リースがアリスの部屋を訪ねたのはイスカンダールの葬儀から1週間ほど経った頃だった。  
あれから、アリスの姿をほとんど見かけなくなった事をリースは気にしていた。  
アリスがイスカンダールに想いを寄せていたのは知っていた。  
だがイスカンダールは別の女性を愛した。  
それでもイスカンダールの側に仕える彼女は気丈に振るまい、完璧にイスカンダールをサポートした。  
そんな彼女をリースは感心して見ていた。  
・・・だから、彼女は大丈夫だと勝手に思い込んでいたのかも知れない。  
ここまで彼女を追い込むとは思わなかった、それは事実だ。  
リースはアリスに対して申し訳ない気分で、彼女には真実を話すべきだったのかも知れないと考えていた。  
だが、しかし・・・  
 
「アリス?いるのか?」  
部屋は暗く、無人のようだった。しかし、微かな気配に目をやると、彼女は月灯りの差し込む窓辺に顔を伏せて座り込んでいた。  
「・・・アリス」  
リースはアリスの正面に腰を降ろして声をかける。  
しばらくの後、アリスが顔を上げる。  
思ったほど衰弱してるわけではなかったが、ほとんど食事をしているようには見えなかった。  
かける言葉が見つからず、何から切り出そうかと迷っているうちにアリスがぽつりと呟くように喋り出した。  
「私、イスカンダール様と色々な所へ行きました。  
 征服事業や遺物の研究のためだったけど、それでも私を側に置いてくれて、一緒に連れて行ってくれることがとても嬉しくて。  
 イスカンダール様、どうして今度の旅に私を連れて行ってくれなかったのかな・・・」  
ずっと堪えていたのだろう、涙が溢れ出し、いつまでも止まらなかった。  
リースはただ彼女を見守る事しかできなかった。  
声を上げて泣き続けるアリスをただそっと抱き締めていた。  
「リ−ス様。私、どうしたら良いのでしょうか・・・?」  
 
結局リースには何もできなかった。  
いくつかの言葉を残し、それがあまりに無意味だと思いながら・・・リースはアリスの部屋を後にした。  
空には赤と青、二つの月が浮かんでいた。  
・  
・  
・  
その後もアリスはひとりで窓辺に座り込んでいた。  
何もする気が起きず、目を閉じて・・・できるのは涙を堪えることだけだった。  
『このままここでじっとしていたら、いつか側に行けるのかな』、そんな事を考え始めていた。  
そして自分が寝ているのか起きているのか分からなくなった頃・・・声が聞こえた。  
 
「・・・アリス。アリス・アンブローシア」  
 
聞き慣れた声、耳に馴染んだ声。  
そう、あの時もそうやって自分を眠りから覚ましてくれた・・・  
アリスは振り返る。  
そこに、一番会いたい人が立っていた。  
「・・・・・イスカンダール様・・・・・!」  
これは夢なんだろうか。幻なんだろうか。  
アリスにとってはどうでも良かった。  
ただ、会えたことが嬉しかった。  
アリスはイスカンダールにしがみつくように抱きついた。こんな大胆な行動は今まで一度もない。しかしアリスはそれを考える余裕もなかった。  
イスカンダールは苦笑してアリスを見下ろした。  
いくら言ってもアリスはイスカンダールにしがみついたまま腕を離そうとはしない。  
手を離したら、きっとイスカンダールは行ってしまう、遠い処へ。  
それなら・・・  
「イスカンダール様・・・一度だけ、一度だけで良いのです」  
私を・・・  
自分が選ばれなかったのは分かっている、それでも・・・  
イスカンダールに強く肩を掴まれて、思わずアリスは腕を緩める。  
少し体が離れ、代わりに顔が近付く。  
アリスが目を閉じた瞬間、唇に柔らかいものが押し当てられた。  
 
何も、言葉はなかった。  
何を言っても無意味だとお互いに分かっていたからだろうか。  
赤と青の月の光が暗い室内に不思議な色の影を作り出し、その中に荒い呼吸と嬌声が小さく響く。  
「・・・ッん・・・あっ・・・」  
露になった胸を両手で揉まれ、固く尖った左の先端を口に含まれると高い声を上げた。  
「ッ・・・あっあっ・・・」  
舌で敏感な部分を弄られてアリスは身体をくねらせる。  
手の動きは優しく、そのまま痺れるような感覚が身体の中心へと伝わっていく。  
「ん・・・」  
もう片方の乳首をややきつく摘まれて、しかし痛みよりも先に快楽と興奮に火が付き、弾かれたように大きく背を反らす。  
イスカンダールは片手をアリスの体に沿って滑らせ、下着の上から足の間に触れた。  
一瞬アリスは体を固くしたが、足を自分の意志で開く。  
「どうぞ・・・イスカンダール様」  
消え入るような声、そしてアリスは目を閉じた。  
イスカンダールがわずかに指先を動かすと、ピクンとアリスが反応を返した。  
「あっ・・・」  
しばらく下着の上からそこを刺激する。  
裂け目にそって上下に指を動かし、だんだん尖ってくる部分を摘むように責める。  
やがて下着が透けるほどに濡れてくると、そっとその間から指を差し込んだ。  
「・・ッ!」  
何度か指を出し入れし、中をかき回すと、十分に湿ったそこはぴちゃぴちゃと音を立てた。  
一際大きく反応を返す部分を引っ掻くように執拗に責め立てると、アリスは足先までぴんと突っ張ってその感覚に身を震わせた。  
「あっ・・・あんッ・・・・ッふうぅ・・・・ん・・・」  
イスカンダールはそっとアリスの下着をずり降ろすと両手をその膝にかけ、大きく開かせる。  
そこは赤く腫れ、溢れる液体で艶かしい色を見せていた。  
恥ずかしさに顔を赤く染めるアリスだったが、それよりも期待と、大好きな人を受け入れるという喜びに満たされていた。  
 
コクン、と小さく頷いたのを合図に、イスカンダールが入り込んできた。  
「う・・・・んんッ・・・・」  
衝撃と痛みにアリスは顔を歪めた。  
ゆっくりと自分の中に埋め込まれていくものに半ば恐怖も感じたが、ただ懸命にイスカンダールを受け入れようと必死に身体を開く。  
入っては引き、慣らすように押し広げていき、ようやく二人の身体がぴったりと重なると、しばらくそのままでじっとしていた。  
イスカンダールはアリスの長い黒髪を撫で、金のピアスを軽く弾いた。  
「イスカンダール様・・・」  
アリスはイスカンダールの首に両腕を回して強くしがみついた。  
それに応えるようにイスカンダールもアリスの腰に手を添え、ぐっと引き寄せる。  
やがてゆっくりとそれが動かされ、何度も中を擦られてアリスは悲鳴を上げた。  
「アッ・・・ああッ・・・っふ・・・イ・・スカンダ−ル・・さ・・・まッ・・・!」  
絡みつく液体が卑猥な音を立てながら月明かりを反射する。  
「あんッあんッ・・・あー・・・ッ」  
突かれながら乳首を摘まれて大きく仰け反る。  
激しい痛みは消えないが、それ以上に大きく鮮明な快感がアリスの身体を支配しはじめていた。  
「あッ・・・はぁッ・・・ぁッ・・・気持ちいい・・・イスカンダール様、気持ちいい・・です・・・」  
どんどん高みに押し上げられていく途中で、イスカンダールの動きが止まった。  
荒い息を繰り返しながらぼんやりとアリスがイスカンダールを見上げる。  
「・・・?」  
「アリス。これをお前に」  
どこから取り出したのか、イスカンダールはアリスに一振りの短剣を手渡した。  
 
「・・・今までありがとう、アリス。」  
ちゃんとアリスにそれが聞こえたのかどうかわからない・・・アリスはほとんど何も考えられなくなっていたからだ。  
イスカンダールはアリスの額に口付け、再び腰を動かし出す。  
一旦灯った火はすぐにまた燃え上がり、急速に快楽が駆け登ってくる。  
「あッ・・・ああぁッ・・・もうダメ・・・イ・・・きそう・・・」  
ぎゅっと、イスカンダールを掴む手に力が籠る。  
イスカンダールも強く抱き返し、アリスの最奥を何度も突き上げた。  
「ッあッ・・あッ・・・ああああッ・・・  
ビクン、と大きくアリスの身体が震え、同時にアリスの中がイスカンダールの熱に満たされた。  
繋がったまま唇を重ね、お互いの鼓動が収まるまで、ずっと舌を絡めていた。  
・  
・  
・  
アリスが目を覚ました時、彼女はひとりぼっちだった。  
ただ、彼女は短剣を握りしめていた。  
短剣を見ていると、何故か心が落ち着いた。  
アリスは短剣を抱くようにして目を閉じた。  
 
 
「おはようございます、リース様」  
それから数日後、再び公の場にアリスが姿を見せた。  
イスカンダールのいない現状は変わらないし、主を失った今、この世界がどう動いていくのかわからない。  
しかし、この世界を生きていく事を  
リースは吹っ切れたようなアリスを見て内心飛び上がるほど嬉しかったのだか、軽く頷いただけで背を向ける。  
彼女はもう大丈夫だ、そう思ったのもあるし、イスカンダールがいない今、力ある魔道士が一緒にいる事はあまりいい事だとは言えなかった。  
アリスにもそれが分かっていたし、リースの隠した表情がまぎれもなく笑っていたと確信したのでアリスもまた背を向ける。  
 
リースは故郷の北へ、アリスは南へ。  
イスカンダリアを離れた二人の偉大なる魔道士のその後は語られていない。  
 
〜Fin〜  
 

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