私はT260J、個体識別名テムジン――御嬢様をお守りする戦闘メカにして執事である。  
 しかし今、再び私は主を……旦那様を失おうとしていた。  
「からだが……くず……れる……」  
 多くの秘宝を取り込みながらも、最後の一つ『めがみのしんぞう』を見逃していたアポロン。  
 その体は今、溢れる秘宝の力に耐え切れず、遂に爆発した……私達を庇った旦那様を巻き込んで。  
「やだ、パパ……やだやだっ! また死んじゃうのやだっ! せっかくまた会えたのに……」  
「エミリィ……母さんを、頼むぞ。お前は強い子だ、自慢の娘だ……そのまま素直に生きなさい」  
 旦那様はエミリィ御嬢様の胸に抱かれて、その白い肌を血で汚しながら静かに微笑んだ。  
「おっさん! 死ぬな、死んだらブチ殺すぞ! ……もう死ぬなよ、このっ、クソオヤジィ!」  
「おじさん、嘘だよね? この間みたいに、死んだと思わせて敵を油断させるんだよね?」  
「リッツ……マルム……二人とも、強くなったな。エミリィを……幸せに、して、く……」  
 左右から詰め寄るリッツもマルムも、気付けば涙を零して旦那様を揺さ振っていた。  
 まるで我が子を見るように、ゆっくりと旦那様が首を巡らせ目を細める。  
 村一番の悪童コンビも、旦那様にとっては手のかかる可愛い息子達も同然だった。  
 旦那様は両の手でリッツとマルムの手を、御嬢様の震える手へと導く。  
「私に代って、お前達が……世界を救うんだ。誰の為でもない、お前達の為に」  
 肺腑より込み上げる血を吐き出しながら、旦那様は願いを……祈りを御嬢様達に託した。  
 リッツが、次いでマルムが力強く頷くと、最後に旦那様は私を優しい視線で撫でた。  
「テムジン、この三人を最後まで支えて欲しい……私に代って」  
 私は静かに頷いた。  
「思えばお前を拾い、エミリィが生まれ、リッツやマルムを育て……楽しかったなあ」  
 私はやはり、静かに頷いた。  
「私はお前に、殺戮兵器ではなく家の執事として……何より家族としての生き方を望んだ」  
 私は尚も、静かに頷いた。  
「テムジン、お前に保存した、私の秘蔵の画像と動画……全部、削除して、お……お前の、真の……」  
 私は旦那様の最後の命令を実行した。  
 同時に、私の中を圧迫していた旦那様の思い出(と特殊な性癖のフォルダ)が電子の藻屑と化し……  
 代って、嘗て星々の大海原を疾駆した、天駆ける戦船だった記憶が解凍されてゆく。  
 私は全ての機能を取り戻し、充分とは言えない現状のボディを瞬く間に戦闘兵器へと刷新した。  
 
 ……あらゆる戦闘プログラムが復活した私の、鋭敏なセンサーが世界が軋み撓む揺れを感知した。  
 
「パパ、死なないで……ううん、死なせない。ひほうのぜんぶと、わたしのぜんぶで……」  
「エミリィ、おじさんは最後まで世界の為に戦って、僕達の為に二度も死んだんだ」  
「もう眠らせてやろうぜ、エミリィ……エミリィ? お、お前……よせよ、エミリィ!」  
 揺れる世界の中心で、エミリィ御嬢様は旦那様を抱いたまま、めがみのしんぞうを掲げた。  
 その冷たく沈黙する最後の秘宝へと、77個の秘宝が吸い込まれてゆく。  
 一つ秘宝を飲み込むたびに、ドクン! と大きな鼓動が響く。  
 それはどんどん強く高鳴り、眩い光を放って――《心臓》から《神像》へと姿を変えてゆく。  
 最後の秘宝を飲み込み、遂に姿を現した女神像を、御嬢様はそっと床へと置いた。  
 瞬間、辺りを照らす光が収斂して集束し、その中に人影を現出させた。  
「あなたは……?」  
 驚き呆けた表情で御嬢様が言葉を向ける、その先にもう一人の御嬢様がいた。  
 金髪ではなく漆黒の髪を靡かせ、背には翼を畳んだその姿は……正しく女神だった。  
「私は古き神々の一人です。秘宝を発動させた者の姿を借りて降臨しました。この揺れは?」  
 黒髪の御嬢様……女神の出現に、御嬢様ばかりかリッツもマルムも言葉を失っていた。  
「あ、えと、その……この揺れ? え? ほんとだ! 揺れてる、揺れてるよ!」  
 旦那様を失ったショックで、御嬢様は世界の揺れに今まで気付いていなかったようだった。  
「説明しなくてもいいわ。君の頭の中を見れば解るから……なるほど……」  
 女神は少しだけ纏う空気を緩めて、どこか気安い口調で御嬢様へと手を翳す。  
「あ、あっ、あの! めがみ様、パパを助けて……わたし、何でもします。パパを……助けて」  
 何でもします――その一言に女神は目を細めて、御嬢様の抱く旦那様の遺体にそっと触れた。  
 不思議な光が旦那様を包み、鼓動と呼吸が蘇る……私は今、古き神々の奇跡を目の当たりにしていた。  
「これで大丈夫……君、何でもするって言ったわね? その覚悟、本当かな」  
「なっ、何でもするもん! わたしにできることなら、何でもする!」  
 そっと旦那様を床に横たえ、御嬢様が立ち上がって女神に並んだ。  
 互いの目と目が視線を繋いで、思念が行き交い想いが交錯する。  
 気付けばリッツとマルムも、真剣な御嬢様の両側に寄り添って女神を見詰めていた。  
 女神は鼻から小さな溜息を零すと、根負けしたかのように優美な声で語りだした。  
「救いは代価があってこそ。私はそれを求める。今、世界は《破壊》と《創造》の時を迎えたから」  
 秘宝とは、女神像とは……世界をリセットする巨大な二つのシステムの鍵だった。  
「私達古き神々の予定では、まだこの世界は《維持》の刻……私はシステムを止めたいの」  
 そう言って女神が手を伸べると、その先に巨大な重々しい扉が突如現れた。  
「死者の復活と世界の存続を望むなら……君、私と共に《破壊》と《創造》を止め……あ、んっ」  
 不意に女神が言いよどみ、頬が上気して赤みが差した。  
「これは……我が身に混じるは……アポロン? あの若き神の滾りか、こんな……くぁっ」  
 己が身を掻き毟るように、数歩後ずさるや女神は着衣をもどかしげに脱ぎ捨てた。  
 
 ……このとき私は、女神の裸体にアポロンの執念を見た。  
 
 全裸となった女神は、エミリィ御嬢様と寸分違わぬ美しさだった。  
 しかし、その股間には巨大な男根が充血して脈打っていた。  
「我が身を構成する78の秘宝に、矮小なる若き神の妄執が入り混じり……あっ、き、君っ」  
 女神がよろめくたびにペニスが揺れて、先走る透明な粘液が、光の糸を引いて天界の床を汚した。  
「浄化を……そこの彼氏達も。私の身の内に燻る、アポロンの俗な欲を発散……はぁ、はぁ」  
 女神がその場にへたりこむと、既に秘蜜を溢れさせた女性器が淫らな音を立てた。  
 呆気に取られるリッツとマルムに対して、御嬢様は解ることよりも感じることを選択する。  
「えと、めがみ様はくるしいんだよね。中にアポロンがまだいるから……なら、わたしが」  
「でも、交わる前に一つ言っておかなければいけないことが、ひあっ! あ、ああ……」  
 御嬢様は女神に優しく寄り添うと、その股間の屹立へと手を伸べ静かにゆっくりと摩った。  
 恐らく、話が難しすぎて御嬢様には理解できていない……ただ、何でもすると言ったから。  
 旦那様を救って貰った、その代価を懸命に払おうとしているのだった。  
「男の子達は平気、でも女の子は……君は、私と交わることで、ふあっ、んんんっ」  
 御嬢様は女神の頬に浮かぶ汗を舐め取り、首筋から胸の谷間、くびれた腰を経て股間へと舌を這わせる。  
 そして隆々と漲る強張りを、蕾のような唇で包んで咥内へと迎え入れた。  
 ここにきてようやく、リッツとマルムも正気を取り戻すや、女神の背後に回りこむ。  
「兄弟、難しい話はよく解らねぇがよ。ようするにこの偽エミリィをイかせりゃいいんだな?」  
「リッツ、無礼だよ……女神様だってば。多分、アポロン秘宝への執着が降臨時の肉体に作用したのかな」  
 御嬢様に肉柱を吸われ、身を仰け反らせて天を仰ぐ女神。  
 その背を抱くと、リッツは涎を垂れ流す唇に自分の唇を重ね、舌と舌を絡めて吸い合った。  
 マルムもだいおうイカの体で這い寄ると、八本の触手で女神の肢体を愛撫し始める。  
「あ、ああっ! 千年ぶりの性交……あは、すご……三人に、私が……ん、んんんぁっ!」  
 リッツに背後から左右の乳房を揉みしだかれ、マルムに秘裂や菊門をほぐされつつ……  
 御嬢様の口の中へと、達した女神の白濁が噴出した。  
 御嬢様はそれを全て受け止め飲み下すと、ニコリと笑ってぬめるペニスに頬擦りする。  
「めがみ様、きもちよかった? ぜんぶ出しちゃえば楽になるのかな」  
「ふあ……奴の、アポロンの念が薄まる……ひあっ! そ、そっちは……ま、まっ」  
 吸盤に覆われたマルムの触手が、女神の穢れた窄まりより直腸に侵入していた。  
「あれ、女神様こっちは初めて? でもほら、こんなに広がって……二本目もね」  
「ああっ、いや、そんな……やだ、後で感じ、んはぅ!」  
 女神は今、リッツに抱かれつつ、その背後のマルムに肛虐されて愉悦に息を荒げていた。  
 御嬢様は夢中で巨大な逸物を搾り、何度も射精させてはその迸りを全身で受け止めていた。  
 
 ……私はこの交わりが後に、御嬢様を悲劇へいざなうとは思いもしなかった。  
 
「へへ、チンチン以外はエミリィとそっくりだぜ。匂いまで同じときてやが、るっ!」  
 床に寝そべり、リッツは自分の上に女神を招いて騎乗位で挿入した。  
 女神は自ら夢中で男を貪り、逞しいリッツの腹筋に手をつき腰を振り乱して喘ぐ。  
 何度も射精したにも関わらず、より充血して漲るこわばりがリッツの腹を叩いた。  
「こっちも同じ具合だよ、リッツ。エミリィをコピーしたからほら、お尻がこんなに」  
 女神の全身に絡みつくマルムは、触手で乳房や肉棒を愛撫しつつ、直腸の深奥を抉っていた。  
 女神は自分の内側でリッツとマルムが肉壁を通じてふれあうのを感じて、法悦に身を仰け反らせる。  
「はぁ、はぁ……千年ぶりにイッた。しかもこんなに。でも、こっちがまだ……」  
「だいじょうぶだよ、めがみ様。わたしがちゃんとしてあげるね? 何でもするっていったもん」  
 エミリィ御嬢様もリッツに跨ると、自分と同じ顔の頬を両手で包む。  
 濡れた瞳で見詰めあい、自然と唇を重ねて呼吸を分け合った。  
 女神は御嬢様と自分の唾液を混ぜあい分かち合いながら、二人の男に蹂躙されて嬌声を零す。  
「ん、ふあ……ぷはっ。ふしぎ、わたしと髪以外一緒だね、めがみ様……じゃ、そろそろ」  
「ま、まって。その、私と交わると、ひっ! き、君の体に秘、はうっ! あ、ああん」  
 何事かを必死で伝えようと、女神は言葉を紡いで呆けた顔で御嬢様を見詰める。  
 しかし、リッツとマルムに激しく突き上げられ、二人に腹の中を掻き回されて言葉を切った。  
「しっかしアポロンの野郎、随分と立派なもんを偽エミリィにぶらさげやがって」  
「それだけ秘宝への執着が強かったんじゃないかな。エミリィ、たっぷり搾ってあげなよ」  
 女神の巨大な肉芽を握ると、リッツとマルムの言葉に頷き御嬢様が腰をすり寄せる。  
 まるで射精の度に硬度を増して肥大化するような、血管の浮き出た熱棒が御嬢様の秘所にあてがわれた。  
「ん、おっき……めがみ様、いっぱいだしてね? これは、お礼だから……パパの命の、お礼」  
 喘ぎながら御嬢様が、一気に腰を落として女性器で、女神に宿るアポロンの情念を飲み込んだ。  
 瞬間、身を強張らせて女神が痙攣し、御嬢様にしがみ付いて白い背に爪を立てる。  
「あは、挿れただけで出ちゃったね……まだ出てる、いっぱい、たっくさん」  
「ふああ、これでは、君も……いけない、でも」  
「ん? どしたの? ふふ、だいじょうぶ、わたしから動くね?」  
「あ、まっ……これ以上は本当に……私が後は一人で、じゃないと君は、あああっ!」  
 御嬢様がゆっくりと挿抜しながら淫らな肉で締め上げ、八の字を描いて腰をグラインドさせる。  
 直ぐに女神は達して、御嬢様の中へとマグマの奔流を大量に噴出した。  
 アポロンの念が完全に消え去り、女神の男根が萎えて消えるまで……天界で四人は交わり続けた。  
 
 ……私はもう、この動画を保存するフォルダがないことが少しだけ寂しかった。  
 

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