-天使の微笑み-
あの時は…そう、どうかしていたんだ。
イスカンダールを名乗る人物と、銀の少女との邂逅の後…。
…あぁそうだ、確か、最後にイスカンダリアの地下迷宮へと向かう、前夜の事だった。
「遂に、明日だな…。」
「えぇ…、全て、決めるんですね、明日。」
その日の夜、マイス達は、イスカンダリアの宿屋で酒盛りを行っていた。
元はと言えば、マイスの至って個人的な都合により始まり、そして終着を迎えようとしている旅。
一緒に付いてきてくれた仲間の皆には、来なくても良い、とは伝えた。
けれど、一人も降りる事は無く、ファーの提案により、こうして酒盛りに至る訳である。
既に、大勢は出来上がり、ティフォンは酔いつぶれ、突っ伏して寝ている。
ファーは早口にまくし立てるまま、グレースが、その武勇伝であろう話しを聞き、
顔を紅くし、笑い上戸となったミシェル、ローラとの談笑に、サファイアが時折相づちを打っている。
当の銀の少女が、酒盛りの話しに取り合わなかった為にこの席に居ないのが多少残念ではあったが、
笑う彼女たちの様子を見ながら、彼…マイスもまた、何杯目かになるか分からぬ酒を飲み干した。
「それで…お前は、飲まないのか?」
「はい〜?」
酒宴の席の中、明らかに一人だけ浮いている人物が、其処に居た。
ヴァフトームで出会った、清楚な神官衣に身を包んだ女性、マリー。
「戒律で禁じられていますから〜。」と言い、一人だけ、酒では無く、水を注文した彼女。
回りの大騒ぎにも動じた様子無く、ぽけーっとしたまま、ちびちびと水を飲んでいる。
マイスは、その様子を見ると、話し相手も居ない事だしな、などと考え、
手には新たに注がれた酒を持ち、マリーの隣へと座り、やや、見下ろす形で、彼女を見た。
別段、彼女が酒を飲まない事は罪でも何でも無いが、どこか、彼には違和感を覚えたらしく、
彼女の前へと、酒の入ったジョッキを掲げ、飲め、と促す。
「良いじゃないか、こんな時くらい酒を飲んだって、バチは当たらないだろう?」
「え〜っと…。でも〜、戒律で禁じられていますし〜…。」
しきりに酒を勧めるも、やんわりとそれを避ける彼女。
マイス自身、相当出来上がっているのだろう、負けじと、酒を突き出し、必死に飲ませようとする。
「いいか、俺が飲めと言ったら飲め。 それとも何だ、俺の酒が飲めないのか、お前は。」
「マイスさん〜、からみ酒ですよ、それは〜。 もう、お酒はそれくらいにしておいた方が〜…」
「五月蠅い、飲めと言ったら飲め、人に奉仕する神官様が、それぐらい出来なくてどうする!」
…彼自信、負い目が会ったのかもしれない。
銀の少女を追うだけの旅に、偶然居合わせただけ、たった、それだけの理由で、
何も文句を言わずに同行してくれる、マリーに対して、少しでも楽しんで貰おうと。
その結果として、迷惑そうにのほほんと苦笑している彼女が居る訳だが、
酒が入ったマイスにとっては、そのような事は関係ないらしく、一方的に、酒を押しつける。
無理矢理に受け取る形で、酒が満たされたジョッキを受け取ると、困ったように首を傾げた。
「マイスさ〜ん…、困るんですけど〜…。」
「いいから、飲め。それ一杯だけ飲めば許してやる。だから、飲め。」
既に、会話が成立していない様な二人。マイスは、飲め、の一点張りで、既に聞く耳を持たない。
ジョッキを持ち、首を傾げたまま、ふぅ…と、苦笑して
「それじゃあ〜…、一口だけ〜…。」
やがて、何を言っても無駄と判断したのか、おずおずと、ジョッキへと口を付け、
お酒を一口、口に含み…。 ちらり、とマイスの方を見ると、その目は、もっと飲め、と催促して。
二口目、三口目、と促されるままに飲むと、やや、顔を紅くして、まだお酒の残るジョッキを、机へと置いた。
「うぅん…、苦いです〜…。」
「酒ってのはそんなモンだ、どうだ、どうだ?」
「だから、苦いです〜よぉ…」
軽く笑うと、マイスは、ジョッキを取り、残った酒を一気に煽る。
どうだ、と言わんばかりに、空になったジョッキを机へと置き、マリーの方へと向いた瞬間
ふわり…
とした芳香と感触が感じられ、僅かに唖然となったまま、自分の身体を見る。
…其処には、マリーがもたれかかる形で、縋り付いて。
無理な酒にやられたのか、顔を紅く、悩ましい溜息を付いて
「あぅぅ…すいません〜………。」
「あぁ、いや、別に良いが…。」
感じるのは、柔らかな彼女の身体の質感と、長い髪から香る、芳香と。
それを認識した途端、彼女に…マリーに対し、背徳的な欲望が、沸き起こる。
女を抱く事は、むしろ豊富とも言える自分。
だが、その相手は専ら彼の女友達か、娼婦であり、そういう事をするのは当然、という間柄だった。
それが、どうだろう、目の前のこの女性は、そんな行為を連想させる事など、皆無。
流麗に整えられた長い髪。穏和な顔立ち、一目で高級と見てとれる、法衣。
…そんな、不可侵であるとも言える彼女が、今、自分の腕に収まっている。
柔らかさが分かる。 質感も分かる。 芳香も薫る。 鼓動だって感じる事が出来る。
彼の中の、"男"の部分が、静かに鎌首をもたげる。
知らず知らずの内に、彼女の腕…掴み、抱き寄せる形となって。
「あの〜…、マイス…さん〜…?」
駄目な事だとは分かっている。 相手は、純粋な親切心から自分に同行しているのだろう。
そんな彼女を、襲うなどという事は、彼女の善意を全て、踏みにじる事に他ならないと。
分かってはいるが、あまりにも神聖な、純白な彼女。 …それは、あまりにも魅力的で。
「マイス…さぁーん…?」
「あ…? あぁ…あ、マリーか、マリーだな…。」
「はいぃ〜…? マリーですけど〜…?」
そうして、彼女に呼ばれ、ふと、考えから呼び戻される。
マイスもまた、熱にうなされた様に顔が赤く。改めて彼女の顔を見下ろすと、整った、優しい顔立ち。
いつもはぼけっとしているせいか、そうは見えないが、よく見れば、美人だと素直に言えるだろう。
「…ぁ………」
「はい〜…?」
何か言葉を紡ごうとするも、上手く形にならない。
ただ、理性よりも先に、身体が動き…彼女の身体を押し倒さんと、重心を前へと傾ける。
がたん、と軽い音が鳴り、二人の身体、もつれ合ったまま、テーブルの下へと転がる。
他の誰も、その音に気が付かなかったのか、何事も無かったかの様に。
ただ、マイスとマリーの二人のみが、テーブルの下で…。
「マ…イス……さん〜…?」
姿勢、マイスがマリーへと乗りかかる形で、床に押し倒している形。
どくん、どくん、と、彼の柄にも無く、心臓が早鐘を鳴らして。
恐る恐る、彼女の胸へと、手を伸ばす。
「…んっ……」
ピクン、と、彼女の身体が反応したのが分かる。
法衣の上からでもはっきりと分かる、たわわな感触。
その感触を、更に探るように、手を窄め、揉み、解す。
「あ…のぉ〜…。 ちょっと…、くすぐった…」
駄目だ、止めろ、こんな事は。
理性が警告する。
欲望は、止まらない。
「ん…ん〜…っ…。 マイス…さぁ〜…」
執拗に、胸を撫で回す腕。
例えるならば、マシュマロの如くに、柔らかで、面白い様に形を変える、それ。
それに伴い、お酒の赤みだけでは無い、マリーの顔も、染まり出す。
僅かに、身体を捩ると、その拍子に捲れる法衣。やや細めの、彼女の脚が露出する。
「は…ふぅ…。 あ…、あ…のぉ〜……。」
それを見ると、初めて気が付いた様に、脚へも手を伸ばす。
柔らかさの固まりで出来ているかの様な、ふくらはぎ。
常に法衣で包まれている為か、それは、信じられない程白く、美しく。
手を這わせれば、胸の感触に勝るとも劣らない心地よさが、掌を包み
「ん…。 もう…我が侭さん…ですねぇ〜…」
苦笑から…どこか、お姉さんの風格を醸し出す微笑み、浮かべて、
酒が入っているからだろうか、穏和な表情に、どこか、艶さえ見える、マリーの表情。
脹ら脛を伝う掌、そのまま遡れば、膝を伝い、法衣を捲りながら、太股へと伝って。
抵抗、出来ないのか、しないのか…。 マリーの動きは、僅かに身体を捩る、のみとなって。
「皆さん…気が付いたら…どうしましょう…ね〜…。 …あ…んっ…」
何処か、マイペースの様子のまま。けれど確実に、マイスの愛撫を受け入れていって。
マイスは片腕で彼女の胸を弄ぶまま、もう片腕、太股から更に、上へと伝う。
法衣が大きく捲れ、そこから覗くのは、穢れ無き純白の下着。
…けれど、そこにはうっすらと、湿りが見えて。
「お酒……。 で、もう…今夜…だけですから〜…ね…?」
ほんわか、としたまま、はぅ、と悩ましげな吐息を漏らして。
その言葉を聞くと、マイスは、何か吹っ切れた様に、彼女の下着へと、手を伸ばす。
下着を引きずり下ろそうとすれば、何の抵抗も無く、するすると引き抜かれて。
「…恥ずかしい……です…よぉ〜……。」
髪と同じ、綺麗な色で生えそろった恥毛と、その下に見える、聖域。
その割れ目からは、僅かに液体が滲んでいるのが、見て取れて。
既に、身体は脱力し、マイスに任せるままに。その姿が、普段の姿の反動か、とても、妖艶に。
じゃあ、行くぞ…と、既に猛った剛直をマイスが取り出すと、ゆっくりと、其処へと狙いを定めて。
「…はい〜…。」
顔を赤らめながら、のほほん…と、けれど、確かに、マリーも頷いて。
「は…うっ…ぅ…」
回りへの配慮も兼ねてか、挿入されても、さほど、声は出さなく。
ただ、僅かな水音が嫌に大きく響いて。
先端が埋まると、徐々に徐々に押し進められていく、男根。
「ん〜…。 ん…ん…っ…!」
ぴくん、と彼女の身体が一段、高く跳ねる。
押し進めていたマイスにも分かった。それは、純潔である証。
僅かに、躊躇い、男根の進入を一旦止めると、マリーの顔を覗き込む。
本当に良いのか、と問いかける…酷く、自分が、悪者に感じて。
自分へと同意を求められたのに気が付くと、にこり…と、微笑んで。
「構いません…よぉ…。 それで…、マイスさんが…」
…言葉の続きを言う事は無く、ぷつん、と僅かな音が響き、男根、処女膜を破り、奥まで、挿入され。
彼女の微笑みが、とても、暖かで…直視できない程、暖かで。
「ふぁ…ぁふ…。 ん…ぁ…ぁ…」
甘い声を漏らし、挿入行為を感じて。髪が、乱れ。
皆の談笑する声が響く中、静かに…静かに、その行為は、行われて。
その様子が、滑稽でもあり、神聖でもあり…、そしてなにより、背徳的で。
「はぁ…ん、…ぁ…ん…ぁ…。」
淫らな水音が響き渡り、二人の行為は静かに激しさを増して。
マイスも、マリーもまた、限界が近づいているのを感じて。
…彼女に確認を取る事は、もう、しなかった。
彼女の優しさに、頼り切っているな、と自分でも分かる。
けれど、そうする事に、安堵感を得て…限界、迎えようとすると、男根、深く、突き入れて。
「ふぁっ…あ…ぁ…あ……。」
二人が果てるのは、同時だった。
マリーの胎内へと放出された精は、確かに、彼女にも感じられて。
くたり、と身体が弛緩したまま、暫くの間、二人は抱き合って。
その間、終始、彼女の顔には、微笑みが浮かんでいた…。
エピローグ
二人とも、服を整えると、出来るだけ不自然で無い様に、テーブルの下から姿を現す。
見れば、いつの間にかグレースも酔いつぶれ、ティフォンと並んで仲良く寝ていた。
ファーの放す冒険談に、グレースの代わりにローラやサファイア、ミシェルも巻き込まれる形となり、
そのおかげも有ってか、特に何も言い咎められる事も無く、二人は身を起こした。
「喉〜…乾きましたねぇ〜…。」
そうマリーが呟くと、テーブルの上に乗っていた水へと口と付けて。
本当に何も無かったかの様に、酔った風も、情事の余韻も無く、水を飲んで、のほほんとして。
…その様子を見て、何とも、煮えたぎらない、罪悪感にも似た感情が、マイスに生まれて。
自分のテーブルにおいてあった水を取ると、マリーへと、向いて。
「お前、酔った勢いで…とかじゃあ、無かったよな?」
「はい〜…?」
情事を通して、感じた事だろうか。
酒には精通している己、顔が上気していても、マリーが酔っていたとは、何か、思えず。
そう思うからこそ…罪悪感も、また、疑問も、心の内に湧き出て。
「シラフだっただろう、…何故、おとなしく俺に抱かれなんか、したんだ?」
「あ〜…いえ〜…。 え〜…っと…。」
僅かに、躊躇った様子を見せた後、澄んだ目で、マイスを見上げて
「……明日で、終わってしまうかも、しれません、から〜…」
ぽつりと、呟く。
「明日で〜…、私はもう、居なくなってしまうかもしれません…から〜。…だから…。」
私だって、一応は、女なんですから…と、小さな声で付け加えて、ありがとう、と…。
それを聞くと、思わず、マイスは、彼女のか細い身体、…抱きしめて。
「縁起でも無い事を言うな。…絶対に、終わりになんか、ならないさ。」
そう、強く思った。
銀の少女だけでなく、今まで自分を信じてくれた、マリーや、他の女性達。
マリーの身体を抱きしめながら、明日への思いを、新たに…
「あーーーーーっ! マイスさんとマリーさんが抱き合ってるっ!?」
突然、黄色い声が上がる。 此方の様子を指さしながらミシェルが叫んだらしい。
「マイスさんって、銀の少女さん一本じゃ無かったんですか! この女たらしーっ!!」
慌てて二人は離れるも、すっかり出来上がったミシェル達は、追求の手を緩める様子は無く。
その夜は、賑やかに過ぎていった…。
-Fin-