「ほら、これ」
ジャミルがクローディアに差し出したのは、彼女が幼い時から身に付けている珊瑚の指輪だった。
「取り返してきてやったぜ」
「ありがとう…怪我、したの…?」
「ん?こんなの舐めときゃ治るや。俺様としたことがドジっちまった。ちきしょー、あんなへなちょこ盗賊に殴られちまうなんて」
ジャミルは唇の端の傷をぺろっと舐めた。
「…ごめんなさい」
「いいぜ、こんくらい。しっかし指輪盗られるなんてぼーっとして歩きすぎだぜ?よっぽど失恋のショックがでかかったんだな」
「ちょっと、失恋って誰が…」
構わずジャミルは喋り続ける。
「グレイなんかのどこがいいんだか。なんか不愛想だしむっつりスケベっぽいしさぁ。
二人の女で取り合うほどの男かぁ?俺のがよっぽどいい男じゃん!
それにグレイをゲットしたミリアムのはしゃぎっぷりったら…」
「…無神経な男…」
そう言ってクローディアは宿の二階への階段を上っていった。
「ねぇ〜ジャミ、お願いよぉ。だってグレイと二人っきりになりたいんだもん」
「…で、おいらに部屋を出ていけと」
ジャミルははぁ、とため息をついた。
「だからぁ、あたいとジャミが交代したらいいわけじゃん。ジャミはクローディアの部屋で寝たらい〜じゃ〜ん!以外と芽生えるかもよぉ、ラブが」
ミリアムは頬に手をあて、キャッと嬉しそうに言った。
(バカ女…)
ジャミルは肩を落とし、すごすごと部屋から立ち去った。
「…で、あなた廊下をずっとうろうろしてたわけ」
クローディアはベッドの上で新聞をひろげながら言った。ジャミルは少しおどけたように、
「そう。てゆうか部屋に入れてくれたって事は、今日はここで寝てもいいわけ?」
と言った。
「お好きなように」
クローディアがあまりにも淡々と話すので、ジャミルは困ってしまう。
「ふふ…それとも私に何かするつもりで言ってるの?」
ニヤっと笑うクローディアを見てジャミルは思った。
(…こいつもいつのまにか嫌な女になったな…)
ジャミルはそっぽを向いて床に寝転がった。
「かわいくねぇ」
「あの…ね」
「何だよ」
……こっちに来てよ。
……。
「グレイのこと、別に傷ついてなんかいないわ。森から出て、最初に親しくなった人間が彼だったから、少し気になってただけよ。だから…」
ふぅ、と一息ついてジャミルは立ち上がり、ベッドに近づいた。そして、クローディアの頬にそっと手を回した…。
「えっ…待っ…」
近づく顔。クローディアは、そっと目を閉じる…
バチン!
「……!痛い!なにするの!」
ジャミルはその触れた手で軽く、彼女の頬を打った。
「お前なぁ!そんな風に、そんな挑発的な目で、誘ってるようなふりしやがって!隙だらけで、男なら誰でもいい、みたいな顔しやがって、バカ女!胸くそ悪いぜ」
ジャミルはそう言って部屋を出ようとした。
「待ってよ…!」
「外で寝るよ」
「違うわ!
本当は嬉しかったの!指輪を取り返してきてくれたのも、部屋に来たことも。
だから…行かないで…」
「お、おい…クローディア…?」
彼女は肩を震わせ、俯いた顔からは小さな嗚咽が聞こえた。
「後悔…すんなよ」
クローディアはこくり、と頷いた。窓からの月の明かりだけの蒼く薄暗い光に照らされる、彼女の身体は透き通る様な白さに見える。
乳房に触れる唇。
「んっ…あ…」
最初は優しく、次第に強く、舌先で責め立てる。
「あ…あんっ…やっ…」
舌先で乳頭を転がしながら、手は下半身をゆっくりと伝う。湿って暖かい、クローディアの中心。突起を指で摩擦されると、彼女の身体はビクン、と波打った。
「ひっ…!んんっ…あ…っ」
そのまま、指を滑らせて中へ。まるで、指に絡みつくような感触。ジャミルは内部を刺激する。愛欲の液がシーツを濡らす…。
ジャミルは、自分自身の先端で、濡れた入り口を少しずつ刺激する。
「足の力、抜いて」
そう言って彼はゆっくりと挿入した。
「…っ!!はぁぁっ…あんっ…」
重なる肌の熱さに、全身にほとばしる感覚に、汗と液が滲み出す。
快楽を貪るように、揺れる身体。
ずぶり。
突然に彼は身体を離した。
「…まだ、いかしてやらねぇ」
そういって仰向けになった。
「上に乗れよ」
「…えっ……」
言われるがままに、クローディアはジャミルに跨り、体重を乗せた。
「あんっ…!」
下から突き上げる男柱に、体の奥の奥まで貫く快楽に、クローディアは毛を乱して応えた。
「あっ…あっ…んぁっ…もう…っ」
おのずと自分からも腰を揺らす。
「んっ…はっ…俺っ…もう限界……っ…」
張り詰めた糸が切れるように。
二人は同時に果てた。
「…ねぇ」
行為の後の、ベッドで寄り添う二人。
「好きになっても、いいのかしら。」
クローディアの問いに、ジャミルは答える。
「さァね」
フフン、と笑ってみせる彼に、彼女も笑みを浮かべ、
「まぁ、例え話だけどね…」
と言った。
「もしかしたら、なるかもしれないから。」
「それはその時考えなよ。俺もそん時考えるから。」
微笑みながら、二人は初めてのキスをした。