平和な観光地を思わせる、ウソの街。  
 に、何やら異様な一行がその街中を右往左往していた。  
 ある者は買い物に行きたいのだが、ある者はもう宿で休みたくて仕方がないらしいし、ある者は仕事が欲しくてたまらない。またある者はとりあえずこの一行から離れたいと考え、ある者はこの固まりをまとめようと精一杯なのだ。  
 ――つまり、この五人にはチームワークという言葉そのものが欠如していた。  
 「ねえバーバラ、買い物に行こうよー! 新しい洋服が欲しいんだ」  
 麗しい金髪を、太陽の光でいっぱいに輝かせてミリアムが笑う。しかしそれに良い顔をしない青年がいた。  
 「何が“新しい洋服が欲しいんだー♪”だ。俺はもう休みたくてしょーがないってのに」  
 「あたいはそんな気持ち悪い声出さないわよ、バカジャミル」  
 「んだと!?」  
 ミリアムとジャミルは、いつもこうだ。リーダーのバーバラが「はいはい、わかったからわかったから」とまるで親か何かのように仲裁に入ることで、喧嘩は収まる。それもいつものことであった。  
 「…………俺は少し、一人で行動したいのだが」  
 グレイがその間でぽつんと呟いた。彼の横で最後の仲間である名も無き魔術士が、奇妙な動きをしながら「いやあ、仕事だよ仕事を探そーよ、姐さーァん!」とにんまりしている。  
 「あー、もう! こうしましょ!」  
 ついに堪えきれなくなったバーバラが、叫んだ。  
 「全員、自由行動。夜にはこの街の宿に戻ってくるのよ。いい?」  
 「さっすが、バーバラ! そりゃあ賢いぜ」  
 「そうでしょうジャミル。はい、解散!」  
 リーダーは半ば、仲間の相手をするのが面倒になっているような態度でポンと手を叩き、全員の解散を促した。  
 蜘蛛の子を散らしたように、一行が一斉に散ってゆく。  
 仲間内で最も体格の良い、孤高を好む男はまず街の外れへ移動しようと思っていた。  
 が、ひょこひょこと小さな娘がついてくるではないか。  
 「ねえグレイ、あたいも着いてっていい? いいだろ?」  
 ミリアムは上目遣いで、グレイを見つめる。しかし彼は少しも彼女と目を合わせようとすることもなく、カツカツとブーツを鳴らしながら小さく言った。  
 「好きにしろ」  
 その言葉に、少女が喜んだのは言うまでもない。  
 ――二人のそんな様子を、伺い見るようにしている誰かがいるのに、ミリアムは少しも気付きはしなかった。  
 
 
 
 「何処へ行くつもりなの」  
 
 
 
 グレイの後に続きながら、ミリアムは不安げに尋ねた。賑やかなウソの街の中心部から外れ、徐々に人気のないところへ移動してきている。グレイは、こうした場所を捜すことにかけては天才的だ。  
 だがそこにもミリアムなりの問題があった。静かな場所が嫌い、というわけではないが、グレイが好む「静寂」はいつも何処か「陰湿」なのだ。ミリアムは「陰湿」なのは苦手だ。  
 だから、こうしてグレイに着いていくのは良いが、段々と明るい場所が恋しくなるのである。  
 「わからん」  
 グレイの返答は、そうしたミリアムの嫌な感じを上手く増長させるのに一役買った。  
 「じゃあさ、ちょっとだけあたいの買い物に付き合っておくれよ。一人になるのは、その後でだって良いでしょう」  
 それを吹き飛ばそうと、無謀なのを承知で提案してみる。  
 が。  
 「断る」  
 「早っ!」  
 ミリアムは表情を歪めた。もう少しくらい、検討するそぶりを見せてくれてもいいものだ――無謀なのはわかっていたが、これはあんまりひどすぎた。  
 やがて、ミリアムが何を言うわけでもなくなった頃にグレイはこう言って、彼女を突き放した。  
 「帰れ」  
 そうして、冷たい一瞥を彼女にくれてやる。ミリアムはそれにひどく傷ついた。  
 好きな男にこうされてしまっては、傷つくしかないのだ。ここで笑ったり、おどけてみせる強さを、残念ながらミリアムは持っていない。  
 「俺は、一人になりたい。帰れ」  
 とどめのような一言を放ち、グレイはミリアムに背を向けて一人で歩き始める。  
 もう、それを留まらせる気力を、ミリアムは残してはいなかった。  
 「何さ………何さ、グレイの馬鹿野郎」  
 一人ぼっちになった、暗い暗い路地で呟く。  
 そうすることで、ミリアムは今自分が置かれた現状に気が付いた。いつの間にか、随分遠くまで来たようだ。グレイと話をしている時は気付かなかったが、太陽の光すら差さない場所にいる用などもうない。  
 早く、街の中心へ戻ろう。買い物をして、明るい気分になって、グレイにされたことを忘れてしまおう。  
 そう思う矢先であった。  
 「お姉ちゃん、一人かい?」  
 突如として、その路地で数人の男に囲まれた。決して良い雰囲気の男たちではない―――そもそもをいえば、タイミングが良すぎる。明らかにつけていた、と考えるべきであろう。  
 「なあに、あんたたち」  
 もう今日は本当にツイてない、と思いながら、ミリアムは強気に言い放った。  
 

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