それははるか昔、彼らがまだ別の世界へと移っていく以前の話であった。ワグナス達  
七人の英雄は恐るべき敵に対し勇敢に戦いを挑み、皆を守ってきた。その日七英雄は戦っ  
ていた。相手はタームと呼ばれる高度に発達したシロアリ。七英雄はその巣穴へと攻め  
込み、勢力を回復させれるだけの生き残りを作る事無く一気に根絶やしにする事を狙って  
いた。  
 先頭をノエルが務めてそのすぐ後ろからスービエとワグナスとロックブーケが援護し、  
巣に戻ってきたり回り道をしたりして後ろから襲ってくるタームをダンターグが足止めし、  
用心棒としてタームが連れている切り札モンスター達にはクジンシーが前に出て禁断の技  
を使って倒す。ボクオーンは小細工で後ろからの敵を足止めした。  
 タームの本拠地での戦いは明らかにタームが地の利で有利だが七英雄は強かった。  
彼らは迎撃を次々に打ち破り、ついに「産卵部屋」にまでたどりついた。そこで彼らは  
思いもしなかった物を見て、そして驚きの声を洩らした。女王アリがいた。それも3匹も  
いた。思わずクジンシーが言った。  
 「生きて帰れるかな。」  
 ここが正念場と七英雄は今まで温存して来た奥義を惜しむ事無く使った。そして、  
彼らは3匹の女王に勝利した。しかしワグナスの顔はまだ気を抜いた顔ではなかった。  
「ボクオーン!!君の意見を聞こう!!」  
ワグナスは七人の中でも特に博識で、さっきから何か言いたがっていたボクオーンに  
皆の前で喋ってもらう事にした。  
 「まずさっきの女王アリ、思っていたよりも若い気がする。そして同じ巣に三匹も同時  
に住むとしたら三匹の女王アリを取りまとめる存在が必要になると思う。しかし三匹とも  
年齢や体つきなど特にどれかだけが違うような物は見つからなかった。」  
 そこまで言った時ダンターグが部屋の奥に向かって言い放った。  
 「そこのお前…お前が出てこいや。お前はちったぁ強ぇんだろ?」  
 ここが最深部だとばかり彼らは思っていた。だが、奥には更なる通路が口を開いていた。  
そしてそこからダンターグの挑発に応じてか応じずか出て来た姿を見て一堂息を呑んだ。  
それは、言わば女の妖精の姿をしていた。  
 
 七人の英雄は確かにタームと呼ばれるシロアリの巣に乗り込んだはずであった。だが  
しかしその巣の奥で待ち受けていたのは青い肌をしてタームの羽根を持つ美しく  
整った女の体をした何者かであった。  
 「タームの巣の中で女王アリ達の部屋よりも深い場所に平然と居る。そしてあの羽根…。  
あいつは恐らく女王アリが更に成長した結果の姿だろう。」  
 ボクオーンが皆の疑問に一つの回答例を示した。それが完全に正しかろうが違う部分が  
あろうが、こいつだけは生かしておけない。生かしておけばこの戦いの意味がなくなる。  
英雄達の直感はそう英雄達に告げた。  
 青い妖精はすばやく奥に消えていった。皆急いで追った。  
(もしも、もしも抜け道があって逃げられたらかなわない。何としてでも追いつかねば。)  
だんだんと英雄達の体力の差や素早さの差、そして慎重さの差が出てお互いの間隔が開  
いてきた。そして気がつくと、ロックブーケは一人になっていた。ロックブーケは一人、  
皆が消えていった方へと進む。進んでいくと開けた場所に出た。そこには直立不動でいる  
他の六人の英雄たちがいた。そして皆、目の前に立っている青い妖精を見つめていた。青  
い妖精は薄ら笑いを浮かべて六人のうち最後に来たボクオーンから視線をずらすとロック  
ブーケを見つめた。だがさすがに目の前に並ぶ硬直した仲間達と、最後に来た仲間に相手  
が何をしていたかを見てロックブーケは理解した。かろうじて避けた。  
 「他の皆は引っかかってくれたんだけれど、やっぱりそう上手くいくわけないよねえ。」  
 青い妖精が言う。余裕たっぷりに。  
「でも、今のにやられなくても、あなたたちの負けはどうしようも出来ないんだけどね。」  
そう言うと妖精は六人の硬直した英雄達の頭に軽く手をやっていった。  
「あなたの大事な大事な仲間が帰るわよ。ほら。」  
六人がゆっくりとロックブーケの方に向かっていく。  
「ああみんなよかった。もう大丈夫?さああいつを捕まえてお返ししましょ。」  
だが六人はロックブーケの言葉に無反応だった。皆、居眠りする寸前の様な顔をして、  
ロックブーケに向かって歩き続けている。ロックブーケはただならぬ予感がした。  
(皆、普通じゃない。何が、一体何が)  
ロックブーケが戦慄を覚えた所で妖精が言った。  
「よくもまあこれだけ派手に無茶苦茶にしてくれたわねぇ。よりにもよってわたしの  
大事な巣をさ。しかもわたしの子孫まで手にかけた。これはただじゃ帰らせれない。そこ  
の所理解してね。」  
 六人はロックブーケの近くまで来ていた。そこで妖精が言った。  
 「みんな、この女の子にイタズラしてやって。泣いちゃう位にね。」  
 
 ロックブーケは悲鳴を上げて逃げ出した。突然仲間がいなくなる孤独。そして突然敵に  
囲まれる恐怖。ロックブーケはひたすらに走った。その時彼女は不注意だった。まるで自  
分達に後ろから追いつき挟み撃ちにしようと躍起になっていたターム建ちの様に。ロック  
ブーケはボクオーンがタームを足止めするために仕掛けた罠にかかっていた。  
 糸が絡んで、手も足も動かせない。動かせないから解くことが出来ない。動転して術を  
使って糸を切る事を忘れていたことに気がついたのはもう妖精とその下僕となった仲間達  
が目前に迫った時だった。  
 なんとか糸から逃げることが出来たロックブーケだったがその腕をすぐダンターグにつ  
かまれ、彼らの方に引き戻されてしまった。妖精の下僕たちに囲まれたロックブーケに  
妖精の声が聞こえた。  
 「まずはこの子の武器も鎧も服もはぎとりなさい。」  
 嫌がるロックブーケをダンターグが完全に押さえ込み、ボクオーンが鎧を外していった。  
スービエが武器を引ったくった。そして服をノエルが優しく脱がすのではなく、ワグナス  
が容赦なく引き裂いた。  
 「い、いや、嫌!!嫌あああああ!!」  
 半裸になったロックブーケが叫ぶ。と、不意に優しく誰かが後ろから抱きしめ頭をなで  
た。それは妖精だった。気がついてギョッとしたロックブーケだが離れるより先に妖精  
がしっかりと両腕を体に回し、ロックブーケに強くキスをした。なおも首を振って抗う  
ロックブーケをあっさりと顔を固定してまたキスをしている。  
ロックブーケの顔を押さえてる手と逆の方の手はロックブーケの身体をしっかりとつか  
んで離さなかった。そして、妖精がキスをしながら身体をロックブーケに擦り付け始めた。  
幾ら美しいとはいえ相手は女。それも、シロアリ。気持ち悪くて、背徳的で、ロックブー  
ケは耐えられなかったが逃れるすべはなかった。しばらく同性で遊んでいた妖精が下僕た  
ちに言った。  
「十分楽しめたわ。次はあなた達の番よ楽しみなさい。」  
 
 ロックブーケの肌にボクオーンのいやらしくも器用な手が触れる。逃げたくても、今度  
は妖精の代わりにダンターグが腕をつかんで離さない。ロックブーケの全身に、あのい  
ろんなものを作って見せてくれたの指が触れる。ロックブーケの快感がその指で、全身で  
巻き起こされる。  
 両胸にスービエとワグナスがしがみつく。人を遠ざけるほどに冒険とロマンを熱く語っ  
た口が右胸に、一見優男どころか女にすら見える美貌を持ちつつ熱い闘魂をも持ち合わ  
せた男の口が左胸につけられていた。  
 クジンシーが足を優しくなでる。禁断の実験に明け暮れ、結果として禁断中の禁断の技  
に目覚めた恐るべき男が、最高級の奴隷のように丁寧に足に触れる。しかし、丁寧にでは  
あるが、ロックブーケをより一層燃え上がらせるように丁寧に触れる。  
 ロックブーケは泣き叫んでいた。仲間たちが操られたことの悲しさと悔しさ。仲間の目  
の前で淫らな快楽に溺れそうになっている自分の恥ずかしさと仲間達へのもうしわけなさ、  
そして快楽の強さ、全てがロックブーケを泣き叫ばせていた。  
 その口をダンターグが口でふさぐ。ただひたすらに強さを追い求め、モンスター達の力  
の一部を取り込んでもなお鍛錬を欠かさず、例によって女の子の前では恥ずかしがるダン  
ターグ。そのの純朴な逞しい唇が、妖精の暗示でこんないやらしい事に使われていること  
にロックブーケはまた泣いた。  
 そして、兄が、ノエルが近づいてくる。慕っている人が来る。でも決してこんな事をし  
合いたくない人でもある。あの妖精がそれを知っていてノエルにこんな事をさせるように  
割り振ったのか、偶然かはわからない。だが、ノエルが今からするであろう事はロックブ  
ーケが想像しうる今ノエルがしそうな事の中で最もしてほしくない事であることは確実だ  
。自分を、女として、兄が、男として、犯しに来る。  
 
 ロックブーケは兄のそんな姿を見るのが怖かった。だが現実は目を背けようがどう誤魔  
化そうが変わらない。変える為に何もしない限り変わらない。ロックブーケは目の前を見  
た。兄は更に近くなった。  
 「やめて!!」  
 ロックブーケは兄をまっすぐに見詰め叫んだ。  
やめてほしい。こんなこと絶対にやめてほしい。何が何でもやめてほしい。ロックブー  
ケの心の中は兄を止めたい心だけで満たされた。強く念じた。やめてくれたらいいのに。  
どうしたらやめてくれるんだろう。やめさせたい。やめて。  
 ノエルが足を止めていた。その顔はいまだ平常の顔ではなかったが、青い妖精の下僕だ  
った時の顔とも違う。ノエルが媚びるような顔を浮かべて妹に言った。  
 「うん。やめるよ。」  
 青い妖精は信じられなかった。一体何がおきたのか。あの女の子が何をしたんだろうか。  
とにかくノエルは彼女の支配下から解き放たれた。そして、次々に他の英雄たちもロック  
ブーケをいたぶることをやめていった。もし妖精が注意深く見たら、ロックブーケの周り  
に何らかの「幽霊」のような影が飛び交っているのが見えただろう。もともと霊媒体質が  
あったのかどうかわからないが、同化法によってロックブーケは強い霊媒体質になってい  
た。  
 気がつけば青い妖精は七英雄に取り囲まれていた。ロックブーケによる操作も解け、完  
全に正常な状態に戻ったらしい。青い妖精は恐怖のあまり笑っていた。そして、ギッタギ  
タにされた。ついでにクジンシーがこっそりセクハラしていた。  
 
 それから、ロックブーケに対する人々の対応が変わった。彼女が「お願い」をすると時  
たままるで決死隊のようにそれに従うのだ。ロックブーケは原理を知らない。だが、この  
「お願い」は彼女と敵対することになる者達を大いに苦しめることとなった。  
(完)  
 
 

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