「広い草原ね、きれいなお花…まぁ…あれが恐竜ね。大きいわね」
「あら、あの、あそこの山、頂上が燃えてるわ…」
いつも寡黙なクローディアも、初めて目にする光景に少し興奮しているようだ。
「ねぇ…グレイ、すてきな島ね、メルビルとはまるで別の世界よ」
「…そうか」
クローディアとグレイは、ジェルトンに来ている。グレイが唐突に誘ったのだ。
暗殺者に狙われる毎日、オウルとの決別、そして自分の出生の秘密…
いつしかクローディアの顔から笑顔は消えていた。でも今日の彼女はとても生き生きとしている。
「…もう日も暮れる。宿にもどろうか」
グレイは言った。
「ええ…素敵な一日だったわ!ありがとう、グレイ」
夕食を終え、二人は床に着くためそれぞれの部屋へと入った。
ベッドに入り、クローディアは一人考えた。ジャンから紹介されたグレイという男。
いつも無口で何を考えているのかわからない。
迷いの森をでてから辛いことばっかりだったけど、いつもそばにいてくれた…
クローディアは思い立ったように部屋を出て、グレイの部屋の前に立った。
「ねぇ…おきてる?」
……
もう、眠ったのかしら。彼女はドアを開けた。
「…夜這いが趣味か?お嬢さん」
「…!おきてるなら返事をして。」
「どうしたんだ?眠れないのか?」
グレイは剣の手入れをしていた。
「ええ…」
あなたの事を考えてたら…そう言いそうになって彼女はうつむいた。
しばらく二人は沈黙に包まれた。グレイは自分の剣を磨いては眺め、クローディアはそれを眺めていた。
「…クローディア」
「何?」
「…運命に流されるな。お前にはお前の生き方がある。辛いだろうが、人は強くならなければいけない。…もう寝ろ。」
クローディアはうつむき、唇を震わせ言った。
「…これも…仕事の内なの?ここに連れてきてくれた事。ジャンに頼まれたの?」
「…これは俺の意志だ。息抜きも必要だと思ってな。くだらない勘ぐりはよせ。」
「……」
クローディアはそっと…グレイの後ろに抱きついた。そしてグレイの首に顔を寄せた…
「…一時の感情に流された行動は、俺は好きじゃない…」
グレイは振り向かずにそう言った。
「…そう…ごめん…なさい……」
クローディアは小さな、かすれた声でそう言って、グレイの部屋を出た…
クローディアは部屋に戻り、泣いた。恋愛かどうかはわからない。ただ、抱いてほしいと思った。でも全て見透かされていたような気がした。泣いて、泣きじゃくって、疲れはて眠ってしまった。
「……!」
「目が覚めたか?鍵もかけないで眠るなんて不用心だぞ。」
「何しに来たのよ。」
「…夜這い。」
そう言ってグレイはクローディアの唇にそっと口づけをした。
「さっきはすまなかった…今の気持ちだけで、お前を抱くことが、お前を傷つけることになるのが怖かったから…でも」
グレイはクローディアの耳元でささやいた。
…俺の体が、お前をほしいって言ってる…
クローディアはフフッと笑ってしまった。
…私、そんなに弱くないわ…
そうして、二人は唇を、肌を重ねた…。
「んっ・・・」
グレイの唇がそっと首筋に触れる。
「あっ・・ああっ・・・」
優しく胸に触れるグレイの手がじれったい…。無愛想な表情とは無縁なほど丁寧な愛撫。クローディアはたまらず体を弓なりに反らせる。
グレイは、クローディアの暖かく濡れた部分に舌を這わせる。
「グレイ・・・んっ・・・もう・・・」
グレイはクローディアの脚をぐっと広げ、執拗に舌で愛撫を続ける。
…ほしい…
クローディアの目が合図する。グレイは上体を起こし、ゆっくりとクローディアの中に挿入した。
「んっ・・!はぁっ・・・」
奥へと深く入っていくと、クチュッと液の溢れる音がする…
グレイはクローディアの手首をつかみ、激しく体を動かした。
「はぁんっ・・あっ・・ああっ・・・」
クローディアの全身を快楽がつきぬけ、絡めた脚に力が入る。
「っ…!」
グレイは抑えきれずクローディアの中に放出した。ドクン、ドクンと波打つ脈。二人は呼吸も整わないまま長い長い口づけをした…
クローディアはそのまますぐに眠ってしまった。グレイはそれを見つめ、思う。愛だとか恋だとかそんなんじゃないだろう…
傷ついた女と孤独の男。寄せ合う躰。無粋なことは言う必要ないし、いずれはお互い別の道を歩むであろうから…。
「ええっ!?」
「ええって言われてもねぇ、こんな風じゃ船なんて出せっこないよ、お客さん。この前も嵐でブルエーレ発の便が難破したらしいしねぇ。悪いけど、今日は諦めてくれ。」
メルビル行きの船が出なくなり、二人はしかたなく宿に戻った。部屋ではまたグレイが剣の手入れをし、クローディアがそれを見つめていた。
「はぁ……どうしよう」
ベッドに寝そべってクローディアが呟く。
「どうしようといっても仕方ないだろう、風が止むのを待って…」
「そうじゃなくて。」
クローディアは言った。
「あなたと一緒に、こうやっていると、その…夜のことを思い出してしまうの。あの感覚を。あなたを見てるとそのことばかり考えてしまうの。…身体が…勝手に…」
グレイは目を丸くして、思わず大声を出してしまった。
「おい!俺はお前の憂さ晴らしの道具じゃないんだぞ!ちゃんと感情だって持ってるんだ!」
「えっ…!そんなつもりじゃ…ごめんなさい…」
「いや…大声だしてすまない…」
グレイは顔を真っ赤にしてうつむいた。「………フッ…フフッ…アハハ」
思わずクローディアは笑ってしまった。
「びっくりしちゃった…でも…あなたさえよければ…側にいてほしいの。あなたといて、強くなりたいの。運命に負けない力を身につけるまで…」
グレイは、答える代わりに、クローディアを抱きしめた。
ずっと、ずっと抱きしめた…