アバロン宮殿の倉庫で自動人形コッペリアがせわしなく動き回ってい
た。コッペリアは機嫌がよさそうに整理整頓をしていた。だがコッペリ
アは特に整えておく事が好きなわけではない。やる事に意義があるとも
思っていない。コッペリアは自分自身に陶酔していた。コッペリアは愚
かな臣民や皇帝に代わって倉庫の整理をしている自分の寛大さ、賢明さ
そして勇敢さに感動していた。
「前人未トーの空前絶グォ〜 天下無ソーの針小棒ドゥワ〜イ
驚天動地の…、何だこれ…。」
コッペリアは目の前の物を凝視していた。コッペリアは完成してまだ
10年も経っていない。短い間にも見聞を広げたコッペリアだが目の前に
ある物体はまだ知らない物だった。
(まあタワケどもに聞いてやってみるか。このコッペリア様よりも古
さだけは勝っていやがるからな。古物なりに知っているかも知れん。)
コッペリアは謎の物体を手に取ると倉庫から飛び出した。
コッペリアが言うタワケどもの中でも特に古い、研究所のプロキオン
をまずコッペリアは訪ねた。
「おい骨董品、宮殿の倉庫整理してやってたらこんなもんが出てきた
けどこれは何だ。教えろ。」
「どれどれおじいちゃんに貸してみなさい。」
プロキオンは暴言を浴びせられても笑顔であった。
「うむ。うむ。うむむ。うむ。これはおじいちゃんにもわからんが、似
た物は知っておるぞ。それと言うのは…。」
だがそこでマグノリアが割って入った。
「コッペリアちゃん。それはね、無理して知らない方がお利巧な物な
の。思いがけず知ったらそれでいいし知らないままならそれでいい。た
だ、頑張って知るような物じゃないの。」
プロキオンは呆気にとられていたがその間にコッペリアは飛び出して
いた。マグノリアは苦笑していた。コッペリアは、お利巧かお利巧で無
いかを決めるのはコッペリアしかいないと考えていた。
コッペリアは次に開発室の師弟に聞こうと思った。あの二人なら色々
な道具を使っているし、研究の為に珍しい物を見てるとコッペリアは考
えた。着いてみると、二人が傭兵のアンドロメダと話し合っていた。
「アンドロメダさん、それはきっとその武器が壊れるような技だった
んだと思うんですよ。それにそれは私どもが開発した物ではございませ
んので壊れた事に責任がとれないのです。」
「いえ、私が申したいのはどうしたら武器が壊れないようにその技を
使えれるか教えて欲しいという事です。あら、コッペリアさんごきげん
よう。」
三人がコッペリアに気がついた。三人はアンドロメダが戦ってる最中
に武器が壊れた事で話し合っていたらしい。だがコッペリアは何に三人
が悩んでいようが興味が無かった。
「おう機械を作る工作機械ブラザーズ、きちんと師弟愛に励んでおっ
たか。そっちの傭兵機械は恐喝やってんのか。恐喝はやめとけよ。仕事
は脱法の一歩手前が儲かるって聞くけどな。」
三人は心中で大声で叫んでいたが顔は微笑んでいた。これも修行の賜
物であると三人は考えていた。その三人の前に正体不明の物体を突き出
した。
「お前らこれが何か知ってるか。無駄に年とってただけじゃないんだ
ろ。」
生意気な人形に無知を笑われたくなかったアンドロメダだが、全くわ
からなかった。アンドロメダは女ばかりの家で育ち父親は帰りが遅か
った。大人になってからも同年代の男と裸の付き合いをする事はなく仕
事一筋の女だった。
一方師匠と弟子は、それと似た形のものは当然知っていたし、昔に聞
いた事がある物とそれはほとんど同じだった。ただ、アンドロメダの手
前言えなかった。
「お前らもっと学問しろよ学問を。」
コッペリアは走り去った。三人はまたも心中で罵詈雑言を轟かせた。
コッペリアは宮殿を飛ぶように駆けているとハンターのオセイにでく
わした。オセイは一瞬嫌そうな顔をしそうになって止めた。
「こ、こんにちはコッペリアさん。」
「ようガキ、コッペリア様がお前に用を頼んでやるからありがたく思
うがよい。これが何か申せ。」
オセイは悩んだ。見た事が無かった。似たような物は見た事があっ
た。だが、それは大まかな形こそ似ていたがが、目の前の物は形が整い
すぎていた。そもそも、オセイが見た事が物は人体の一部だ。
(もしかして、そんな、いやまさか…。)
オセイは恐ろしい想像をして震え上がった。
「あの、コッペリアさんはどこでこれを手に入れたんですか。」
オセイは脂汗が噴出していた。しきりにつばを飲み込んでふらふらして
いる。まるで、たった今人を殺してさらに死体を傷つけた人間を前にして
いるように怯えていた。
「これか。教えてやる。これは倉庫にあったのだ。おそらくは昔のタワ
ケどもが入れたのだろう。」
哀れなオセイはどこで手に入れたかを聞く前に気絶していた。
ついに、コッペリアは皇帝に聞くことにした。皇帝は昔の皇帝の事も知
っているらしい。と言う事はあの倉庫に入れたのも皇帝であろうから皇帝
はきっと知っている。最初から皇帝に聞けばよかったのである。
自室に戻ろうとする皇帝にコッペリアが追いついた。
「あら、どうしたのコッペリア。」
「おい皇帝、これが何か教えやがれ。これ倉庫にあったんだから入れた
時の皇帝の事覚えてるお前なら知ってるだろ。」
皇帝ルナはよくその物体を見ていた。そして昔の事を思い出していって
ルナが言った。
「コッペリア、思い出したわ。それはね、時代遅れの髪飾りなの。」
コッペリアは時代遅れの髪飾りと呼ばれたそれを髪に挿して鏡を見た。間
抜けであった。
「皇帝、これお前にやるぞ。きっと似合う。」
「そう、似合うかどうかわからないけど、もらっておくわ。」
皇帝は髪飾りを持って部屋に戻った。コッペリアはどこかへ走り去って行
った。宮殿内でそれほど大した用でもないのにコッペリアは走る。
夜、ルナは髪飾りだと言った物体を見つめていた。大嘘であった。それ
は昔の皇帝が発見した物で、結局使い方はわからなかったのだ。正式な使い
方はわからない。記憶をたどって、出っ張りやへこみをいじると、動き出し
た。これの正式な使い方はわからないが、動かないだけでこれと同じ物の使
い方は知っている。
ルナは独身であった。皇帝たるものどうあるべきかだの男は嫌いだのが理
由ではなかった。男から慕われていないどころか、ルナは多くの男達が恋焦
がれる相手だった。だが、ルナの理想は高かった。それに見合う男がいなか
った。帝国の戸籍制度をより正確にする為の調査と称して帝国中の男につい
て調べて報告書を作らせ、気になった者を登用の調査とのの名目で呼び寄せ
て色々と試してみたが、結局全ての男が落第であった。だがルナは思う。い
つの日か、調べていなかった子供が育つか、領土がさらに広がるか、落第点
だった男が変身するかして、きっと現れる、と。
ルナがゆっくりと、仰向けになっていく。物体を、腹の方へ、足の方へと
持っていく。そして、動いている物体を、股間になぞらせた。
「はぁっ。」
するどいため息が出る。動く物体の曲線を股間と合わせる。だるい声が出
る。それを、コッペリアが全て見ていた。鏡の前で髪飾りをつけてみる様を
見てやろうと忍んでいて、目撃した。
(あんにゃろこのコッペリア様に嘘を!!)
コッペリアは部屋の物陰から飛び出した。
「皇帝は髪飾りをそんなことに使うのか!?それは本当は何なんだ!?」
ルナは慌てふためいて身動きが取れなかった。詰め寄られて観念した。
「これは、多分女の人がね…。女の人が好きな人を想像してきもちよくな
るための、玩具なの。多分。」
「ふむむ。もう一度やってみせろ。」
ルナが嫌がるのを脅してコッペリアは披露を強いた。
皇帝の寝室で皇帝の寝不足が公務の支障にならない程度に、処女を保ちな
がら、皇帝は体を震わせ叫んだ。それは帝国の男子の誰も目にした事がない
光景であった。
「ダメ!!それだけはダメ!!将来のお婿さんの為にそれだけはできないの!!」
「しょうがねえな。コッペリア様の情けで許してやらあ。感謝しろよ。だか
ら、それ以外で続けろ。」
ルナは理想的な形の胸を片手で摩り、自分の股間で物体を滑らせた。
「お婿様…お婿様ぁっ。まだ見ぬ完璧なお婿様ぁっ!!」
「人間って…。」
帝国全土の男性諸君が見ることを望み、決して見ることが出来なかった美し
い体が、また叫び声を上げ反り返る。
(完)