−ローザリア王国の首都クリスタルシティ−  
その中心部にある大地の女神ニーサを奉る神殿の中で、一人の女性がひざまずいていた。  
「ニーサよ・・・どうか弟をお守り下さい。父と母に安らかな眠りをお与え下さい。」  
女性の名はディアナ。ローザリア王国の防衛線の中でも重要な位置をしめるイスマス城主の「元」息女である。  
ひとしきり祈りを捧げた後、ディアナは今現在身を寄せているクリスタルパレスへと戻ろうと神殿を後にした。  
 
「−殿下!わざわざ迎えに来てくださったのですか?申し訳ありません・・・。」  
「あまり遅いので心配した。アルベルトが心配なのはわかっているが、自分の体もいたわってやれ。」  
殿下と呼ばれた長身の男性。−彼こそがこのクリスタルシティを治める君主、つまりローザリアの君主。  
正確にはまだ代行である皇太子だが− ブラックプリンス ナイトハルト。 ディアナの婚約者でもあった。  
「恐れ入ります殿下、こんなところにまで足を運ばせてしまって・・・。」  
「良い、気にするな。それよりも、体は本当に大丈夫なのか?」  
ナイトハルトの疑念。それはディアナがここに身を寄せることになった原因となる出来事からである  
 
ナイトハルトがディアナの居城であるイスマスに自ら足を運び、結婚の申し込みをした奇しくもその翌朝、  
それは起きた。  
元より常に争奪の地であり、南に位置するバファル帝国への警戒の最前線であったイスマス城  
城の周りには監視用の塔が置かれ、いつ何時ともあるかわからない攻撃への警戒は万全。のはずだった。  
しかし魔物の群れは警戒ラインの内側に湧き出るように現れたのだ。宴に酔いしたたかに眠った頃の最悪の襲撃。  
自らのおかれた状況を冷静に受け止め、イスマス城主ルドルフは二人の子供にこう言った。  
逃げ落ちよ、と  
 
拒絶したものの叱責を持って諭され、ディアナとアルベルトの二人の姉弟は隠し通路を走った。  
しかしそこを抜けた先にもまた、恐ろしい魔物が待ち受けていた。真紅のドラゴンが。  
何とか弟だけは、とディアナはアルベルトを滝へと突き落とし、自らはドラゴンに対峙した  
しかし鍛え上げられた戦士でも一人で勝とうなどとは無謀だと言われる難敵である  
ディアナはなすすべなくその体に牙を食い込まされ、燃える吐息を浴びせられ、死は免れないかと思われた。  
だがディアナの体が力を失い、弟が落とされた滝へと自分も落ちていく中、朦朧とした意識に声が響いた。  
 
「・・・立ちなさい!」  
 
力強い女性の声が聞こえたと思った瞬間、ディアナは完全に意識を失った。  
その後ブルエーレ近くの海岸で目を覚ました時には信じられないことに、全ての傷が消えていた。  
牙と爪で引き裂かれた跡も、業火で焼け爛れた皮膚も、何事もなかったように治癒していたのだ  
 
「大丈夫です、心配には及びません。自分でも何が起きたのかはわからないのですが・・・」  
そのときのことを思い出し、ディアナは目を伏せうつむいたまま答えた。  
「済まない、思い出させてしまったか。しかし私も気になっているのだ。  
声が聞こえたというのは、まさか・・・、いや、まあ良い。日も落ちてきた。戻るぞ。」  
「はい、殿下・・・」  
零れ落ちそうになる涙をそっと拭いながらディアナは顔を上げ、歩き出した。  
 
宮殿に戻った二人は共に用意された夕食をとった。  
何とか取り繕ってはいるがディアナが終始気分が優れない事は、ナイトハルトにはわかっていた。  
ディアナ自身にもそれはわかっていて、汚れを落とし身も心も清めたいと湯につかり、  
自分の為にと用意された部屋のベッドに突っ伏してしまった。  
優しく接してくれるナイトハルトに答えられぬ自分への苛立ちは限界に来ていた。  
枕に顔を埋め、シーツの端をギリギリと掴みながら彼女は涙を流した。  
 
どのくらいそうしていたのか、唐突にドアをノックされる音が聞こえる  
「ディアナ、起きているか?私だ」  
声の主に驚き、ディアナは枕にうずめていた顔をがばりと起こした。  
「は、はい!殿下!」  
自分でも驚くような大声で思わず返事をしてしまう  
「・・・少し良いか?入るぞ」  
言いながらナイトハルトは部屋へと入り、ディアナの顔を見てハッとした表情になる  
「あ、の、何か、御用でしょう・・・か?」  
答えぬままナイトハルトはディアナの側に寄り、その頬をそっと撫でた  
「泣いていたのか・・・・」  
あ、と慌てながらぐしゃぐしゃになっていた顔をディアナは慌てて拭った  
「・・・お前が聞いたと言う声のことだが、気になって色々と調べてみた。  
 お前は、神に愛されているのかもしれん。」  
 
何を言うのか、とあまりに予想外の言葉にディアナの目は見開かれた。  
 
「私が、神に愛されている・・・?」  
「そうだ。神は自らへの信仰の対価として人間に寵を与えることがある。  
 お前があの状況で助かったのも、傷が治癒したのも、恐らく神の恩寵によるものだ」  
「そんなはずが・・・!」  
思わずギリギリと拳を握り締めてしまう。  
アルベルトが生きてナイトハルトの前に現れたと聞いたときは涙が出た。  
心の底から神の存在に感謝したものだ。  
しかし一刻も早く再会をと願い世界中を回ったが、いつも一足早く、一足遅く行き違ってしまった。  
神は自分達二人の命を助けておきながら、再び会わせることは叶わせてくれないのだ。  
気まぐれな神が恨めしかった。  
 
「・・・殿下!私は、アルベルトに会えるでしょうか!?私がここにいる限り、  
 アルベルトは戻れぬまま命を終わらせてしまうのではないでしょうか!?  
 神は・・・無慈悲です!!」  
「・・・馬鹿をいうものではない!私はお前とアルベルトの二人が助かった奇跡に感謝している。  
 お前が死んでいたら・・・」  
ナイトハルトはそこで言葉を切り、ベッドの端に腰掛けると半身を起こしていたディアナを抱き寄せた  
「殿下・・・!何を・・・」  
困惑するディアナにナイトハルトは口付け、柔らかなベッドへ組み敷きながら続きを囁いた  
「お前が死んでいたら・・・私は妻を娶らぬ覚悟さえしていたというのに・・・。」  
意外なその言葉にディアナの顔がカッと赤くなる。自分がイスマスの城主の娘であるから。  
ただそれだけの理由で選ばれたのだと思っていた。国を治める立場にある者としては  
そんな理由で婚姻の相手を選ぶことは、ごくごく普通とさえ言えることだったから。  
「殿下・・・嬉しい、です」  
密かに想っていた人に想われていた嬉しさを噛み締めながら、それを理解していなかった  
自分を恥じながら、今度はディアナのほうからナイトハルトへ口付けをした。  
 
「んっ・・・は・・・っ・・・」  
ディアナにとって初めてになる男との口付けは濃厚なものだった  
どうしたら良いかわからない、ぎこちないディアナの口付けに痺れをきらし  
ナイトハルトがその唇をわずかに開かせ、舌を遠慮なく絡ませてきたのだ。  
長い口付けの後に、そのままナイトハルトは肩口から胸へと唇を這わせていく。  
「あ・・・っ、殿下、それは・・・っ」  
流れに任せて「その先」の行為にまで及んでしまうのをディアナは躊躇した。  
いくら婚約をした仲とはいえ、正式に夫婦となっていないものが情を交わすことなど  
良家の娘である彼女には、やはりダメだと思わせるものがあった。  
 
「・・・構わぬ。私はお前が欲しいのだ」  
それでも困惑気味のディアナには構わずナイトハルトは行為を進めようと  
彼女がまとっている夜着を脱がせた。  
真っ白な均整の取れた肢体があらわになる。傷跡など、どこにも無かった。  
じっと裸の肢体を見られていることに気づき、ディアナは羞恥から  
イヤイヤと首を振り、顔を背けた。  
「恥ずかしがることなどない。お前は美しい。」  
耳元で優しく囁き、唇にそっと口付けを落とし、ナイトハルトは  
その美しい体を貪り始めた。  
 
肩口から胸へと少し舌を出した唇をそっと這わせていく  
谷間の辺りに来て一旦唇を離し、そのまま乳首をそっと口に含んだ。  
「・・・っ、あ・・・・っ!」  
ぞわぞわとするようなもどかしい感触からの急な強い刺激に思わず  
ディアナの口から声が漏れる。  
その声をもっと聞こうと含んだ乳首を舌先で転がし、時には軽く歯を立て  
手でもう片方の胸にも愛撫をしていく  
「ああっ、ん・・・っ・・・」  
いやらしい声を聞かれまいと、指を噛んで耐えるディアナに煽られると同時に  
少々苛立ちを感じ口からその手を引き離した。  
「我慢をするな、私の前でならいくら乱れてもいい」  
言いながら空いた手でディアナの太ももを撫ぜると、はっ、と息を吐くのが聞こえた  
 
期待のこもった溜息を聞きながら、その手で太ももを開かせ、秘所をなぞる  
「殿・・下・・・そこは・・・」  
2、3度軽くなぞった後、指先にわずかに力を込めるとツプリと割れ目に指が食い込んでいく  
そこは既に潤いを持ち始めていて、ヌルリと滑る感触がする。  
それを幸いと上下に指で秘所を何度も擦ると、ディアナは悲鳴のような嬌声をあげた  
「あああっ!だめ・・・だめ、です!・・・はああっ!」  
声を抑えるのも忘れた素直な反応にナイトハルトはさらに煽られ  
もっと乱れさせ、支配してしまおうと欲望に駆られていった。  
 
指で擦っていく中でもやはり特に感じるらしい陰核を執拗に攻めると  
ディアナの体はさらなる快楽を得るためか、もしくは絶頂が近いのか  
小刻みに震え始めた  
「どうした?ここが、そんなに気に入ったか?」  
「あっあっ、ちがっ、ああああっ、はっ・・・・」  
少々意地悪く尋ねられて、否定しようとしても体が言うことを聞いてくれない  
そんな様子を楽しげに見ながら、さらに追い込もうと顔を秘所へと近づけ  
直接舌を這わせると、肢体がびくりと震え、大きくしなった  
「だめ!だめぇ・・・やめっ、あっ、だめ・・・」  
追い詰められ、相手がナイトハルトであるのも忘れてディアナは否定の言葉を紡ぐ  
このまま全て忘れてしまえとばかりに激しく攻めると、一瞬震えが止まり、硬直した  
「だ、め、あああああっ!!」  
甲高い嬌声と共に再び大きく震えると、ディアナの体からくたりと力が抜けた。  
 
「・・・ディアナ。良かったか?・・・今度は私が良くしてもらう番だ。」  
「あ・・・・殿下・・・?」  
意味が飲み込めず、恍惚とした表情のままディアナが問う。  
それに答える代わりに、愛液が溢れ出す秘所にナイトハルト自身があてがわれた。  
 
濡れそぼっているとはいえ、やはり処女であるディアナの中は抵抗が強かったが  
そのまま構わず押し進んでいく。ナイトハルトも我慢の限界だった。  
「く・・・うっ、殿下・・・くっ・・・」  
「ディアナ、少しだけ、我慢してくれ・・・」  
痛みを紛らわすために背中をさすり、口付けを落としながらゆっくりと進み  
ようやく奥まで到達する  
「よく・・・がんばったな」  
ねぎらうように抱きしめて優しく口付けをし、少しの間を置いて動き始めた  
「うっ、・・・あっあっ、んうぅ・・・」  
まだ苦痛の表情が残るディアナを気遣おうと思いながらも、動きは激しくなってしまう  
「あっ、ん、はあ・・・んっ」  
動くうちにわずかに声に甘さが混じるのを、ナイトハルトは聞き逃すことなく  
さらに攻め立てていく  
 
覆いかぶさり、きつく抱きしめながら激しい動きを繰り返す  
いつも女を相手にする時には、楽しませようと余裕を持って臨んでいたのだが  
今回ばかりはそう考えられない。せりあがってくる快感を早く開放したい  
彼女を自らの物にして支配したい、その一心だった。  
「殿下!殿下っ・・・ああっ!」  
「くっ・・・ディアナ・・・!」  
いくぞ、と小さく呟きナイトハルトはディアナの中で果てた。  
 
二人が情を交わしていたのと同時刻  
世界最大のトマエ火山で有名なジェルトンの町にある冒険者の一行が滞在していた。  
 
「吟遊詩人殿、何故アルベルトが私と同室ではないのだ?これがわからない」  
「アルベルトさんはグレイさんのお話が聞きたいのだそうですよ、今夜のところは  
 どうか我慢してください」  
「そうか・・・まあ良いとしよう。近い将来我が弟になるわけだからな。  
 今のところは手練の冒険者の話を聞くのも良いだろう。」  
そんな会話を交わすのは、歌を創るために世界を回る吟遊詩人と  
クリスタルシティにいるはずのナイトハルトであった  
 
彼らと道を共にしているのは、ディアナの弟であるアルベルト  
タラール族長の孫娘のアイシャ、名高い冒険者のグレイ  
そして驚くべきことに行方不明とされていたバファルの皇女クローディアだった。  
アイシャもクローディアも、その立場を考えればこれからの政策には必ず役に立つ人物  
冒険者グレイは少々邪魔とも思えたが、旅を共にしてみれば、彼自身は権力や金銭には  
全く捉われず自由な気質であるのがわかり、それはそれで面白い物であった。  
 
ディアナを探すためにアルベルトを従え赴いた旅なのだが、思わぬ手駒が手に入ったと  
ナイトハルトは心の中で密かに笑っていた。  
 
「しかし、国のほうはよろしいのですか?殿下」  
「ふん、国を治めることも確かに大事だが、私にはもっと大事な物があるのだ。  
 国政ならしかるべき教育を受けた影に任せてある。   
 このままサルーインも討伐できれば、我がローザリアは神に打ち勝った  
 英雄の治める国となる。これ以上のことはあるまい」  
「そうですか・・・ならば良いのですが」  
詩人は本来の姿が持つ力の一つの千里眼で、今時分のクリスタルシティでの出来事を見ていた。  
しかし自分は助言は与えても核心には触れぬと決めたのだ。何があろうと受け止めるだけ。  
そう思い、これ以上の言葉をかけるのはやめにした。  
 
そんな二人のいる部屋の前を誰かが通っていく気配がする  
古い板張りの宿屋の廊下をそっと忍び足で歩く人影  
隠密行動とは全くの無縁だった少女は、ギッ、と大きな音が鳴りかけるのに驚き  
気づかれていないとわかるとまたそっと歩き出す。  
「・・・・・はぁ〜。緊張しちゃうよ、もう」  
よくやく目的地の部屋に入り、少女アイシャは溜息を吐いた  
「・・・随分遅かったな」  
「アイシャ!やっと来てくれたのですね」  
「ごめんね〜、でも詩人さんと殿下に気づかれないようにがんばったんだから!」  
「そうか。ならば俺は行くぞ。後は自由にしろ」  
そういうと長髪長身の男、グレイは部屋を後にして見事な忍び足で歩いていく  
目的地は、アイシャとクローディアの部屋。つまり今はクローディア一人の部屋。  
 
「えへへ・・・なんか、ちょっと悪いことしてる気分だね、アル」  
「仕方が無いよアイシャ。殿下と詩人殿もいるんだ。少しは気を使わないと」  
アルベルトのいるベットに潜りこみながらアイシャがはにかむ。  
 
「・・・全く。無駄に人数を増やすからこんな面倒になる。」  
「・・・本当に。アイシャとアルベルトに知られてるだけでも恥ずかしいのに」  
無愛想な口を利きながらクローディアはグレイの胸にもたれかかる。  
 
「吟遊詩人殿、この旅が終わったら、是非私の活躍を歌にして語り継いでくれ。  
 もちろん、褒美は思うがままだ。・・・明日はお前の語った伝説にある冥府に行くのか。  
 今更恐れるものなどは無いな・・・行くぞ!」  
欲しいものはそろいつつある。後はディアナだけ・・・ディアナさえ手に入れれば。  
ナイトハルトは世界をすべる大国の王になる未来を想像し胸を膨らませる。  
 
「無論、そのために旅をしているのですから、殿下のことは歌の題材にさせていただきます  
 お礼は一切無くて構いません。」  
両隣の部屋とクリスタルシティで起きていることの顛末を千里眼で見ながら  
自分は受け入れるだけだと吟遊詩人は心に言い聞かせる。  
 
マルディアスの夜は更けていった・・・・。  
 

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