私はT260J、個体識別名テムジ、ン――御嬢様を、お守りす、る戦闘メカにして……執事……
それもしかし、過去形で、語られる時が、きたよう、だ……メイン中枢沈黙、サブシステム介入。
私は今、圧倒的な神の力を前に大破、その戦闘機能を全て失った。
もうエミリィ御嬢様を守れない、遺憾ながら万策は尽きたのである。
「畜生っ、手前ぇ! よくも兄弟を、ポンコツを……そのうえエミリィまで!」
「待ちたまえ、リッツ君。若い者が無茶をするな。マルム君達の死を無駄にするつもりか!?」
謎の男、ふくめんが怒り猛るリッツを制する声――ああ、あの声はどこかで聞き覚えが。
しかしもう、何も思い出せない……もう私は動けない。
敵は、アシュラは私達が予想するより遥かに強大だった。
真っ先にその犠牲になったのは、グリフォンまで進化していたマルム。
彼は背に御嬢様を乗せると、機動力を生かして空からアシュラへと攻撃を仕掛けた。
しかし今、彼は物言わぬ死体となって転がり、アシュラの手下達に死肉を貪られている。
そして御嬢様はアシュラの手中に囚われていた。
咄嗟に助け出そうと突出した私は、強靭な6ぽんのうでから繰り出される一撃を浴びて……
気付けば無様に擱座し、もうすぐ完全に機能を停止する。
「リッツ、マルムが……テムジンが」
「だーってろ、エミリィ! 今すぐ俺が助けてやるっ!」
ふくめんを振り払って、リッツがバトルアックスを片手に地を蹴った。
まるで一本一本が独立した生き物のようなアシュラの腕……その連続波状攻撃を巧みに回避。
懐へと飛び込んだ彼の一撃に、私は最後の希望を託した。
「いかんっ、危ない!」
希望は、潰えた。
アシュラの口から放たれたほのおが、助けに入ったふくめんごとリッツを紅蓮の業火で包む。
バチバチと音を立てて、声にならない絶叫とともに二つの影が燃え尽きた。
「いやーっ! ふくめんさんっ! リッツ……リッツー!」
御嬢様の悲痛な叫びだけが、アシュラの塔の最上階に響く。
「わしにたてつくとは愚かな人間共だ……そうか、貴様等がガーディアンとかいう連中か」
巨躯を揺すって立ちはだかるアシュラが、不遜な笑いと共に私を見下ろしている。
ガーディアン? ふくめんの所属する組織だろうか? そんなことより――御嬢様!
「まあいい、わしには秘宝の力がある! ガーディアンなんぞ恐れるにたりんわ」
アシュラは手中の御嬢様の両手両足を、それぞれ腕で掴んで宙にはりつけにする。
骨の軋む音に悲鳴が入り混じり、御嬢様の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
「いい声で鳴きよる……非力な人間、もっとその絶望の声を聞かせるがいい」
アシュラは四本の腕で御嬢様を拘束したまま、空いた二本の腕で御嬢様の着衣を毟り取る。
たちまち裸にむかれた御嬢様を見て、周囲のモンスター達がおぞましい声をあげた。
……私はこの時ただ、何もできずに惨劇を見詰める他なかった。
かつて、一匹のゴブリンがこの世界に流れ着いた。
ひ弱な彼はしかし、裏切りの連続で他者を踏み台に、ついに秘宝の力を手に入れる。
それが今、私達を完膚なきまでに叩きのめした新たな神――アシュラ。
「さて、この小娘はどう料理してくれよう」
「は、はなして……わたしが、みんなのかたきを……はなし、んあっ!」
アシュラはエミリィ御嬢様の右腕を軽く捻りあげた。
骨の砕ける音と共に、その細い腕があらぬ方向へと曲げられる。
白目をむいて御嬢様は意識を失い……失禁していた。
滴る小水が眼下に水溜りを作る。
その様を楽しむように目を細めて、アシュラは床へと御嬢様を放り投げた。
「もうよい、皆への褒美じゃ……存分に楽しむがいい」
固い床へと叩きつけられた御嬢様へと、モンスターが群をなして殺到する。
私は今すぐにでも、じばくしてでも御嬢様を助けたかったが……体が動かない。
「さすがアシュラ様、太っ腹! これほどの上玉は久々だぜっ!」
真っ先に御嬢様へと、醜悪な植物……じんめんかが這いより絡みつく。
白い肌を無数にツタが走り、あっという間に御嬢様は縛り上げられてしまった。
ツタは執拗に豊満な乳房も絞り上げ、その痛みに御嬢様は意識を取り戻す。
「んっ、ん……あ……い、いやぁ!」
「へへっ、目ぇ覚ましやがったか。どれ、じゃあ楽しませて貰うぜぇ!」
じんめんかに絡まれ床に伏す御嬢様の前に、サーベルタイガーが躍り出た。
獰猛な肉食獣の生殖器は隆々と漲り、握り拳ほどの大きさの先端が露に濡れている。
細い肢体をくまなく覆うじんめんかが、無理矢理御嬢様に四つん這いの格好を取らせた。
そうしてまるで獣同士のように、御嬢様へと圧し掛かるサーベルタイガー。
白い背中に爪が食い込み、苦悶の表情を浮かべて悲鳴をあげる御嬢様。
「へへっ、人間の女は久しぶりだぜ……おう、もっと尻ぃあげさせろや」
既に御嬢様の肉体を完全に支配したじんめんかが、サーベルタイガーの言葉に従う。
「やっ、やめ……だめっ、そんなのはいらな、ひぎぃ!」
ケダモノの劣情が御嬢様を引き裂き貫いた。
激痛に身を震わせる御嬢様が泣き叫ぶ。
しかし構わず、サーベルタイガーは鮮血にぬめる御嬢様の秘肉を存分に味わった。
僅かな時間の陵辱が、私には永遠にも等しい長さに感じられた。
やがてサーベルタイガーは天を仰いで吼えると、絶頂に達して御嬢様の中へと精を注ぐ。
射精は数分間、断続的に続き……ツタが幾重にも巻きつく御嬢様の下腹部が膨らんでゆく。
「……や、やめて……やだ、もうやだよぉー! 助けて、リッツ、マルム……テムジン」
「へへ、こいつは極上だぜ。やっぱり人間の女を犯すのは最高だ」
「おいっ、後がつっかえてんだ! 一発ヌいたらさっさと代れぇ!」
内股を出血で濡らす御嬢様から、やっと獣が離れる。
ゴポリと粘度の高い白濁が、御嬢様の秘所から溢れ出た……が、それはすぐに押し戻される。
「おいおい、壊すなよ?」
「知らねぇよ、ケツでも使いな! どれ、よっと!」
「あ、あ……んぐぁ! あ、ああ……や、やぁー! 助けて、パパ……ママ!
モンスター達は次々と御嬢様を犯し、容赦なく大量の精液を注いでゆく。
じんめんかに拘束されたまま、御嬢様は前も後もケダモノ達の剛直に貫かれた。
……死よりも辛い御嬢様への陵辱は、これだけでは終らなかった。
「おい何だよ! 女がいるって聞いたから来てみれば……」
「こりゃ酷ぇ、前も後も裂けちまってる。お、まだ息はあんのか」
性欲を持余す獣達は、次々と押し寄せてはエミリィ御嬢様を汚し犯した。
今、私のノイズで霞む視界の中で、御嬢様は血と精液が汚す床に無残に横たわっていた。
アシュラは玉座で、その様子を満足そうに頬杖突きながら見詰めている。
既にもう、陵辱の限りを尽くされた御嬢様は、虚ろな視線を宙へと彷徨わせていた。
アシュラの手下ですら、もう御嬢様をこれ以上は――そう思ったが、悪夢は終らない。
「では最後に、この肉は私が貰うということで。よろしいですか? アシュラ様」
八本の足で這い寄った、巨大な蜘蛛のモンスター……どくぐもの声にアシュラは頷いた。
周囲のモンスター達が下卑た笑いを浮かべる中、最後の惨劇の幕が開く。
女性として全てを奪われた御嬢様は今、人間としても全てを奪われようとしているのだ。
私は懸命に助けようともがくが、コントロールを失った機体はただ虚しく火花を散らすだけ。
「さて、私の可愛い子供達……今産んであげますからね。ちょうどいい肉が手に入ったもの」
仰向けに投げ出された御嬢様の上を、どくぐもの細い足がまたいでゆく。
ああ、見るもおぞましい――いっそ死ねた方が、どれほど御嬢様にとって幸せだっただろう!
どくぐもは御嬢様の股間へと、産卵管を伸ばし……開ききった秘裂の奥へと挿入してゆく。
糸の切れた繰り人形のように呆けていた御嬢様が、ビクン! と身を震わし仰け反った。
その瞳は大きく見開かれ、口からは掠れた声で絶叫が響く。
「あ……あがが……は、はいって……や、やぁ……いやぁぁぁぁ!」
「ふふふ、たっぷり産み付けてあげるわ。大丈夫、死にゃしないわよ……卵がかえるまでは」
抗うように身を起こした御嬢様の、その細い首筋にどくぐもの鋭いきばがつきたてられる。
最後の力を振り絞って、必死に身を捩る御嬢様。
その髪を、近くでニヤニヤと見守っていた骸骨の化物……レッドボーンが無造作に掴んだ。
「どうよ? あ? おら、どんな感じか言ってみろや」
カタカタと歯を鳴らすレッドボーンに、怯えた眼差しを向ける御嬢様。
その間にもどくぐもは、何度もいきんで御嬢様の体内に卵を産み付けてゆく。
どくぐもが喘ぐたびに御嬢様の下腹部がボコンとうごめき、まるで妊婦の様に膨らんだ。
「ヘッヘッヘ、もうすぐ手前ぇは蜘蛛畜生に腹ん中から食い荒らされんだ。楽しみだろ?」
「ひっ、あ……ゆ、許して……もう、やめ、て……」
「へっ、気絶しやがった。おう、さっさと全部ひり出しちまえよ」
「焦らないで、まだやっと半分なんだから……うふふ」
周囲のモンスターたちが煽りはやし立てる中、どくぐもの産卵は続く。
意識を失った御嬢様は、既に抵抗もできず身を痙攣させている。
あれほどに美しく、瑞々しかったお姿がもう見る影もない。
……どくぐもの産卵が終ると同時に、私の機能は完全に停止してしまった。
気が付けば私は、どことも知れぬ場所に立っていた。
左右には同じく、ぼんやりとした表情のリッツとマルム。
ここは、どこなのだろう……それよりもエミリィ御嬢様は?
「ようこそ、勇者達よ。ここはバルハラ宮殿」
地の底より響くような、低い声を感知して私は踏み出した。
その前をリッツが、マルムが声のする方へと駆けてゆく。
「誰だ……誰だ? ここはどこだ、何がどうなったんだ」
「そんな事よりリッツ、エミリィは? エミリィは無事なの!?」
あの冷静なマルムが、珍しく焦り取り乱している。
その横ではリッツが、硬く拳を握って正面を睨んでいた。
そこに神はいた――全ての戦士を見守り、その魂に報いる神が。
「わしはオーディン、ここはバルハラ宮殿……お前たちは戦い破れ死んだのだ」
槍を携えた老人が、温かな眼差しで私達を睥睨していた。
その瞳は見る者を称えているようであり、哀れんでいるようであり……
何より、試そうとする意志がかいまみえる。
「僕達は、死んだ……じゃあ、エミリィは!?」
マルムの問いにオーディンは、静かに手を天へと翳す。
宙に突如、ぼんやりと映像が浮かんだ。
その瞬間、私は全てを思い出した――最後の瞬間まで、私は記憶していた。
「あ、ああ……あれは、エミリィ」
巨大な蜘蛛の巣にはりつけにされた、御嬢様の姿が映し出された。
その下腹部は、今にも破水せんとする妊婦の如く膨らんでいる。
半開きの瞳にはもう、光はなかった。
「リッツ、エミリィが! 助けなきゃ、エミリィを……リッツ、ねえリッツ!」
「……落ち着けよ、兄弟」
「これが落ち着いて居られるかい? 冗談じゃない、このままじゃ――」
「落ち着けって言ってんだろぉが! 兄弟っ! ……俺ら、死んでんだぜ」
慌てふためくマルムも珍しいが、それを強い言葉で一喝するリッツを見るのも始めて。
私はただ、黙って御嬢様を見詰め続けた。
「勇者達よ、よく見ておくがいい……己の非力さゆえの敗北を、心に深く刻むのだ」
オーディンはただ、静かに言葉を紡ぐ。
その声に面をあげたリッツの、血走り充血した目がカッ! と見開かれた。
マルムもただ、呆然と見詰める……御嬢様の最期を。
次第に鮮明さを失い、輪郭がぼやけて光り出す映像。
その中で、御嬢様の膨らんだ腹が裂けて大量の蜘蛛が飛び散った。
同時にオーディンの生み出す幻像が、眩く輝き集束してゆく。
それは光の球となり、その中心に見慣れた愛しい姿を生み出した。
御嬢様が今、生まれたままの姿でふわりと宙から舞い降りてくる。
黙ってリッツは、両手を広げてその体を受け止めた。
傍らで見守るマルムも、心配そうに覗き込む。
「そんな、エミリィ……守るって、言ったのに……」
「泣くなよ、兄弟。おい、ポンコツもこっち来いよ」
御嬢様の死に顔は安らかだった。
その体を抱きしめ、リッツは悔しさに唇を噛む。
「クソッ! 俺があの時もっと……畜生っ!」
「僕も迂闊だった……調子に乗ってたんだ、それでアシュラに」
それは私も同じ――そして恐らく、御嬢様も。
後悔にくれる私達にその時、オーディンの意外な言葉が投げかけられた。
「勇者達よ……戦いを続ける勇気はあるか?」
……私達はこの時、一つの意志となって現世へと蘇り……再びアシュラへ向って武器を取った。