私はT260J、個体識別名テムジン――御嬢様をお守りする戦闘メカにして執事である。
現在我々は、とあるダンジョンを探索中である……その迷宮は深く果てなく、私達を誘う。
――その名は、いじわるなダンジョン。
既にもう、ここで得るべき秘宝は手に入れてある、が……古き遺産の誘惑に私達は負けた。
現在、手分けして出口を捜索する傍ら、次々と強力なアイテムが私達を夢中にさせるのだ。
マルムはつまらなそうだが、人間のリッツなどは、サンブレードやディフェンダーに小躍りである。
コテージを拠点に、脱出そっちのけで宝探しをしてはや三日……私の装備は大きく様変わりしていた。
究極の破壊兵器、はどうほう……攻防一体の第三世代戦車、レオパルド2……そして、じこしゅうふく。
「ん、んん……むにゃむにゃ、リッツもマルムもぉー、そこ違う穴だよぉ、そこはオシッ……」
背後で寝言が聞こえて、私はゆっくりと振り返る――キュイン、と小気味良いモーター音が響いた。
相変わらず寝相の悪いエミリィ御嬢様が、ベッドで豊満なわがままボディを大の字にさらしている。
……今までの私とは違う、違うのだ……颯爽と身を翻し、私は御嬢様の身体を優しく布団の中へ。
素晴しい! 絶好調である! パワードスーツとはこういうものか! ……夢のようである。
私は、リッツが発掘してきたパワードスーツへと機能を移し、あの野暮ったいボディに別れを告げた。
四肢のある人間の肉体とはこういうものか……無論、姿だけではあるが、私は嬉しかった。
今までは武器を操作するマニュピレーターでしかなかった手……それが今は、五本の指がある。
「あはっ、もぉ二人とも〜、汚いからのまないでよぉ〜、たすけてテムジン、むふふ、むにゃむにゃ……」
今までお守りしてきた御嬢様に、こうして触れることのできる身体が得られようとは感無量……
はっ、私としたことが感傷的な……いかんいかん、それで電圧不安定、制御が不完全なのだろうか?
このパワードスーツに機能を移してから、どうも調子が良くないが、それもただの調整不足だろう。
「もう、二人ともやだよぅ、べーだっ! いいもん、テムジンとねるもん! ……むにゃにゃ」
御嬢様は夢を見ておいでの様子……無邪気なものだが、せめて夢の中だけでも安らいで欲しいものだ。
再び布団から飛び出てくるしなやかな足を戻し、宙へ伸べて何かを手繰るような白い手を握る。
御嬢様は私の無骨で大きな手を優しく握り返すと、そのまま指に指を絡めてくる。
温かで小さな、幼少より見守って来た御嬢様の手……その温もりを全センサーが感じる。
私はこの時、あろうことは執事という立場も忘れて、気付けば御嬢様の手に手を引かれて……
そのまま機体をベッドの上へと移動させ、御嬢様の裸体を覆うブランケットを取り除いた。
……私はパワードスーツの動作最適化の為、不要な『オメガボディ制御OS』等をゴミ箱へドラックした。
簡素で粗末なコテージ備え付けのベッドがギシリと鳴る。
当然だ、パワードスーツの総重量は200キロを超える……私は慎重にエミリィ御嬢様を見下ろした。
決して体重を掛けぬよう、御嬢様の身体を覆うように四つん這いの体勢で見下ろす。
――お美しい。
今、私の巨体の下で御嬢様は、僅かに眉根を寄せて喘ぐと、寝返りをうって丸くなる。
まるで胎児の様に膝を抱える、その白い肌は張りがあって瑞々しく、しっとりと汗ばんでいる。
華奢な痩身は出るところが出て肉感にあふれており、既にもう女性としての魅力を発散していた。
私は恐る恐る、まるでかくばくだんの起爆スイッチにふれるように、慎重に御嬢様の頬に触れた。
柔らかい……いかん! これはいかん! 主従の関係が、旦那様に対して申し訳が……
ギリギリで私の理性回路が最終安全装置を機能させ、複雑に入り組んだプログラムが起動する。
私は主に仕える執事メカとして、最後の一線を越えることなくベッドを降りた……筈だった。
「ん、はぁん……もぉ、いたいよテムジンー、どしたの? ふにゅ……ん、んんんっ」
手が、勝手に、御嬢様の……ふくよかな、胸を、揉みしだいていた。
一瞬、何が起こったか解らずうろたえた私は、次の瞬間には冷静にシステムをチェックしていた。
パワードスーツの制御プログラムにバグが? いや、違う……私の制御に問題はなかった。
しかし私は、異変の原因を発見した。
私の中に……パワードスーツの中に『何か』がいる。
パワードスーツとは、遥か太古の昔に、旧世紀の文明が造り上げた超科学の結晶である。
あらゆる環境で人間の有視界戦闘を可能にした、全身をくまなく覆う超合金の強化外骨格。
そう、当然パワードスーツの中には人を収容するスペースがあり……そこに今『何か』がいる。
私が強制停止を命じるより早く、パワードスーツの右手が乱暴に御嬢様の胸を揉み続ける。
そのまま左手は股間に伸びて、薄っすらと茂る金毛の奥へと滑り込んだ。
「ふああ、だ、だめだよテムジン〜、だめ……でも、いやじゃ、ないよ……いやじゃ、ないの」
嗚呼、御嬢様! 目を覚まして下さい! 制御不能の機体は御嬢様の躯をもてあそんでゆく。
私は御嬢様の寝言に本音を感じつつ、必死でパワードスーツに潜む『何か』と格闘していた。
電子制御系は全てこちらの手中にあり、中の『何か』はパワードスーツの中をはいずり逃げる。
私は巧みに装着者への電気ショック等の生命維持機能を駆使して、『何か』を一点へと集めた。
それは不幸にも、パワードスーツの股関節部分だった。
……私はこの時、生まれて初めて四肢ある人間型ボディの自分の、股間が盛り上がるのを目撃した。
股関節を保護する一次装甲、二次装甲が弾けて内側から破られた。
そして『何か』は、そのおぞましく無数にうごめく姿を現した。
それはラーバウォーム……灼熱ミミズの幼虫の群だった。
どうやら長い間、いじわるなダンジョンに放置されていたパワードスーツを巣にしていたらしい。
私は直感的に、エミリィ御嬢様を守るべくコントロールの復帰した両手で股間を押さえた。
しかしラーバウォーム達は、太く無骨な金属の指をすり抜け御嬢様へと殺到する。
幼虫とはいえ、太さは3〜4センチ、長さはどれも半メートルは超えるだろうか?
迂闊であった……痛恨の極み、私が事前に洗浄を行っていればこんなことには!
私は今や、己の股間から無数に生えるミミズの化物と、御嬢様を見下ろしながら格闘していた。
無敵の防御力を誇るパワードスーツも、己の内より這出るミミズが相手では無力に等しい。
しかも、ラーバウォームは私のアドバンテージである、パワードスーツの制御へも侵食を始める。
内側からの攻撃にはもろいもので、たちまち回路が断線され、人口筋肉が沈黙する。
変わってラーバウォームの群が、それ自体が四肢を律動させる筋肉となってうごめいた。
今や私は全身の制御をミミズごときに奪われ、ただ黙って陵辱される御嬢様を見下ろすだけだった。
「いやじゃ、ないよ……わたし、テムジンのことも、好きだもん……むにゃにゃ」
小さな頃から御嬢様は、寝つきの良さには定評がある……それが裏目に出た。
パワードスーツの巨体が御嬢様をうつ伏せに引っくり返し、その細い柳腰をガッチリと両手で掴む。
股間の亀裂から無数に生えたラーバウォームは、たちまち身を翻して御嬢様を襲った。
既にしっとりと湿って濡れそぼる秘裂へと、我先にと頭からミミズ共が突っ込んでいく。
御嬢様は僅かに身を強張らせてビクン! と震えると……そのまま異物の侵入を受け入れた。
私は必死で、装備されたじこしゅうふくを使いながらコントロールの奪回を試みる。
そうしている間も、ミミズの化物は二匹、三匹と御嬢様の中へ侵入し、淫らな音が室内に響く。
御嬢様は菊門も犯され、直腸内で複数のラーバウォームが暴れ出すと頬を赤らめ声を上げた。
「ふああっ、テムジンすごいっ! だ、だめ、激し……あ、あれ? わたし、なんで?」
御嬢様は目を覚ました、が……全ては遅すぎた。
私の股間から溢れたラーバウォームは、御嬢様の肢体を這い回り、汚らしい粘液を撒き散らす。
無数のラーバウォームが御嬢様を埋め尽くし、その胸を、手足を、腰を……ギチギチと締め上げた。
同時に内部でも、前からは膣を経て子宮が犯され、後は直腸を遡る触手の群が内蔵に達していた。
……私はこの時、何とかパワードスーツのコントロールを取り戻すところまでこぎつけていた。
エミリィ御嬢様は目を見開き、大きく開いた口の中では舌が痙攣して震えていた。
その全身を這い回る汚らわしいミミズは、外と内とから御嬢様を犯してゆく。
私はやっと自由になった両手で、御嬢様の身体からラーバウォームをむしってゆく。
しかしそれももどかしく、何より数に対して余りに動作が鈍かった。
もし泣けるなら、その時私は涙を流していたと思うが……私のメインカメラに涙腺はない。
私はただ、黙々とミミズの群に手を伸べ、それを蹴散らし握り潰す。
「たすけてテムジン、おなかがいたいよぉ! テムジン、手を……手をにぎって」
ラーバウォームの体液と粘液に汚れた、御嬢様が救いを求めるように手を伸べる。
私は、御嬢様の股間から複数のミミズを引っこ抜いて放り投げるや、その手を握った。
私が幼い頃から見守って来た、小さく温かな手……手に手を取って、御嬢様の体温を受け取る。
「テムジン……ごめんね……いつもテムジン、たすけてくれるから……またわたし、甘えちゃう」
いいのです御嬢様、私は御嬢様の為に機能している執事ロボなのですから!
――その瞬間、握る御嬢様の手が軽くなり……突如、御嬢様の腕がすっぽ抜けた。
「テムジン、でもこんどはわたし、ひとりでがんばるよ! やっつけるから!」
そういえば先日、マルムが妙な武器を拾って御嬢様に渡していたのを思い出す……まさか。
その記憶を思い出した時には、御嬢様は私にサイコガンを向けて弱々しく微笑んでいた。
――白い閃光に私は包まれ、そして……そして……
「おーい、ポンコツ? どした? 装備品が多すぎてパンクしたか?」
リッツがいつも通り、乱暴にゲンコツで私の頭部をコワーンと殴った。
レオパルド2の車体の上で、私は意識を取り戻したが、未だ混乱の渦中にあった。
……夢を? みていた? 私が? ……どうやら一気に増えた武器が原因らしい。
押し寄せる武器の全てを自分に装備して一体化する過程で、ゴミ情報が溢れて幻想を見せたらしい。
私は気を落ち着け、今見たビジョンをフォルダ分けしながら、現実の作業に戻った。
そう、このダンジョンで発掘された武器の数々を、急いで私は自分のボディに最適化しなければ……
「ふふ、どしたの? テムジンでもぼーっとすることあるんだね!」
御嬢様がにこやかに微笑み、私を見詰めて腰を屈める……目線の高さが並んで視線が重なる。
私は、指とは言えぬ二本の爪が並んだ手を……メインマニュピレーターを気付けば差し出していた。
御嬢様はニコリと、蕾がほころぶような笑顔でその手を握り、手に手を重ねてくる。
……腕が抜けるようなことはなかった、御嬢様はいつもの温かで柔らかな御嬢様だった、が……
「あれ、リッツも帰ってたんだ。ただいま、肉を食べたらこんな身体になっちゃった……まいったな」
「よぉ兄弟! はは、モンスターも難儀だなオイ! 太過ぎて頭から突っ込む訳にもいかねぇしな!」
……私はパワードスーツを抱えたマルムを……ラーバウォームになったマルムの姿を見て絶句した。