彼にとって、それはとても寂しい夕食だった。  
二人はクリスタルシティの宿にいた。  
「そうですか…ではバルハラントに帰るのですね…」  
そう言って、アルベルトは、うつむいた。  
「私は…一応男です。大丈夫ですよ。  
シフも村に帰って、皆さんを安心させてあげて下さい」  
本当は、行かないでほしい。  
でも彼にはそんな事は言えなかった。  
「村の周りのモンスターを全部退治したら、またローザリアに来るよ。  
ここの宿宛てに手紙も書く。  
だからたまに、ここに来て便りも覗きなよ。  
ほら、寂しそうな顔しないでちゃんとご飯食べなさい」  
「わかりました…もう、子供扱いしないで下さい!」  
 
 
 
そしてその後、  
夜の闇がすっかり辺りを静寂に包む頃なのに、アルベルトは眠れなかった。  
寂しい…。  
また独りになるから?  
それもある。  
でも、違う。  
シフとの別れだから…だ。  
彼女に対する想い。それが恋へと変わるのに、そう時間はかからなかった。  
(何をしているのだろうな…僕は)  
家族も城も失った自分が、まだ恋をできる余裕があるなんて。  
アルベルトは自分自身がものすごく軽薄な人間に思えた。  
 
そのとき、アルベルトの部屋をノックする音が聞こえた。  
「入るよ」  
寝衣姿のシフだった。  
「部屋の灯りが点いてたから」  
「あ…眠れなくて」  
「そうなんだ」  
シフはアルベルトが寝そべるベッドの前に歩み寄った。  
「一緒に寝てあげるよ」  
そう言って、アルベルトのベッドに腰掛けた。  
(彼女は、分かっているんだな…僕の気持ちが…。  
でも、言えないな…好きだなんて…)  
状況も、境遇も、まだ二人を恋人同士にはさせないような気がした。  
 
 
 
決心したように、アルベルトが切り出した。  
「シフ…」  
「ん…?」  
「…抱かせて下さい…」  
シフは一瞬目を丸くしたが、すぐに笑顔になった。  
「ふふ、ストレートでいいね」  
 
 
シフの肌に、アルベルトはゆっくりと口づけした。  
以外と女性らしい体のライン。  
アルベルトはそっと、シフの豊かなバストに手を伸ばした。  
優しく乳首を摘んでみる。  
「あ…んっ……」  
両手で左右の乳首をまさぐる。  
「はぁっ…あっ…」  
(シフでも、こんな表情するんだな)  
アルベルトは、それを口に含み、舌先で執拗に転がした。  
「いっ…!あっ…アル…」  
美しいブロンドの髪とブルーの瞳に、今は無き故郷に想いを馳せる。  
アルベルトは胸から次第に腹、そしてもっと下へと指を這わせる。  
暖かく湿ったそこへぬるり、と指を滑らせ…その指はクリトリスを捉えた。  
「あぁっ…!んっ…やっ…」  
シフは思わず身体を反らせ、あまりに自分に押し寄せるざわついた感覚に、顔を背けた。  
「すごい…シフ、いっぱい溢れてくる…  
顔…もっと見せてください」  
彼はそう言って、肉芽に指を滑らしたり、摘んだりして刺激を与え続けた。  
そして、激しいキス。  
「んっ…ぅふぅ…」突然のキスと、押し寄せる快楽に、シフは頭がくらくらした。  
「もう…我慢できません…だって私の…こんなに…」  
アルベルトはそう言って、己の衣服を取り払い、股の脈打つ硬直を示した。  
先端にはすでに滴が糸を引いている。  
「あぁ……アル…」  
シフは思わず手を伸ばし、愛おしむように、竿に愛撫を始めた。  
「っ…!だっ…駄目ですっ…!…くっ…」  
そしてそのまま…それを彼女の口にくわえ込まれ、唇と舌によってさらに刺激を加えられる。  
「あぁぁっ!そんな事…されたら…っ…もう…保てませんっ…」  
アルベルトは、ばっと身体を引き離してしまった。  
 
「嫌だった?」  
「いえ、嫌じゃありません、むしろ…もっとしてほしい所なんですけど…  
やっぱり、最初は、貴女の中で果てたいです」  
「ん…わかった」  
シフは脚を広げ、人差し指と中指で、自分の入り口を広げる。  
まるで誘い込むような、濡れて妖艶なそこに、アルベルトは性急に己の欲望をねじ込んだ。  
「ひぁっ!…あふっ…うぅっ……」  
狂ったように腰を振りまくる彼の腕は、力一杯握りしめられる。  
その痛みすら快楽へと錯覚できた。  
とめどなく溢れる液は、いやらしい音をたて、すっかりシーツに染みを作っていった。  
「んんっ!あぁんっ!ああっ…ああっ…」  
「もうっ…全然もちそうにないっ…ですっ…!」  
引き抜こうと思ったが間に合わず、彼はドクンドクンと脈打って、中に放出してしまった。  
「んっ…ごっごめんなさいっ!」  
謝る彼の汗ばんだ額を、シフは優しく拭った。  
「はぁっ…はぁっ…もう一回っ…今度はちゃんとっ…」  
「ふふっ…焦らないで…ちょって休憩しよ」  
 
 
 
それから二人はもう一度交わり、今度はちゃんと二人で絶頂を味わった。  
優しい空気の中、二人は抱き合って眠りについた。  
 
 
 
翌朝。  
ヨービルの港で別れを惜しむ二人は、抱き合いながらキスを交わした。  
シフの髪の甘い香りが、彼の心を切なくさせた。  
「…また来るから。すぐ逢えるからね…」  
「はい…約束ですよ」  
 
 
 
その後、どれくらい日が経っただろうか。  
アルベルトは自分の手の中にある、ディスティニーストーンの一つ、「土のトパーズ」を見つめた。  
自分の運命が、悪しき神を討つ事だったなんて、誰が想像できただろうか。  
「おい、どうした?」  
旅の途中で仲間になった、ホークが声をかける。  
「いえ…」  
「なに物思いにふけっちゃってんのよ」  
同じく同行しているバーバラが言った。  
「少し、時間を頂いてよろしいですか?  
行きたい所があるんです。  
どうしても逢いたい人がいるのです。  
」  
「やだ、何?もしかして彼女?行ってきなさいよ!  
私たちここで待ってるから」  
「なんだそりゃ。さっさと済ましてこいよ」  
アルベルトは二人にすみません、と言い、急いでバルハラントへ向かった。  
言わなくては…  
一緒に来てくれって。  
それが駄目でも、伝えなくては…  
自分の気持ち、愛してるということ。  
今しかない、と彼は思った。  
 
 
 
雪原を駆けて、村にたどり着いた。  
彼はガトの家をノックした。  
「すみません!お邪魔します」  
久しぶりに見る彼の姿に、ガトは驚いた。そして一瞬、顔がこわばった。  
「お久しぶりです。いきなりで申し訳ないのですが…シフは?」  
「……」  
ガトはうつむいて話し始めた。  
 
 
 
アルベルトは、村の外れで立ち尽くしていた。  
目の前には、文字の刻まれた石が建っている。  
「勇敢なる戦士シフ、ここに眠る」  
ガトの話では、シフは、ある日村を襲ったモンスターの軍団と戦い、村の子供を庇って戦死したという。  
アルベルトは言葉がでなかった。  
「こんなこと…こんな…こと……」  
そしてその場に崩れ落ちた。  
 
 
 
「ガト、これをあの少年に渡さなくてもよかったのですか?」  
村の男が一枚の封筒を差し出した。  
それはクリスタルシティの宿宛ての手紙だった。  
「今度の便で出すよう、シフから預かっていたものなんですが」  
「…」  
ガトは封筒を受け取り、中の手紙を開いた。  
「…渡しても、きっとあやつを苦しめるだけじゃろう…」  
そう言って、焚き火の中に、その手紙を放った…  
 
 
 
親愛なるアルベルトへ  
 
今度、村の南にあるモンスターの巣を叩きに行くんだ。  
そこさえ潰せば、しばらくは大丈夫だと思うから、また、一緒にいられるね。  
アルは、あたしに言ってない事があるんじゃないかな?  
今度逢ったら、ちゃんと言葉で伝えてほしい。  
なんてね。  
あたしからも言うべきなのかな。  
好きだって事。  
おかしいね。最初は弟くらいにしか思ってなかったんだけど、こうやって離れて分かったよ。  
また逢えるのを楽しみにしています  
 
シフ  
 
 
 
アルベルトは雪原を歩いていた。  
海沿いには漂着して大破した船が生々しく残ったままだ。  
ふと立ち止まり、雪の上に寝そべった。  
(僕は…また取り残されたのか…)  
音もなく身体に降り注ぐ雪。  
彼のポケットから、何かが転がり落ちた。  
「土のトパーズ」だ。  
手に取り、しばらく見つめていたが、彼はいきなりそれを力一杯遠くへ放り投げた。  
(運命なんて…もうどうだっていい…世界が滅ぼうが…)  
アルベルトはそっと目を閉じた。  
(やっと…逢いに行ける…)  
 
 
 
雪は止むことなく降り続き、やがてトパーズもアルベルトも見えなくなっていった。  
何事もなかったかのように、一面の銀世界はその姿を保ったままだった。  
 
終  
 
 

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