配をされ、そしてようやく侍女に案内された部屋で一人になる  
と、ディアナはソファの上で深いため息をついた。  
 
「…どうなっているのかしら?」  
 思わず独り言が唇から漏れる。  
 ブルエーレに滞在していた頃。貴族としての立場は尊重されていたものの事実上  
の捕われの身であった時、イスマスが落城したという知らせはもちろんディアナの  
耳にも届いていた。  
 それを知った時、ディアナはブルエーレ公フランコに「自分を捕らえていても、  
ローザリアとの取引の材料には足り得ませんよ」と言ったことがある。自分はもう  
二度とローザリアの土を踏むことは出来ないという覚悟を決めた上で。  
 しかし処刑も辞さない覚悟で口にした言葉はあっさりと笑い飛ばされて、そして  
その数日後に知ったのは、ナイトハルトがフランコの取引に耳を傾け、秘密裏に動  
いているという事実だった。  
 そこまでされる価値が自分にあるとは到底思えないのに、王都に戻ってからも続  
く過分な扱い。ディアナはもう訳が分からなくなっていた。  
 ただ、未だにローザリア皇太子の婚約者として認められていると言えば、すべて  
の説明はつく。つくのだが…。  
 
「ううん、まさかね…」  
 ディアナは僅かな期待をぬぐい去るかのように頭を振った。  
 自分は今となっては没落貴族の身だ。口約束だけのあの婚約がまだ有効などと、  
そんな都合のいい話があるはずがない…。  
 柔らかなソファの上で、そのまま寝入ってしまいそうになっていると、ふいに扉  
がノックされる音が響いた。  
 こんな夜更けに失礼なと、訝しげな表情を浮かべつつ、ディアナは音のした方へ  
と視線を向ける。  
「どなた?」  
「私だ」  
 返事を聞いた瞬間、まどろんでいたディアナの背筋がぴんと伸びた。  
「殿下?…す、すぐに開けます」  
ディアナは急ぎ足で扉のところに駆けようとしたが、薄地の夜着一枚のみを纏った  
自らの姿に気がつくと、慌てて上着を羽織り、呼吸を整えながら扉を開ける。そこ  
には甲冑を外し、漆黒のマントに身を包んだナイトハルトの姿があった。  
「起こしたか?」  
 慌てて出て来たのを見透かされたのか、口の端に笑みを浮かべながら問われる。  
 
「い、いえ。まだ起きていましたので」  
「少し良いか?」  
 ディアナはどうぞと頷くと、主君を部屋の中へと招き入れた。ナイトハルトは中  
へ入るとマントの留め具を外し、それをソファの背もたれに掛ける。  
 主君の真夜中の来訪。しかしそれは、ディアナには戸惑いしか与えなかった。  
 やはりご立腹なのかしら…。  
 ナイトハルトはあまり表情を顔に出さない方なので、そこから真意を汲み取るこ  
とは出来ない。  
 フランコとの取引の詳細までは知る術もないが、自分が五体満足でここに存在し  
ている以上、ナイトハルトはフランコにそれなりの代価を支払ったはずなのだ。  
 仮にもバファル帝国は敵国であり、いずれはローザリアの下にマルディアスの統  
一をと考えているナイトハルトが腹を立てないはずがない…と考えてしまうと、デ  
ィアナはもう気が気ではない。  
「何かお飲み物でも…」  
 ひとまず間を繋ごうと、ディアナが茶器の準備をしようとすると、ふいに手首を  
掴まれて、次の瞬間ディアナはナイトハルトの胸の中に捕われていた。  
 予想もしていなかった突然の事に、ディアナの鼓動が一瞬で頂点まで高鳴る。  
 
「傷の具合は?神官は何と言っていた?」  
 耳元でナイトハルトが囁くと、首筋に暖かい吐息がかかった。頬が熱くなるのが  
自分でも分かる。  
「は、はい。もう傷は完全に癒えてるとのことです。ブルエーレでも随分良くして  
頂きましたので…」  
「ブルエーレ…か」  
少しの沈黙の後、ナイトハルトが再び口を開く。  
「本当にそれだけか?…かの地で慰み者にされたとか、そういったことは?」  
「そんな、そのようなことはありませんでした。…私が今ここにいるのも含めて、  
殿下のおかげです」   
 怒りを帯びた声音に怯えを感じつつもディアナがきっぱりとそう言うと、ナイト  
ハルトはディアナと向き合う。その表情には安堵の色が浮かんでいるように見えた。  
「…そうか」  
 目の前にある端正な顔立ち。向けられた視線を逸らすことも出来ず、高鳴る鼓動  
は平静を忘れてしまったかのようだった。  
「ならば良い。もしお前が傷物にされたとなれば、すぐにでもブルエーレ公の首を  
頂戴しに行かねばならぬところだった」  
「…え」  
 
 それは何故と尋ねようとするディアナの唇を、ナイトハルトがつう、と撫でた。  
「ではこの唇も、まだ誰のものでもないということだな」  
 そう囁いたかと思うとナイトハルトの瞳がゆっくりと閉じられ、そっと唇が重ね  
られる。  
 その甘くて柔らかい感触に、ディアナは頭の芯が溶けてしまいそうになったが、  
緩んだ隙間から舌が分け入ってくると、我に帰ってナイトハルトの身体を押し退け  
た。  
「で、殿下っ…お戯れはお止めになって」  
「戯れだと?」  
 ナイトハルトは自分から離れたディアナを、今度は先ほどよりも強い力で抱き寄  
せた。  
「何を言う、お前は私の婚約者なのだぞ。戯れであるはずがないだろう」  
「え?…で、ですが」  
 抱きとめられた胸の中で、ディアナの顔が俯く。そして、ずっと胸の内で燻って  
いた疑問を口にした。  
「故郷を…イスマスを失った私は、もうローザリアにとって何の価値もない女です。  
殿下の妃になるなんて、そんな資格など」  
「関係ない」  
 ナイトハルトがディアナの言葉を遮った。  
 
「お前の価値と言ったが、そんなものは私が決める。誰にも文句など言わせん。  
…それにイスマスは、アルベルトが復興してくれればそれで済む」  
「そ、それは…そうですが、殿下」  
「なんだ、私を拒む理由が他にもあるのか?」  
 ディアナが返事に困って俯いたままでいると、くいと顎を持ち上げられた。ディ  
アナはまた自らの心臓が跳ねるのを感じる。  
「あの、本当に私で宜しいのですか?」  
「くどい。何度も言わせるな」  
 そして、それ以上の言葉を封じるように唇が塞がれる。  
「お前が他の誰かに汚される心配をするのはもうたくさんだ」  
 ついばむような口づけの合間を縫って、ナイトハルトが呟く。  
「ディアナ、今宵はお前のすべてを私のものにする…」  
 
 ナイトハルトはディアナをベッドに横たえると、再度唇を重ねた。そして先ほど  
は適わなかったその奥へと、今度こそ舌を割り込ませる。  
 最初、ただされるがままになっていたディアナも、やがてナイトハルトを真似て  
自分から舌を絡め始める。互いの呼吸は次第に荒くなり、二人の唾液が音を立てつ  
つ混ざり合った。  
 優しく、時に強引に口内を犯されていると、ディアナの頭は再び酔ったようにぼ  
うっとなる。  
 濃厚な口づけを与えながら、ナイトハルトの手がディアナの身体のラインをそっ  
となぞっていく。そこに決して力は込めず、服の上から伝わる優しい感触が心地よ  
かった。  
「っは…」  
 糸引きながら二人の唇が離れると、ディアナの口元から甘い吐息が漏れる。ナイ  
トハルトは溢れた唾液を指で拭ってやると、今度は白い首筋へとキスを落とした。  
「っ…殿下…」  
 くすぐったい感触に、ディアナは眉をひそめ、その肩が強ばる。ナイトハルトは  
特に気にすることもなくそのままそこを嘗め上げて、耳朶を甘噛みしながら、彼女  
の夜着のボタンをひとつひとつ丁寧に外していった。  
「あっ…」  
 前を開かれ素肌を露にされると、そこから豊かな膨らみが零れ落ちた。  
 
 ディアナは恥じらいから胸元を覆い隠そうとしたが、それは腕を掴まれて阻まれ  
る。そのまま食い入るように見つめられると、ディアナは居たたまれずに顔を背け  
た。  
「奇麗だ、ディアナ…。初めて会った時はほんの子供だったのに、随分と成長した  
ものだ」  
 言いながら、ナイトハルトの手がディアナの乳房へと伸ばされた。  
 その大きさと柔らかさを確かめるように優しく撫でられていたかと思うと、ふい  
に手の平全体でぎゅうと掴まれる。その瞬間、ディアナの身体が小さく震えた。  
「け、剣を振るうには邪魔なだけです」  
 この期に及んで色気のない言葉を口にするディアナを見て、ナイトハルトは失笑  
を漏らす。  
「勿体ないことを言う。世の貴婦人達が聞いたら一体何と言うか」  
 そう言うと、乳房を弄んでいた手が尖りはじめた先端を摘んだ。  
「あんっ…!」  
 思わず出てしまった嬌声に恥じらいを感じ、ディアナは自らの手で口を覆う。  
「どうした?もっと声を上げても良いのだぞ?」  
 生娘のうぶな反応に悪戯心を覚えて、今度は頂きを口に含む。しばらくそれを舌  
で転がし、時折吸い上げたりしていたが、それでも懸命に声を堪えているディアナ  
を見ると、それを軽く歯で噛んだ。  
「っ!…やあっ…!」  
 刺激を与えられたディアナの背中が大きく反り返る。すっかり上気した彼女の顔  
に目をやると、その瞳は今にも涙が溢れそうな程に濡れていた。  
 
「意外と敏感なのだな、お前は」  
 ナイトハルトは双丘の谷間に顔を埋め、そこに跡を刻みながら囁く。  
「んっ…そ、そんなこと…」  
「ふふ、ではこちらはどうかな」  
 脇下から続く曲線を撫で上げていた手が、そろりと下着の隙間に忍び込んだ。  
「やっ…お待ち下さっ…!」  
 そんな言葉など気にも止めず、ナイトハルトの指は彼女自身を覆い隠す茂みを掻  
き分け、やがてその奥の花芯を探り当てた。  
「あ…やんっ…!で、殿下っ…」  
 そのままそこを弄ると、ディアナの身体は快楽に震え、溢れ出す雫がナイトハル  
トの指にべとりと纏わりつく。蜜の絡んだ指を彼女の中に進めると、その身体がび  
くんと跳ねた。  
「ひっ………殿下、ああっ…!」  
 その指がディアナの中を抉るように出入りを繰り返すと、それに合わせてくちゅ  
くちゅと淫猥な水音が響いた。羞恥に耐えきれず、ディアナが激しく頭を振る。  
「っは……いやっ、そんなに音…立てないでっ…!」  
「何を言う、ここをこんなに溢れさせているのはお前自身ではないか」  
 そう言うと、今度は彼女の下着に手をかけた。  
 
「!…あ、ああっ…」  
 何をされるのかを察したディアナは足を閉じて抵抗しようとしたが、すでに力の  
入らなくなっている身体ではそれも適わない。  
「言ったろう、お前の全てを私のものにすると…」  
 ナイトハルトは下着を取り去ると、ディアナの足をぐいと持ち上げて、彼女の中  
心に顔を埋めた。  
「だ、駄目です、そんな、とこっ…っ!…ああぁっ!!」  
 ナイトハルトの舌が、ディアナの下肢を濡らす蜜を舐めとるように動く。それは  
脚の付け根から茂みの内、膣口の回りをゆっくりとなぞってゆき、汗で濡れたディ  
アナの太腿にナイトハルトの長い金髪が纏わりつく。  
「はぁ、あっ…や、めっ………で、殿、下っ…!」  
 快楽に身体を捩らせながら、ディアナはナイトハルトの頭を押し退けようと手を  
伸ばすが、すでに思うように動かないその手は、逆にナイトハルトの頭をそこへと  
押し付けてしまう。びくびくと震え始めたディアナにちらりと視線を向けると、紅  
く膨れ上がった花芯を舌で転がし始めた。  
「!…あっ、あっ!…駄目ぇ、もっ………ああっ…!!」  
 暴れる脚を押さえつけ、執拗にそこを責め立てると、ディアナの喉から細く甘い  
声が漏れてその背中が大きく仰け反る。ぶるぶると震えた後、ぐったりとそこにし  
なだれた。  
 
「…で、殿下?」  
「何だ」  
 愛液で濡れた口元を拭い、そっと髪を撫でてやると、ディアナが息せき切らせな  
がら不思議そうな顔で見上げてくる。  
「私、今…?」  
「堪能させてもらった。お前はどうだった?」  
 逆に尋ねると、ディアナは恥ずかしそうに視線を逸らす。  
「か、身体が自分のものでなくなってしまったようで…。私、おかしくなってしま  
ったのですか?」  
「いや。何もおかしいことなどないさ」  
 優しく微笑みかけると、ディアナが恐る恐る顔を向けてきた。  
「それなら良いのですが…では本当のことを言います」  
 ディアナは一瞬の間の後、意を決したように言った。  
「その、とても…素敵でした」  
「だろう?」  
 ナイトハルトはその答えに満足したようにキスを落とすと、自らの衣服を脱ぎ始  
めた。細身ながらも逞しく鍛え上げられた身体が露になっていくのを、ディアナは  
余韻に浸りながらぼんやりと見つめる。  
 そしてすべての衣服を脱ぎ捨てると、再びディアナの上に覆い被さった。  
 
「…どうした、興味があるか?」  
 黒々と膨れ上がった男根に目を奪われてるディアナをからかうと、その身体が弾  
かれたように跳ねた。  
「い、いえ、そのっ…そんなに大きなものだとは思っておりませんでしたので…」  
「可愛いことを言う。何なら触ってみるか?」  
「!!……そ、そんなおそれ多いこと、結構です…!」  
 耳まで真っ赤になってしまったディアナを見て、ナイトハルトが心底楽しそうに  
笑った。  
「では、それはまたいずれな」  
 ナイトハルトは自らの陰茎に手を添えると、ディアナの上にそれを滑らせた。男  
の先走りと女の蜜が絡んで、その先端が艶かしく光る。  
「あっ…殿下…」  
 堅いものが敏感な箇所を撫でると、ディアナの身体がまた震えを帯び始める。  
「怖いか?」  
「い、いえっ…」  
「強がりは相変わらずだな。…出来るだけ力を抜いていろ」  
 少しでも不安を取り除くように、そして合図のように口づけをすると、ナイトハ  
ルトは自身をあてがい、ぐっと力を込めた。  
「!!…ああっ…!」  
 同時に白い首が仰け反り、見開かれた瞳から涙が溢れだす。ナイトハルトがゆっ  
くりと腰を進める度に、嗚咽のような声がディアナの喉奥から漏れた。  
 
「くぅっ………っ…ナ、ナイトハルト…さまっ…!」  
 痛みのためか、がくがくと震えるディアナの手が、縋るようにナイトハルトの太  
い首に回される。  
「辛いか?」  
 そう尋ねると、ディアナはナイトハルトにしがみついたまま健気に首を振る。  
「大丈夫…大丈夫、ですから…っ」  
 まるで泣き声のような声音に、ナイトハルトの雄がまたひとつ反応する。  
 そのまま処女の狭い入り口を進んでいくと、溢れ出る蜜の中に次第に赤い色が混  
ざり始めた。一際抵抗のある部分を抜けると、ナイトハルトはついにディアナの最  
奥へと辿りつく。  
「はぁっ…はぁ………で、殿下…?」  
「ん?」  
 荒々しい呼吸を続けるディアナにキスの雨を降らせていると、彼女が弱々しく囁  
いた。  
「今、私の中にいらっしゃるの…分かります。…とても、嬉しい…」  
「…そうか、私もだ」  
 互いの鼓動を感じながら、ナイトハルトとディアナは微笑みを交わすと、くちゅ  
りと舌を絡めた。  
 
 しばらくの間穏やかな愛撫をしつつ、ようやくディアナの呼吸が落ち着いてきた  
のを見ると、ナイトハルトが静かに呟く。  
「いいか、ディアナ…動くぞ」  
「は、はい」  
「不安ならば私に捕まっていろ」  
 ディアナの腕がぎこちなくナイトハルトの背に回されると、男の腰がゆっくりと  
律動を始めた。  
「…んっ!…はぁっ………い、痛っ、あぁ…っ!」  
 次第に激しくなっていく動きに、ディアナは喘ぎ、その瞳からは涙が零れた。何  
度も何度も中を抉る動きは生娘には苦痛しか与えなかったが、それを与えているの  
が他でもないナイトハルトなのだと思うと、不思議とその痛みにすら愛しさを覚え  
る。  
 涙でぼやけた視線を下肢へと向けると、自らが溢れさせた蜜で濡れた恋人の雄が  
出入りしている様が目に入ってくる。淫猥な光景だと思いつつも、ディアナはそこ  
から目を離すことが出来なかった。  
「ディアナっ…くっ、ディアナ…っ」  
 初めて異物の侵入を許したそこは狭く、ナイトハルトの雄をぎゅうぎゅうと締め  
付ける。ディアナの中でさらに猛々しさを増すごとに、さすがのナイトハルトの表  
情にも余裕がなくなっていく。  
 
「ん、んんっ…ナイトハルトさまっ…はぁっ…あっ…!」  
 時折唇を塞がれつつ、激しく揺り動かされている内に、最初は痛みしかなかった  
感覚に少しずつ快楽が混ざり始めていく。今にも暴走してしまいそうな感情をどう  
にか押しとどめようと、ディアナの手がぎゅうとナイトハルトの髪を掴んだ。  
「…あん、やぁっ………ナイトハルトさま、わたし、も、もうっ…!」  
「ディアナ、私も…はぁっ…」  
 最後に一際強く貫かれたかと思うと、ディアナの内のナイトハルトがびくりと震  
えた。  
「あ、あぁー……っ!!」  
 その瞬間、ディアナの身体も大きく仰け反り、二人は同時に達した。  
 
 
「…殿下」  
「ん?」  
 情事の後、ナイトハルトの腕の中でまどろんでいたディアナがおもむろに呟く。  
「まるで夢のようなひとときでした…。今日限りで御許を離れることになっても、  
今宵のことは決して」  
「ディアナ」  
 それ以上の言葉をナイトハルトが遮る。  
「お前はまたそんなことを。ここを離れて何処へ行くと言うのだ?」  
「それは…、でも私、このままパレスに居られるような身分では…」  
 おどおどとディアナが返事をすると、ナイトハルトが呆れたようにため息をつい  
た。  
「まったく…まだ分かってもらえぬのか」  
 やれやれといった風に起き上がると、その手首を掴んで再び組み伏せる。ディア  
ナは小さく悲鳴を上げると、狼狽した視線でナイトハルトを見上げた。  
「ならば分かるまでその身体に言い聞かせるとしようか。私の妃となるのはお前以  
外にありえぬことをな」  
「えっ……で、殿下?」  
「もう黙れ」  
 ナイトハルトはにやりと笑うと、ディアナの上に覆い被さり、その唇を塞ぐ。  
 未来のローザリア国王夫妻の夜は、まだ始まったばかりだった。  
 
 

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