カタリナの手から弾き飛ばされた長剣がカランと音をたて街道へと落下した。
「さんざん、てこずらせやがって…おい、ポール!無事か!?」
カタリナは自分を取り囲む野盗たちの視線に死を覚悟していた。
死ぬことは怖くないわけではない。ただそれ以上にマスカレイド……奪われたロアーヌの秘宝のことを思うと、
何とも無念でならなかった。
(ミカエル様…与えられた使命一つ果たせない私をお許し下さい……)
カタリナは自らの君主、そして…最愛の人であるミカエルに詫びていた。
しかし、肩で息をしたまま今にも倒れそうなカタリナを囲んだまま野盗たちはその場を動こうとしなかった。
「へへへ、この女…どっかで見たことあるんだよなぁ」
野盗の一人はそういうと三日月刀をチラつかせたまま、カタリナの顔を覗き込んできた。
悪寒が走り、カタリナは後ずさった。
「やっぱりな!!……こいつ、カタリナだ!ロアーヌの貴族様だぜ!!へへ、髪を短くしてるから誰かわからなかったが、
こいつは間違いねえ」
カタリナの顔を覗きこんだ男が不意に大声を張り上げた。
「ほ、本当だ!?あのべっぴん貴族のカタリナじゃねーか!俺もロアーヌの城下で何度も見たことがあるぜ!!」
「まさか貴族の女とやれるなんて、こいつは楽しいことになってきたぜ、へへへへへ……」
まるで自分を品定めしているかのような野盗たちの口ぶりにカタリナは身震いした。
先ほどまでの荒々しい殺気が込められた視線に代って、欲望に満ちた好奇の視線がカタリナに突き刺さる。
「あ、あなたたち何言ってるの!……変なことしたら承知しないわよっ……」
戦士としてのプライドが助けの叫びをあげる代わりに、怒りに満ちた表情で野盗たちを睨み付けさせていた。
男たちが何を目的としているかは疑うの余地もない。そのことがカタリナの視線をどこか弱々しいものにさせていた。
調子付いた野盗の一人が切り出した。
「さっきは、あんたのせいで、俺たちはもうちょっとのところで殺されるところだったんだぜ?
かといってべっぴん貴族様にそのお返しにきた、といえば話がケチになる。
熟れごろのオンナを一人、ある場所にご案内して、ご無聊を慰めようと思ってるんだ。楽しみにして欲しいな」
服の合間から覗く抜けるような白い地肌をねっとりとした視線が這いずるのを感じ、カタリナは美貌を引きつらせ、
気づいたときには駆け出していた。
だがすぐに後ろから抱きすくめられた。腕力のある若い男の体臭が匂った。
「いやぁッ!は、放してッ!なんてことするのよッ!!」
思わず悲鳴をあげ、カタリナは暴れた。そのまま草むらに押し倒されそうになることだけは防いだ。
それだけ、揉み合っていたことになる。他の野盗たちは、それを楽しむように見ていた。
カタリナにとっては悪夢のような時間であった。しかし、これは夢ではない。
その証拠に、男の掌がうしろから、しっかりカタリナの乳房を握り締めていて、その掌や指の感触は、まぎれもなく現実のものだった。
助けを求めようにも、ランスからファルスへ続く街道には人っ子一人いない状況であった。
頭から布切れをかぶせられ、顔を包み込まれた。得体の知れない薬品の匂いがカタリナの鼻腔を刺激し、目眩を覚えた。
目の前が暗くなり、揺れるように暗い霧の奥に身体がすうっと、吸い込まれていくような気分が訪れた。
「たまんねえな、この女。アジトに帰ったら売り飛ばす前にたっぷり可愛がってやるぜ」
「時間はたっぷりあるんだ。今回は新入りの歓迎を兼ねて派手に輪姦パーティーと洒落込もうじゃねえか……」
そんな言葉が、切れ切れに聞こえたが、カタリナが覚えているのはそこまでだった。
カタリナの意識を、暗い霧が殴りつけるように覆いつくし、時間が流れた。
それは随分長い時間だったような気もするし、ごく短い時間だったようにも思われる。
「ポール。皮切りだぜ、上手くやってるか?」
男のそんな声が聞こえてきた。カタリナは、まだ朦朧としていた。
「やってますよ。いい身体です。凄ッげえ」
耳のすぐそばで聞こえた若者の声に、カタリナははっとして身じろぎした。
その拍子に自分の身体が衣服をむしられて素っ裸であることに気づいた。
剥きだしの岩壁が見える薄暗い部屋のベッドの上に、寝かされていることがわかった。
「キャーーーッ!!」
カタリナは悲鳴を上げた。
「あなたたち、なんてことを!」
「そう、カタリナさん、もっと大きな悲鳴をあげるといい」
耳元で若者が小さな声で囁いた。
囁くと同時に乳房をぐいっと掴まれたので、カタリナは二度目にもっと大きな悲鳴をあげることになった。
若者以外の声はどうやらカーテンの仕切り一枚隣から聞こえてくるようだ。
そこからカードゲームに勤しむ掛け声とジョッキがテーブルに打ちつけられる音が聞こえてくる。
どうやらここは昔の鉱山跡、または近隣の村の食料保存用にくり貫かれた天然の貯蔵庫を利用して作り上げた
野盗のアジトの一室だろう。
カタリナの脳裏にとっさにそんな分別が漠然と甦ったが、今はそんな客観情勢の整合性を求めるどころではない。
何しろ押し倒されていた。裸だった。裸の男に後ろから抱きしめられている。
乳房をわしづかみにされ、首筋にキスを送られていた。
あまりの出来事に何をどうしていいのかわからない。わかっているのはこのままでは
野盗たちを楽しませることになってしまう、ということだけである。
(卑怯よ……この卑劣漢ども!!)
激しい羞恥心と怒りから、カタリナは今、逆上感にかられて、頭の中が真っ白い荒野のような情況であった。
でも、何か変だ。
この若者。おずおずしている。
首筋を這う舌も、どこか遠慮がちであった。カタリナをしっかり抱きしめているが、
荒々しく跨って犯すという獰猛さはどこにもないのだった。
それでもカタリナは、
「いやッ!やめてッ!やめなさいッ、なんてことするの!!」
激しく暴れ、逃げようと身体を捻った。捻ったはずみに若者の顔が見えた。
後ろから自分を抱きすくめている若者は、二十代前半くらいでくすんだ髪にどこか優しそうな顔つきをしていた。
さっき野盗たちが新入り……確かポールと呼ばれていた若者であることを思い出していた。
そのポールの唇が押し重なってきた。若者の欲望の硬くて熱い膨らみがカタリナの太腿を圧迫した。
カタリナは必死にもがいたが相手はびくともしなかった。
「やめて……!これ以上、ヘンなことしたら、舌を噛み切って死んでやるから」
(理不尽すぎるわ……いったい、これは……!?)
カタリナの頭の中は熱い溶岩が焼け爛れて流れ出すような状態になっていた。
怒りと絶望と、屈辱が極限まで煮詰まって、物を考えたり判断したりするような能力は焼け爛れてしまっていた。
「やめてったら、放してっ!」
カタリナが暴れた瞬間、若者は抱きすくめていた腕を緩め、するりとカタリナの上に覆いかぶさるような体勢をとっていた。
そのまま若者は美女の丸出しの股間をずるりとなぞりあげた。
「くはぁぁッ!!」
突然の奇襲に大きく息を吐き出すカタリナ。ピンと伸ばしてしまった二つの脚を押し広げるようにして、若者が覆いかぶさってきた。
カタリナは悲鳴をあげてもがいた。若者のみなぎった性器が触れた。カタリナは思わず身体を左右に打ち振って逃げようとした。
若者の右手に薄汚れたシーツの下から取り出したナイフが握られていた。改めてカタリナの中に激しい憤りと絶望がやってきた。
凶器で脅して女を犯すなど男として最低の行為だ。
「カタリナさん、早く、こいつを隠して」
若者は小さな声で妙なことを言い、カタリナの手にナイフを握らせようとしたのだった。
「俺はあなたを犯したくはない。でも命令されている。犯すふりだけでもしないといけない。
今に他の男たちがこの部屋に来るだろうから、これ、俺のポケットから盗んだことにしてベッドの下に隠しておくんだ」
カタリナははっとして目をみはった。
(どういうこと?この人……?)
唇と唇が触れそうな位置にいる若者の顔を見つめてしまっていた。
若者が小声で続けている。
「カタリナ……さん。野盗たちはあなたを十分に調教してから人買いに売り飛ばすつもりだ。
俺は…女の子が売られていくのは見ていられないんだ。あなたがもし自力で逃げ出そうと思っているならそれは諦めたほうがいい。
2、3日もすればあなたがどれだけ意思の強い女性であっても二度と普通の世界に戻れないような
身体にされてしまうのはわかりきっている。ここは俺に任せて、とにかく犯されたふりをしてくれ」
カタリナは激しい疑問に見舞われた。この若者は野盗の中でどういう位置にいるのだろう。どうして自分を助けてくれようとするのか。
「あなたは一体何者?ただの野盗なの?どうしてこんなことするの?」
「しッ、声を出さないで。今はそれを説明している暇はない」
隣室では相変わらず下品な笑いが耐えなかったが、聞き耳を立てられている感じもしていた。
「どうした?ばかに静かじゃねーか。女貴族様はイッちまったのかよ?」
「イッたら合図をくれよ。後がつかえてるんだからな」
野盗たちの下卑た声にカタリナは耳を塞ぎたくなった。
「まだです。こいつの身体…アメみたいに柔らかくて。いいところですから、まだ来ないで下さい」
野盗たちに返事を返すと、真っ赤になって恥ずかしげに身を震わせるカタリナにポールはつづけて囁いた。
「聞いてくれ、向こうの部屋の三人が入ってきたら、俺の手を噛むんだ。
思いっきり噛んでくれたら俺が騒動を起こすから、その隙に服を取ってこの部屋から逃げ出すんだ。
表に出ればすぐ森だからすぐには見つからないはずだ。ファルス砦の明かりが見えるはずだから、
どこかで着替えてファルスの宿屋で落ち合おう」
ますますわからない。野盗の中で内輪揉めでもあるのだろうか。
それともこの若者は純粋に自分を助けてくれようとしているのだろうか。
いずれにしろ、この若者は自分を犯さない!
そう気づいてカタリナはほっとしていた。
ほっとすると同時にカタリナにはもう一つ、もっと生々しい、危機的な情況が訪れていることを認めざるを得なかった。
それはこの切羽詰った性的な環境である。犯す犯さないの問題ではない。
なにしろ猛々しい若者の裸体と身体を密着させているのである。
揉み合ううち、みなぎったモノが今もなお太腿や腰や秘部に触れてくるのだった。
死の恐怖が払拭され、しかも相手がさほど嫌悪感を催す相手ではないとわかったときカタリナを取り巻く情況は一変していた。
香しい男の汗の匂い。組み伏せられ、揉みあい、肉体への絶え間ない愛撫が続いている極限の情況である。
二人とも裸である。紙一重で挿入されそうになっている。
こんなときに大人の女、それも常日頃、肉体的欲求が満たされていない女がとても正常な気分でいられるものではなかった。
カタリナの気持ちはまた妖しくなりだしていた。
理性がよろけ、また立ち直り、またよろけたりしながら、
「お、お願い。……このまま、逃がして」
熱い吐息とともにかろうじて懇願する。
「追っ手がかからないように向こうの部屋の連中を倒す必要がある。それまで我慢してくれ」
そういうと若者は口封じをするかのようにいきなり柔らかい唇を奪った。カタリナは目を閉じてまったく抵抗しなかった……。
ポールは口を開けさせ、美女の甘やかな舌を吸い上げ、ねとねと絡ませる。
絡み合った舌を通して唾液が流し込まれたがカタリナはそれを拒否することなく飲み込んでいた。
仕切り一枚挟んだ隣の部屋から物音がする以外ほぼ静寂に等しい部屋の中で若い二人の男女のキスの音だけがこだましている。
だがポールは安心しきっているカタリナを見て少し不安になっていた。彼女の悲鳴が聞こえたほうが隣室は油断するはずだ。
「あうんッ!」
甘美なキスから振れ戻され、さらには思わず恥ずかしい声をあげてしまいカタリナはまた赤面する。
ポールがいきなり乳房をわしづかみにしたのだ。ゆっくりと揉みしだき始める。
「やめて、そんな……いやらしい」
「いやらしいのはアンタの身体だよ。こんな綺麗な顔してるのに、こんな大きな胸なんだからな!」
ポールは隣の部屋に聞こえるようにわざと大きな声でいった。
「ひどいわっ……ああ、もうやめてッ!」
屈辱のあまり身をよじるカタリナ。彼女はちゃんと芝居をしているのだろうか、それとも本気なのだろうか。
その疑問も押さえ込んだ柔肌の感触に上書きされるように消えていく。
熱くなった若者は両手を使って美女の乳房を揉みたて、震わせ、執拗に愛撫を繰りかえし始めた。
カタリナは顔を真っ赤にしたままいやいやするように若者の手から逃れようとしている。
「ああ、いや……だめよ。そんなに胸ばっかり揉まないで……」
「ほら、これでどうだ」
ポールはいきなり乳首を両方の指でくっと摘みあげた。
「はぅン!」
カタリナの肉体がビクッと反る。敏感すぎる桜色の先端に触れられるたびに、カタリナの全身がビクッと跳ね上がる。
美貌の女貴族の全身は徐々に汗ばみはじめ、早くも髪の毛が何本か額に張り付いている。
「ああ!どうして、私がこんなことされなきゃいけないのッ!」
身もだえしながら叫ぶカタリナに隣の部屋から野次が飛ばされる。
「ポールてめえ、中々上手いことやってるじゃねえか!」
「故郷に女残してきてるからそうとう溜まってたんだろうよ」
「それよりも女の感度が良すぎるんじゃねーか、ハハハハハ」
一方でポールも自分の理性を抑えるのに必死になっていた。芝居とはいえ滅多にお目にかかれないような美女、
それも貴族の女が全裸になって自分に組み敷かれているのだ。しかも彼女がここから逃げ出すには
ポールの言うことを黙って聞くしかないのだ……。
「くそ、何て柔らかいんだ…手が…手が埋まっていくみたいだ」
「やめて、お願い…」
手荒く、それでもカタリナを気遣うように力は込めずに乳房を揉みくたにする若者。
真っ白な乳房には手指の跡がつきはじめ、感じやすい乳房を思うまま玩弄されて上気したカタリナの息も上がってきていた。
ギンギンになった若者のイチモツと美貌の貴族の秘部は何度も擦れあい、溢れた蜜汁が
男臭い臭気の染み付いたシーツに染みをつくっていく。
(これは……芝居……あいつらを……だますための……芝居なんだッ……)
次第に欲望に飲み込まれていくポールの理性。カタリナはベッドの上で無防備にも両脚を大きく開いている。
丸出しの下半身へと目をやると、自分のものは女の秘部から溢れたもので光っている。
(少しだけだ…少しだけ……)
おそるおそる伸ばした若者の指が、既に濡れきったカタリナの秘部へと触れる。
「んあっ!くぅぅッ!」
何の抵抗もなく若者の中指がカタリナの熱く濡れた部分へ入り込む。
もう一方の手は固くなった、包皮に包まれたクリトリスをまさぐっていた。
「アンタの中、すごく熱いぜ」
若者は大声で言った。だがその目的はもはや隣室へ聞かせるためではなく、カタリナの反応を確かめるためへと変質していた。
「ううっ……ど、どうしてぇッ!!」
カタリナは汗をだらだら流しながら、真っ赤な顔で必死に快感に耐える。
若者から放たれる性の衝動に動揺するカタリナだったが、その心と関係なく秘裂の中は熱くうごめき、
内壁が膨らみ、若者の指を引き込むように蠕動してぐいぐい締め付ける。
「ふああっ!!ゆ、ゆるしてっ!う、う、うぅぅっ!」
真っ赤に上気した美貌が仰け反り、腰が痙攣する。若者の指はもう止まる様子を見せない。
指が下半身から出入りするたび、カタリナの喘ぎ声が大きくなっていく。とろけきった内壁が
指を飲み込みにちゃにちゃと淫猥な音を立てる。クリトリスは剥きだされ、親指で揉み潰される。
24歳の陰唇はぬらついて開き、若者の指に操られる様子をみせる。シーツの上でカタリナの腰がグラインドしはじめた。
「アア……もうダメ……」
カタリナの頭は混乱し、朦朧として今この時だけの快楽に溺れていった。
「静かに!」
ポールは指責めを中断し、カタリナを見つめた。どうやら隣で行われていたカードゲームが終わったようだ。
しかしカタリナは激しい責めのせいで意識の混濁しているような情況におかれていた。
「ポールのやつ、やけに長いな」
「そろそろ見に行くか」
男たちの立ち上がる音が響いた。
ポールはカタリナの上に覆いかぶさり、耳元で囁いた。
「今にあいつらが来る。カタリナ……俺のあそこを……触るんだ」
ポールはカタリナに敬称をつけることもお願いすることもせず、瞬間、男として命じていた。
そしてカタリナはそのことに何の違和感も無しに従っていた……。
勇気をだして、若者の下半身にそっと手を伸ばす。逞しく反り返っているその部分が、カタリナの指に触れた。
カタリナは極限まで充実したそれを、優しく指で包み込んだ。
どくどくと脈打っている。猛々しい気配を秘めていた。
カタリナは若者の隆起したものを握り締めているうちに、今まで一度も感じたことのない、不思議な性質の興奮を覚えていた。
愛とか信頼とか、その充実とかではない。明らかに異質な情況でのまるで見知らぬもの同士。
伝わるのだ。カタリナが少し指先に意志を送れば若者がうめく。
ぴくぴく震えている感触が生々しくカタリナの指先に伝わってくる。熱かった。そこから若者の熱気が脈うってくる。
その熱気が高まって初めて出会った、息苦しいほどの興奮を覚えた。
カタリナは掌で包み込むようにして、心を込めて握り締めリズミカルに指を操った。
ポールの口から小さな叫びが洩れた。
「危ない……」
「どう……したの?」
「出す……あんたを汚してしまう」
「いいわ。放って……」
「放つのは中だ……」
「えっ……!?」
「中で出す……あんたの膣の中に俺の精を放つ」
「ダメだと言っても?」
「指を離すんだ、カタリナ……」
「ゆ、ゆるして…ああ……」
指を離すとどうなるかくらいはわかっていたはずだった。しかしカタリナはポールのものから指を離さずにはいられなかった……。
ポールのみなぎったものは仰角だった。指を添えずとも茂みの下に直進してくる。
蜜汁溢れる秘唇を逞しいものが貫いていく。
「あぅッ……ン!ううっ」
カタリナは声を抑えて仰け反った。
頭の中を白い閃光がはじけた。エクスタシーではないがそれに近いものだった。
短くて、鋭くて、全てを焼き尽くすような……。
ポールの口から声にならない小さな叫びが洩れた。どどどっと、小さな生命の奔流が白い炎となって
噴出した感じがカタリナの体奥から響いてきた。
ああッとカタリナは声をあげていた。
愛してもいない男に暴力で犯されながらも、身体は一種の快感の声をあげていた。
そのまま攻め立てられ続ければ、もっともっと歓びの頂上にのぼりつめそうな気がした。
しかし攻撃はまだはじまったばかりであり、荒々しく途中で中断したので、その妖しい官能の揺らめきが
何度も揺らめいては立ち上り、また揺らめいては立ち上り、ふっと消えていく虹のようなものとして終息を迎え、
結果としてカタリナは助かったというべきである。
ポールはカタリナの身体の上でぐったりしていた。
そこへドアを開いて足音が響いた。
「昇天か。声ぐらいあげて合図しろよ」
(今だ。手に噛み付いて)
耳元で囁きが聞こえた。
(ナイフを忘れずに)
「おい、次の番だぞ。いつまでへばりついてるんだ。そろそろ離れて俺にまわせ」
カタリナは呼吸を止めて数を数えた。叫ぶべき第一声が思い浮かんだ。
「離してッ!この変態!」
叫ぶなりカタリナはポールの手に噛み付いた。ポールはギャアッと叫び、仰け反った。
その隙にカタリナはシーツの下のナイフを掴みポールを突き飛ばして、ベッドから飛び降りていた。
カタリナを犯すため武装を解いていた野盗たちはカタリナの手に握られたものを見て、部屋の隅まで後ずさっていた。
カタリナはその隙にシーツを身体に巻きつけ、脱ぎ捨てられていた衣服と靴をつかんで部屋から飛び出していた。
部屋を飛び出してからも野盗に出会ったが、相手が呆気に取られている間にカタリナはアジトを抜け出していた。
カタリナは外に出た途端、くらくらっと目眩がして、足が萎えそうになったが、後一歩の勇気を奮い起こし、
ポールが教えてくれた通り森の中へと駆け込んでいた……。
そこからファルスの砦はさほど遠くないようだった。砦の近くまで来て、追っ手が来ないことを確かめると
カタリナはほっとし、その場にしゃがみこもうとした。
その瞬間彼女の秘裂からドロリと熱い何かが流れ出し、カタリナは思わず口に手をあて悲鳴をあげるのを必死でこらえていた。
洞窟でのあの異様な性行為がカタリナの脳裏に甦ってくる。
どうしてあの情況で性行為に耽っていたのか今となっては理解できない。
ただ、これからファルスの宿屋であのポールという若者ともう一度会うのだ。
私を逃がしてくれた恩人、そして私を快感の渦に巻き込み、精を注ぎ込んだ男。
カタリナは底知れない不安と期待を抱きながらファルスへと足を向けていた……。