皇帝フェレットは困っていた。この前遭遇した地上戦艦に手も足も出ない。  
追いかければ追いつかず、待ち伏せてもやはり速過ぎて大き過ぎて取り付けな  
い。真正面から戦えばまさに蟷螂の斧。遊牧民を苦しめるこの奇妙な建造物は  
全く帝国の想像を超えていた。そして、帝都に戻ったついでに知恵者の軍師  
ハクゲンに名案を求めようと思っていたのだが、ハクゲンが数ヶ月前から自室  
にこもり厳重に鍵をかけて誰も会えないのだと言う。フェレットはあまり期待  
せずに戸の外から声をかけるがやはりハクゲンは出てこなかった。  
 
 フェレットは地上戦艦と言う目の前の難物をどうすることも出来ず、かと言  
ってこのまま無視するのもなぜか出来なかった。何も出来ないとわかっていな  
がら近衛兵と共にステップに向かい、やはり何も出来ず遠くから地上戦艦を眺  
め、夜になってマイルズで皆で愚痴ったり憂さ晴らしに騒いだりしたのであっ  
た。そんなフェレット達を見つめる男が居た。  
 その男は地上戦艦の主の手先であったがフェレット達は知らなかった。同様  
にその男もフェレット達が帝国の皇帝とその家来だとは夢にも思わなかった。  
地上戦艦の中でひとつの欲求不満が大きくなっていた。性欲。巨大で高速で動  
き回る地上戦艦は人を寄せ付けなかった。その為に乗り組み員と異性の出会い  
など全く無かった。戦艦の主にも秘密で女を求める気持は強く、抑え切れない  
ものになっていく。フェレット達がその男の前に現れたのはそんな時であった。  
 
 (こいつは悪くないな。連れて行けばきっと皆喜ぶだろう。)  
 地上戦艦の主の手先である人攫いの男はフェレット達をみつめてそんな感想  
を抱いた。だが誘い文句はどうするか。どうやら金に困っているような娘達で  
はないらしい。目立たないように無理矢理連れて行くには5人は多過ぎた。  
 (もう少し近づいて様子をみて考えよう。)  
 人攫いは少しづつフェレット達に近づいていった。そのうちにフェレット達  
の話の内容がかすかにではあるが伝わってきた。どうやらこの娘達は、なんと  
自分達の戦艦を攻めようとしているらしい。  
 (気づいてよかった。)  
 人攫いは事前に気がついた事に安心しホッと一息ついた。もしも招き入れて  
いたらどんな被害が出ていたことか、と思っていたところで人攫いはひらめい  
た。  
 (こんな奴らに何が出来るか。何も出来ないようにして連れ込めばいい。)  
 
 「ちょいとご同席させていただいてもよろしいですかな。」  
 さり気無く人攫いはフェレット達の席に近づいた。  
 「私もあの戦艦には困らされていましてね。常に忍び込んだりして攻撃する  
隙をうかがっていたんですが、肝心の隙が見つかっても頼もしい仲間や道具が  
無いときたもんで。」  
 男の話は悩みに悩んでいたフェレット達にとっては溺れる者に差し出された  
藁のようにありがたく、疑うような余裕は彼女らに無かった。  
 「詳しいことは、あそこの建物で今度話しましょう。それじゃ今日はここら  
辺で。」  
   
 翌日、フェレット達はその建物の前に来ていた。人攫いを味方だと確信して  
その分の装備品や消耗品まで用意して来ていた。  
 「陛下、意外ですねあの船に忍び込むチャンスがあっただなんて。」  
 軽装歩兵のオードリーがうれしそうに言う。  
 「きっと我々よりも長い間じっとじっと見張ってたからこそ我々には見つけ  
られなかった所に気がついたんですよ。石の上にも三年だとも桃栗三年柿八年  
とも言いますし。」  
 デーイダメイアが言った。  
 「でも中にびっくりする様な強敵がいたらどうしよう」  
 猟兵のアグネスがボソっと不安を口に出した。  
 「大丈夫ですよ!!きっと不意を突かれて浮き足立ってる所を突き進めれます  
って。」  
 宮廷魔術師のガーネットが言う。  
 「では諸君、…行こうか!!」  
 フェレットが毎度お決まりの短い訓示を出して。戸を開けた。  
 「お待ちしてました。じゃあこちらへ。」  
 
 フェレットはだいぶ歩いた気がした。しかしどこへ向かって歩いているんだ  
ろう。そこまで考えて気がついた。  
(歩いている!?どうして!?いつから!?)  
 フェレットは半分眠っているような起きている様な状態だったが、これは敵  
によってそうさせられたんだと思った。  
 (敵の術中に落ちた…皆は!?手引きの人は!?)  
 と周りを探そうとしたが、自分が今まで無意識のうちに歩いていたのを思い  
出し、下手に動くと正気に戻ったことがバレると思って控えめに首と目を動  
かした。どうやら近衛兵は全員揃っているらしい。そして、全員手足が鎖でつ  
ながれていた。手引きの人は見えず、自分達の鎖につながれた行列の先頭と末  
尾に覆面をつけた人間がいた。  
 
 (それにしてもどこで捕まったんだろう。)  
 フェレットは記憶を辿って行った。最後に覚えているのは、手引きを引き受  
けてくれた男が言っていた建物に入り、男の声を聞いた前後だった。  
 フェレットは確信した。敵にこちらの企みが知られた、のではないだろう。  
敵は、最初から自分達のやろうとしたことを知っていた。あの二人の覆面の人  
間のうち片方は恐らく…。  
 フェレットはため息をついた。情けないと思った。だが後悔はそこで終わり  
だった。自分達は脱出できるかどうか考えてみた。  
 武具は、当然何も持っていなかった。防具は、やはり失い、代わりに薄手の  
服を着せられていた。腰のドスがある木枯らし紋次郎より心細い。だが自分達  
は5人いる。中には術法が得意な人もいる。体術も丸っきりの素人ばかりと言う  
わけでもなかった。しかし自分以外に今どれだけ「催眠術が解けていないフリ  
」をしている仲間がいるかわからない。できるだけ多い人数で息を合わせて動  
かないと鎖のひと引きで台無しになる。自分以外誰も解けていない場合を想定  
して、フェレットはどう安全に見張りを倒すか思案していた。  
 そのうち、轟音が響いてきた。フェレットは自分達がどこに向かって歩いて  
いるか疑問に思っていたが、答えが出たような気がした。その轟音はそうそう  
すぐには忘れない音だった。行列の先頭の男が何か合図をすると、地上戦艦が  
こちらに向かってきて、やがて止まった。  
 
 皇帝フェレットは覚悟を決めた。  
 (ここまで来たんだ。こうなったら、やってみよう。地上戦艦の制圧を。)  
 そして皇帝は階段を生気の無い顔を装って上がっていった。  
 
 乗組員のうちまだ起きていた夜中の見張り当番が気がついて声を押し殺して  
いやらしく笑った。  
 「まだ終わってないだろうが。見落とすなよ。」  
 行列を率いる覆面の男に言われ見張り達はまた持ち場に戻った。しかし、す  
れ違いざまに一人がフェレットの小さ目の胸を撫でて行った。フェレットは嫌  
な予感がした。ただ抵抗勢力として捕らえられたのではないようだ。行列は一  
つの船室の前で止まった。その船室は掃除が行き届いているようだ。だがフェ  
レットは、なぜ自分達の入る部屋がそんなに綺麗にされたか想像がついた。  
 (楽しいことする部屋だから…なんだろうな…きっと…ワクワクして掃除して  
やがったんだろうな…。)  
 部屋に入れられて戸を閉められてしばらくして、誰とも無くしゃべり始めた。  
 「完璧にしてやられましたね。」「でも、これで潜入は出来た。」「怖い。」  
「ご飯、おいしいかな。」「こ、こんな時に…。」「このお洋服どう?」「最  
悪だね。これ誰が作ったんだろう。」  
 窓から差し込む光が強くなってきた。それに気がついたと同時に、さっきの見  
張り達が戸を開けてやってきた。  
 「こんな日に当番だっただなんて運がいいな。俺達。」  
 
 早くも先頭の男がズボンを下ろし始めた。それを見てオードリーとガーネット  
が怖がる。フェレットは、自分がやるべきだと思ったことをした。堂々と、男達  
の群れに精一杯いやらしく歩いていった。  
 「お嬢ちゃん、何!!して!!くれる!!の!!かな!!」  
 久しぶりの女を見てすっかり興奮した男は寿命を縮めんばかりに胸の鼓動が速  
くなっていた。  
 「あ、あなたがもう満足していい夢見られるような事、かな。」  
 フェレットが服を脱ぎながら言う。  
 「ふぇ、いや…へい、じゃなく…お、お姉ちゃん!!」  
 デーイダメイアが思わず叫んだ。素性を悟られないよう気遣いながら。このま  
まではフェレットが一人で全員を相手にしてしまう。  
 「わ、わたしもやらせて!!したくてたまらなかったんです!!独り占めなんてや  
めてよね!!」  
 淫乱を装ってデーイダメイアも進んでいく。既に裸になったフェレットが見張  
り番にキスをされながら胸を触られている。別の男が反射するような美しい足を  
なめ回しつつこれまた大きくないおしりに触れる。更に別の男が背中に口付けを  
しながら股間に指を進める。全員の中では体つきは置いておいて最も男性経験が  
豊富なフェレットではあったが、こんな荒々しい形は初めてだった。一息つく暇  
も無い。汗が噴出し、それも男達に吸われる。  
 デーイダメイアは押し倒されていた。そしてそのたくましい胸が左右同時に別  
の男に吸われた。思わず足を強張らせる。思わず開けた口がまた別の男に口でふ  
さがれる。その間も二人の男は胸を吸い続けた。  
 
 アグネスも勇気を出した。  
 (妄想で我慢しよう。あの優しくてかっこよくて男からも女からもぞっこんだけ  
どいつも私のことだけを見てくれてお料理も上手でお風呂では身体は顔を最後に  
洗う派で寝顔がかわいくてそれからそれからそれから)  
 アグネスは、ストーカー対象の宮廷魔術師ジェミニの事を思い浮かべながら、  
彼を投影した男に抱かれればむしろ最高だと自身に言い聞かせ、美しくも不気味  
な笑いを浮かべながら少しでも皇帝の負担を減らそうとまだ残っている男達に向  
かっていった。  
 オードリーとガーネットは動けないでいた。  
 「皆頑張ってる。あたし達もなんとかしないと。」  
 と思った時フェレットと目が合った。  
 (あんた達のためにやってるんだから、無理して苦しまなくていいんだよ。)  
 と言っている様だった。そして二人の見ている前で、皇帝が男の股間から生え  
ているカラオケのマイクみたいなので、まるでナイフに刺されるようにして股間  
を刺された。  
 「ああっ!!」  
 思わず二人とも声を出してしまった。  
 (あたし達が弱いばっかりに陛下がいじめられている。)  
 二人はこぶしを握り締めて涙をこらえした。  
 「陛下…、平気ですから…。」  
 「ヒレツなまねをしおって…、もうがまんならん…。」  
 と誰にも聞こえないように呟きながら二人も進み出た。  
 
 見張り達が全員満足して出て行った。自慰にふけるアグネスと落ち着いた顔で  
息を整えているフェレット、馬鹿のフリをしたのを恥ずかしがり悔しがってるデ  
ーイダメイアと口を真一文字に結んでお互いにうなづきあったオードリーとガー  
ネットが最後の一人を見送った。  
 フェレットが言った。  
 「みんな、この船を絶対に沈めようね、ね。」  
 皆気合の入った顔で「応」と静かに答えた。ジェミニを思って自慰を続けるア  
グネスも。  
 
 「た、たまんねえなあ。」  
 ハクゲンの自室で重装歩兵のバイソンとシティシーフのロビンと猟兵のルイが、  
ハクゲンの書き上げた漫画を見ていてヨダレを垂らさんばかりににやける。  
 「でも、でも、こんなのバレたら僕達酷い目に遭わされちゃうよ。」  
 軽装歩兵のハーバートが顔を赤くしながらも不安を口に出す。  
 「大丈夫さ、これは帝国領土内じゃ売らないから。帝国に対抗意識持ってる奴  
のところへ行って売ってくるのさ。これも学問の更なる発展の為だよ。」  
 ハクゲンが不敵に笑う。しかし他の4人は真っ青な顔をしている。ハクゲンが振  
り向いた。  
 「げえっ!!皇帝陛下!!」  
 かけておいた鍵は簡単に開けられていた。フェレットはハクゲンの漫画を読んで  
いる。気がつけば他の近衛兵まで読んでいる。5人の男達は窓に殺到したがフェレッ  
トの方が先に回り込んでいた。  
 皇帝と近衛兵達に囲まれて5人のスケベ男は蛇に睨まれた蛙のようになっていた。  
滝のように汗を流し、恐怖のあまり股間からは黄色い液体を流しながらハクゲンは  
笑っていった。  
 「へ、陛下、この漫画はですね、私の策が採用されなかったら陛下達がどんな酷  
い目に遭うかを表現した作品なんです。決して…あの、その…。」  
 「売るんだよね、帝国の領土じゃないところで。」  
   
 ハクゲンは泣きながらとっておきの地上戦艦対策を披露した。  
 
 それから数ヵ月後、その対策の要となる大道具が運ばれてきた。厳しい過酷な作  
業を率先して行ったのは提唱者のハクゲンとその悪友達であった。なぜ彼らが鼻血  
を噴き出し、青筋を立てて、あたり中の鳥や動物が逃げ出すほど咆哮し、目の焦点  
が合わなくなるほど全力を搾り出して作業に従事したかは皇帝と近衛兵しか知らな  
い。  
(完)  
 
 
「船に効く劇薬」後日談  
 
 地上戦艦対策の「大道具」を運ぶ作業はハクゲン達5人の想像を遥かに超えて過酷  
な仕事だった。彼らは来るべき壮絶な苦行に備え漫画を皇帝に読まれた日からその日  
まで、体が耐えれる限度までの鍛錬をしていたが初日の最後には全員気絶寸前であっ  
た。従事者の中でも彼ら5人は皇帝と近衛兵達によって常に見張られ力を抜けば容赦  
なく鞭を受けていたのでその疲労と苦痛は群を抜いていた。  
 横たわるハクゲンに音もなく誰かが近づいた。猟兵のアグネスであった。ハクゲン  
は反射的に身を縮めて震えたがアグネスは優しくレモン水を差し出した。  
 「はいどうぞ。」  
 ハクゲンは少し驚いてからゆっくりとアグネスの方に身体をむけ感謝して水を飲み  
始めた。2杯目を飲みはじめたとき、アグネスが優しい声で聞いた。  
 「ねえハクゲン、どうしてジェミニをストーキングしてる事あなたが知ってるの?」  
 ハクゲンはすっかり疲れ切っていて頭が回らなかった。  
 「いや、なんとなく、こうだったら面白いかなと…、え?本当だったんですか!?」  
 言うが早いか猛然とアグネスはハクゲンを殴り飛ばし倒れた彼を蹴って蹴って蹴り  
まくった。  
 幸い、周りに居た他の作業者は5人を含め誰も話を聴ける状態ではなかった。  
(完)  
 

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