「あなたは、サルーインとの戦いが終わった後は、どうするつもりなの?」  
バファル帝国内のとある宿屋にて、備え付けの机の上で、自身が振るう刀、  
鬼神刀の手入れをしていたグレイに対し、不意にベッドの上にいたクローディアが問いかけてきた。  
「さぁな、特に決めてはいない。  
ただ、お前と出会う前のように、気ままに放浪するのだろうと思うがな。」  
そっけない感じがするも、今までの彼ならば答えないであろう問いに対して、彼は答えを返した。  
それに対し、クローディアは「やっぱり…」といった感じの顔をして、少しうつむいた。  
 
現在、グレイとクローディアは2人きりで行動をしていた。  
サルーインが元の力を取り戻し、完全に復活するとされる日まで、マルディアスの暦で1ヶ月半、  
日数に変えると30日を切ったとき、グレイの提案によって最終決戦に臨む前に、  
1ヶ月間、各々が自分のしたいことをやっておく、という時間を作ったのだった。  
グレイとクローディアは、この機会に共に帝国を巡りながら、今までの出来事を振り返っていたのだ。  
しかし、時間は気がつけばどんどん過ぎていくものであり、残りの日数も少なくなっていた。  
そして、ちょうど、明日ここを発てば、集合場所であるイスマスへ、  
解散からちょうど1ヶ月が経過する、約束の日に到着できる計算で、この宿屋に泊まったのである。  
そう、2人にとって今夜が、いわゆる決戦前夜となっていた。  
しかし、その決戦前夜にこのように全て終わった後のことを話すのは、あまり良いものではない。  
「それにしても、こういう話題は、悲惨な結末に終わることを予見するだろうということで、  
こういった場面では避けるのが普通なのだが、何故、そんな事を聞く?」  
グレイがクローディアのうつむいている顔を見ず、鬼神刀の手入れをしながら返す。  
 
「私…、帝国の皇女として、運命と向き合って生きてみようと思うの。  
私を生んでくれた人がどんな人か、それも知りたい気がする…  
それに、私はもう、森に帰ることもできないから…」  
うつむいているクローディアから出てきた言葉に、グレイの鬼神刀の手入れをしていた手が止まった。  
彼の顔は一切変わらないものの、心の中はかなり揺らいだようであった。  
クローディアが皇女としての道を歩む、それは即ち…  
「でも、その道を選ぶということは、  
これからも自由に生きようとしているあなたとは、別の道を歩まなければいけない。  
そうなると、あなたとは別れなければならない。  
だから…」  
「だから、サルーインとの戦いで、俺達が死のうが生きながらえようが、  
今夜が、俺達にとっては最後の夜となる…、そういういうことか。」  
グレイが間髪いれずに、静かに彼女の続きを口にした。  
その言葉を出した以後、2人は黙り込む。  
しばらくして、グレイは鬼神刀を鞘に納めて机の上に置き、クローディアのベッドへ寄る。  
そのまま、うつむいている彼女の顔を優しく持ち上げて、そのまま唇を寄せた。  
そして、口付けをしながら、2人はベッドの上で体を横にした。  
 
2人はいつの間にか、互いに服を脱いで、愛撫をし合っていた。  
この宿屋は今、グレイとクローディアの2人しか利用客はおらず、  
経営者が居住しているフロアも、2人の部屋からは遠い上に階層も違う為、  
2人は周りをあまり意識せずに、互いの体を貪り合えたのだった。  
そして、ある程度愛撫をした2人は体を持ち上げて、  
そのままクローディアは、その豊かな双丘でグレイの一物をはさみ、こすり始める。  
 
メルビルにて初めて体を重ね合わせて以降、彼らは他のメンバーに気を遣いながらも、  
事あるごとに体を重ね合わせてきていた。  
回数を重ねる度に、段々と経験の浅かったクローディアはその行為に慣れていき、  
最初は少々気恥ずかしくてためらいがちだった行為も、  
今ではそう感じていても普通に行えるようになっていた。  
今行っている行為も、クローディアは最初こそはためらっていたものの、自身の体において、  
最も女性として目立つものであり、なおかつ他の女性よりも豊かとされるこの乳房を、  
このように使って、彼を悦ばせられるという事を知った後は、  
あまり躊躇せずにこれを行えるようになったのだった。  
 
クローディアは胸でこするスピードを速め、より大きく動かす。  
それによって押し寄せてきた快楽によって、程なくしてグレイは彼女の胸で果てた。  
彼が吐き出した子種を、クローディアは手のひらでその暖かさを感じ、胸全体に伸ばす。  
しかし、その暖かさを実感していると、彼女の心の中に『今夜が最後なんだ…』という事実が、  
胸全体に彼の子種を伸ばしたように広がってきた。  
その事実は彼女の顔に少し表れていた。  
その顔を見たグレイは、何も言わずに彼女を押し倒した。  
 
グレイは、少々アレンジをした腕力法で、一気に自身の一物に活力を取り戻させた。  
そしてベッドの傍に置いてある、最近エスタミルで開発されたというゴム製の避妊具を一物に付けた。  
彼は初めて彼女と交わった時を除き、ずっとこれをつけて彼女と体を重ねていた。  
それは、帝国の皇女を孕ませないように、という事よりも、  
サルーインとの戦いに身をおいている最中に、もしも彼女が妊娠してしまったら、  
貴重な戦力である彼女を、戦線から離脱させざるを得ないという事態になるので、  
これを避ける為であった。  
そして、特に今の時期は、彼女にとって『危険な日』にあたる時期であった。  
その為、彼は今夜もこれをつけてから、彼女の膣に自身の一物を挿れ始めたのだった。  
だが、その感触はゴムの膜が互いの接触を邪魔しているが為に、  
クローディアにとっては、快楽やぬくもりなどが半分奪われているように思えるのである。  
それでも、彼女は彼の肌やぬくもりなどを感じることができていたので、  
今まで、これを付けて体を重ね合わせることを許していたのである。  
 
しかし、自分達にとって最も大事な夜になるであろう今宵も、この避妊具をつけて交えることに、  
クローディアは大層不満を持っていた。  
もちろん、彼女はグレイの想っている事を理解していないわけではない。  
今、自分にとって『危険な日』なのも彼女は分かっている。  
だが、クローディアは、  
『今夜だけは絶対に彼の子種を、例え彼の子を身篭ってでも、この身で全て受け止めたい…』  
と、グレイとの交わりから生まれる、避妊具によってその半分を失っている快楽の中でこう思っていた。  
彼女はグレイの前で、半分失われた快楽から甘い声を上げる。  
「んくっ…、はぁ…、ああぁ…」  
グレイは腰を動かすスピードを上げる。  
「グレイ…、もぉ…わたし…、んんっ!」  
「あぁ…、我慢せずにイけ!」  
グレイの一物が、クローディアの子宮の入り口を力強く突くのと同時に、彼女は果てた。  
そしてグレイも、彼女の膣の締め付け具合でそれを確認すると、自身の子種を吐き出した。  
…彼女の子宮へではなく、避妊具の頭部分に作られている空洞へ。  
 
クローディアは、彼の子種が自分の子宮に入ってこないのに対して、空腹感に似たものを感じた。  
そしてそれは、彼女の女としての本能や彼に対する想いとと結びついた。  
彼の子種が欲しい…、彼に自分を汚して欲しい…、彼の子供を孕みたい…、彼だけの女になりたい…  
だが、『皇女として生きる以上、身分の違う彼の子を身篭っていいはずがない』という思いが、  
彼女の中に皇女として生きてみようと想い始めた頃からあり、それが彼女に葛藤をもたらしていた。  
そしてその思いは、もし彼の子供を身篭ったら、  
そのときこそ帝国は自分だけではなく、彼や、自分達の子供を許すわけがなく、  
その事実を力ずくでも消そうとするだろう、という『恐怖』を彼女の中で生み出し、  
その『恐怖』が、彼女の欲望と希望という二つの望みに影を落としていたのだった。  
落としていたのだった、が…  
 
グレイが、彼女から一物をゆっくりと引き抜き、その一物につけていた避妊具を取る。  
その中には、彼が先ほど吐き出した子種が溜まっていた。  
あれさえなければ、クローディアの子宮の中に入ってくれていたはずの子種…  
自分を白く汚してくれたはずの子種…  
彼の子供を孕ませてくれていたはずの子種…  
自分を彼だけの女にしてくれていたはずの子種…  
この世で最も愛している人の子種…  
 
それを見たクローディアの中で、一つの箍が音を立てて外れた。  
 
グレイが、先ほど使った避妊具の処理を済ませ、ベッドに乗って次の避妊具を取り出そうとした瞬間、  
クローディアは彼を押し倒し、馬乗りになった。  
「ク、クローディア…!?」  
突然の出来事にグレイは驚いた。  
今までクローディアは、彼と体を重ね合わせていたとき、ずっと彼に身を委ねていたのだった。  
それが突然彼女から行動を起こしたのだった。  
普段、異常な出来事にもあまり驚かないグレイも、愛するものの変わり様にはさすがに驚いた。  
グレイが、とにかく何故こうなったのかを知る為に、彼女に聞こうとしたとき、  
クローディアが、馬乗りになったまま彼の性器と自身の性器をこすり合わせ始めた。  
彼女の積極的な動きによって、すぐに彼の一物は大きく膨らんだ。  
クローディアはそれを確認すると、自身の膣に彼の一物を刺し込み、激しく動き始めた。  
無論、避妊具をつけずに。  
グレイは突然の出来事にただ唖然とし、なす術もなく体を彼女に委ねていた。  
彼女の動きはかなり激しく、普段はポーカーフェイスなグレイの顔も、多少歪んでいる。  
グレイが必死になりながら、ようやく言葉を発した。  
「ク…、クローディア…、一体…どうした…?」  
しかし、クローディアはその問いにまったく答えず、彼の名を何度も呼びながら腰を激しく動かす。  
「グレイ…、グレイ…、グレッ…ぅぐあぁぁっ!!」  
不意にクローディアの膣が彼の一物を激しく締め上げる。  
それに反応して、グレイの顔がさらに歪んだ。  
「クローディア…、このままの勢いだと長く持たんぞ…  
早く退くんだ…!」  
グレイが多少声を荒げて警告する。  
それに対してクローディアがようやく反応を見せた。  
しかし、それはグレイが予想していたものとは真逆だった。  
「イヤ…、はなれ…たくない…、イヤ…、イヤ…」  
普段の彼女ならば、この問いかけてすぐに我に戻り、事の重大さを理解して退くと思っていたが、  
彼女は退くどころか、それを拒んだのだった。  
そして、何度も離れる事を拒絶する言葉を呟く彼女の目には、いつしか涙が浮かんでいた。  
それを見てグレイは何かを悟ったか、彼女の名を言おうとしたが…  
「クローディ…、うぐっ!!」  
彼女の名を全部言い終わる前に、彼は彼女の中で果てた。  
クローディアの子宮に、彼女の念願であった愛する者の子種が注がれていった。  
子種が注がれていく感触によって、彼女も彼と体を重ね合わせた中でも、一番激しく果てた。  
「っああぁぁ……!!!!」  
大きく体を弓なりに沿らせた彼女は、悲鳴にも似た大きな甘い声を出した。  
しばらくして彼女の体が、グレイの体に覆い被さった。  
彼女の息は激しく乱れるも、その手はしっかりと彼の腕をつかんでいた。  
 
「クローディア…、どうして退くのを嫌がった…」  
震えているも、多少落ち着いてきた彼女に対して、グレイが理由を聞いてきた。  
理由は彼にも想像がついていたが、それが何であれ、孕む危険性が高いのに中に子種を出したのは事実。  
クローディアとグレイは大変な過ちを犯してしまったのだった。  
しばらく沈黙が続いた後、クローディアがようやく話した。  
「…、怖かった…  
このまま、何も残さずにあなたと別れるのが…、怖かった…」  
震えながらも彼女の手がさらに強くグレイの腕を握る。  
「私は…、確かに皇女として運命と、宿命と向き合って生きていきたいと思ってる…  
でも、それと同時に、あなただけの女であり続けたいとも思ってた…!  
だけど、どっちもなんてことは、絶対に許されないから…  
だから…、だから…」  
またしばらくクローディアから言葉が出てこなくなった。  
 
しかし、グレイは彼女の中に、断固たる『覚悟』があったことを感じていた。  
どんなに周りに反対されようが、2人が愛し合った証を、  
丁度、グレイが約束に則りクローディアを護り通したように、それを護り通していくという『覚悟』…  
その『覚悟』を感じた瞬間、グレイは今まで自分の中にあった、  
彼女を孕ませることによって、自分達と自分達の子供に降ってくるであろう災厄に対する『恐怖』と…、  
絶対自由を心情にして、後悔せずに自分の好きなようにやってきていた彼ですら感じ、  
その存在を否定するためにも、今まで向き合おうとしていなかった『恐怖』と、  
初めて真正面から向き合ったのだった。  
そして、彼女の『覚悟』に背を押されながら、グレイはその『恐怖』を自身に屈服させたのだった。  
「だから…、私達が愛し合ったという、その証だけは…  
それだけは…、残してほし…」  
クローディアが、沈黙を破って再び語り始めたが、  
それをすぐにグレイは、彼女の手を振るきりながら抱きしめることによって中断させた。  
そして、腕の中にいる、突然の抱擁に驚いている彼女に対して囁いた。  
「お前は、俺の女だ…  
いや、俺だけの女だ…  
帝国やら貴族やら、とにかく誰にも文句は言わせない…  
お前が望むなら、徹底的に孕ませてやる…  
お前を全部、俺で染め上げてやる…  
お前を…」  
彼女を抱くグレイの腕に力が入る。  
クローディアは相変わらず震えながらも、彼の腕を再びつかんだ。  
こうして、グレイもクローディアと同じように『覚悟』を決めたのだった。  
 
互いに『覚悟』を決めてからというものの、グレイもクローディアも、互いに自重しなかった。  
グレイはクローディアを孕ませる為、クローディアもグレイに孕まされる為、  
グレイはクローディアを汚す為、クローディアもグレイに汚される為、  
グレイはクローディアに証を残す為、クローディアもグレイに証を残してもらう為、  
互いを激しく貪りあい、汚し合い、愛し合った。  
これをもう、7、8回ぐらい繰り返した。  
彼女の子宮はすでに、彼の子種で真っ白に染め上げられていた。  
すでに、クローディアがグレイの子供を身篭らない方がおかしい程であった。  
しかし、それでも互いに満足していなかった。  
これだけでは、証はまだできない…  
まだ孕み足りない…、まだ汚し足りない…、まだ愛し足りない…  
もっと、もっと、互いを欲さなければ…  
 
2人は丁度互いに背を起こし、座りながらしがみつき合う体勢で動き合っていた。  
クローディアの口からは、普段の彼女からは想像できないような、過激な甘い声が出ていた。  
グレイも、普段感情を見せない彼とは別人のように、息を荒げながらも激しく彼女を突きたてる。  
その姿はまるで、2匹の獣が奇妙な体位でありながらも、本能のままに交尾をしているようであった。  
だが、2人の間には『愛し合った証を残したい』という、断固たる意思があった。  
「グレイ…、グレイ…、グレイ…!!」  
「クローディア…、クローディア…、クローディア…!!」  
互いにしがみつき合いながら名を呼び合う。  
「グレイ…、好き…、す…んぐあぁぁ!!」  
クローディアが、初めて愛する者に『好きだ』と言った。  
「クローディア…、俺も…、同じだ…!!」  
彼女が愛する者も、『好きだ』と彼女に返す。  
互いにカミングアウトしたところで、互いの動きが最も激しくなる。  
互いに強く抱きしめ合い、何度も唇を寄せ合う。  
サルーインや帝国、皇女など関係ない、この瞬間が、永遠に続いて欲しいと想い合った。  
2人がずっと、1つのままでい続けたいと想い合った。  
 
しばらくして、2人ともわずかな時間差もなく、同時に激しく果てた。  
真っ白に染め上げられたクローディアの子宮に、グレイの子種がさらに入ってくる。  
互いに強く抱きしめ合う間も、ずっと子種が子宮へと注がれていく。  
1分、いや2分ぐらい経ってもまだ収まらないようだった。  
ようやく種付けが終わったと思っても、2人はそのまま離れようとしなかった。  
 
「グレイ…、このまま…ずっと…つながってて…」  
「分かっている…、クローディア…  
俺も…、お前とこのままでい続けたい…」  
 
「…、グレイ…」  
「…、何だ…?」  
長かった情事をようやく終えた2人は、ベッドの上で横になっていた。  
だが、それでもまだ2人はつながったままだった。  
「ごめんなさい…、私の無茶苦茶な我侭を聞いてくれて…」  
『覚悟』を決めていたクローディアも、グレイを巻き込んでしまったことに対し、多少後悔していた。  
「かまわんさ…、俺も、お前を俺だけの女にしたかった…  
お前に、俺の子供を孕ませたかった…  
それに、お前は『恐怖』を乗り越え、『覚悟』を決めていた。  
そんなお前を見ていたら、俺も自然と『恐怖』を乗り越えられた…」  
グレイは、一片も悔いはないというように返したが、グレイはそのまま不安そうに続ける。  
「だが、やはり俺は、お前に酷い事をした事には変わりはないだろうな。  
帝国の皇女を孕ませておいて、自分は関係ないといった感じで、気ままに放浪、という風にな…  
やはり、俺は…」  
クローディアを強く抱きしめながら、グレイは屈服させたはずの『恐怖』の片鱗に不安を感じていた。  
どんなに自身に対する災厄の『恐怖』を屈服させても、愛する者と、その者との子供に襲い掛かる災厄、  
これだけは、自身で彼女達を護らなければ『恐怖』を屈服できない。  
だが、そのとき自分は、彼女達とは遠く離れた場所にいるだろう。  
自分はただ、遠くから災厄に襲われる彼女達を見ているしかできない。  
愛する者達を護ることができないという無力さが、彼の『恐怖』を呼び醒まそうとしていた。  
 
「大丈夫だから…」  
不意に、クローディアが声を震わせながら小さい声で囁いた。  
「大丈夫だから…  
赤ちゃん…、私がちゃんと…育てるから…  
私のように…、悲しくて辛い運命を…この子に負わせはしないから…」  
彼女は涙を目に溢れさせながら、グレイに自分の『覚悟』を語る。  
「それに…、あなたの心情は絶対自由…  
他人である私の…、帝国の皇女だという宿命に…縛られるなんて…、あなたには…似合わ…ないわ…」  
彼女の涙が、グレイの胸に零れ落ちる。  
最後の方はしゃっくりが混じりながらも、クローディアはグレイを安心させようとした。  
「クローディア…」  
彼女の『覚悟』を見て、再びグレイは『恐怖』を吹き飛ばし、『覚悟』を決めた。  
「…、お前との約束を、これで終わらすつもりはない。  
お前が望めば、すぐにお前を護る為に駆けつける。  
だから…、安心しろ…」  
「…、グ…レイ…」  
クローディアはそのまま、大声で泣き始めた。  
 
『明けない夜はない』と言われる通り、  
2人にとって、ずっと続いて欲しかった夜は終わりを告げ、最後の戦いへ向かう日の朝を迎えた。  
グレイは鬼神刀の手入れをしっかりとしてから、鞘へ収めて自身の腰にさげる。  
クローディアも、エリスが使っていたとされる弓を装備し、矢立に矢を入れて背負う。  
「クローディア。」  
グレイは自身が愛する者の名を呼ぶ。  
「俺は俺の為に、俺自身を守る為に、神殺しを行う。」  
グレイの愛する者はうなずく。  
「グレイ。」  
クローディアも自身が愛する者の名を呼ぶ。  
「私は、自分の運命に負けない為に、その運命を押し付けてくる者を倒す。」  
クローディアの愛する者はうなずく。  
 
「今、この時が、俺達の道の分岐点だ。  
道は確かに分かれるが、この先にも俺達の道は続いている。  
その道を歩き続ける為にも、生きて奴を倒すぞ。」  
「えぇ。  
そして、その道の上に何があろうと、私達は後悔しない。  
それぞれ前を向いて、歩き続けていきましょう。」  
2人は『覚悟』を決めた。  
「その道を歩む中で、例え俺達を知らぬ間に夜の闇が包んでも、例え俺達が恐怖で言葉を失っても、  
互いに歩んで来たこの道を振り返り、互いを思い出し、  
闇に包まれたときは、それを光にすればいい。  
恐怖に襲われたときは、それを安らぎにすればいい。」  
「お互いに、今までの道での出来事や教訓、思い出が、私達のこれからの道を歩む為に、  
私達の心に注がれていくことを願いましょう。」  
互いの『覚悟』に、2人は静かにうなずく。  
 
2人は決戦の地へと歩みだした。  
その歩みは速度を落とすことなく、一歩一歩、邪神が眠るイスマスへと進んでいく。  
彼らには、邪神の力の糧となる憎悪と恐怖はまったくなかった。  
彼らの中にはただ、断固たる『覚悟』だけがそれぞれにあった。  
 
 
 
-了-  
 

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