旅を終え、このシノンの村に定住して一年が経った。  
 結局、僕は『宿命の子』である事以外、自分の事は解らなかった。  
 今を生きるのが精一杯の流浪の旅人から、大きな農村の住人になった僕にとって、定住  
からの1年間は目新しい事の連続だった。戦いしか知らない僕は農作業や牧畜、定住する  
農耕民族の日常生活のすべてが初めて経験する物だったから。  
 今は、こうしてサラと一緒に居られる、それが僕の幸せ。あの頃は夢にも思わなかった  
穏やかな日々。  
 
 
 東方に比べ割と涼しい夏が過ぎ、風に揺られ波打つ小麦畑は日の光に照らされ、黄金の  
輝きを放つ。明日にでも小麦の収穫が始まってもおかしく無い10月のシノンの村は収穫  
祭の準備も始まっていた。  
 シノンの村の収穫祭はそれなりに大きなお祭りである。村人のみならずロアーヌからも  
たくさんの人が訪れるので、ロアーヌ王国の1大イベントと言える。しかも今回は王に即  
位したミカエルと、同時にミカエルと結婚したカタリナ、さらにシノン出身で出世して男  
爵位を賜ったユリアンと、そのユリアンと結婚したモニカも訪れる事になっている。その  
ため、村人皆がどこか浮ついている様だ。  
 村の人々が集まる酒場では、定期的に開かれる村人会議が開かれているが、その席に出  
る議題はやはり、今年の収穫祭の事であった。ちなみに少年は会議には参加せず、ロアー  
ヌから帰って来てそのままカーソン家に向かっていた。行く当ての無かった彼をシノンに  
連れて来たのは言う迄も無いだろうがサラである。サラの母親曰く「息子が出来たようで  
嬉しいわ。」との事。  
 
「ただいま。」  
「あ、おかえりなさい! お母さん、エルト帰って来たわ。」  
 
 元気良く応えたのはサラ。エレンは母親とキッチンで今日の晩ご飯を作っている最中ら  
しい。「お茶入れてくるわね。」とサラもキッチンに消えて行った。  
 エルトと言うのは、ポドールイで僕とサラが出会い、サラに誘われて彼女達と同行する  
事になった時、名前が無いと不便だからとサラが付けてくれた。以後僕はこの名前を使っ  
ている。  
 自分以外何者も頼りに出来ず、一人で生きて行くしか無かった僕に、名前と温もりをく  
れたサラ。僕に向けてくれたあの笑顔、暖かくて優しくて、お日様みたいだと思った。そ  
の日からずっと、僕はサラを守りたいと思って剣を振るって来た。4つ目のアビスゲート  
をサラが閉ざそうとした時、僕が彼女を突き飛ばしたのも、サラを守りたかったから。振  
り返ると、あのポドールイでサラと出会ってから、以降僕はずっとサラの為だけに生きて  
来た様な気さえする。アビスでまたひとりだけになっても、サラのお日様の様な笑顔を思  
い出すだけで、その孤独にも耐えられた。  
 
 奥からサラやエレン、二人のお母さんが今日の夕食を運んで来た。今日も一日、たわい  
もない日常だけど、幸せな一日だった。  
 
 
 
 「お母さんも、お姉ちゃんも、もうちょっと加減しなさい!」  
 「あはは、ごめーん。でもこれくらいなら大丈夫かなーって。」  
 「男の子なんだからもっとお酒飲めないとダメよ、エルト。」  
 「ううう〜頭痛〜い・・・お花畑が見える〜〜〜。」  
 
 上から怒っているサラ、酒が入って生来の陽気っぷりが行き過ぎているエレン。同じく  
酒が入って妖艶な雰囲気を感じさせるエレンとサラの母親アーリィ。そして、酔いつぶれ  
た少年ことエルトであった。  
 夕餉の後、先に風呂を済ませていたエレンとアーリィは、サラより先に風呂に入って上  
がって来たエルトを捕まえ、晩酌の相手をさせていた。生来から酒に強く、しかもそれな  
りに嗜んでいる女性二人に対し、実は今日初めて酒を飲む事になったエルトである。おま  
けにシノンの村の地酒は結構きつめのお酒なのだ。エルトは初めてなのに、二人によって  
ペース配分等全く考えさせられる事無く、大量に酒を飲まされてしまったのだ。当然それ  
で無事で居られるはずも無く、一杯水を飲んだ後サラに肩を貸してもらってエルトの自室  
へと戻って行った。そして、それを見送るアーリィの目が怪し気に光っていたのを知る者  
は、本人以外いなかった。  
 
 
 「はいお水。もう、初めてなのに無茶して飲み過ぎよ。」  
 「ありがと・・・あーちょっと楽になったかな?」  
 「無理しないで、もう寝た方が良いわ。それにしても、エルトって大きくなったわね。」  
 
 エルトとサラが初めて出会った時、二人の上背の差は比べて見ないと解らない程度の差  
だった。それが今や顔一つ分の差はある。旅をしていた頃から比べれば歴然としている。  
 
 「そう言われれば、結構背が伸びたかな? みんなまだ伸びるって言うけどね。」  
 「まだ伸びちゃうの? なんだか見上げてたら首が痛くなりそう。」  
 「僕としては今くらいがちょうどいいんだけど。だって、ほら。」  
 
 何を思ったか、エルトはサラの唇に、自分の唇を押し付けた。一瞬だけくっついてすぐ  
離れる、普通のキスだったが、あまりにも速かった為かサラはすぐ認識出来ずぽかーんと  
していた。少しして、自身が今何をされたのかを認識したのか、頬を赤く染めて俯いてし  
まう。しかし少し躊躇いがちではあったが、サラがエルトに甘える様に寄り添うと、エル  
トはサラをすっぽり覆い尽くす様に抱きしめる。エルトは自分が抱きしめるサラの柔らか  
く波打つ栗色の髪の毛を見つめながら、抱きしめる両腕の力を少し強める。  
 一度は、この甘く、幸せな瞬間を捨てた。サラを守る為に。もう二度と手に入る事は無  
いと、諦めた。けれど、運命はエルトとサラを結びつけさせた。  
 
 
 
 「ねえ母さん。何か妙に楽しそうだけど、何かあったの?」  
 「ん? ふふ、まあちょっとね。」  
 
 サラがエルトを連れて行ってから、ニヤニヤ笑っているアーリィを不審に感じたのか、  
エレンは訪ねてみる。しかしアーリィは笑ってはぐらかしてしまう。エレンは思った。こ  
ういう時の母さんは絶対何か企んでいる! と。何となくエレンは背筋に寒いものが走っ  
たのでもう寝よう、と思い最後の一杯を飲み干し、そのまま寝室へと消えていった。  
 それを見送ったアーリィは杯や酒瓶を片付ける。エレンがいなくなると、堪えきれない  
のかうふふふふふ、と声に出る程の笑みになっていた。  
 
 
 
 
 
 シノンの朝は早い。太陽が地平線から顔を出す頃には朝食の準備が始まる。シノンの村  
の住民の1日の始まりである。  
 早朝、エレンは頭がずきずきと痛むのをこらえてベッドから起き上がった。今日の朝ご  
飯の支度はエレンが担当する事になっている。ねむ・・と呟きながら階下に降りて行くと、  
すでにアーリィが起きていたらしい。おはよう、と朝の挨拶をして来たアーリィが、水を  
一杯差し出して来た。エレンの母親なので、起きたばかりのエレンの調子等、お見通しと  
言った所だろうか。  
 
 「あーすっきりした。あら、サラとエルトは? 二人ともいつも朝早いのに。」  
 「さあ? まあ今日は当番じゃないんだし、朝ご飯出来たら呼んであげれば良いわ。そ  
の前に、髪の毛整えなさい。」  
 「ん、りょーかい。」  
 「さて、あっちはどうなってるかしら。」  
 
 エレンがリビングから出て行くのを見送ると、またアーリィの表情は昨日の夜、エレン  
が背筋に寒気を感じたニヤニヤとした笑顔を浮かべていた。  
 
 
 
 眩しい光が差し込む。既に太陽が東の地平線から顔を出して、結構時間が過ぎている。  
傍らに感じる謎の暖かい感触と、顔に感じる冷たい空気の感触と、目を刺激する眩しい光  
に、サラの意識は僅かだが覚醒した。  
 まだ寝起きでぼやけているサラの瞳では、傍らで眠る少年の姿を捉えてもそれを認識し  
ていないらしく「おはよ〜エルト〜朝よ〜」とのんびりした声で起こそうとした。  
 しかし自分の声で、大抵はすぐ眠っている状態から覚醒するはずの少年が起きないのを  
見て、そもそもどうしてエルトと一緒に寝ているんだっけ? と至極当然な疑問を抱いた  
その時、自分と少年の状態に、サラは漸く気付いた。と、同時にサラの意識は急速に覚醒  
する事となった。  
 
 (ど、どうして私、裸なの? ま、まさかエルトももしかして・・・)  
 
 おそるおそる、シーツを少し捲り上げて見ると、細身ながらも鍛え込まれた上半身の一  
部が露になった。しかし、サラがもっと驚いたのは、エルトの首筋から胸板に至るまで、  
夥しい程の赤い跡である。それを見ると、サラの記憶の中に封印されていた昨夜の情景が、  
生々しく脳内再生されて、サラの顔は茹で上がったヘプトパスの様に、真っ赤に染め上が  
った。  
 
 長く剣を振るって来たせいで、いつの間にか硬質化したエルトの両手が、触手の様に自分の身体を滑る感触  
 快楽に溺れながら、更に気持ち良くなりたいと自分がエルトの身体にキスマークを付けようと口づけた感触  
 自分とエルトが一つになった時の幸せな瞬間  
 すべてが終わり、エルトの腕を枕にして眠りに落ちる瞬間  
 
昨夜の事を思い出していると、いつの間にかサラは恥ずかしさよりも、幸せな思いがこ  
み上げて来た。男性としては細身ながら、それでも自分より圧倒的に大きなエルトの身体  
の温かい感触が、サラに幸せな思いを抱かせていた。  
 と、そんな風に朝の余韻に浸っていると、エルトの瞼が開いた。  
 覚醒したばかりのエルトの瞳はまだ正常に作動していない。そんなエルトを見てサラは  
何を思ったか、互いに一糸纏わぬ姿であると言う事を全く頓着せず、身体を密着させてエ  
ルトにキスしたのである。  
 
 「「ん・・・」」  
 
 長いキスが終わる頃にはエルトは現状を認識したのか、少々驚いた様子だった。  
 
 「ふふっエルト、おはよう。」  
 「あ、ああ。おはよう、サラ。」  
 「お寝坊さん、可愛い寝顔をじっくり見させて貰ったわ。」  
 「ちょっ、サラ、可愛いって・・・サラの方が可愛いよ。」  
 「そう?」  
 「そ、そうだよ! だって昨日のサラ、とっても可愛かったし、あ・・・。」  
 「そ、そう? ・・・その、ありがと・・・」  
 「あ・・・」  
 
 素直な性格のせいか、思った事をつい口走ってしまうエルト。まさに地雷を踏んだ一言  
であった。恥ずかしくなって二人共ごにょごにょ言い合って、黙り込んでしまった。  
 気を取り直したエルトが少し起き上がり、腕をサラの背中に伸ばして少し強く抱きしめ  
る。あ、と言うサラに、今度はエルトから口付ける。恋人同士の甘い朝の一時であった。  
 
 で、その際にシーツが腰の所まで落ちてしまい、二人の身体はほとんど外気に晒された  
状態になってしまった。幸いにして下半身は覆ってはいた。  
 
 
 「おっそ・・・    エ   ル   ト    ?」  
 「あっ!?」  
 「お、お姉ちゃん!?」  
 
 しばし硬直  
 
 
 
 そ し て  
 
 
 
 
 
 
 「きゃああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」  
 
 
 
 ノック一つせず、エルトの部屋に入ってしまったエレン。その叫びを階下で聞いていた  
アーリィは、GJ私! とガッツポーズを決めていた。  
 
 
 
 
 
 
 
 
 このエレンの叫び声は、シノンの村全体に響き渡り、その日はエルトとサラは他の村人  
達から質問のミリオンダラーを浴びるハメになってしまったのは、また別のお話。  
 
 

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