私はT260J、個体識別名テムジン――御嬢様をお守りする戦闘メカにして執事である。
死闘を制した私達は、アシュラが残した最後の罠をも撃破……神官カイの救出に成功した。
この世界に君臨する神々の、その一角を倒したことは、率直に言って驚きを禁じえない。
これからも秘宝を探し、旦那様の背を追う過程で、神々との対立が待っているのだろうか?
そしてこの世界の神は――
「テムジン、ピカピカになったよ! まるでしんぴんみたいだね、ふふふ」
突如湯を浴びせられて、私は思考を中断させた。
振り返れば、エミリィ御嬢様の眩しい笑顔。
ここはアポロン神殿、大浴場……主の好意で、私達は旅塵を落し一息ついている。
久しぶりに平和な時間が訪れ、私はしばし村での日々を思い出してしまった。
御嬢様はいつも入浴に私を伴い、わざわざ自分で私の汚れを落としてくれるのだ。
幼い頃からずっと変わらず、御嬢様は私のようなものにもお優しい。
「つぎはわたしの番! テムジン、いつもみたいにシャンプーしてちょーだいっ」
そう言って御嬢様は、私の前にチョコンと座ると固く目を閉じる。
私はいつも通り細心の注意を払って、たおやかな金髪を梳いた。
幾つになっても御嬢様は、こんな所は変わらない……こんなにも躯は発育著しいのに。
「おいおいエミリィ、お前まだ一人で風呂に入れねぇのかよ……ポンコツも大変だな」
湯気に煙る湯船の方から、呆れたようなリッツの声。
余計なお世話である……これでも御嬢様は日々進歩しているのだから。
最近はシャンプーハットがなくても、ちゃんと我慢できるようになった程だ。
「んー、だってー! ひとりでおふろは、こわいもん」
シャンプーを泡立てて、御嬢様の髪を洗う。
おいたわしや、長旅でお美しい髪にも少しだけ痛みが……ルックス2%低下を確認。
「でもリッツー、アポロンさんてすっごいイイ人だねー」
「そうかぁ?」
御嬢様は私の前で、ギュムと固く目をつぶりながらリッツを振り向いた。
湯船から返る声は何気ないが、私と共有する疑問をリッツは上手く隠してくれた。
「だってさー、ひほうもくれたし、色々おしえてくれるし……おふろ貸してくれたし!」
御嬢様は無邪気で無垢で、人を疑うことを知らない。
しかし、そんな御嬢様を守る私達はそうはいかないのだ。
この世界の神、アポロン――無欲で物腰穏やかな紳士だが、果たして真意は?
「まあ、今は判断できねぇな。この世界の街はどこも平和だしよ。それに……」
「それに、秘宝への執着がまるでない。或いは、見えないのか」
リッツの言葉尻を拾って、マルムが大浴場へと現れた。
冷やかすような口笛を吹いて、リッツが湯船に立ち上がる。
……この時まだ、私達はアポロンの本性に気付けずにいたのだった。
「兄弟、俺が言うのもなんだけどよ……その格好、いいねぇ」
「ん、まあ一時的なことだから。食い合わせが悪かったかな」
私はエミリィ御嬢様の髪をシャワーで流しながら、改めてマルムの姿を振り返った。
モンスターは他のモンスターの肉体を摂取することで、突然変異する。
進化したり退化したりを繰り返しながら、全く違うイキモノになるのだ。
そしてそれは、時に性別すら反転してしまうのだと私は学んだ。
「でもマルム、きれい。わたし、いいとおもうな」
頭を左右に振って水気を払いながら、御嬢様が目の前で立ち上がった。
そのしなやかな肢体は起伏に富み、柳腰は細くくびれている。
お美しい……私の中の御嬢様フォルダはもう、五度目の圧縮の時期を迎えている。
しかし今日のマルムは、御嬢様に勝るとも劣らぬ美貌だった。
「僕としては困るな」
「え? どして? どんなすがたでも、マルムはマルムだよ」
「そうは言うけどね……僕は基本的にオスの体がいいよ」
「ふーん、そうなんだ。やっぱりおとこのこがいいんだ……」
妖艶な笑みを浮かべる美女が今、湯煙の中に佇んでいる。
それは今日、メドューサに変化したマルムその人だった。
タイルをこする音を連れてマルムが歩み寄れば、次第にその姿が露になる。
御嬢様よりも豊満な、肉感に溢れた扇情的な美は上半身だけ。
下半身は鱗に覆われた、見るもおぞましい大蛇。
マルムは重力に逆らい曲線を描く、大きな胸の双房を揺すって御嬢様に並ぶ。
「すごーい、マルムのおっぱいおっきー! ふふ、ママみたいー」
無邪気に抱き付き、マルムの胸の谷間に顔を埋める御嬢様。
私はといえば、入浴の度に取り続けていた記録を更新する……センサー、誤差修正。
御嬢様は上から、89のE-58-90……前回、巨人の街でのデータと変わりなし。
ついでだからマルムのデータも採取……98のG-60-94、保存せずそのままゴミ箱へ。
「相変わらず甘えん坊さんだね、エミリィは。いつまでたっても子供のまま」
「えー、そうでもないよ! わたしも大人になったよ、ニンジンも食べれるしー」
そう、御嬢様だって成長しているのだ……恐らく確実に、多分絶対に。
シャンプーハットも卒業したし、ニンジンも食べれるようになった。
しかし私の中ではいつまでも、御嬢様はあの日のまま……それは二人にとっても同じだろう。
甘えるように頬擦りする御嬢様を抱きしめ、マルムはリッツと目線を絡めて肩を竦めた。
「ママのおっぱいが恋しくなっちゃったかな? エミリィ」
「今ならまだ帰れるぜ? 秘宝も結構集めたしよ……」
マルムとリッツ、二人の言葉に私も同意の念を重ねたが。
静かに御嬢様は首を横に振った。
「ううん、ときどき帰りたくなるけど……わたしパパを探すよ。みんながいてくれるもん」
……健気な御嬢様が過酷な現実に直面し、旦那様の真実を知るのは……このすぐ後だった。
エミリィ御嬢様を胸に抱き、その頭を優しく撫でるマルム。
懐かしさが込み上げたのか、御嬢様は存分に甘えて抱き付いた。
「あのね、マルム……んと、その……」
「いいよ、エミリィ。僕が今だけママになってあげる」
マルムの言葉に恥ずかしそうに頷いて、御嬢様は赤子のように乳首に吸い付いた。
御嬢様の体を抱き上げると、マルムはとぐろを巻いて自分の下半身に腰掛ける。
やはり御嬢様は無理をしていたのだろう……本当はお寂しいのだ。
その寂しさを普段は忘れていられるのは、きっと二人の仲間がいてくれるから。
私も微力ながら、僅かばかりの支えになっていれば嬉しいのだが。
「ふふ、エミリィ赤ちゃんになったみたい」
「はは、でも兄弟……まさか、本当に……」
「出るわけないよ、リッツ。まあ、産卵期になればどうだろうね」
「うっ、やっぱり卵なのかよ……げげぇ、想像しちまった」
今のマルムは間違いなくメスだと、生物学的にあらゆるデータが証明している。
その繁殖方法は謎だが、御嬢様には母性を感じずにはいられないようだ。
夢中でマルムの乳房を両手に、その乳首を吸っている。
徐々にマルムの息が荒くなり、頬が上気して赤みがさしてきた。
私の傍らで見守るリッツも、その下腹部へと血液が集中してくる。
「ん、ふ、ぷあ……ママ……」
「エミリィ、ほら……リッツもテムジンさんも見てるよ」
唇を離した御嬢様の形良い顎を、指でクイと上げて。
マルムは媚惑的な笑みを浮かべて、御嬢様とくちづけを交わした。
湿った音が大浴場に響き、互いの唾液が入り混じって行き来する。
互いの呼吸を貪るような、舌を絡めあいながらのキスは長時間続いた。
ほうけた顔で御嬢様が離れれば、光の糸が唇の間を結ぶ。
マルムはその残滓を味わうように、先の割れた長い舌で唇を舐めとる。
「ほら、見てエミリィ……僕達のこと見て、リッツがあんなになってるよ」
「ほんとだ……」
「エミリィ、リッツにおねだりしてごらんよ。僕も、今は欲しいしね」
「うん……リッツ、わたしたちに、あの、その……オチンチン、ちょーだい」
隆々と漲る逸物をヘソまで反り返らせて、リッツが二人に歩み寄る。
私も電圧が不安定になり、粒子力炉の運転が僅かに乱れた。
「キスだけでこんなに濡れてるよ、エミリィ。ほら、リッツも触ってみて」
「相変わらず頭もアソコもだらしがねぇな……可愛いぜ、エミリィ」
リッツとマルムの手が、前後から御嬢様の秘所へと触れる。
薄っすらと茂る密林を掻き分け動く、その指の動きにビクリと身を震わせる御嬢様。
……私のところからもはっきりと、御嬢様の内股を濡らす淫らな秘蜜の滴りが見えた。
湯船の縁に漉し掛けて、リッツは大きく股を開いた。
その足と足の間に、御嬢様とマルムが並んで顔を並べる。
二人は嬉しそうに鼻を鳴らしながら、そそりたつ剛直へと頬を寄せた。
「ふふ、リッツ……いつもより興奮してるんじゃない?」
「ほんとだ、リッツのいつもよりかたいみたい」
「う、うるせぇ! つーかマルム、お前暫く肉食うの禁止な」
やーだ、と悪戯っ気たっぷりな笑みを浮かべて。
マルムは先走る粘液で光るペニスの先端へと、細い指を走らせた。
同時に御嬢様も、血管の脈打つ熱い肉棒に舌を走らせる。
僅かに呻いて、リッツは二人の髪を左右の手で掴む。
マルムの頭髪はメドゥーサの名の通り、無数の蛇が蠢いていた。
幾千にも折り重なる蛇の群が、快楽に震えるリッツの腕に絡まる。
「ふふ、エミリィ……ほら、いつもみたいに奥まで飲み込んで」
「うん」
マルムに促されて、御嬢様が蕾のような唇でリッツのペニスに触れる。
その露になった亀頭を、舌先でチロチロともてあそばれるリッツ。
御嬢様は逞しいリッツの腹筋に手を当てながら、奥の奥までそれを飲み込んだ。
「リッツ、今日は僕が気持ちよくしてあげるよ……いつもより、ずっとね」
そう言うなりマルムは、御嬢様と奪い合うようにリッツ自身をくわえる。
二人は互いに涎を垂らしながら、交互にリッツのペニスを口に含んだ。
「ちょ、やべ……兄弟、どこでそんな……」
「リッツ……僕、興奮してきちゃった。あ、まだ駄目だよ、まだまだ」
今にもはちきれそうなリッツの男根の、その根元をマルムは握った。
込み上げる射精感が突然せき止められ、思わず情けない声をあげるリッツ。
「あは、リッツかわいい……ね、きもちいい? わたし、じょうず?」
「エミリィが上手すぎて、リッツは声も出ないのさ。次は……ここ」
ギチギチとリッツの屹立を締め上げながら、マルムは睾丸へと唇を寄せる。
御嬢様も見よう見まねで、逆側から吸い付いた。
この時、リッツにどれ程の快楽が押し寄せていただろうか?
機械の私には想像すら困難だが、自然と羨ましさが込み上げる。
「リッツ、最後はじゃあ……エミリィの胸でいかせてあげるよ」
「ん、ぷは、んふっ! はぁ、おいひ……リッツ、沢山出してね」
夢中でリッツの竿をしごきながら、御嬢様はふぐりから唇を離す。
荒い息を刻むリッツはぼんやりと、自分の中心を御嬢様が胸の谷間に導くのを見詰めた。
二人の唾液と、自身が滲ませる粘液で濡れたペニスがぬめる。
マルムは御嬢様の背後に回ると、脇の下から両手を回して、たわわな膨らみを中心へ寄せた。
「リッツ、エミリィの胸でしごいてあげる」
「まて兄弟、そりゃ……っ、やべぇ……!」
背後からマルムに胸をもてあそばれながらも、御嬢様は舌先をリッツの先端に突きたてる。
たまらずリッツは数分ともたず、粘度の高い白濁を断続的に噴出した。
脈動するペニスから吐き出される大量の精液が、御嬢様の髪を、顔を、胸を汚してゆく。
「リッツ、溜めすぎだよ。それに凄い匂い……エミリィ、どう?」
「んふ、濃くておいひ……マルムもはい、あーんして……」
リッツの股の間で、御嬢様は振り向きマルムと舌を絡めた。
ニチャニチャと二人の舌が精液を分かちあい、淫靡な音を響かせ続けた。
……絶倫リッツはしかし萎えることなく、御嬢様の中で二度、マルムの中で一度果てた。